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決断が遅く、責任を取りたがらない…そんなダメ上司に迫りくる危機をそこはかとなく伝える黄金ワード

プレジデントオンライン / 2024年4月22日 6時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/DNY59

現実の課題を避けようとする傾向を「回避性」という。もしも職場に回避性の傾向が強い人がいる場合、お互いにどうすれば働きやすくなるだろうか。精神科医の岡田尊司さんは「追い詰めてはいけない。どれだけ効果的にその特徴を活かすかが大切」という――。

※本稿は、岡田尊司『生きるのが面倒くさい人 回避性パーソナリティ障害』(朝日新書)の一部を再編集したものです。

■回避性の部下を使いこなさないと回らない…

若い人に回避性の傾向が強まっていることもあって、最近の会社では部下が回避性というケースも増えている。アグレッシブな上司の場合は、つい発破をかけたり、ときには激しく叱りつけたりする。しかし、そうした常識的な対応は、大抵事態を悪化させてしまう。一気に潰れてしまうか、会社に来られなくなってしまうというケースも少なくない。

回避性の人は、期待や責任を過大に感じ、大きなプレッシャーがかかると簡単に潰れてしまう。まず、そのことを理解しておくことが大事だ。能力的には、とても優れた面や独特の感性を備え、うまく使えば、よい持ち味を発揮してくれる。

今日では、回避性の人をうまく使いこなせないと、人が回らない時代になっている。営業系の職場ならば、体育会系の人や自信たっぷりな人たちばかりを集めることもできるだろうが、技術系や専門性の高い職場となると、むしろ回避性の人たちが主役で、このタイプの人を除外したのでは、業務が成り立たない。回避性の部下を、どれだけうまく使いこなし、その能力を発揮させるかに、上司の腕が問われるとも言える。

■短調な仕事もきちんとこなしてくれる

では、どういう点に配慮する必要があるのだろうか。まず一つ目は、急に責任や負担を増やさないことだ。

回避性の人は、実際には余力がある場合でも、責任や負担が増えることに対して不安が強い。負担が増えるという点に意識が向かうと、自分に耐えられるか自信がなくなり、そんなつらい思いをするくらいなら逃げ出したいという気持ちになってしまう。

このタイプの人は、現状を維持しようとする傾向が強い。それゆえ、新しいこと、慣れていないことをやらなければならないと聞いただけで、不安が兆し、うまくできなかったらどうしようと尻込みしてしまう。

逆に言えば、慣れたことを続け、現状を維持することには抵抗がない。あんな単調なことを毎日やっていて苦痛ではないかと思うようなことでも、割合苦にならずにこなし続ける人が多い。最初は自信がなくても、一旦慣れてしまえば、きちんとこなしてくれる。あまり目移りしないので、飽きて投げ出してしまうということが少ない。

■長期的に組織の力を高める結果に…

覚えるのも慣れるのも時間がかかる回避性のタイプは、効率が悪いようで、実は効率がいいのだ。派手さはないが、いったん身に付けたことを地道にやり続けてくれる。このタイプの人にとっては、新しい環境に飛び込んでいくことの方が、リスクも不安も高いので、現状を維持した方が安全なのだ。そのため、このタイプの人の安全を脅かすようなことをしない限り、末永い付き合いがしやすい。

存在感が稀薄で、毒にも薬にもならないように思うかもしれないが、そこが長い目で見ると有利に働くのだ。回避性の人は頼りない面もあるが、衝突や摩擦を好まないので、敵に回るリスクが少ない。敵に回ったとしても、自分から立ち去るだけなので、それほど怖い相手ではない。しかも、口下手で自慢をしたりはしないが、能力は高いことも多く、ことに、専門領域では優れた能力を発揮する。社交に時間を割かない分、仕事や自分の好きなことに時間を使ってきた結果だ。

このタイプの人に居心地のいい職場環境を整え、長くいついてくれるようにすることは、長期的に組織の力を高めることになる。遊び心や自由な気風を大事にし、主体性を重視するグーグルなどの新しいタイプの会社の成功は、まさに、そうした新しい発想に立つ職場環境の整備によってもたらされている部分も大きい。

■「やってみないか」もしくは「やってくれると、ありがたい」

その意味で、回避性の人にとって最悪の上司は、何かというとすぐに部下を怒鳴るようなタイプだ。回避性の人は、大きな声や怒鳴り声といったものに、特に強い拒否感を示すことが多い。そもそも争いが嫌いという前に、感情をむき出しにすることだけでも、不快だと感じる。感情的になるような人は、もはや古いタイプのリーダーであり、新しいタイプの組織に居場所はない。

しかし、仕事を任せる以上、負担や責任が増えることは避けがたい。では、負担や責任を増やさざるを得ないという場合、どのように対応するのが良いだろうか。

まず一つは、強制するのではなく、本人の主体性を尊重することだ。「やってもらう」ではなく、「やってみないか」「やってくれると、ありがたい」と、相手に逃げる余地を残した方がいい。そして、実際に逃げ場所や助け船を用意しておく。このタイプの人は、相談するのが苦手で、うまく行かない事態に遭遇しても、自分で何とかしようとして、行き詰まってしまうことが多い。「困ったら、私を頼ってくれたらいい」「きみをしっかりバックアップする」「やれるところまでやってくれたらいい」と、追い詰めない。

その方が、プレッシャーが下がり、実際に力を発揮しやすくなる。「お前の責任で何とかしろ」「お前がやるしかない」という言い方でいくと、このタイプの人は、それだけでつぶれてしまう。「お前が責任を取れ」ではなく、「いざとなったら、おれが責任を取る」と言っておくだけで、安心して頑張れるのだ。

