ソウルの出生率はなんと0.55人…韓国の少子化が世界最悪のスピードで進む「結婚できない」以外の理由
プレジデントオンライン / 2024年5月23日 8時15分
※本稿は、シンシアリー『Z世代の闇 物質主義に支配される韓国の若者たち』(扶桑社)の一部を再編集したものです。
■韓国人に共通する「苦労は報われるべき」論
どの時代も韓国では、勝ち組たる存在になるための苦労が半端なく、しかも、そこにたどりつく道はいつも狭く、定員も少なすぎる、そんな社会でした。そんななかで、「苦労は報われるべきだ」とする「報償心理」が広がっていきました。
国語辞典にも載っていない言葉ですが、多くのメディアの記事、論文にも当たり前のように出てきます。苦労した分、その対価となるなにかをもらわないと気がすまないという心理のことです。アドラーの心理学などに出てくる「補償心理」とは、ちょっと意味が異なりますのでご注意ください。
日本語だと漢字が異なるので判別がつきやすいのですが、韓国語のハングル表記だと「報償」も「補償」も同じ表記で、しかも辞典に載っていない単語なので、すごく紛らわしいところです。
■報償心理が広く蔓延し、暴走している
韓国社会には、この報償心理がものすごく強く、広く蔓延しており、「○○になれなかったら、なにか他の手段(本書でよく取り上げているものとしては不動産投資)で物質的な報償を受け取るべきだ」と考え、そうでないのは「正しくない」と認識してしまうわけです。
個人的には、報償というよりは、なにかの賠償に近いと思っています。「不当な手段を使った誰か」から賠償を受け取ろうとする心理、その「誰か」が具体的にどこの誰かもわからないまま、なにかの賠償を求める心理が、この報償心理の暴走に似ていると、私には見えます。
この報償心理(賠償心理かもしれませんがそこはともかく)の蔓延の大きな原因のひとつが、私教育の悪循環です。『CBSラジオ』に、出生率・少子化問題で出演したソウル大学保健大学院人口学のチョ・ヨンテ教授は、その原因として、「完璧な親シンドローム」というものを挙げています。(ネット掲載は2021年7月3日)
■若者を苦しめる「完璧な親シンドローム」
〈……(番組進行者)「私がある女性から聞いた話ですが。子供を産むことが、なぜか罪を犯すようだというのですよ。自分の子供に、こんな世の中を生きるようにするなんて、と。だから出産自体になんだか罪悪感があるというのです」
(以下、チョ・ヨンテ教授)「そうですね。そんなこともあります。それに、心理的にこういうのもあります。青年たちは、自分自身が完璧な親でなければならないという「完璧な親シンドローム」なんです。結婚、そして結婚してから子供に与えるものに対する期待値があまりにも高いわけです。おかしくもないでしょう。教育水準とか高いですから。
だから、自分自身が完璧な親になれるまで待ちます。その時点ですでに結婚できる可能性も、子供を産む可能性も低くなります。その完璧な親とやらになれる人はそういません。結局は、親が助けてくれないとできません。だから、すべての人が平等に結婚できる可能性はなく、完璧な親シンドロームで期待値が高くなり過ぎ、親が私に相応の分を与えてくれないと結婚も子供を産むことも出来なくなってしまうのです。これはちょっとどうかと……〉
■家業を継ぐより「より偉い職業」を目指す
半地下などで苦労して結婚生活を送った人は、もし子供も経済的に余裕がなくて半地下で結婚生活をスタートするようになったとき、「私もそうだったよ」と応援する親もいるにはいるけれど、多くが「絶対にダメだ。結婚なんかするな」と極端に反対するという話があります。
詳しいデータがあるわけではありません。ただ、韓国人は、この「私もそうだった」と話す人の比率が極端に少ないと言われています。「韓国には老舗が少ない」、「韓国人は勤続期間が短い」などの話にも通じることですが、韓国では子供が親の家業を継ぐより、「社会的にもっと認められるなにか(検事とか医師とか)になる」ことのほうが、ずっとよいこと、親孝行なこと、という認識になっています。
