「大谷翔平の追っかけ」に徹する日本メディアは恥ずかしい…アメリカ人が驚いた日本人記者の"奇妙な取材"
プレジデントオンライン / 2024年5月17日 8時15分
※本稿は、内野宗治『大谷翔平の社会学』(扶桑社)の一部を再編集したものです。
■「チアリーダー」に徹する日本メディア
日本人選手と日本メディアの関係は、おそらくアメリカ人から見るとちょっと奇妙だ。エンゼルス取材歴10年以上のフレッチャー記者が、日本人選手だけを取材する日本人記者を「追っかけ」と表現しているように、日本メディアのスタンスは「ファン」に近いものがある。
あるいは、ロバート・ホワイティングの言葉を借りると「日本のマスコミ、とくにスポーツ紙は、責任あるジャーナリズムというよりも、チアリーダーの様相を呈してくる」。
ホワイティングは1980年代の後半、読売ジャイアンツのスター選手だったウォーレン・クロマティから「(ジャイアンツの)コーチがいかに残酷に若手をしごいているか」といった話を聞き出して記事にし、その結果「ジャイアンツの球場から締め出しを食らった」という。
■追っかけるのは「日本人選手」だけ
MLBでは通常、各チームに帯同する記者は「チーム」全体の取材をするものだが、ほとんどの日本人記者は特定の「日本人選手」だけを取材する。おそらく彼ら彼女らは「日本のファンが興味を持っているのは日本人選手なのだから、日本人選手を中心に取材するのは当然だ」と言うだろう。
実際に僕自身も、ライターとしてMLBに関する記事を複数の媒体に寄稿していたころ、書いていた記事の多くは日本人選手に関するものだった。それがビジネスとして求められていたからだ。
でも、いざMLBの取材現場に身を置くと、自分が「日本人選手を追いかける」記者として現場にいることに居心地の悪さを覚えた。何というか、その場にいるアメリカ人の記者たちや他の選手たちに失礼なことをしているような気がしたのだ。
■「日本人村」で取材する息苦しさ
目の前にアメリカ人やヒスパニックのスター選手がいても、彼らをスルーして日本人選手の動きを追いかけなければならない。「どうせお前ら、日本人にしか興味ないんだろ」と思われているように感じた。そんな視線を感じながらも日本人選手を追いかける立場に身を置くことが、僕にとってはあまり気持ちのいいものではなかった。
もし自分がスポーツ紙や通信社から派遣された記者だったら、これが仕事だと割り切って、たとえ居心地の悪さを覚えても、毎日お目当ての日本人選手を取材したかもしれない。
でも当時の僕は一介のフリーランスのライターにすぎず、毎日、特定の媒体に原稿を送るノルマもなかったので、無理に日本人選手を追いかける必要はなかった。もし仮にMLBのクラブハウスで継続的に取材をするならば、アメリカ人記者たちと同じように彼らと同じ土俵の上で仕事がしたいと思った。狭苦しい「日本人村」の外側で、もっと自由に仕事をしたいと思った。
■岩によじ登った記者たちは排除された
近年の大谷フィーバーも、日本のメディア各社がこぞって「チアリーダー」に徹しているがゆえに巻き起こったものだ。大谷と日本メディアの関係を見続けてきたフレッチャー記者が、いくつか具体的なエピソードを紹介している。
「2018年に大谷が初めてエンゼル・スタジアムのブルペンで投げていたとき、何人かの記者がセンターになる岩によじ登って写真と動画を撮影しようとした。すると、エンゼルスはこの連中を排除した。
同じシーズンの後半に、大谷が肘の故障によるリハビリをしていた際に、テンピ・ディアブロ・スタジアムで8月のアリゾナ・ダイヤモンドバックスとの連戦の前、実戦形式の練習で登板したことがあった。当初は日本人記者が招待されていたが、その後、メディア非公開となった。そこで、記者一同は球場隣のホテル駐車場から覗き見をしなければならなかった」
■見苦しい取材にも理解を示したエンゼルス
こうした日本人記者たちの行動は何とも見苦しいが、一方でエンゼルスは、大谷の一挙手一投足が日本で報じられることの重要性も理解していた。フレッチャー記者は続けてこう書いている。
