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「愛子天皇」は選択肢に入っていない…「旧宮家男子を養子に」という政府の皇族確保策が妙案である理由

プレジデントオンライン / 2024年4月29日 10時15分

宮内庁ホームページ「皇室の構成」を加工して作成。①~③は皇位継承順位

安定的な皇位継承に向けて、政治的な議論が山場を迎えつつある。評論家の八幡和郎さんは「政府の有識者会議が出した皇族数を確保するための2案はいずれもメリットがある。佳子さまと愛子さまのご結婚までに結論を出す必要があり、各党はいち早くコンセンサスを形成すべきだ」という――。

■公務の担い手不足が皇室の課題に

長年の課題だった皇族数の増員を図る方策がようやくまとまる目処がついてきた。皇室では秋篠宮殿下のあと9人連続して女子の誕生が続き、悠仁さま以外に次世代の皇位継承権者がおられない。また、皇族の高齢化や雅子さまの体調不良もあって、公務の担い手が不足している。

そこで、「天皇の退位等に関する皇室典範特例法」の付帯決議に基づき、「皇位継承に関する有識者会議」(座長は清家篤・現日本赤十字社理事長)が設置され、2021年12月に報告が提出されている(「愛子天皇」の可能性は本稿の末尾で言及)。

ここでは、①とりあえず愛子さまや佳子さまが本人だけ結婚後も皇室に残れるようにする(「単独残留案」)、②皇族が旧宮家の子を養子にする(「旧宮家養子案」)という案をまとめた。

■単独残留案と旧宮家養子案は「妥当」

この2案について4月、安定的な皇位継承の確保について議論してきた自民・公明・維新・国民民主の4党が「妥当」と判断したため、今後、必要な法整備に向けた政治的な動きが進んでいくことになる。

ただし、有識者会議では、細かく具体論をすることは避けた。悠仁さまに男子が何人生まれるか、佳子さまや愛子さまが皇室に留まられてもお子さまがどうなるかで、議論の前提が変わるからだ。

悠仁さまに何人も男子が生まれたら、当面のあいだは皇統断絶についての議論は必要でなくなるし、女子だけが生まれたら、その女子か旧皇族から養子になった男子との競合になる。佳子さまや愛子さまが結婚後も皇室に残留しても、お子さまがなかったら、いまの女系論は存在し得ない。

玉川大学を訪れ、ビオトープを見学される秋篠宮さまと長男悠仁さま
写真=時事通信フォト
玉川大学を訪れ、ビオトープを見学される秋篠宮さまと長男悠仁さま(=2024年4月6日、川崎市麻生区[代表撮影]) - 写真=時事通信フォト

■「2045年前後」がひとつの節目に

今回の案が承認されれば、次に議論がされるのは、悠仁さま、佳子さま、愛子さまのお子さまの状況が確定する20年後くらいであり、陛下が上皇さまの退位と同じ85歳になられるのも2045年だから、これがひとつの節目になる。

そして、悠仁さまに男子がない場合に、継承者を決めるのは、2070年くらいでよい。悠仁さまが上皇ご退位と同じ年齢になられるのは、2092年だから、その20年くらい前に皇嗣殿下を決めればよいのだ。

いずれにせよ、従来の継承原則から外れた場合、権威を保つためには本人の年齢とか資質も大事だし、その継承者に子どもがないと次の世代で振り出しに戻るから、それも見極めながら、徐々に収斂させるべきだ。

■妻は皇族、夫は民間人でも大きな問題はない

「単独残留案」が実現しても、愛子さまや佳子さまが結婚後も皇族でおられるかどうかは、本人たち次第だ。夫も皇族でないと外交などの場面で不便という人もいるが、私人である総理夫人が総理と一緒に動いていても不都合は起きていない。

住居は結婚相手の家に住まれても、皇室で用意してもよいし、赤坂御用地の中という案もある。女性公務員(議員)の公務員住宅(議員宿舎)に民間人の夫が住んでいることがあるのと同じだ。

もちろん、結婚相手が政治家になったり、ビジネスの内容が好ましくなかったりすることはあろうが、個別対応で自制をお願いすればいいことだし、必要に応じて公務などへの同行や行事出席を遠慮してもらうといった対応をとればいい。

