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いまさら「新卒一括採用」をする企業の将来は暗い…「新卒カード」を切ってもいい企業の見分け方

プレジデントオンライン / 2024年4月22日 9時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Moment Makers Group

■「新卒一括採用・年功序列・終身雇用」の終わり

足許、中途採用を積極的に行うわが国の企業は急増している。新卒の採用に関しても、春の一括採用から通年採用にシフトする企業は増えた。一定の年齢の管理職や社員の給与を引き下げる、いわゆる“役職定年”を廃止する企業もある。これまでの“新卒一括採用・年功序列・終身雇用”を代表とする、わが国の雇用・労働市場の慣行は急速に崩れ始めている。

今後、そのペースは加速するだろう。わが国の雇用慣行に変革が起きると、企業や私たちの身の回りにも見逃せない変化が起きる。雇用が流動化することで、働く側にとっては自らの能力を発揮しやすくなるだろう。高い収入を手に入れるインセンティブも高まる。それは、企業の業績拡大やわが国経済の活性化に必要といえる。

重要なポイントは、雇用慣行の崩壊に労使、および政策当局がいかに対応するかだ。わが国企業の経営者にとって、採用・人材開発などに関する発想転換の重要性は増す。働く側は実力をつけ、自分の価値を上げることが必要になる。

政策当局は、個々人がより積極的に能力発揮を目指す環境整備を行うことが求められる。労働市場の改革は、わが国経済にとって重要なファクターだ。短期的には痛みを伴うが、避けて通れない問題と認識すべきだ。

■中途採用の比率は全体の43%に達している

近年、中途採用を増やす国内の主要企業は急速に増えている。報道によると、2024年度、主要企業の中途採用数は前年度比15.0%増、12万6309人だった。一方、来春に入社を予定する新卒採用数(高校卒業者含む)は同14.7%増の16万7223人。採用計画全体(29万3532人)に占める中途採用の割合(中途採用比率)は約43.0%に上昇した。2010年度以降の最高を更新した。

2023年度の37.6%など過去の水準と比較しても、中途採用比率の上昇の勢いは強まっている。これまでだと、必要に応じて、その都度、中途採用の募集をかける企業は多かった。ところが最近では、通年で良い人材を社内ではなく、労働市場から相応の対価を支払って採用する方向に人材戦略はシフトしている。

要因の一つとして、少子化、高齢化、人口の減少によって、わが国の生産年齢人口は趨勢的な減少傾向にあることがある。既存の事業体制を強化し生産性を引き上げることや、新規分野でグローバルに競争力をつけるため、実力と実績のある“プロ”を成長戦略の一環として採用する必要性は高まっている。

■プログラミング技能を持つ新卒に「年収1000万円」

特に、世界的にIT先端技術の重要性は急上昇だ。生成AIの開発、導入など急速に世界に普及するテクノロジーを活用するため、年功序列や終身雇用など社内のゼネラリスト人材で対応することは難しい。

業種別にみると、幅広い分野で中途採用は増加した。中でも、IT関連人材の不足は深刻だ。経済産業省によると、2020年に約37万人だったIT人材不足は、2030年に約79万人に拡大する見通しだ。

AIが世界経済の効率性向上に寄与するとの期待が高まる中、IT専門人材の確保は企業の業績に決定的影響を与える。関連分野で、基礎的なプログラミングの技能を持つ新卒者に1000万円近い給与を提示しているNECや、実力あるプロに3000万円を超える給与を支払ったりする国内企業もある。2024年問題に直面した物流や建設、医療などでも中途採用を拡大する事業者は増加傾向だ。

■年功序列がチャレンジ精神を阻害してきた

中途採用の強化により、新卒一括採用・年功序列・終身雇用の慣行は崩壊し始めた。新卒一括採用から通年採用へ、就職のありかたは変わり始めた。学生にとって、自らの研究内容などに合わせて、より柔軟に就職先を検討する選択肢は増えた。そのきっかけとして、2018年、経団連は“採用選考に関する指針”を廃止した。

国内の高校を卒業した後に、海外の大学に入学する若者は増えた。学部4年時から修士課程の科目を履修し、5年間で学士と修士号を取得できる制度を拡充する大学も増えた。そうした制度も活用し、社会人1年目を大企業ではなく、ITスタートアップ企業や海外のコンサルティング・ファームなどで迎えたいと考える学生は多い。若年層の価値観の変化に照らし合わせると、春季に国内の多くの企業が一斉に、一括で新卒採用を進めることは有効ではなくなった。