両手を重ねてこちらを向いている人
写真=iStock.com/sqback
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/sqback

■よかれと思ってもプレッシャーになるのは……

負担や責任を増やすときも、時間をかけて徐々にやった方がうまくいく。急がば回れの原則は、特にこのタイプの人に当てはまる。本人に責任がかかりすぎないように、チームで責任を担う仕組みを作るのも一法だろう。

社内コミュニケーションを活発にしたり、コミュニケーション力のアップに熱心な人が社員にスピーチをさせたり、デスクの垣根を取り払って、オープンスタイルにしたりするところもある。

だが、実際には、回避性の人にとって、それはただ苦痛が増すだけで、職場の居心地が悪くなる効果しかない。朝礼でやらされる一分間スピーチが厭で、仕事を辞める人もいる。一分間スピーチをする能力と、技術的な能力はまったく無関係だ。良かれと思ってソーシャル・スキルトレーニングなどをしても、本当に必要な人には苦痛なだけだ。

手を組んでいるビジネスマンと、「RISK」と書かれた積み木
写真=iStock.com/takasuu
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/takasuu

■回避性の上司の最大の欠点

昨今では、上司が回避性だということも少なくない。もともと回避性の人は、責任を担ったりリーダーシップをとったりするのは苦手であり、上に立つのは向いていない面もあるのだが、必ずしも悪い面ばかりではない。

まず、回避性の上司は、衝突や対立を好まないので、感情的に怒鳴りつけるということも滅多にない。日常的に大声を上げ、部下を平気で罵る自己愛性の強いパワハラ上司に比べると、まず接する上でのストレスが小さい。自分を振り返ることを知らず、部下の意見など聞く耳をもたない独善的なところも少なく、こちらの意見にも一応耳を貸す。

ただ、回避性の上司の最大の欠点は、自分で責任を取りたがらないことだ。自分で判断し、決定するのも苦手で、決断が遅い。対応も延び延びになりがちだ。部下に判断や対応を押し付け、しかも、責任まで押し付けてくることにもなりがちだ。

また、新たな試みやチャレンジにも慎重で、積極性に欠ける。失敗するリスクや負担が増えることの方にばかり目が行って、無理をせず現状維持で行こうとする。だが、結局それが、対応の遅れにもつながり、後手後手に回ってしまうことにもなりがちだ。機敏さや機動性というものには、欠けたところがある。

したがってやる気のある部下ほど、頭を押さえられる感じになり、せっかくの意欲をそがれてしまう。

■親身に伝える「それが心配です」…

部下としては、どうすればいいのか。回避性の人を動かしている最大のモーメント(動因)は、不安である。不安から逃れようとして、新たな負担や決断を回避しているのである。新たな負担や決断を行う方向に上司を動かすためには、さらに大きな不安を搔き立てることで、このままでは危ないという危機感をもたせる必要がある。もっと大きな不安だけが、面倒なこともやるしかないという覚悟を決めさせるのだ。

したがって、「何か手を打たないと、大変な事態も危惧されます」とか、「このままでは責任問題にもなりかねません。それが心配です」という具合に、今すぐ対応しないと将来に大きな面倒が迫っていて、上司の責任問題にもなりかねないということを親身に心配しているというスタンスで伝えるのだ。

将来の危機については、その中身はあいまいにしつつ、「責任」「負担」「面倒なこと」「厄介なこと」「困ったこと」「大変な事態」「争い」「クレーム」「訴訟」「紛争」「感情的な対立」「心配」「危惧」「危険」といった言葉をちりばめ、表情や態度に、そこはかとない不安や危惧を湛えてみせる。わざと沈黙がちになり、とりすがる言葉もないというふうにするのも良いだろう。

オフィスでパソコンを使用する人
写真=iStock.com/ktasimarr
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/ktasimarr

■「まだ大丈夫というご判断でしょうか?」

ときには、相手に状況判断を求め、答えさせるのも一つだ。その場合も、あまりにストレートに言うと、煙たがられるので、「すぐご決断いただかないと、ちょっと困ったことにならないか……。大丈夫でしょうか?」といった具合に、念を押す形で、相手に問いを投げかけることも一法だろう。

岡田尊司『生きるのが面倒くさい人 回避性パーソナリティ障害』(朝日新書)
岡田尊司『生きるのが面倒くさい人 回避性パーソナリティ障害』(朝日新書)

「ちょっと過剰反応しすぎじゃないか」とか「もう少し様子を見よう」とか、時間稼ぎ的な反応が返ってきた場合には、「まだ大丈夫というご判断でしょうか?」と、相手の判断に念を押す。

回避性の人は、念を押されると、言質をとられるのを嫌い、できるだけあいまいな言い方ですり抜けようとする。「別に大丈夫とは言ってないが、慌てて対応する状況ではないということだ」と、どっちつかずの答え方をする。

これ以上追い詰めても嫌がられるだけなので、「わかりました。そう致します」と一旦引き下がる。だが、これだけ楔を打ち込んでおくと、それがじわじわ効いてくる。何しろ回避性の人は、不安が強いので、部下から指摘された危険について、嫌でも考えるようになる。

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岡田 尊司(おかだ・たかし)
精神科医・作家
1960年、香川県生まれ。京都大学医学部卒。岡田クリニック院長、日本心理教育センター顧問。『あなたの中の異常心理』(幻冬舎新書)、『母という病』(ポプラ社)、『愛着障害』『回避性愛着障害』(光文社新書)、『人間アレルギー』(新潮文庫)など著書多数。小笠原慧のペンネームで小説家としても活動し、『あなたの人生、逆転させます』(新潮社)などの作品がある。

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(精神科医・作家 岡田 尊司)

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