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イチャイチャしても妊娠しない平和な癒しのBL世界…"ファンミ"2時間に女性が2万円前後注ぎ込む納得の理由

プレジデントオンライン / 2024年5月6日 10時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Goodboy Picture Company

ドラマ『おっさんずラブ』が人気になるなど認知されつつあるボーイズラブ(BL)。タイ、中国、韓国などアジア発のBLドラマも目白押しだ。コラムニストで漫画家の辛酸なめ子さんが、4月下旬に都内で開催された台湾のBLの出演者が勢ぞろいしたファンミーティングに潜入した――。

■イチャイチャしても妊娠しない平和な癒しのBL世界に浸る理由

ここ数年で人気がますます沸騰し、定着してきているアジアのBLドラマ。コロナ禍にタイのBLドラマのファンが増え、中国や台湾、韓国、フィリピンなどでもBLドラマが次々と制作されるようになりました。

良作が多いタイBLについで台湾のBLも日本国内で人気が高まっています。タイも台湾もルックス的に日本人と近くて、感情移入しやすいのが魅力のひとつなのでしょう。

「CP」と呼ばれるドラマ内のカップルで、テレビのバラエティー番組に出たり、ファンミーティングを行なったりして、ドラマ以外にも供給が多いです。コロナが開けてから来日イベントも頻繁に開催されています。

一般的に、BL人気の背景にあるのは、「恋愛に伴う生々しい性(生理・妊娠・結婚・出産などの現実)と切り離した形で、イケメンたちがイチャイチャする様子やファンタジーの世界を見て楽しみたい」といった女性の心理です。

もしかしたら現代人の恋愛離れも影響しているのかもしれません。誰かと交際したり関係性を築いたりするのは大変で、エネルギーを消耗します。恋愛感情の時点で、心身が翻弄されて疲れてしまいますが、その感情から適度に距離を保ち、ときめきや萌えを体感できるのが、BLドラマなのかもしれません。

感情移入しすぎず、美しい2人を見ているだけで満たされます。現実世界では見かけない、優しくてビジュアルも最高な「スパダリ」(スーパーダーリン)的な男子たちが、恋愛ドラマを繰り広げます。美しい箱庭を眺めているような感覚で、日常の不安も忘れて多幸感に浸れます。

■日本はラブシーン控えめ、タイや台湾はキス、スキンシップ激しめ

日本と他のアジアのBLを比べると、日本はラブシーンが控えめで、タイや台湾のほうがキスシーンは多くスキンシップも激しめ。タイは、世話を焼くのが愛情表現という文化があるようで、病気やケガで看病するシーンがよく出てきます。また、背景に南国の風景が出てくるので、仕事に疲れた女性にとっては現実逃避感があります。

台湾のBLは映像が美しく、ピュアなストーリーが多い印象です。ルックスも韓流っぽい一重のクールな顔立ちから、華やかな顔立ちまで、BLファンの女性のあらゆるニーズに対応してくれます。

台湾のBLドラマで金字塔とされるのが2017年に配信が開始され、大ヒットした「HIStory」シリーズです。日本で劇場公開もされました。そして最近では「奇蹟」というドラマがヒット。「HIStory」に出演していた俳優も多数出演していて、半グレの若者と優等生の恋という、ハードな内容でした。話題性があるBLドラマへの出演は、台湾ではスターの登竜門となっています。

その「奇蹟」の製作会社も関わっている新たなBLシリーズが台湾で配信開始されました。「VBLシリーズ」という4部作のコンテンツです。アジアのBLは学園ものから社会人、マフィア系、などあらゆる設定が出尽くした感がありますが、若い才能が渦巻く台湾のBLドラマ界には、まだ未開拓の設定がありました。

例えば4部作の一作目「Stay By My Side」は、エリート学生と幽霊の声が聞こえるルームメイトのラブストーリー。ホラーとBLの相性は良さそうです。

同2作目「You Are Mine」は、クールなオレ様社長と、新人秘書のスーツ系ラブコメディ。仕事の内容はマッサージや添い寝など、コンプライアンス的にもドキドキさせられる設定です。

韓国ドラマ「You Are Mine」のカップルのイラスト
イラスト=辛酸なめ子

同3作目「VIP Only」は、スランプのBL作家が創作料理店のオーナーシェフと恋に落ちる物語。オーナーシェフが坊主頭&ヒゲで、元メジャーリーガーのイチローさんにちょっと似ていて親近感があります。

同4作目「AntiReset」は最も先鋭的な設定で、冷酷な大学教授とリアルな人間の姿をしたAIロボットの恋愛です。AIロボットという役柄を、近未来的な白い上下で表現。

そのうち「Stay By My Side」と「You Are Mine」は台湾の動画配信サービスKKTVで、中国・香港・マカオの再生回数がトップ5に入ったほどの人気ぶりで、日本でもスカパー!や日テレプラスなどで視聴できます。このVBLシリーズに主演している8人が先頃来日し、ファンミーティングを開催しました。

「VBLシリーズ ファンミーティング in TOKYO~東京でV8に会おう!~」と題されたイベントは昼の部と夜の部の2回公演で、チケット代は1万7600円。ファンミーティングは昨今1万円以上とけっこういい値段であることが多いですが、それでも集客できるほどの魅力があるのでしょう。

