なぜオジサンよりオバサンのほうが元気なのか…60代以降の女性が「やりたい放題」に向いている理由
プレジデントオンライン / 2024年4月24日 9時15分
※本稿は、和田秀樹『60歳から女性はもっとやりたい放題』(扶桑社)の一部を再編集したものです。
■女性の「第2の人生」の鍵はテストステロン
これまでの人生とはまったく違う種類の楽しさや幸せが詰まった第2の人生を手にいれるコツは、なんと言っても「やりたい放題」に生きることです。
しかもとても幸運なことに女性の場合は、まさに60歳くらいから「やりたい放題」に生きる「ポテンシャル」が高まるのだと言ったらあなたは驚くでしょうか。
その鍵を握るのは、何を隠そう男性ホルモン(テストステロン)です。
男性ホルモンというのは、筋肉をつくったり性欲を司ったりというイメージが強いかもしれませんが、他にも例えば意欲を高めるとか、活動的になる、人付き合いが好きになるといった重要な働きがあります。
男女差別うんぬんの話ではなく、例えば企業のトップになるといった上昇志向は男性のほうが強いというのが一般的な感覚だと思いますが、それも男性ホルモンの作用が大きく影響しているのです。
■更年期以降は男性ホルモンが増大する
実はこの男性ホルモンは、男性の5〜10%程度と量は少ないものの、女性の体内でも分泌されていることがわかっています。
女性の場合も、女性ホルモン(エストロゲン)の分泌量が年齢とともに減っていくことはみなさんもよくご存じでしょう。そのせいで不定愁訴(しゅうそ)(原因がはっきりわからないけれど、なんとなく体調が悪いこと)に悩まされやすいのが「更年期」と呼ばれる時期ですが、更年期が過ぎたあとは、女性ホルモンの量は極端に少なくなります。
その結果、更年期以降の女性の体内では、男性ホルモン(テストステロン)の量が相対的に多くなるとこれまでは考えられてきました。
ところが、東日本大震災後の調査で実は絶対量が増えていることがわかったのです。
いずれにしても、更年期以降の女性は、体内で増えた男性ホルモンの働きで、より意欲的、かつ活動的になっていくわけです。だから、60代以降の「やりたい放題」には男性より女性のほうが明らかに向いているのです。
■女性のほうが高い「うつ」リスク
ただその一方で、女性は男性よりも「うつ」を発症しやすいという事実もあります。それがなぜなのかはよくわかっていないのですが、これは日本に限らず、アメリカでもよく知られた現象なのです。
しかも、男女間の患者数の差は、60歳以降になるとより顕著になっていくこともわかっています。
2020年の厚生労働省による「患者調査」では、「うつ病・躁うつ病」の患者数を同じ世代の男性と比較すると、60代女性は約1.5倍、70代女性で約2.5倍、80代女性は約2.7倍という結果が出ているのです。
自殺する人の数は逆に男性のほうが多いのですが、自殺にまで至らないから女性のうつは深刻ではないということでは決してありません。
高齢になってからうつを発症すると、食欲減退による栄養不足も相まって心身共にめっきり老け込んでしまうので、残りの人生を真っ暗闇の中で過ごすことにもなりかねません。また、うつに至る過程で相当なストレスを抱えているはずなので、それで免疫力が下がり下手をするとがんを呼び込んでしまうリスクもあります。
■「幸せホルモン」が減り、不調が増えていく
つまり、高齢者にとってうつというのは決して軽視することができない、ある意味、認知症よりも怖い疾患だと私は思っています。
だから、うつを遠ざけるような生活をすることは、60歳以降の女性にとっての大きなテーマなのだと言ってよいでしょう。
脳内の神経伝達物質の「セロトニン」は喜びや快楽に関わる「ドーパミン」や、意欲や気力、積極性に関わる「ノルアドレナリン」などの情報をコントロールして、精神を安定させています。またその働きから「幸せホルモン」とも呼ばれています。
このセロトニンの分泌は10代をピークに年齢とともに減っていくのですが、60代になるとさらに著しく減る傾向があります。そして、それに呼応するかのように食欲の異常や睡眠障害といった不調を訴え始める人が多くなります。また、うつの有病率を見ても普通の世代が全体の3%であるのに対して、65歳以上では5%にまで上昇するのです。
■不安が頭から離れず、いつもモヤモヤ…
これらのことから考えても、高齢者のうつ、つまり「老人性うつ」の発症には、加齢によるセロトニンの減少が大きく関わっているというのが、私も含めた精神科医の考えです。