「日本のメディアとエンゼルスの関係性は、ときに緊迫することもあったが、全体的にはお互いのために協力できるところは協力し合っているように見える。
『日本全体が、彼のすべての動きを追っていることは理解しなければならない』
元エンゼルスの通信部門副社長だったティム・ミードが2018年に語った言葉だ。
『その需要に対して応える義務があり、その点は十分に承知していた――そして、ショウヘイも理解していた』
そして、大谷を追いかけ回す日本人記者の対応を担っていた広報担当者のマクナミーは、彼らに『ほかのエンゼルス選手たちの話を書くように勧め』ていたという。
『記者たちは一人の選手のためにここまで来ているわけだけど、私は少しでもほかのチーム一同や選手たちを日本の観衆に紹介しようとしていました』
■大谷翔平の同僚たちはどう感じたか
日本人記者たちは、ほかの選手やコーチたちにも大谷のことを聞いてまわっていた。マクナミーは、エンゼルスの打撃コーチや投手コーチはもちろん、ブルペンキャッチャーさえも取材を手配したという。
スプリングトレーニングでは、無名のマイナーリーガーが日本人記者に囲まれて、練習場で大谷の投球を打ったかと質問攻めにされている始末だった」
プロスポーツの世界では、一部のスター選手に注目が集まるのは仕方のないことである。とはいえ「日本人記者に囲まれて、練習場で大谷の投球を打ったかと質問攻めにされている始末」だった無名のマイナーリーガーはいったい、どのように感じたのだろうか?
もしかすると「どんな理由であれ注目されてラッキー」と思ったかもしれないが、マイナーリーガーといえどもプロ野球選手、プライドもあるだろう。
取材を受けたにもかかわらず記者たちが自分に全く興味を持っていない、という状況は、あまり気持ちいいものではあるまい。僕が記者だったら、プロ野球選手に「ほかの選手」のことばかり質問するのは気が引ける。それは取材相手に対して失礼な行為だとすら感じてしまう。
■「日本人」の評価を貶めているかもしれない
でも、これこそ日本のメディアが日常的に、異国の地でやっていることなのだ。そして、それは個々の記者の問題ではなく、そういうことを当然としてきた日本のマスコミ界全体の問題だろう。
自分たちが欲する情報やコメントを得るためには何をしてもかまわない、というメディアの傲慢さ、特権意識が垣間見える。異国の地でも「日本人村」を運営し、現地のルールではなくムラのルールに従って行動する。あまりにも自国中心的であり、身勝手だと感じざるを得ない。
僕らが今日、大谷の活躍に一喜一憂できるのは、日本のメディア関係者が時に「岩によじ登って」でも大谷の一挙手一投足を追いかけ、その詳細を日々伝えてくれるからだ。メディアが伝える大谷の姿を見ていると、彼の存在が「日本人」の国際的な価値を高めてくれているようにさえ感じる。
しかし、その舞台裏ではもしかすると、大谷を取り巻く日本のマスコミ関係者が白い目で見られているのかもしれない。最悪の場合、彼らの身勝手な行動が「日本人」の国際的な評価を貶めてさえいるかもしれない。
国際社会に生きる僕らは、その可能性に対してもう少し意識的になってもいいのではないだろうか?
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フリーランスライター
1986年生まれ、東京都出身。国際基督教大学教養学部を卒業後、コンサルティング会社勤務を経て、フリーランスライターとして活動。「日刊SPA!」『月刊スラッガー』「MLB.JP(メジャーリーグ公式サイト日本語版)」など各種媒体に、MLBの取材記事などを寄稿。その後、「スポーティングニュース」日本語版の副編集長、時事通信社マレーシア支局の経済記者などを経て、現在はニールセン・スポーツ・ジャパンにてスポーツ・スポンサーシップの調査や効果測定に携わる。
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(フリーランスライター 内野 宗治)
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