長くやっている店を見ると、「おお、すごいすごい」としながらも、店を出てからすぐに「その長い間、『有能な子供』が一人も生まれなかったのかよ」とあざ笑う人が、韓国にはまだ大勢います。有能な子供が生まれたら、あんな店を誰が継ぐものか、と思ってしまうわけです。
似たような話が、韓国関連書籍(韓国人が書いたもの)でもよく出てくるので、似たような話をどこかで聞いたという方も多いことでしょう。こうした傾向も、間接的ではあるものの、報償心理の現れのひとつだという分析もあります。
■加害者になろうとする「被害者」
極めて個人的な見解だということを前提にして、私はこの報償心理が「被害者だとしながら、加害者になろうとする人が多い韓国社会の特徴」とも無関係ではないと見ています。
日本に「謝罪と賠償を要求する」と騒ぐのはもはや韓国社会全体の圧倒的主流、いわば国家単位での(ときに外交そのものを揺るがす)動きですが、そこまでいかずとも、被害者を名乗る人たちが、どう見ても加害者のような言動をすることは、韓国内ではよく見かける光景です。
「私的制裁」の権利、すなわち法律的な根拠がなくとも、自分自身には「私的」に相手に制裁を加える権利があると信じている、そんな人が多く、また社会的にそれが受け入れられやすい、そんな側面があるわけです。こうした傾向を「正しい」「正義」などと表現する人たちがあまりに多いので、私としては見ていて苦しいところですが……。
■「他人にも自分と同じ被害があるべきだ」
たとえば、大きな事故・事件で犠牲になった人の家族、または大怪我をした本人などは、その責任者への処罰を「超法規的」に要求し、それが法律の範囲内で行われると、「法(またはその執行)に問題がある」と騒ぎ、ほぼ間違いなくリベラル派の政治家たちと手を組み、1~2年後には政治勢力の一部になっていたりします。また、いじめ問題など「学校暴力」においても似たような傾向が見られます。
2008年、大邱(テグ)大学警察行政学科のパク・スンジン副教授(当時)が発表したデータによると、教授が分析した高等学校の学校暴力関連資料において、被害者の約半分が、その後に学校暴力の加害者になりました。転校先、または加害者がいなくなった後に、自分で自分より弱い子を殴ったりイジメたりする、などのパターンです。
こうしたことも「被害者だから、加害者になる権利がある」という心理と無関係ではないでしょう。苦しみを経験した人は、「こんなことがあってはならない」と思う人と、「他人にもこんなことがあるべきだ」と思う人にわかれます。データ化はされていない社会通念的な話ではありますが、韓国社会には後者が多い、といったところです。書き出せばキリがありませんが、「恨」を民族情緒としているだけはあります。
■専門家たちが驚く「異常」な低出生率
そこまで考えを広げてみると、「世の中が悪い」「よくわからないけど誰かが悪い」と攻撃的になるよりは、“時が来るまで”子供を産まないという選択は、まだ肯定的に評価できるかもしれません。
しかし、引用部分で教授も発言していますが、いつまで待ってもそんな「完璧」など来るはずもなく、結果的に(生まれること自体を含めた)子供の可能性を封じてしまっていると思うと、やはり書いていて愉快な話ではありません。
関連した内容として、韓国の少子化問題の(本稿執筆中の時点での)最新データを紹介します。日本だけでなく、いくつかの国で出生率(以下、合計特殊出生率)が問題になっています。
出生率が2人を超えないと人口を維持できないといった話もありますが、もはやそこまで考える余裕もないでしょう。移民を積極的に受け入れているアメリカすらも、すでに1人台が定着しています。
特に韓国の出生率は、高いか低いかを論ずる前に、ひと言で言って「異常」です。世界的に「研究課題」とされており、各国の専門家たちが「戦争、またはそれに準ずる命の脅威に晒されているわけでもないのに、なぜこんなにも出生率が低いのか」と口を揃えています。
■ソウル特別市の出生率はなんと0.55人
