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「途中交代で入った野手のところに打球はよく飛ぶ」はウソ…野球にまつわる「迷信」を元プロが解説する

プレジデントオンライン / 2024年5月19日 10時15分

ゴロを捕球するヤクルトの遊撃手・今浪隆博(当時)=2015年6月6日、神宮球場 - 写真=時事通信フォト

プロ野球選手は試合中どんなことを話しているのか。元プロ野球選手の今浪隆博さんは「独特の業界用語を使っている。例えば、『ヤリ』という言葉は、ストレートにめっぽう強いバッターを意味する」という――。(第2回)

※本稿は、今浪隆博『今浪隆博のスポーツメンタルTV THE BOOK 野球観戦が100倍面白くなる厳選100談義』(イースト・プレス)の一部を再編集したものです。

■プロ野球の「守備と走塁にはスランプなし」はウソ

「打線は水物」「守備と走塁にスランプなし」。これも野球界でよく使われる言葉です。

打線が水物に関しては、その通りで、前日にどれだけ大量得点しても、翌日、相手ピッチャーの出来がよければ、あっさり沈黙してしまうことは、よくあります。

「守備と走塁にスランプなし」も、多くの人が「確かに」と納得するかもしれません。でもぼくに言わせると「いやいや、そんなことない。守備と走塁にもスランプはあんねん」です。

走塁、特に盗塁の場合、1回失敗すると、盗塁のスペシャリストでも恐怖心から反応が鈍くなると聞かされたことがあります。ピッチャーがホームに投げるのか、牽制をするのかを素早く見抜き、どれだけ速く反応するかが盗塁成功のポイントなので、それが鈍くなるのはスランプともいえるでしょう。

ぼくの場合、プロ11年間で1軍の盗塁成功4つ、失敗3つで、とても語れる立場にはいないので、これは盗塁がうまい人から聞いた話です。守備に関しては、自分でもたっぷり経験しているため、はっきり言えます。スランプは、あります。

エラーの直後だったり、「守りにくい」という先入観がある球場だったりすると、バウンドをうまく合わせられないことがあります。普通にプレーしているつもりなのに、大胆に前に出ていけない、足が止まってしまう……。まわりからは普通にさばいているように見えていても、本人はハラハラ、ドキドキです。逆に、ゾーンに入っている状態では、どんな打球でも体が自然に反応して、簡単にさばけてしまいます。

守備にも、走塁にも好不調の波はあるものです。守備、走塁にスランプはないという人は、守備より打撃を重視していた人、盗塁、走塁にあまり興味がない人が多いような気がします……。

■「途中で守備についた選手に打球がよく飛ぶ」は迷信

どうして途中交代で入った野手のところに打球はよく飛ぶ?

野球の「これホンマなん?」シリーズは、ありがたいことに、ユーチューブチャンネルでも好評でした。みなさんが常識、当たり前と思っていることが、実は、現場感覚とは少しズレているときもあって、ぼくにも発見があったと思います。そのシリーズで取り上げたものの1つがこのテーマでした。

特に高校野球だと、実況のアナウンサーがよく使っている気がします。本当に、交代で入った選手のところに、打球はよく飛ぶのでしょうか。

ぼくの感覚だと、これは、ない。ありません。

試合の後半に守備固めで出場するケースがぼくにはよくありました。もし「途中交代で守備についた選手のところに打球がよく飛ぶ」が本当なら、何回も体験しているはずです。でも、ないんです。

守備固めは、リードした状況で試合に出ます。正直「ここに打って来たらあかんで~」と、思ってました。自分のエラーがきっかけで逆転でもされたら、査定は下がるし、ベンチでは針のムシロだし、考えただけでゾッとします。

来るな~と思っているから、もし交代して入って、すぐ打球が飛んで来るケースが多かったら、間違いなく、強く印象に残っているはず。それがないということは、打球は来ない。むしろ、飛んでこなくてホッとした記憶はたくさんあります。