年功序列の制度も限界にきている。そもそも、入社以降の年次を重ねるにつれ資格が高まる人事制度で、人々の能力が高まる保証はない。むしろ、新しいことに挑戦するなどのリスクを取らず、従来の業務を行うことがマイナス評価を避けるために有効になってしまう。

■OBの「出戻り採用」を行う企業も

それよりも、業務の内容(ジョブ・アサインメント)を明確に規定し、成果を実現する人にしっかりと報う企業は増加傾向だ(ジョブ型雇用)。経営企画、マーケティング、ITシステム、財務などあらゆる分野で、学士号よりも修士、博士号の取得者を増やし、より高い実績を上げた人材に、チーム、部課の運営を任せる企業は増えている。

そうした変化に合わせ、転職を繰り返し高い給与を手に入れようとする人は増えた。転職市場は活気づき、新卒で入社した企業に定年まで勤めるという終身雇用も崩れ始めた。

生え抜きではなく、外国人を含めた“プロ経営者(他社の経営、事業運営などで高成長を実現した人材)”を経営トップや取締役に招く企業も増えている。人材紹介業者への手数料削減、ミスマッチ防止のため、出戻り採用〔アルムナイ(卒業生・同窓生の意味)採用〕を行う企業もある。

上司と1on1
写真=iStock.com/maroke
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/maroke

■新卒採用・年功序列にこだわる企業は淘汰される

今後、わが国の労働慣行の崩壊ペースは加速するだろう。成長期待の高い企業の株価が上昇するのと同じで、賃金上昇の可能性も高い企業で働こうとする人は増える。事業戦略などに合わせてリストラを行い、成長期待の高い事業分野で専門人材を増やす企業も増加するだろう。失われた30年を経て、わが国の労働市場はようやく、あるべき姿に向かいつつある。

今後の注目点は、わが国経済全体として、そうした急激な変化に順応することが必要だ。経営者の発想の転換は急務といえる。従来の雇用慣行が正しいと思い込む経営者は、まだ多い。新卒・中途の違いにかかわらず、成長に貢献できる人材を増やし、成果に応じて公平に評価する。それは企業の長期存続に必要だ。

それが難しい企業では、退職者が増える一方、中途採用は難航するだろう。現場の人手不足に拍車がかかる一方、デジタル化などを背景に取引先からの納期前倒しなどの要請は強まりそうだ。無理を重ね、コンプライアンスが軽視される恐れもある。経営者の責任は増す。

■現職の知識だけだとこれからの転職は厳しい

被雇用者は、これまで以上に自らの能力向上に注力すべきだ。具体的に、自分が興味のある分野で、新しい理論に習熟する重要性は増す。社会人大学院やオンラインのセミナーなどで学びなおしを目指す人も増えるだろう。

新しい理論やテクノロジーを学び、実践するスキルを磨くことで、良い就業機会を見つけ給与水準が上昇する可能性も増す。あるいは、自ら起業し、より高い成長を目指す考えも高まるかもしれない。個人にとって、自分自身に投資し、世界で通用するプロを目指す発想の重要性は高まる。

そうした取り組みを、政策からサポートすることも大切だ。中途採用者とプロパー社員が分け隔てなく働けるよう、賃金水準や労働環境の公正化に向けたモニタリングを監督官庁が強化する。

あるいは、海外の専門人材を増やすために完全テレワークの実践に向けた支援も強化する。テレワークに関しては、官公庁の取り組みが民間企業の取り組み促進につながる可能性も高い。労使、そして政府が個々人の能力、意欲にあった就業機会の創出に取り組むことは、日本経済の活性化に欠かせない。

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真壁 昭夫(まかべ・あきお)
多摩大学特別招聘教授
1953年神奈川県生まれ。一橋大学商学部卒業後、第一勧業銀行(現みずほ銀行)入行。ロンドン大学経営学部大学院卒業後、メリル・リンチ社ニューヨーク本社出向。みずほ総研主席研究員、信州大学経済学部教授、法政大学院教授などを経て、2022年から現職。

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(多摩大学特別招聘教授 真壁 昭夫)

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