「飴ちゃん」から「グミちゃん」へ…セブンが「グミ棚」を新設するほどグミ市場が急拡大している意外な理由
プレジデントオンライン / 2024年5月5日 10時15分
※本稿は、白鳥和生『グミがわかればヒットの法則がわかる』(プレジデント社)の一部を再編集したものです。
■「グミを食べるシーン」がコロナ禍で一変
筆者は集中して原稿書きするときなどになんとなくグミを口にすることが多い。読者の皆さんはグミをいつ、どんなシーンで食べていますか。有力メーカーの担当者は「コロナ禍でグミの喫食シーンが広がった」と口をそろえる。
グミが生活者から支持されている理由は様々だが、市場拡大、特にガムの市場規模を上回った背景にはコロナ禍の影響が無視できない。
具体的には、コロナ禍の外出自粛、マスク着用によって、ガムやタブレットが担ってきた「口臭防止」という需要が減り、「口寂しさ」を紛らわす需要がグミに流れてきたこと、さらにオフィスや学校、移動中などに持ち歩くだけでなく在宅時(家庭内)でもよく食べられるようになった、という2点が挙げられる。
新型コロナウイルスは、我々の暮らしや経済を大きく揺さぶった。日本私立歯科大学協会が2020年に実施したアンケートによると、マスクをするようになって「自分の口のにおいが気になるようになった」人が39.4%いるのに対し、「口臭を気にすることが減った」人も25.4%にのぼった。
また、食事のデリバリー、ネットショッピング、リモートワークなど、ライフスタイルや価値観も変化した。国土交通省「テレワーク人口実態調査」によると、2020年度にテレワークを実施した雇用者は全国で23.0%にのぼった。食の世界でも在宅時間が増えて自宅で食事する「内食」需要が盛り上がり、家族そろって食卓を囲む機会が増えたり、デリバリーやテイクアウトが当たり前になったりした。
■「チョコやクッキーよりもヘルシーなイメージ」
カンロの入江由布子さん(マーケティング本部マーケティング統括チームリーダー)は「コロナ前まで、グミは通勤、通学とか外で食べるシーンが多く、それほど家で食べるお菓子ではなかった。コロナで外出がなくなって、一時的にグミの市場は落ち込んだ。ただ、その後しばらく在宅で仕事をしたり、家にいる時間が増えたりしてくると、小腹満たしにお菓子を食べるときに、チョコレートとかクッキーとかカロリーの高いイメージのものよりも、グミの方がまだヘルシーなイメージがあり、選ばれるようになった。
家でグミを食べる需要が増え、2021年くらいから、グミが復調してきた。2022年くらいからは外に出る機会も増え、外でグミを食べる、そういう人たちも復活した。それぞれがプラスオンになった格好で、消費シーンが変化・拡大したというのが、グミ市場が今大きく伸びている要因のひとつ」と、コロナ禍から現在までの市場動向を解説する。
インテージの木地利光アナリストも「コロナ禍では、外出時の口臭を気にするよりも、いかに家の中で気分を高めるかが重要になった。グミは歯ごたえや味などの種類が多く、楽しみながら食べることができるところが、支持された要因だ」と分析する。
■「集中したい時に食べる」という新たな需要
最近は、硬めの食感のハードグミの人気も高まっている。「仕事中にかむことで集中力アップを期待する消費者もいる」(カンロの木本康之さん=マーケティング本部ピュレグミ・カンデミーナブランド室長)からだ。カバヤ食品の「タフグミ」は、高弾力食感でかみ切りにくい粘り、さらにサワーパウダーと大粒のキューブ形が売り。「受験勉強など集中力を高めたいときに食べてほしい」と、2018年にエナジードリンク味を発売した。
JMR生活総合研究所のグミとガムの消費に関する生活者調査(2023年5月)によると、食べるシーンでは「家でくつろいでいるとき」が最も差が⼤きく、グミが約30%⾼い。差が⼤きく、ガムが高い項⽬は「⾞の運転をするとき」「⼈と会うとき」だった。ここでも、コロナ禍での外出自粛やリモートワークなどの影響がうかがえる。
■YouTubeやTikTokでの人気コンテンツに
また、不自由な自宅生活や、友人との交流が制約されるコロナ禍にあって、人々はSNSにそのはけ口を求めた。カラフルな色やユニークな形、新しい商品が次々に発売されていくグミは、SNSに投稿する格好のネタとなった。
例えば、カンロ。最初の食感はグミだが、食べているうちにマシュマロになる新食感菓子「マロッシュ」を、「15秒でマシュマロになるグミ?」というキャッチコピーで訴求。インフルエンサーを巻き込んだ動画をTikTokで拡散させるなど、ターゲットの利用メディア環境に沿った露出により、売り上げは計画比7割増を果たした。
また、JR東京駅構内グランスタ東京にある直営店「ヒトツブカンロ」と、自社ECサイト「Kanro POCKeT」限定で取り扱う「グミッツェル」も人気だ。パリパリとした食感とグミのしっとりとした食感が特徴。動画共有サイト「YouTube」で、咀嚼(そしゃく)音を楽しむASMR動画(視覚や聴覚に刺激を与えて脳に心地よく感じさせる動画)が相次いで公開され、認知度が向上した。
ドイツのグミブランド「Trolli(トローリ)」の「Planet Gummi(プラネット グミ)」。大陸が描かれた丸いケースに入っており、その見た目から「地球グミ」と呼ばれて話題となり、1袋4個入りで500円以上するにもかかわらず、品切れになるほど人気となった。
■「飴ちゃん」から「グミちゃん」へ