■アナウンサーの常套句

ではどうして、「途中交代で守備についた選手のところに打球が飛ぶ」と、まことしやかに語られるのでしょうか。あくまでも想像ですが、高校野球の実況で、アナウンサーが常套句的に使っているうちに、テレビを見る人、ラジオを聞く人のなかに刷り込まれたのではないでしょうか。

スタジアムで撮影するカメラ
写真=iStock.com/FangXiaNuo
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/FangXiaNuo

特にラジオは映像がない分、実況はいろんな言葉を駆使して、リスナーに試合の様子をイメージしてもらうよう考えるはずです。プロ野球なら、野手の名前だけでポジションがほぼわかりますが、高校野球はそうではありません。例えば、ショートが佐藤君から今浪君に代わったとしましょう。ただ「今浪君、ゴロを捕ってファーストへ送球」だと、今浪君が誰なのか、わからない。そこで「交代でショートに入った今浪君」と、ちょっと説明をつけると、まだ汚れてないユニフォームでゴロをさばく姿が想像できます。

内野でも外野でも、たまたま交代で入った選手のところに打球が飛んだとき「交代で入った」を実況で強調して、それがずーっと続くうちに「交代で入った選手のところに打球は飛びやすい」と、定着していったのではないでしょうか。

ぼくの感覚では「ない」ですが、もしデータを細かく取ってみたら「あり」、ということもなくはないでしょう。そんなデータがあればめちゃくちゃおもしろい。どなたか、調べたら教えてください!(笑)

■プロ野球にある独特の業界用語

主にカタカナ職業の世界には、独特の業界用語があります。テレビや広告の世界だと、例えば「テッペン」。午前0時のことで、残業が長引いて午前0時が近づくと「あ~今日もテッペン超えるよ~」と使うようです。終了時間が厳しく決められていたら「ケツカッチン」。ネタとして、銀座を「ザギン」、六本木を「ギロッポン」とか、逆さ読みにするのも業界用語なのでしょう。

これ、プロ野球の世界にもあります。いくつか、使用例を含めて紹介しておきます。

・地獄

使い方は「いいよ~地獄地獄~」とか。ベンチから、守っている味方の野手に向けて使われる言葉で、打球がそこに飛んだら絶対アウトにできる。バッターは生きて帰れないから地獄。つまり、守備がめっちゃうまい人、鉄壁の守備職人をほめる場合に使います。

ぼくが所属した2つの球団では普通に使っていたし、ほかの球団もそうじゃないかと。ぼくに対して使われたことがあったかは……よく覚えていません。

・自衛隊

使い方は「あの選手、自衛隊だな」。国を守る存在から転じて「守備で貢献できる選手」として表向きは使います。変な取り上げられ方をしたら嫌だと思い、ユーチューブでは省いていましたが、裏には「打つ方では期待できない選手」という意味もあります……。

野球選手
写真=iStock.com/JohnnyGreig
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/JohnnyGreig

■「2年目のジンクス」が生まれるワケ

・ヤリ(槍)

使い方は、ベンチからなら「へいへい、そのバッターヤリヤリ」。味方のコーチからなら「お前、本当にヤリやな」。これは「ストレートにめっぽう強いバッター」という意味です。ほめてるともいえますが、逆に「変化球には弱い」というニュアンスも。ベンチからの「そのバッターヤリヤリ」は、「変化球には弱いからな~」と、バッテリーに対して再確認する意味もあります。

・マウス

ネズミ(Mouse)ではなく、口(Mouth)のマウス。使い方の説明は難しいのですが、「マウス?」。ビッグマウスというか、日本語のニュアンスだと「言うよね~」的な。

例えば、ホームランを打ったバッターが「ちょっと詰まったけどうまく打てた」と話したら「マウス?」。「言うよね~」と、ちょっと茶化すようなイメージです。ぼくのまわりでは、けっこう使っている選手がいましたね。