いわゆる「女性宮家案」のように夫も皇族にすれば、小室圭氏を殿下として迎えたほうがよかったのかということになるし、職業活動も厳しく制限しなくてはならない。

しかし、本人だけが皇族なら、普通の職業活動は許され、佳子さまや愛子さまの結婚相手の幅が広がる。彼女たちには一人分の給与に準じる皇族費が支給されるから、結婚相手が金持ちでなくてもよくなる。

■女系派が旧宮家養子案に反対する理由

「旧宮家養子案」には、女系派と男系派と双方から反対がある。女系派の中には、旧皇族が養子になるのは、門地による差別で憲法違反という意見もあるが、皇室制度そのものが憲法で例外措置なので、内閣法制局も合憲だとしている。

それに、旧皇族が皇族になるのが違憲であれば、生まれながらの皇族が誰もいなくなったら天皇制は廃止という事態になるが、憲法はそんなことを想定していない。

女系派は、「悠仁さまも含めた上皇陛下の4人の孫に継承権を認める」としているだけで、昭和天皇などの女系子孫は対象にしていない。しかし、世界的にみても、特定の国王の子孫にだけ継承権を限定するのは、初代国王の子孫に限定するケースや、英国での宗教戦争など過去の事件の後始末をするケースに限られる。

また、女系を認めても、上皇陛下の子孫だけでは何世代かしたら断絶する可能性が何割かあるから、女系論を推すならせめて明治天皇の女系子孫までは拡げるべきだ。旧宮家のうち四家や近衛家、裏千家、守谷家が該当するが、そういう主張を女系派はしていない。

伏見宮家の分家である旧宮家は、室町時代に現皇室とは分かれて疎遠だという指摘があるが、江戸時代から明治にかけて、皇統が断絶する危機になると、伏見宮家か戦前に断絶した有栖川宮家や閑院宮家から継承者を迎えることが予定されており、長年縁遠かったわけではない。

■なぜ「旧宮家復活案」ではなく養子なのか

一方、男系派には、1947年に皇籍離脱した11の旧宮家を、宮家として復活するように主張する人が多い。しかし、現在は断絶している家もあれば、複数の系統に分かれている家もある。また、旧宮家の中で序列は明確には存在しなかった。

旧宮家11家
編集部作成

さらに、歴史的に見ても皇位継承者は男系は絶対条件としても、女系での近さも考慮する要素となる。そうであれば、北白川、朝香、竹田、東久邇が明治天皇の子孫であり、東久邇家は昭和天皇の子孫だ。というわけで、復活させるとして範囲も序列も決めがたいのである。

そこで考案されたのが、「旧宮家養子案」で、旧宮家皇族の男系男子の中から、公務の担い手としても適切であるのに加えて、その子孫が将来の皇位継承予備軍になれそうで、場合によっては現在の皇室との血縁関係も考えながら何人かを現皇族の養子にしようというのである。

■皇位継承予備軍は100人ぐらい確保したい

同時に何人も養子にする必要はなく、状況と本人の年齢をみながら徐々に進めてもいいし、将来も必要に応じて補充があってしかるべきだ。

具体的に誰かといえば、たとえば、常陸宮殿下の継承者として殿下の姉の子孫である東久邇系統からという意見もあるし、東久邇家系には非常に多くの男子がいる。しかし、皇位継承予備軍は、せめて100人ほどは確保しておきたく、広い範囲に候補者はいたほうがよいので、複数の皇族が複数の旧宮家から養子をとるべきだと思う。

中には、旧皇族の誰かを佳子さまや愛子さまの結婚相手とする前提で養子にすればいいという人もいる。こうした決め打ちは前近代的な発想で、たまたまそういうカップルができればその人も皇族の養子にすればいい、ということに留めるべきだ。

また、「これまで民間人だった人を天皇にするのは世論が納得しないだろう」と女系派は主張するが、いま議論しているのは、悠仁さまに男子が生まれなかった場合の話で、養子になった本人ではなく子や孫が候補者となる。彼らは生まれながらの皇族なのだから、問題ない。

