子どもが友達の悪口を言っていたらどうするか…児童精神科医が「やめなさい」の一言をグッと飲み込んで口にした"ある質問"
プレジデントオンライン / 2024年5月12日 9時15分
※本稿は、精神科医さわ『児童精神科医が「子育てが不安なお母さん」に伝えたい 子どもが本当に思っていること』(日本実業出版社)の一部を再編集したものです。
■ため息、しかめ面…親の一挙手一投足に子どもは敏感
親が否定的な言葉を使ったり、感情的に怒鳴ったりすることが、子どもにとってよくない影響を与えます。親の表情やしぐさ、態度などに敏感に反応する子どもも少なくありません。
とくに小学校高学年から中学生というのは、自分がまわりからどう見られているかが気になってくる時期です。そのときに一番近くにいる親が自分のことをどう思っているのか、どう評価しているのかを気にして、親の一挙手一投足に敏感になっている子も多いです。
たとえば、親が自分を見て深くため息をついたり、しかめ面をしたり、無視をしたり、頭を抱えたりするたびに、自分の存在価値が揺らぐように感じてしまうのです。
とくにクリニックに来る子どもたちの中には、「こんな自分は親にあきれられているのかな……」と親からの評価を気にしている子もいます。
■親が誰かをほめるだけで自信をなくしてしまう子もいる
中には、母親にため息をつかれたり、あきれられたりするたびに、深く落ち込み、「見捨てられている気がする」と言う子もいます。
また、親がほかの子(やきょうだい)をほめただけで、「自分はダメなんだ」「自分はあの子(きょうだいや友だち)より劣っているのかな」と自信をなくしてしまう子もいます。
彼らの言葉を聞いていると、子どもというのは親の否定的なふるまいをこれほどまで敏感に感じとっているのかと気づかされます。
親に否定されることほど、子どもにとって悲しいことはないのです。
■無意識のうちに親の思い通りにしようとしていないか
子どもの能力や学力を重視しがちな親御さんは、そればかり気にして子どもを追い込んでしまうことがあります。
子どもの成績や点数を見て、大げさにあきれてみせたり、子ども同士を比較したりして、意図的、あるいは無意識のうちに子どもをコントロールしている親もいます。
でも、そもそも親が子どもを自分の思いどおりに動かそうと思っても、そのとおりになるとはかぎりません。
もしかしたら、子育てというのは親がいくら努力しても思いどおりにならない、最たるものかもしれません。だからこそ、親も子どもも苦しくなってしまうのでしょう。
私にも、無意識のうちに子どもたちを自分の思いどおりにしようとしていた時期がありました。
長女は幼稚園の年長のころ、公文に通っていました。
計算が大好きだった長女は、算数の進度が早く、表彰を受けるほどでした。
教室の先生からも「年度末までにここまで進んだら、何か賞をもらえるよ」と言われ、私も必死になってプリントをやらせていました。
が、あるとき、長女はせき払いのようなチックをしはじめたことに気づきました(ここでチックについて誤解のないよう、もう少し詳しくお話ししますと、親の育て方が悪いから発症するというわけではなく、脳の異常で幼少期によく起こる疾患のひとつです。たいていの場合は自然治癒しますが、過度なストレスを与えると悪化したり長引いたりするケースもあります)。
私は、とても反省しました。賞だとかトロフィーほしさにがんばらせすぎたなと。
そして、子どもがそもそも自分の思いどおりになると思うこと自体がまちがいだと気づいたら、子育てがずいぶんと楽になりました。
ですから、子どもが思うように動いてくれなくて苦しんでいる親御さんの話をうかがうたびに、相手が子どもであってもコントロールしないほうが、お互いに楽になることをお伝えしています。
■「こうすればいいのに」は子どもにも禁物
そもそも、人間関係というのは、自分の思いどおりにコントロールしようとすればするほどうまくいかなくなります。
私も、診察室で患者さんの話を聞きながら「こうすればいいのに」と思ったとしても、それを相手に押しつけることはありません。
どこがつらいのか、なにが不安なのかをじっくり聞いたうえで、「たとえば、こうやって考えてみることもできるかもしれませんね。どう思いますか?」「それをしてみたら、どんな不安が出てきそうですか?」などと、少しずつ、少しずつ歩み寄っていくイメージで対話を重ねていきます。