以前伺った台湾の「奇蹟」のファンミーティングはA席1万3200円、13人の俳優とハイタッチや撮影できるVIP席は2万2000円という設定でしたが、ほぼ満席状態でした。中国語が飛び交っていたので、台湾から参加するファンも多そうです。

■ファンはどんなイベントに2万円前後のお金を払っているのか

今回、上野の飛行船シアターで開催された「VBLシリーズ ファンミーティング」は、円安ということもあって、台湾など海外から来ているお客さんも多い印象です。ロビーには、ファンから贈られた祝い花やプレゼントが並んでいました。

BLのファンミーティングは、もしかしたら最も平和で癒しの空間かもしれません。K-POPファンの友人に聞くと、K-POPコンサートでは毎回、決められたペンライトが必須で、振り方も決まっているなどハードルが高そうです。

いっぽう今回のVBLのファンミは入り口でV8の写真入りのうちわが配布。会場では独自にペンライトを振っている人もいましたが、とくに決まりはなく、座ったままリラックスして観賞できます。

構成は「奇蹟」のファンミと似ていて、トークコーナー、演技再現、歌、ゲームと進んでいきます。イベントが始まると、いきなり客席の通路に降りてきてくれた8人。この距離の近さがファンミの魅力です。また、BLドラマのCPはリアルでも仲良くしていてほしい、というのが一部のファンの願いでもあります。このイベントでも、ふとした時に手をつないでいたり見つめ合ったりするCPがいて、想像が広がりました。

トークコーナーは他愛ない内容で癒されます。

まず、司会の女性がそれぞれ来日した回数を聞くと、意外にも全員複数回来ていて、8回目の人もいました。日本で印象的なものを聞かれると「ラーメン」「自動販売機」「カツ丼」「オムライス」などの若者らしい答えが。

続いて知っている日本語について聞かれると、「新年あけましておめでとうございます」「すいませんトイレどこですか」「お先に失礼します」といったセリフが出てきて、温かい笑いが起こりました。円安で日本人が気弱になっている今、親日家のイケメンたちの言葉に励まされます。

序盤のやりとりで場を温めて、次第に本題に入っていきます。

それぞれのドラマの名キスシーンを三面モニターで上映する、というコーナーが。「Stay By My Side」のタオルを頭にかぶせて目を隠したキスシーンは、最初は軽めだったのが次第に激しくなっていきます。「フ~」「ワ~」といった歓声が起こっていて、出演した2人は恥ずかしそうでした。演じた俳優とキスシーンを一緒に眺める、というプレイのようなシチュエーションです。

最も印象的だったのは「AntiReset」のAIと教授のキスシーンでした。AIが暴走し、ロボット三原則を侵犯する勢いでした。AIが教授の体の部位ごとにキスしながら「髪は心配、耳は誘惑、唇は愛情、のどぼとけはあなたへの渇望……」などと語っていました。大きな画面にキスシーンが映し出されるたびに観客席から抑えきれない声が漏れていました。

適度な興奮と、リラックスが交互に訪れるのもファンミの醍醐味。歌のコーナーに続いて「デート映像を見ながらまったりトーク」が行なわれました。「You Are Mine」出演のCPが銀座で朝食という企画では、てっきりおしゃれなカフェで飲食するのかと思ったら……コンビニで買った、さめたカレーや生ハムチーズなどを、銀座ファイブ前の小さい公園で食べるというロケでした。

老婆心ながら、もっと良いものを食べさせてあげたほうが……と思ったのですが、売り出し中の俳優なので初心を忘れないため、という意味があるのでしょうか。ファンの、もっと支えてあげたい欲も刺激します。

ゲームコーナーでは、BLのファンミに時々出てくる重要な小道具、ポストイットが登場。「相手の体に貼られたポストイットを口ではがす」という内容でした。うなじや太ももなどに貼られたポストイットを、皆慣れた感じで、60秒以内に次々とはがしていきます。

約2時間のファンミが終わったと思ったら、最後、8人全員がお見送りしてくれて、お客さんは、歩きながら手を振ったりハイタッチしたり、少し会話できる、という特典が。8人の俳優が横に並び、お客さん全員と笑顔で目を合わせてくれました。一人とハイタッチしたら、体温がかなり熱く……、これからさらにのぼりつめていこうという野望がみなぎっているようです。

イベントを終えても俳優たちに疲れた様子がないのは、若くて体力があるというのもありますが、BLドラマのファンの平和な空気のおかげ、というのもありそうです。

おそらくファンの多くは、俳優個人に恋愛感情を抱くというよりも、基本的にCP推しで、2人がイチャついたり幸せそうな姿を見たい、という思いのほうが大きいのではないかと推察します。

俳優は、強い念を受けて消耗することがなく、CP同士で戯れていればファンが喜んでくれるので、体力的にもラクなのかもしれません。ファンと俳優が良い距離感を保てています。イベントの最後に、「皆さんの幸せを祈ります」と言う俳優も何人かいて、台湾のBLのファンミーティングは、お互い幸せを願い合う平和な空間でした。

抱き合う二人の男性のイラスト
イラスト=iStock.com/Maria Voronovich
※イラストはイメージです - イラスト=iStock.com/Maria Voronovich

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辛酸 なめ子(しんさん・なめこ)
漫画家/コラムニスト
武蔵野美術大学短期大学部デザイン学科卒。雑誌連載、執筆活動の合間を縫ってテレビ出演も。

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(漫画家/コラムニスト 辛酸 なめ子)

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