■旧宮家の方々は心構えができている

「養子になる希望者はいない」という人もいるが、旧皇族の多くは、「自分たちからアクションはとらないが、皇室のお役に立つようにといわれたらお受けするのが自分たちの立ち位置」であって、希望者がいるかという発想が愚劣だ。

また、旧皇族と現皇室は定期的な交流の場も持っているし、私的な行き来もある。さらに、小泉内閣で皇位継承問題の議論が始まってからは、心構えもでき、旧華族の集まりである霞会館の運営でも意識した動きがある。まして、「旧宮家養子案」が具体化されたら、余計に自覚は高まるわけで心配はない。

戦後の混乱期に旧皇族に不適切な行為があったという批判もあるが、それをいうなら、皇室に嫁いだ人たちの実家で不適切な経歴や行動の人もいる。

本当に不適切な皇族は皇族復帰させないようにできるのが、「旧宮家養子案」のメリットでもあるのを理解されていないようだ。

■次は各党がコンセンサスを形成する局面

政界では、安倍晋三元首相が熱心に取り組んでいたが、退位問題が生じたので任期中に仕上げられなかった。この問題は制度についてのきちんとした歴史や法律論に造詣が深く、具体的な内情についての知識も必要だったので、余人をもって代えがいところがあった。

国会議事堂
写真=iStock.com/Mari05
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Mari05

現在の構図は、岸田首相の支援の下で麻生太郎副総裁と茂木敏充幹事長が自民党において中心になっている。2人とも長年、この問題に関わってきたので心強い。維新の党や国民民主は、自民党以上にこの問題に熱心だ。

しかし、今回の議論の展開で方向を決定づけたのは、公明党かも知れない。公明党は、こうした左右の対立という構図の問題にはあまり関心を示してこなかったが、國重徹衆院議員など法律に強いメンバーが緻密に議論を整理し、的確な意見を出して連立与党の自民党を助けた。

立憲民主党は、内容的には十分に彼らの意見は踏まえられているのにもかかわらず、女性皇族の夫まで皇族とすること拘泥したり、旧皇族の養子案について妨害のための時間稼ぎともみえる難点を指摘するなど、満額回答を求めたりしている。これではコンセンサス形成は難しく、佳子さまや愛子さまの結婚に議論が間に合わなくなるリスクを増大させているように見える。

いずにせよ、いろんな意味で、時間との勝負なので、これ以上、結論を遅らせることは、各党ともやめてほしいと思う。

■「愛子天皇」は国会における議論の対象外

なお、国会での議論や皇室の実務と関係ない世界では、「愛子さまを天皇に」という人もいるが、それは今回の議論の対象にはなっていない。

なにしろ上皇陛下の退位に伴う皇室典範特例法で、秋篠宮殿下を皇嗣殿下とし、皇太子と同じに扱うことを決め、天皇即位の際の三種の神器に対応するともいえる「壺切りの剣」を引き継ぐ皇嗣礼も実施し、英国王戴冠式に出席してお披露目もすんでいる。

また、悠仁さまが、心身ともに健やかにお育ちになり、帝王教育も順調に進んでいる中で、現実的な選択とはいえまい。

英国などで王位継承原則を変えているが、すでに生まれた子については変更しないのが国際常識である。皇位継承問題を論じながら、世界各国の制度についての知識が乏しい人が多いのは残念だ。

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八幡 和郎(やわた・かずお)
歴史家、評論家
1951年、滋賀県生まれ。東京大学法学部卒業。通商産業省(現経済産業省)入省。フランスの国立行政学院(ENA)留学。北西アジア課長(中国・韓国・インド担当)、大臣官房情報管理課長、国土庁長官官房参事官などを歴任後、国士舘大学大学院客員教授を務め、作家、評論家としてテレビなどでも活躍中。著著に『令和太閤記 寧々の戦国日記』(ワニブックス、八幡衣代と共著)、『日本史が面白くなる47都道府県県庁所在地誕生の謎』(光文社知恵の森文庫)、『日本の総理大臣大全』(プレジデント社)、『日本の政治「解体新書」 世襲・反日・宗教・利権、与野党のアキレス腱』(小学館新書)など。

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(歴史家、評論家 八幡 和郎)

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