患者さんは、大きな不安を抱えていて自分は前に進めないと思っていますから、そこを無理やり前に進ませようとすると、たとえそれが正論だったとしても患者さんの回復につながらないこともあるのです。
「その考えはまちがっている」とか「こちらのほうが正しい」とジャッジすることにも注意が必要です。
相手には、相手なりの考えや価値観があります。その価値観でこれまでやってきたし、これまで生きてきたのです。
それを他人が「正しい」「正しくない」とジャッジすることはできません。
親が子どもの考えや価値観をジャッジして、否定し、自分の思うように舵取りしようとすると、子どもは不安定になったり、自信をなくしたり、心を閉ざしてしまう可能性があります。
親御さんは意識的でなくても、直接的に否定をしたつもりでなくても、比較や失望などの言動によって子どもをコントロールしていないか、それによって子どもの人生を舵取りしようとしていないかを、一度振り返ってみてください。
■子どもの意志を尊重するための伝え方
親が子どもに「こんなふうに育ってほしい」と思っていても、子どもの意志を尊重せずにその思いを押しつけると、子どものやる気を奪ってしまうことがあります。
子どもになにかを伝えたいときは、親が命令や指示をしてコントロールするのではなく、親子で話し合いながら伝えたほうがいいと、私は考えています。
たとえば、子どもになにかをしてほしいなら、ただ「これをしなさい」と言うのではなく、どうして親であるあなたが子どもにそれをしてほしいかを伝えるのです。
そして「お母さんはこう思うけれど、あなたはどう思う?」と、それに対してどう思うか意見を聞いてみてほしいのです。
■「そんなことを言うのはやめなさい」を我慢する
反対に、なにかをやめさせたいなら「やめなさい」と指示するのではなく、それをしたらどうなるのか、なぜやめたほうがいいと思うかを話して、子どもがどうしたいと思うのか意見を聞いてみてほしいのです。
親が方針を決めるのではなくて、対話をしながら、こちらの思いを伝えるのです。
以前、娘が友だちの悪口を言っていたことがあり、それは人に言ったら絶対にダメだと思う言葉だったので、私は頭ごなしに怒ってしまう衝動にもかられたのですが、ひと呼吸おいて、どういう状況で、どうしてその言葉を言ったのか娘に聞いてみました。そして、「もしも、あなたがそんなふうにお友だちから言われたら、どう思う?」と。
娘は「そんなこと言われたくないって思う」と答えたので、私は「そうだよね。ママも言われたくないよ。だから、○○ちゃんも言われたくなかったんじゃないかな?」と言いました。
すると、娘も納得してくれたのか、お友だちに謝っていました。対話は、ただ叱って「やめなさい」と言うよりも時間がかかります。「そんなことを言うのはやめなさい」とひと言で言ってしまったほうが、ずっと楽かもしれません。
■結論だけ押し付け続けると反抗につながってしまう
でも、子どもの脳というのは、まだまだ大人に比べて未発達なのです。性急に結論を押しつけても考えが追いつかず、理解ができないことは精神的にとても負担が大きいので、子どもがその反動で反抗的になってくる原因になることもあります。
「子どもが言うことを聞かなくて、とても反抗的なんです」と思っている親御さんは、ぜひお子さんとの対話を増やしてみてください。
「あなたがそれをされたら、どう感じるか」という感情を子どもに想像してもらうことで、おのずと「では、どうしたらいいか」という答えがわきあがってくるのです。
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1984年三重県生まれ。藤田医科大学医学部を卒業後、精神科の勤務医として、アルコール依存症をはじめ多くの患者と向き合う。自身がシングルマザーとして発達特性のある子どもの育児を経験したことをきっかけに、名古屋市に「塩釜口こころクリニック」を開業。毎月約400人の親子の診察を行っている。
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(児童精神科医 精神科医さわ)
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