「ボケ防止に納豆はどこまで有効か」の最終結論…医師が解説「脳に効く食べ物」をめぐる驚きの真実
プレジデントオンライン / 2024年4月25日 15時15分
※本稿は、保坂隆、西崎知之『おだやかに80歳に向かうボケない食生活』(明日香出版社)の一部を再編集したものです。
■ボケ防止に納豆はどこまで有効か
「頭にいい」食材として納豆が見直されているようです。
納豆は日本発祥のソウルフードで、弥生時代にはすでにあったという説もあるそうです。骨の発育に欠かせないビタミンK2やマグネシウムなどが含まれていることもあって、古くから“健康にいい食べ物”として食卓に上ってきました。
その納豆が改めて注目されたのはナットウキナーゼという成分が含まれているからです。ナットウキナーゼは酵素の一種で、血をサラサラにする働きがあり(血栓溶解作用)、脳梗塞予防に有効といわれています。
脳からの連想で認知症にも効果があるといわれているのかもしれませんが、実際にどこまで認知症に有効なのでしょうか。
ナットウキナーゼは小腸で細かく分解されないと吸収されません。そして分解されたナットウキナーゼは血をサラサラにする作用がなくなります。
仮に、納豆を食べて分解されないナットウキナーゼが吸収されて脳梗塞予防になったとしても、残念ながら認知症予防には直接つながりません。ボケ防止も同様です。
ほかにも納豆にはレシチン(ホスファチジルコリン)というリン脂質の成分も含まれています。
そんなところから、「ホスファチジルコリンはアセチルコリンをつくる成分を含んでいて、記憶力をアップさせる」ともっともらしく説明されることもあるようです。
■大豆にはビタミンEが多く含まれていて、抗酸化作用も
「頭にいい」といえば、短絡的にアセチルコリンと結びつけられることが多いですが、認知機能・記憶力はアセチルコリンだけで調節されているわけではありません。ですから、ただ単にアセチルコリンだけを増やしても認知機能・記憶力アップは期待できません。
また、納豆にはビタミンEも多く含まれています。ビタミンEには抗酸化作用と血流改善作用があります。納豆が認知症予防になるかどうかは別として、「身体にいい」ことは間違いありません。
そもそも納豆が「身体にいい」のは、発酵食品だからというよりも、原料の大豆が身体にいいからではないかと私は見ています。大豆にはビタミンEが多く含まれていて、抗酸化作用もあります。
その大豆は脂肪肝にも有効です。
かつて脂肪肝というのは、それほど心配することはないといわれていましたが、今日ではほうっておくと肝硬変から肝がんに移行していくことがわかっています。放置するわけにはいかないのです。
納豆にはその予防効果があるようです。
一時はその独特な匂いが苦手という人も少なくなかったようですが、今日ではそれも納豆の“個性”として、多くの人に愛されています。商品も「つゆだく」だ、「そぼろ」だといろいろあるみたいですね。
■卵がどれだけ脳に有効かは疑問
水溶性のビタミン様栄養素である「コリン」は、人間のあらゆる細胞に存在していて、若さや健康を保つことに寄与しています。
コリンは、脳において重要な働きをしています。コリンはα7アセチルコリン受容体を活性化し、学習に関するシナプス伝達長期増強現象を引き起こします。
つまり、コリンは記銘力アップの手助けをするといっていいでしょう。
だからなのか、コリンが含まれている卵(鶏卵)にも注目が集まっています。
しかし、果たして卵のコリンが脳に到達して、α7アセチルコリン受容体を活性化できるかどうかは不明です。
また、コリンは神経伝達物質のひとつであるアセチルコリンの原料になります。「アセチルコリンは認知機能に重要な働きをしているので、アセチルコリンを増やせば認知症が改善する」と盛んに宣伝されています。
この宣伝はまんざら「ウソ」ではありませんが、脳の中にはたくさんの種類のアセチルコリン受容体が発現しています。すべてのアセチルコリン受容体が認知機能に関係しているわけではなく、認知機能に直接携わっているのはα7アセチルコリン受容体です。
アセチルコチンはすべてのアセチルコリン受容体を活性化します。つまり、認知機能だけを高めるわけではないのです。
α7アセチルコリン受容体以外のアセチルコリン受容体が活性化されることによって、逆に認知機能が悪くなったり、攻撃的で怒りっぽくなるといった副作用が現れる心配も出てきます。
さらに、卵に含まれるコリンが脳のアセチルコリンをどれだけ増やすかもわかっていません。
