柳井 正「大転換期に儲けるプロ・マネの条件」【2】
プレジデントオンライン / 2013年1月18日 12時0分
■現場の意をくみ取る経営者か?
「私がニューヨークのオフィスのデスク上ではノーと回答した案件が、ヨーロッパで直接、その要求を出した本人を前にすると、イエスと答えたくなるケースがあった」とジェニーン氏は述懐しています。これは、情にほだされてイエスと言いたくなったのではなく、現場を見ないで正しい経営判断などできないということを、彼は伝えたかったのです。
特に僕たちのような小売業の場合、お客様の顔が見えてこないということは、経営が危機に瀕しているということと同じことです。お客様との接点の最前線である現場からの「気づき」をどんどん吸い上げないと、商品の品質向上などは望めません。ところが、多くの経営者は現場の意向を気にかけずにマネジメントを進めたり、同業他社がヒットを出して初めて「求められている商品がなんであるか」に気づいて、あわてて後追いをしたりします。
ブレない経営とは、常にその芯、コアになる部分に「お客様のために」という気持ちのあることが大切だと思います。僕自身もそうですが、自分が好きなことを、そのままやっていてはたいてい失敗します。なぜなら、“好き”に溺れてビジネスの基準が曖昧になってしまうからです。「お客様が、『対価を払う価値がある』と感じてくれるような商品やサービスを提供する」という目標を定めることが、ブレない経営の第一歩になると信じています。
■部下の成果を正当に評価する経営者か?
「最も優れた人材を求め、彼らが普通以上に、それこそ時には自分の能力の限界だと考えている線を越えるほどの奮励することを期待するなら、彼らの報酬もそれに比例しなくてはならない。それがきちんと組織された企業のバランス感覚というものだ」――これは、ジェニーン氏の報酬に関する哲学です。
僕も、ファーストリテイリングの売上高が1000億円を超えたときに、店長の仕事を全うすれば、本部にいるよりも高収入を得られる「スーパースター店長制度」を導入しました。商売という場面では店舗が主役であり、本部はサポート役であるべきと考えたからです。それまで店長という職は、本部スタッフに昇格するための登竜門的な部分がありましたが、店長でいることが最終目標でありうるように、理論上3000万円を超える年収も可能になるよう、成果主義の報酬体系に組織改革したのです。
ジェニーン氏は「最悪なこととは報酬を十分に払っていないために部下を失うことだ」と言っています。確かに人間はお金のためにのみ働くわけではありませんが、正当に評価され、認められることが、働くことへのやりがいにつながることは事実です。だからこそ僕は、正当な人事評価なしに、真の経営はありえないと思っています。
もうひとつ付け加えるなら、「経営者は自らの限界を知るべきだ」と考えています。確率で言えば、経営者が一番優秀である確率のほうが低いから、優秀な人とチームを組んで、自分の欠点をカバーしてもらったほうが、はるかにいい経営ができる。人材を自分の手足として使うワンマン経営は、上手くいっているときは最大の効果を発揮することも事実ですが、ある時期になると周りがイエスマンだらけになり、必ず経営はマンネリ化してしまいます。ですから社員の中から優秀なチームを組めるということが、強い経営には必要不可欠となってくるのです。
■失敗体験を生かせるリーダーか?
ジェニーン氏は、「アメリカの経営者の最大かつ基本的な間違いのひとつは、いつの間にか冒険を避けるようになってしまったことだ。自分のやることに確信を持ち、けっして職業的な過ちを犯さないのがプロフェッショナルマネジャーだという誤った考えが、リスクを冒すことへの情熱を失わせてしまった」と言っています。
「失敗することをしない」というのは、どういうことか?
それは、会社も社員も誰もが、新規の仕事に挑戦しないということです。当然、会社は先細りになっていくだけです。
僕自身、「一勝九敗」、成功したのはユニクロくらい、というくらい失敗を重ねてきました。しかし、その失敗を、言い訳せずに真正面からとらえ、なぜ失敗したかを考察することによって、多くのことを学びました。特に「商売は上手くいかないものだ」という大前提も、数々の失敗が教えてくれたことです。
僕から言わせていただけば、仕事や事業は上手くいって当たり前、成功して当然と思っている人が多すぎます。でも、現実は違う。「商売は上手くいかないもの」だし、当然失敗する。しかし、失敗というのは大変貴重な経験で、いろいろなことを学び取るチャンスなのです。
失敗した後、よくよく考えれば、たいていなぜ失敗したのか、その原因がわかります。すると同じ失敗はしなくなるし、経営計画も、数々のリスクを想定した、より綿密なものになっていきます。
ジェニーン氏は、「良い経営計画とは、将来起こりそうな問題の予見と、それらの問題を回避するためにとるべき手段、そして、問題を事前に回避することができなかった場合には、それらを処理する方策が包含されたものなのだ」と定義していますが、痛い思いを経験せずには将来の問題の予見やその回避の方法などを考え出すのは不可能に近いのではないでしょうか。
「唯一本当の間違いは“間違いを犯すこと”を恐れることである」というジェニーン氏のつぶやきは、事業家の真実です。失敗の経験こそが、より周到な確固たる計画を生むキーとなるからなのです。
※すべて雑誌掲載当時
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1949年、山口県宇部市生まれ。早稲田大学卒業後、ジャスコを経て実家の小郡商事に入社。91年社名をファーストリテイリングに変更。2002年代表取締役会長就任。05年より会長兼社長となる。
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(ファーストリテイリング代表取締役会長兼社長 柳井 正 構成=プレジデント編集部 撮影=大沢尚芳)
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