プロ野球の業界用語のついでに、ジンクスについても少し。いろんなジンクスがあり、有名なのは「2年目のジンクス」でしょう。ルーキーだった1年目に大活躍した選手が、2年目に成績をガクッと落とすと、こう言われます。実際にあるかというと、相手チームから研究されるし、マークも厳しくなるので、ある程度はありだと思います。

■これに乗ると大成しないと言われる車

ほかにも、7回の攻撃になるとよく使われる「ラッキー7」も、ジンクスの1つと言えるでしょう。ぼくが実感したものも含め、いくつかあげておきます。

・いかり肩のピッチャーは大成しない

ドラフト上位で他球団に入ったピッチャーと対戦した後「あのピッチャーのボール、エグいです」と、自分のチームのスカウト話したら、「なみ、あれは大成しないよ、いかり肩だから」。ボールはめちゃくちゃエグいから、ぼくは半信半疑でしたが、結果、そのピッチャーは目立った成績を残せませんでした。だから、ありなのかも。

王貞治さんはいかり肩で、プロでは大成しないから野手に転向した、という話は有名です。実際はどうなのか。確かに一流ピッチャーにいかり肩は少なく感じます。

・ジャガーに乗ると大成しない

ファイターズに入団して、クルマを買おうと思っていたとき、先輩からこう言われました。

ぼくの実家は自動車販売業だと言いましたが、実は祖父、父親はジャガーに乗っていて、子どもの頃からなじみがありました。デザインはかっこいいし、クルマ選びの選択肢の一つに入れていたのですが、「ジャガーに乗ると大成しないよ」。

先輩からこう言われると、なかなか選べません。確かに、あの頃、他球団でもジャガーに乗っている選手は多くありませんでした。そういうものかと思ってましたが、その後、ファイターズのバリバリのレギュラー選手たちがジャガーに乗っていたので、たぶん関係ありません。

ひょっとしたら「あんまり調子に乗るなよ」という、新人に対する戒めだったのかも。

■板橋区は便利だけれど…

・板橋区に住むと大成しない
今浪隆博『今浪隆博のスポーツメンタルTV THE BOOK 野球観戦が100倍面白くなる厳選100談義』(イースト・プレス)
今浪隆博『今浪隆博のスポーツメンタルTV THE BOOK 野球観戦が100倍面白くなる厳選100談義』(イースト・プレス)

ここまで来ると都市伝説的になりますが、スワローズにトレードされ、新居を探しているとき、東京の板橋区がとても魅力的に思えました。神宮球場、2軍の戸田球場の真ん中へんにあって、ぼくのような選手が住むには絶好の場所だと(最初から2軍を想定しているのはどうかと思いますが……)。それを先輩に話したら、「え、知らないの? 板橋に住んだら大成しないよ」。

真顔でそういわれたので調べたら、何人か、板橋在住の選手はいましたが、みんな万年2軍という立ち位置の選手で……。板橋との因果関係はわかりませんが、あまりいい気はしなかったので、他の場所を選びました。

でも、便利なのは間違いないので、今は板橋に住みながら、1軍でバリバリ活躍している選手がいたらいいなと、思います。板橋が悪いわけではないので……。

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今浪 隆博(いまなみ・たかひろ)
元プロ野球選手、スポーツメンタルコーチ
1984年7月6日生まれ。福岡県北九州市出身。平安高校(現・龍谷大平安高校)、明治大学を経て2007年北海道日本ハムファイターズに入団。2014年のシーズン中に東京ヤクルトスワローズに移籍し、15年に打率3割越えをマークして、リーグ優勝に貢献。2017年に引退。現在は、スポーツメンタルコーチとして、アスリートのサポート活動を行っている。その一環として、2022年に公式YouTubeチャンネル「今浪隆博のスポーツメンタルTV」を開設。

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(元プロ野球選手、スポーツメンタルコーチ 今浪 隆博)

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