卵を食べること自体は悪くありませんが、脳にどこまで有効かは疑問です。
また、卵から脳に有効な成分を摂取しようとしたら、かなり大量の卵を食べる必要があります。毎日、大量の卵を食べ続けることは現実的には不可能でしょう。
■ブロッコリーでボケは予防できるのか
ブロッコリーは、アブラナ科アブラナ属の緑黄色野菜です。キャベツの一品種がイタリアで品種改良されて今ある姿になったとされているそうです。
ブロッコリーには、β-カロテン、ルテイン、グルタチオンなどの抗酸化作用のある成分が多く含まれています。抗酸化作用を含む成分ということで、例によって認知症予防になると説明されることがあります。
実際のところ、ブロッコリーを食べることでボケ防止、ひいては認知症の予防になるのでしょうか。
こちらも例によって何度も繰り返しますが、抗酸化作用だけで認知症が予防できるほど、認知症の病態は単純ではありません。
ブロッコリーは身体にいいのは間違いありませんが、認知症を予防できるかどうかは疑問です。
ブロッコリーにはアセチルコリンが豊富に含まれていて認知機能の改善効果があると説明されることもあります。はっきり言わせてもらいますが、この説明はまったくのデタラメです。ブロッコリーにアセチルコリンは含まれていません。
また、アセチルコリンそのものを摂取しても、アセチルコリンは脳血液関門を通ることはできず、脳には運ばれません。したがって、ブロッコリーを食べて認知機能が改善されるはずがありません。
■同様の働きをする成分=同様の予防効果と考えるのは早計である
最近わかってきたことですが、ブロッコリー、じゃがいも、オレンジ、りんご、ラディッシュの5種類の野菜・果物にはアセチルコリンを分解するのを防ぐアセチルコリンエステラーゼ阻害剤(医薬品として使用されている塩酸ドネペジル、ガランターゼ)と同様の働きをする成分が含まれていて、その成分はブロッコリーに最も多く含まれているそうです。
古くより、塩酸ドネペジル、ガランターゼ以外にもアセチルコリンエステラーゼ阻害剤は開発されていましたが、脳血液関門を通って脳に運ばれるかどうかが問題でした。
たとえ、ブロッコリーにアセチルコリンエステラーゼ阻害成分が含まれていたとしても、その成分が脳血液関門を通るかどうかは確認されていません。
また、塩酸ドネペジル、ガランターゼで認知症の進行を遅らせることができるとしても、認知症予防に有効であることは実証されていません。
このあたりの問題をクリアしない限り、ブロッコリーを食べると認知症が予防できると考えるのは早計です。
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精神科医
1952年山梨県生まれ。保坂サイコオンコロジー・クリニック院長、聖路加国際病院診療教育アドバイザー。慶應義塾大学医学部卒業後、同大学精神神経科入局。1990年より2年間、米国カリフォルニア大学へ留学。東海大学医学部教授(精神医学)、聖路加国際病院リエゾンセンター長・精神腫瘍科部長、聖路加国際大学臨床教授を経て、2017年より現職。また実際に仏門に入るなど仏教に造詣が深い。著書に『精神科医が教える50歳からの人生を楽しむ老後術』『精神科医が教える50歳からのお金がなくても平気な老後術』(大和書房)、『精神科医が教えるちょこっとずぼら老後のすすめ』(海竜社)など多数。
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医師、医学博士
1954年生まれ。神戸大学医学部卒業。神戸大、米国カリフォルニア大学アーバイン校と一貫して生体内情報伝達機構を専門に研究している。特に脂質シグナルと関連づけた新規の認知症治療薬、糖尿病治療薬、がん治療薬の開発に従事している。現在、上海中医薬大学附属日本校、ベトナム国家大学ハノイ校の客員教授を務め、後進の研究指導に当たるとともに新しい研究分野にも挑戦している。著書に『認知症はもう怖くない』『私は「認知症」を死語にしたい』『脳の非凡なる現象』(以上、三五館)、『ボケるボケないは「この習慣」で決まる』(廣済堂出版)がある。共著に『あと20年! おだやかに元気に80歳に向かう方法』(明日香出版社)がある。
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(精神科医 保坂 隆、医師、医学博士 西崎 知之)
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