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医学部受験生の60%が「親子関係」に悩んでいる…成績優秀な子を追いつめる毒親たちのヤバすぎる思考回路

プレジデントオンライン / 2024年5月10日 8時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/PrathanChorruangsak

■匿名相談に寄せられる「医学部受験生の悲痛な声」

私が運営する医学部専門予備校では毎週、塾生と講師がマンツーマンで面談を行っています。また、塾生からの匿名相談を専用フォームから受け付けています。2023年4月~2024年3月にかけては1004件の匿名相談がありました。

相談の大部分は勉強についての悩みですが、中には深刻な悩みを打ち明けるものも含まれます。その6割が親子関係の悩みです。具体的には以下のようなものがありました。

「模試の成績が悪くて、何度も叩かれた」
「成績が悪いせいで、親が壁を蹴り破壊している」
「苦労して書き上げた私立大医学部の願書を出願前日に目の前で破り捨てられる」

「子どもは絶対に褒めてはいけない、厳しくしなきゃ合格できない」という呪縛に囚われている親が、あまりにも多いのです。

このような心ない言動を浴びせられ続けると、自己肯定感は地を這うようになります。相談の中には、「消えてなくなりたい」「生きているだけ無駄」という悲痛な声もありました。

殴る、蹴るなど目に見えて深刻な親子関係に悩む人は6割といっていますが、軽微な悩みを含めると、ほとんどの家庭が何らかの教育虐待状態にあるのかもしれません。

家庭という密室で繰り広げられる心ない言動は、身体的虐待や心理的虐待に相当するものも多数あります。こうした言動は成績向上に全く繋がらないばかりか、子どもの持つ「生きる力」を奪ってしまうので注意が必要です。

■「子どものため」を笠に着た毒親街道まっしぐらの思考回路

医学部受験専門予備校を運営していると、さまざまな親子に出会います。親御さんのタイプは大きく分けて2タイプ。1つは自分や親族が医師であることから、子どもにもそうなってほしいと願う「自己投影型タイプ」。もう1つは学歴コンプレックスのせいなのか、自分や親族のようにならないようにと、果たせなかった夢を託す「リベンジ型タイプ」です。

どちらのタイプもベースにあるのは「わが子に幸せになってほしい」という親心。しかし子どもの幸せを願ってスマホで何かを検索すると、そこにあふれる無数の「○○すべき論」に飲み込まれてしまいます。

・医学部に行きたいのなら難関中高一貫校に進むべき
・難関中学を受験するなら、必ずこの塾に行かないとダメ
・医学部に行く人は無遅刻無欠席の人格者であるべき

これらの言説には、科学的根拠は何一つとしてありません。不確かな「べき論」が世の中にはびこり、それが正しいと多くの人が信じて疑わないのが現状です。さらに教育熱心な親御さんの多くは「もっとも優秀な人の事例」を真似したがります。

子ども3人を東大に合格させた人の体験談や、大学を首席で卒業した弁護士の勉強法といったトップオブトップの勉強法は、一部の優秀な子にはフィットするかもしれません。しかし、全ての子どもに合うわけではありません。

「成功者の事例を真似れば成功するだろう」という思考回路は、大リーグで活躍する大谷翔平さんの練習法を、野球初心者の小学生に強要するような短絡的な考え方です。スポーツに例えれば一目瞭然なのに、勉強に限ってはそう思わないのは、不思議な現象です。

■「嘘をつく子ども」を育てる管理至上主義の弊害

教育熱心な家庭にありがちなのが「ノートはどこまで管理してくれるんですか」というような「管理したがる」姿勢です。当校では子どものノートを管理することはありません。子どもは管理しようとすると、嘘をつくようになるからです。

親がノートを管理する場合、学習の手段としてノートを取るのではなく、親が納得するノート作りが目的になってしまいます。やがて塾に行くふりをしてサボったり、机に向かいながら別のことを考えたりするようになります。そうなると成績も下降の一途をたどることは、火を見るよりも明らかです。

管理することを前提にノートをとらせても、元々本人に勉強する意志がないのですから、意味がありません。これはノートの件だけにとどまらず「子を管理しようとする」行為自体が、子どもの勉強する意志を削ぐ原因になります。

模試の成績を管理して、偏差値が何ポイントUPしたのかDOWNしたのかを管理する、帰宅時間、勉強時間、就寝時間を管理する、付き合う友達を管理する……管理、管理でがんじがらめにされると、子どもは何を言っても言うことを聞かなくなります。なぜなら今以上に自由が奪われるお小言を聞きたい人はないからです。

