税金を払うくらいなら、経費で飲んだほうがいい…こう話す経営者が誤解している「税額控除」と「特別償却」の差
プレジデントオンライン / 2024年5月17日 8時15分
※本稿は、松岡靖浩『会社をつぶさない社長の選択』(かんき出版)の一部を再編集したものです。
■国は中小企業に積極的な設備投資を促している
事業規模を拡大する上で欠かすことができないのが、設備投資です。
定期的な設備投資は、生産効率の向上や売上の拡大など、事業拡大の起爆剤として一役買うケースも珍しくありません。ただ、設備投資は資金的に大きな負担が伴うというデメリットも存在します。そのため、国は税制優遇措置として「特別償却」や「税額控除」などを設け、中小企業に積極的な設備投資を促しているのです。
この特別償却と税額控除はうまく利用すると大きな節税効果を期待できますが、両者の違いを把握していなければ、十分にその効果を享受できない可能性もあります。どのような違いがあるのかしっかりと理解しておきましょう。
ここでは、中小企業投資促進税制を例として解説していきます。
まず、特別償却について。特別償却とは、通常の減価償却費に加えて別途で経費が追加計上できる制度です。
■「税額控除」は、まるまる法人税から差し引くことが可能
たとえば、ある会社が耐用年数8年(償却率0.250)の1000万円の機械を購入したとしましょう。通常であれば1000万円×0.250=250万円を減価償却として、費用計上することができます。しかし、特別償却が利用できる場合は、これに加えてさらに償却費を加算することができるのです。
中小企業投資促進税制の場合、通常の減価償却に加えて基準取得価額の30%を追加で償却できるため、1000万円×30%=300万円を費用として追加計上可能です。初年度で250万円+300万円=550万円を一気に費用計上できるのです。
一方の税額控除は、法人税等から直接、一定の金額を差し引くことができる制度です。中小企業投資促進税制の場合、基準取得価額の7%が税額控除の対象になるため、たとえば1000万円の機械を購入した場合であれば1000万円×7%=70万円、これをまるまる法人税から直接差し引くことが可能となります(ただし、上限が法人税額の20%までという制限があるため、70万円をまるまる控除するのであれば、納税すべき法人税額が350万円以上必要です)。
■筆者が「税額控除」をおすすめするワケ
では、どちらが得になるのかという話ですが、私がクライアントに提案する際は基本的には税額控除をおすすめしています。
というのも、税額控除は税金から直接差し引くことができるため、節税対策として非常にダイレクトに効果を発揮するから。特別償却はあくまでも減価償却の前倒しなので、耐用年数までで考えると、トータルの償却費は変わりません(購入時の事業年度の法人所得を減らしたい場合には有効です)。
ただし、利益が低く法人税が少ない会社であれば、特別償却のほうがいい場合もあります。たとえば利益が20万円の会社だと、先ほどの1000万円の機械を購入すると、特別償却を使うと300万円を利益から差し引くことができるため、280万円の赤字になります。その場合、赤字なので法人税はゼロです。
一方で税額控除を選択すると、20万円の利益ですから法人税は40%乗じて約8万円、税額控除は法人税額の20%が上限ですから8万円×20%=1.6万円しか控除ができない計算になります。つまり納税すべき法人税額が8万円-1.6万円=6.4万円となり、特別償却のほうが結果的に節税効果が生まれるという計算になります。
もちろん、赤字にしたくない場合は税額控除のほうがいいですが、税金を払うのが嫌ですという会社の場合は、特別償却のほうがメリットが大きいでしょう。
![税金の計算をするビジネスマン](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/e/7/1200wm/img_e7b34bcf18912f29ad02a547460d1561283489.jpg)
■「借り上げ社宅vs.住宅手当」お得なのはどっち?