そして実際、セロトニン濃度を上げる抗うつ剤は、若い人にはあまり効かないことが多いのですが、40歳以上では比較的よく効きます。これは精神科医としての私の実感でもありますが、これを示すデータは日本のみならず、海外にもたくさん存在します。
実はセロトニンが不足すると、うつを発症しないまでもさまざまな良くない症状が現れます。
まず一つには、モヤモヤとした不安が強くなることです。
例えば、またコロナが猛威を振るったらどうしようとか、南海トラフ地震が起きたらどうしようとか、あるいは、振り込み詐欺や闇バイトに襲われたらどうしようといった不安がいつも頭から離れなくなったりする、といったことが起こり得るのです。
■「幸せな高齢者」になるかどうかの分かれ道
また、痛み刺激に敏感になるというものもあります。
そうでなくても女性は骨粗鬆症になっている人が多く、背中や腰などに痛みを感じやすいのに、セロトニンが足りていないと、その痛みをより強く感じてしまうのです。
実際、腰痛にずっと苦しめられて、鎮痛剤を飲んでもまったく効き目が感じられなかった方でも、脳内のセロトニン濃度を上げる抗うつ剤を飲むと痛みから解放されるというケースは結構あります。
他にも、便秘や下痢、頭痛、腰痛、動悸といった体の不調が現れることもあります。
つまり、十分なセロトニンが維持できるかどうか、いかに不足させないか、というのは、うつの発症うんぬん以前に、幸せな高齢者とそうでない高齢者の分かれ目になるくらい重要なのです。
「老人性うつ」を予防するためにも、また、日々の体調を整えるためにも、セロトニンを増やすような暮らしを意識することはとても大事です。「幸せホルモン」という呼び名の通り、脳内のセロトニンが多くなると、何気ないことにも幸せを感じられるようになりますから、楽しくて充実した「第2の人生」を送るうえで、これほどいいことはありません。
■セロトニンの材料は食事から摂るしかない
また、抗うつ剤と言っても脳内のセロトニンそのものを増やすわけではなく、あくまでもセロトニンが脳でうまく使えるよう働きかけるものなので、そもそものセロトニンの量があまりにも少ないと、仮に「老人性うつ」を発症した場合でも、抗うつ剤が効かないということになりかねません。
では、どうすればセロトニンを増やせるのかというと、なんと言ってもまずは食生活です。
本書の第3章で「セロトニンの材料はたんぱく質だ」という話をしましたが、もう少し具体的に言うと、「トリプトファン」と言われるアミノ酸から合成されます。
トリプトファンは体内では生成されない必須アミノ酸なので、必ず食事から取らなければなりません。だから、肉や魚、乳製品や大豆製品などのたんぱく質を多く含む食品をしっかり摂る必要があるのです。
■肉を1日100g食べれば、ノルマをクリア
ただし、十分な量のセロトニンが生成されて血中のセロトニンの量が増えたとしても、脳内のセロトニンがそのまま増えるわけではありません。脳には、「血液脳関門」と呼ばれる、血液中のものが勝手にどんどん脳に入っていかないようにするバリア機能があり、血中のセロトニンが脳内に入るにはそのバリア機能を超える必要があります。
その際に役立っている可能性が高いと考えられているのがコレステロールで、だから第4章でも、「コレステロールにはセロトニンを脳に運ぶ役目がある」という話をしたわけです。
コレステロールは動物性脂肪に多く含まれるので、たんぱく質も併せて摂るという意味では、肉類がもっともお勧めです。
なお、トリプトファンの1日の必要量は、体重1kg当たり4㎎(成人の場合)なので、体重50kgの人は200㎎、55kgの人は220㎎です。
100g当たりの含有量で言うと、豚ロース肉(赤身部分)は240㎎、牛肩ロース肉(赤身部分)と鶏胸肉(皮付き)がそれぞれ230㎎なので、肉を1日100g食べればトリプトファンの必要量はクリアできると考えていいでしょう。
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精神科医
1960年、大阪市生まれ。精神科医。東京大学医学部卒。ルネクリニック東京院院長、一橋大学経済学部・東京医科歯科大学非常勤講師。2022年3月発売の『80歳の壁』が2022年トーハン・日販年間総合ベストセラー1位に。メルマガ 和田秀樹の「テレビでもラジオでも言えないわたしの本音」
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(精神科医 和田 秀樹)
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