グミをコミュニケーションツールとして使う若者も多い。都内私立大学に通う4年生の女性(21)は「コロナ禍で大学に行けずに友達ができなかった。大学にようやく通えるようになったとき、友達づくりのきっかけとしてグミをプレゼントしたりした」と話す。
野村総合研究所によると、若者(20~30代)の3分の1が「気にかけられたい」「話しかけられたい」と思っている(2023年調査)。コロナ禍で孤独を感じた若者も多く、その数は減ってきているものの、新しい友人ができなかったり、知人と疎遠になってコミュニケーション面で悩みを抱えていたりする人も多い。
「『他愛のない話をする機会』は、自然発生的なものが望ましいものの、それらが少ない環境(例えば、在宅勤・学習が依然として多い若者など)では、意識的かつ定期的に機会を提供することが求められる」(野村総研)。仲良くなりたかったり、ちょっと話しかけたりするきっかけとしてのグミの存在。大阪のおばちゃんの「飴ちゃん」ならぬ「グミちゃん」で仲良くなるという、リアルなコミュニケーションにグミが一役買っている。
■グミは食感も色も形も自由自在に変えられる
調査会社インテージの市場規模データによると、販路別では、コンビニエンスストアが350億円(2021年比23.7%増)で最大のグミの販売チャネル。これに食品スーパーが291億円(同20.3%増)、ドラッグストアが119億円(同24.8%増)で続く。
では、商品別の売れ行きはどうなのか。日経POS情報の、2022年9月~2023年8月の販売ランキングによると、関東のコンビニエンスストアでは、カバヤ食品の「タフグミ」がトップで、明治の「コーラアップ」、ハリボー「ゴールドベア」、ノーベル製菓「男梅グミ」、カンロ「ピュレグミ グレープ」が追う格好だ。
また、全国のスーパーマーケットでは、ハリボーの「ゴールドベア」がトップ。これにカバヤ食品の「タフグミ」、明治の「ポイフル エンジョイパック」、同じく明治の「果汁グミ ぶどう」が続いた。
グミは食感やフレーバー、色、形が自由に変えられ、乳酸菌やビタミンなど、様々な成分を配合できる点が魅力だ。その分、グミはSKU数が多く、上位のシェアもスーパーマーケットでは2%未満なので、順位の入れ替わりが激しい。
■セブンは「全部グミの棚」を設置
ここ数年、ハード食感のグミが人気になっている。通常よりも大粒の立方体のグミで、かみごたえのあるカバヤ食品の「タフグミ」のほかにも、カンロの「カンデミーナグミ スーパーベスト」、UHA味覚糖「忍者めし鋼 コーラ味」などがランキング上位に入った。「カンデミーナグミ スーパーベスト」は、かむ方向によって食感が変わるように、形を波状にするなど工夫を凝らしている。
好調が続くグミ市場に対して、小売り各社も売り場を広げている。セブン‐イレブン・ジャパンは段階的にグミの陳列量を増やしており、1本の棚すべてをグミが占める。コロナ禍前の2019年に比べると2倍に達する。定番商品のほか、甘くないグミなど商品数を増やした。
プライベートブランド(PB)では、グミをチョコレートでコーティングした「チョコっとグミ」を2023年4月から売り出すと、新食感が支持を集め、SNS上で話題となった。
■9月3日は「グミの日」
セブン‐イレブン・ジャパンは、9月3日の「グミの日」には2023年から専用のPOP(店頭販促)広告を用意した。同社の宮賢二さん(商品本部シニアマーチャンダイザー)は「やっぱりグミ人気が広がった理由は食感や形、色などの自由度があるから。それがましてやSNSで映える。どんどん新しいブランドが登場し、販売すれば売れる状況。自分用と子ども用を購入するお客様も多く、客単価の上昇にもつながっている」と話す。
2023年9月3日にはカンロと組み、空想上の果実をグミで表現した「空想果実 キラスピカの実」を数量限定で発売した。第1弾の「空想果実 キラスピカの実」は、寒地に分布する空想上の果実“キラスピカの実”を表現した。神秘的な甘みとやや酸味のある味わいで、ふぞろいな形とグラデーションのような色合い。パッケージには図鑑のような説明と発見者のコメントが記載されており、どんな味なのか好奇心をくすぐるデザインに仕上げた。
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流通科学大学商学部経営学科教授
1967年3月長野県生まれ。明治学院大学国際学部を卒業後、1990年に日本経済新聞社に入社。小売、卸、外食、食品メーカー、流通政策などを長く取材し、『日経MJ』『日本経済新聞』のデスクを歴任。2024年2月まで編集総合編集センター調査グループ調査担当部長を務めた。その一方で、國學院大學経済学部と日本大学大学院総合社会情報研究科の非常勤講師として「マーケティング」「流通ビジネス論特講」の科目を担当。日本大学大学院で企業の社会的責任(CSR)を研究し、2020年に博士(総合社会文化)の学位を取得する。著書に『改訂版ようこそ小売業の世界へ』(共編著、商業界)、『即!ビジネスで使える 新聞記者式伝わる文章術』(CCC メディアハウス)、『不況に強いビジネスは北海道の「小売」に学べ』(プレジデント社)などがある。
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(流通科学大学商学部経営学科教授 白鳥 和生)
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