借り上げ社宅と住宅手当の支給、どちらも会社が用意する福利厚生として魅力的ではありますが、選べるのであればどちらがいいでしょうか。
結論からお話しすると、借り上げ社宅のほうが、さまざまな面でメリットが大きいと言えるでしょう。これは、住宅手当の場合、支給金額がそのまま課税対象になってしまうからです。
つまり、住宅手当が支給されることで給与が底上げされ、それに伴って所得税、住民税、社会保険料が上がってしまうということです。
一方、借り上げ社宅の場合はどうでしょうか。
借り上げ社宅の場合、「企業が社員から受け取っている家賃が賃貸料相当額の50%以上であれば、受け取っている家賃と賃貸料相当額との差額は給与として課税されない」という決まりがあります。
つまり、企業が家賃を払い、従業員から賃料の一定の割合の金額を徴収しておけば、その差額に所得税や住民税は課税されません(ちなみに賃貸料相当額というのは、家賃を指すのではなく、別に算出方法があります)。
そうなると、住宅手当が支給されるよりも、借り上げ社宅のほうが課税される金額が少なくなるため、同じ金額であれば借り上げ社宅のほうがお得という結果になります。
借り上げ社宅と住宅手当で考えたときには、従業員にとっては借り上げ社宅のほうがありがたいですし、経営者としては社会保険料の負担を減らすことができるので、やはり借り上げ社宅のほうが得になると言えるでしょう。
■なぜ「社宅を無償で提供する」はNGなのか
ただし、注意点もあります。
そもそも税法は「公平性」が大原則です。
つまり、特定の人だけがメリットを享受する場合には、その方に対する給与を支払ったものとする、という考えです。
これを「現物給与」と言います。お金以外での支給がこれにあたります。
主に次の3つが該当しますので、頭の中に入れておいてください。
2.社宅家賃を税法規定より低額で給料から天引きする
3.特定の社員や役員だけに社宅を提供する
もし税務調査で指摘された場合には、源泉所得税が徴収されることになります。
また、現物給与は社会保険料の対象になりますので、ダブルパンチになります。
この所得税は本来、従業員が支払うものですから、会社としては徴収しないといけません。ただ、従業員に対して今さら「会社の経理が間違った処理をしたので、過去にさかのぼって給料から天引きさせてください」とは言えないでしょう。結局は会社負担になり、キャッシュアウトすることになります。
これは知っていれば防げることなので、ぜひ知識として覚えておきましょう。
■「税金を払うくらいなら経費で使ったほうがいい」はウソ
経営をしていると、よく「社長、節税しませんか?」といった謳い文句で、あれやこれやと営業されることがあります。たとえば保険などは定番ですが、中には「飛行機をリースしませんか」なんていう話を持ってくる方もいらっしゃいます。
ただ、これらの営業のほとんどが実は節税ではなく、課税の繰り延べを提案しているということをご存じでしょうか。それらのスキームを利用すると一時的には税金が安くなるものの、トータルで見たときには同じ額の税金を払う可能性があるのです。
ちなみに先述した飛行機のリースも、一時的には減価償却などの費用が計上できますが、結局リースなので売却した際に雑収入が計上され、最終的には税金がかかってきます。
これを回避するためにはもう一度リース契約をする、それの繰り返しになるので、安易に契約しないほうがいいでしょう。
![松岡靖浩『会社をつぶさない社長の選択』(かんき出版)](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/3/7/1200wm/img_3769cbcf95e933ac662997f3fdc88c8d140540.jpg)
私が経営者に伝えていることは、利益がすべて税金として持っていかれるわけではないということ。法人だと3割~せいぜい4割くらいです。つまり税金を支払っても7割ほどはお金が残ります。
そこで私は、無理して課税の繰り延べ商品を買ってキャッシュアウトするのであれば、税金を支払ったほうがお金は残りますよ、と伝えています。
また、中には「松岡さん、税金を払うくらいなら飲みに行って経費として使ったほうがいいよね」と言う経営者もいます。しかしこれは節税というよりも、無駄使いして利益を圧縮しているだけです。
経費を使って飲むのを全部ダメと言う気はありませんが、あくまでも浪費ですので、ほどほどにしましょう。
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税理士
松岡靖浩税理士事務所代表。1967年東京生まれ。1990年中央大学商学部会計学科卒業。1995年税理士試験合格。現在、東京税理士会板橋支部所属。「倒産はさせない」をモットーに、現場一筋33年、500社以上の経営サポートを行う。銀行交渉、ノンバンクを利用、弁護士を利用しない企業再生の専門家。『会社をつぶさない社長の選択』(かんき出版)が初の著書となる。
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(税理士 松岡 靖浩)
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