「はぁ? 私のほうが大変よ」「いや、俺もけっこうやってる」…家事の自分の貢献度を過大評価する夫婦の共通点
プレジデントオンライン / 2024年10月21日 18時15分
■パートナーに不満を感じたら、認知バイアスを疑ってみる
みなさんの家庭では、家事をどのように分担していますか。炊事や洗濯に買い物、掃除に育児、家計管理、二世帯住宅の場合は介護なども入ってくるかもしれません。こうした数多くの仕事を、夫婦でうまく分担していく必要があります。
私はカウンセラーとして夫婦間のカウンセリング(カップル・カウンセリング)を行っているのですが、「自分はかなり家事を負担している」という不満を抱えている人は少なくありません。しかし、家事の分担割合を客観的に見ると、パートナーも家事をしっかり担当している……ということも多々あります。往々にして、人は自分の貢献度や働きを過大評価しがちな生き物なのです。
この自分自身の貢献度を過大評価してしまう認知の歪み(認知バイアス)は、心理学の世界で『貢献度の過大視』と呼ばれています。認知バイアスとして認定されるくらいですから、自分のほうが多く働いていると感じること自体は決しておかしなことではありません。しかし、家庭というものは会社や趣味のコミュニティのように第三者の目が入りづらい空間のため、なかなかそのことに気付く機会がありません。そのため、新しく家事を任せられると「自分ばかり仕事を押し付けられている」という考えになってしまい、パートナーとの関係がギクシャクする原因となります。
また、「自分のほうが大変だ」と感じるのには、もう一つの認知バイアスも関係しています。『ダニング=クルーガー効果』という認知バイアスは、「人は、経験の浅い仕事ほど自己の働きを過大評価してしまう」というものです。たとえば、ふだん洗濯をしない人が1日だけ洗濯を担当したとします。クローゼットがあふれない衣類のたたみ方や、着ていて気持ちがいいアイロンがけなどは、一朝一夕に身につくものではありません。しかし経験が浅いとそのことに気付かず、洗濯乾燥機のボタンを押しただけで満足してしまい、「洗濯って意外と簡単だ。こんな楽な家事が大変だなんて、パートナーは甘えている」と思ってしまうのです。
こうしたバイアスから抜け出すためには、認知バイアスがかかっているかもしれないと自分自身を疑ってみること、つまり客観視をすることが認知バイアスから脱却する第一歩です。ところが、その脱却を妨げる認知バイアスに『確証バイアス』というものがあります。これは「人は、自分にとって都合がいいものや、信じたい情報ばかりを集めて信用してしまう」というもので、具体的な例を挙げると「洗濯は女性がやるもの」と思っている男性は、同様の意見を言っている芸能人の発言や、女性が洗濯をしているというデータばかりを集めてしまう……といった形です。この確証バイアスにより、パートナーに家事を押し付ける理由ばかりを集めてしまうことがあります。
■プレゼントより毎日の感謝を
円満に家事を分担するためには、先述のように「自分が認知バイアスに陥っているのではないか?」「偏った意見を集めているのではないか?」と自問自答することのほかに、日ごろのコミュニケーション、つまり声掛けや頼み方を変えてみることも有効です。
まず試してみてほしいのが、「家事をお願いすることは、悪いこと」と考えないことです。私の経験上、うまくいっていないカップルほど、頼み事やお願いをとても言いづらいことだと考えています。お願いをすることを良くないことと捉えていると、言い出しづらくなって伝えるのがギリギリになってしまったり、気を使いすぎるあまり伝わらない言い方になってしまったりと、かえってパートナーの負担が増えるケースが少なくありません。「○○が必要だから、△△をしてくれると、すごく助かるよ」といったように、明確かつポジティブな言い方をすると、お願いされたほうも気持ちよく応えやすくなるでしょう。
また、お願いする際に気を付けてほしいのが、「無理ならいいんだけど」「忙しかったら大丈夫」という、あいまいな言い方です。「難しければやらなくてもいい」という気遣いのつもりで言ったとしても、ネガティブなニュアンスが含まれるため「それならなんで言うの?」と反感を買ったり、「しなくてもいいんだ」とお願いが流されてしまったりというケースが生まれます。
そしてお願いをする際は、パートナーが担当してくれている家事へのリスペクトも欠かさないようにしましょう。何か仕事を頼むときは「いつも○○をしてくれて、本当に感謝してるよ。もしできたら△△もしてくれると、すごくありがたいな」といった形で、日ごろやってくれている家事への感謝を伝えましょう。特に女性に対しては有効な働きかけです。
男性は結婚記念日や誕生日に大きなプレゼントを贈って感謝を伝えることが多いのですが、「プレゼントよりも、日常的に感謝や愛情を伝えてほしい」と考える女性はとても多いです。日ごろの感謝をマメに伝えたり、日常の話を表情豊かに聞くことで、よりよい関係を築くことができます。
逆に、女性から男性にお願いをする際は、なるべく具体的に頼むことがコツです。男性は解決策を考えたり、解決に向かって動くことを好む傾向があるので、「アイロンは往復させずに一方向にかけて」「ミルクは35度まで冷ましてからあげて」といった形ですね。ミルクの温度のように、具体的に数字を出してお願いをすると間違いが起こりにくくなりますし、お願いされたときにイメージもしやすくなるので、男女問わず試してみてほしい言い方です。
■家庭が円満になる言い換えフレーズ
逆に、お願いをされたときに気を付けてほしいことが、即断をしないことです。すぐに「無理だよ」と言われてしまうと、パートナーが困っていることへの共感を拒否しているように見えてしまいます。自分がお願いをする際も切り出しづらくなってしまい、お互いの不満が蓄積しやすくなります。すぐに断ることはせず、「別の日なら大丈夫かも」「そういう状況なんだね。少し考えさせて」などと、一度考える時間をつくったほうがいいでしょう。
そして最後になりますが、夫婦間の不満の多くはコミュニケーション不足によって起こります。少しでもいいので、毎日パートナーと話す時間をつくり、お互いの心を通わせるようにすることも忘れないでください。
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公認心理師、カウンセラー
ストレスケアからビジネス、カップルの悩みまで、あらゆるジャンルのカウンセリングを行う。講演やメディア出演も精力的に行っている。
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(公認心理師、カウンセラー 山名 裕子 構成=本誌編集部)
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