専門家ではありませんが、ちょうど本稿を書いていた3月、米国の次期副大統領候補とされるJ・D・ヴァンス議員が、1.66と予想されるアメリカの出生率において、「このままだと韓国のようになる」と話したりしました。もはや韓国は少子化問題の代表格だと見てもいいでしょう。
その韓国の2023年出生率は、0.72人でした。2024年2月、政府の公式発表による数値です。民間の予想では、一部0.7まで下がるのではないかという話もありましたから、これでもほっとしたという声も聞こえます。
首都のソウル特別市の場合はなんと0.55人。盧武鉉政権のときから首都機能の一部移転が行われた「セジョン市(特別自治市として独立した自治体扱い)」以外は、すべての自治体が1.0人未満でした。2024年は0.68人と予想されており、すでに2023年10月~12月期は、全国平均0.65人にまで下がっています。
■巨額を投じた少子化対策は奏功せず
いままで政府が使った少子化関連予算は、各メディアによって差はありますが、概ね「10年間で300兆ウォン以上」。多くのメディアが、危機感よりは虚しさに近い論調の記事を出しています。
そのなかでも特に2023年10月~12月期、ついに出生率が0.65人まで下がったことに、多くの記事が注目しています。普通、期間別に3カ月単位でデータが発表されますがそこに0.6人台の数字が出たのは初めてです。2023年1~3月期が0.82人、4~6月期が0.71人、7~9月期が0.71人、そして10~12月期が0.65人。ちなみに2022年10月~12月期は、ギリギリで0.7人でした。
韓国では、1~3月の出生率がもっとも高く、それから低くなるのが一般的ですが、それでもついに0.6人台になったのかと、国内外の専門家たちが言葉を失いました。ちなみに、赤ちゃんをできる限り1月に産もうとしているのは、少しでも早く生んだほうが、小学校でよい成績を得る可能性が高くなるためです。
■「お金がないから」だけが原因ではない
また、この少子化に関しては、進行スピードも速すぎます。出生率が0人台になったのが2018年からです。2017年に1.05人、2018年に0.98人、2019年0.92人、2020年0.84人、2021年0.81人、2022年0.78人、2023年0.72人。2023年の出生児は23万人で、前年に比べて8%も減少しました。
少子化関連のどの記事を読んでみても、「さらなる対策が必要だ」としているものの、詳しくどこをどうすればいいのかについての言及はなにもありません。経済的なことや住居費の問題など、いつもの話だけが繰り返されています。もちろん、そうした点がもっとも大きな要因だとは思いますが、本当に「お金がないから」だけでここまで出生率が下がるのでしょうか。そこは疑問です。
他にも男女嫌悪、簡単に言うと男が女を、女が男を必要以上に敵視し合うという話も出ていますが、出生率と男女嫌悪の関係性については、前著『韓国の絶望 日本の希望』(扶桑社新書)で海外専門家の見解などを交えながら結構長く書いておりますので、興味をお持ちの方はそちらをお勧めいたします。
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著作家
1970年代、韓国生まれ、韓国育ち。歯科医院を休業し、2017年春より日本へ移住。アメリカの行政学者アレイン・アイルランドが1926年に発表した「The New Korea」に書かれた、韓国が声高に叫ぶ「人類史上最悪の植民地支配」とはおよそかけ離れた日韓併合の真実を世に知らしめるために始めた、韓国の反日思想への皮肉を綴った日記「シンシアリーのブログ」は1日10万PVを超え、日本人に愛読されている。著書に『韓国人による恥韓論』、『なぜ日本の「ご飯」は美味しいのか』、『人を楽にしてくれる国・日本』(以上、扶桑社新書)、『朴槿恵と亡国の民』、『今、韓国で起こっていること』(以上、扶桑社)など。
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(著作家 シンシアリー)
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