子どもは耳にフタをし、無表情になっていきます。これはひどいことを言われても何も聞こえないようにすることで、自分自身を守ろうとする自己防衛本能のあらわれです。厳格な管理や理不尽な罰は子どもの恐怖心を煽り、自分の本心や意見をひた隠しにするようになります。

■子どもを勉強嫌いにする「5つのNG行動」

塾生限定の匿名相談には、「毎日怒鳴られて母の顔を見るのが怖い」「ひどい言葉を強い口調で繰り返し言われ、精神的に参っている」「大切にしていたものを勉強に支障が出るからと勝手に捨てられた」など親からの心理的虐待に苦しむ声が寄せられることもあります。

その中から、子どもの勉強嫌いを助長する、親の「5つのNG行動」と具体的な声がけ例をご紹介します(図表1)。

【図表】親の「5つのNG行動」と具体的な声がけ例
筆者作成

■いきすぎた「しつけ」や「教育」をしていないか

以上のように子どもを追い詰める声がけを執拗に繰り返すことは、子どもの勉強嫌いを助長するだけでなく、「教育虐待」にあたるケースもあります。教育虐待の定義を調べると、以下のような著書や報道がありました。

昨年(2011年)12月に茨城県つくば市で開かれた「日本子ども虐待防止学会」で、武田信子教授らは「子どもの受忍限度を超えて勉強させるのは『教育虐待』になる」と発表、初めて公の場で「教育虐待」の言葉を使った。「教育」の名のもとで親の言いなりにさせられるケースはもちろん、親の所得格差が子どもの学習権に大きく影響する状態も「教育虐待」に含まれるとした。
(「教育虐待:勉強できる子になってほしい……過剰な期待」毎日新聞、2012年8月23日)


教育虐待とは、「あなたのため」という大義名分のもとに親が子に行ういきすぎた「しつけ」や「教育」のこと
おおたとしまさ『ルポ 教育虐待』(ディスカヴァー携書)

家庭という密室で繰り返される教育虐待は、子どもたちから「生きる力」を奪います。日常的にいきすぎた「しつけ」や「教育」をしていないか、自問自答する姿勢が必要です。

■過干渉な親に振り回されないために

高校生なのにノートチェックまでしようとする過干渉な親御さんは、教育虐待の可能性を秘めています。しかし教育虐待傾向のある親御さんには「あなたのため」という大義名分があり、全く悪気がないため、心ない声がけや態度を変えることは容易ではありません。それなら子どもたちは、理不尽な親の言動をやり過ごせる、心のあり方を習得したほうが勉強に身が入ります。

ノートを取る人の手元
写真=iStock.com/takasuu
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/takasuu

私は教育虐待傾向にある親を持つ子どもには、親を「厄介なファンだと思え」と伝えています。「熱狂的なファンであるためにヤジを飛ばし続けるスポーツファン」だと思えば、暴言を真に受けず、心の平穏を保つことができます。

難しい勉強の強要や過干渉のせいで、やる気がゼロになったり、極度な不安症状を抱えたりすると、メンタルを立て直すのに時間がかかります。また医学部受験生全般に言えることなのですが、難しい勉強ばかりしてきて基礎問題を習得できておらず、知識が上滑りしている人も大変多いです。

私は常日頃塾生たちに「難問を解く必要はない」「人との比較は意味がない」と言い続けています。またどんな小さなことでも、自分で自分を褒めてあげることも大切です。自分で学ぶ動機付けを行い、自己肯定感を高めていくと、親からの心ない言動にも動じず生きていける強さが身につきます。その強さは医学部に進学後や医局に入った後も、役に立つのです。

2023年度医学部に合格した塾生からも「勉強面だけでなく、メンタル面の成長も感じることができた」といった喜びの声が寄せられています。

親からの心ない言葉に「引っ張られすぎない、強い心(メンタル)」で、未来を切り拓ければ素敵です。世間一般の受験の常識が、全ての受験生の成長につながるとは限りません。親も子も正しい方法論を知り、強い心(メンタル)で困難に立ち向かう力をつけてほしいと思っています。

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高梨 裕介(たかなし・ゆうすけ)
医師、医学部専門予備校エースアカデミー塾長
DELF代表。1988年生まれ。大阪医科大学卒。初期臨床研修修了後、医学部予備校エースアカデミーを設立。自身の医学部受験の反省を活かし、470名以上の医学部合格者を指導してきた。監修書に『医学部受験バイブル』(幻冬舎)がある。

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(医師、医学部専門予備校エースアカデミー塾長 高梨 裕介)

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