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これから「人件費の安い日本」に工場は戻ってくる…ものづくりには「国民性が影響する」という製造のリアル

プレジデントオンライン / 2024年5月24日 10時15分

「インドのiPhone」は品質に疑問(※写真はイメージです) - 写真=iStock.com/DKart

iPhoneの製造場所が中国からインドに移転するなど、サプライチェーンの世界的な再編が起きつつある。エコノミストのエミン・ユルマズさんとフリーアナウンサーの大橋ひろこさんの書籍『無敵の日本経済! 株とゴールドの「先読み」投資術』(ビジネス社)より、一部をお届けする――。

■サプライチェーンが日本に戻ってきている理由

【エミン・ユルマズ(以下、エミン)】中国の変化により、結果的には西側諸国は中国と距離を置いていくことになり、ものづくりのサプライチェーンが日本をはじめとした先進諸国に戻ってきています。

もう一つは、ウクライナ戦争による影響で、先進諸国に重要な動きが見られることです。

経済制裁されたロシアがその報復として、ドイツをはじめとした先進諸国に天然ガスを売らなくなりました。結果的にドイツは何とかして乗り越えたけれども、ガス価格が上がり、インフレに見舞われています。

そんな現実を踏まえて、先進諸国は完全に方針を“転換”したのです。エネルギーの調達を権威主義国家に依存しないようにしようと。

【大橋ひろこ(以下、大橋)】自分たちの影響力圏内で何とかできるようにしようと。

【エミン】そうです。資源供給を含めて、従来とは異なる自由主義陣営内でのサプライチェーンをつくるべきだと、考えを改めたのです。

【大橋】サプライチェーンを再構築する動きですね。

■「インドのiPhone」は品質に疑問

【エミン】要は、グローバル化から“ブロック化”に移行するということなのです。でも、それは結果的に“コスト増”を招きます。

【大橋】それはそうですよね。全般的にコストの高い、自由主義陣営内でサプライチェーンを築くわけですから。

【エミン】これに対して、少しでもコストを抑えようとして、多くの人は「コストが安い国に、先進国用の供給メーカーを連れて行けばいい」と主張するわけです。中国の代わりに、例えばベトナムとかマレーシアとか、あるいはインドネシアとか。

しかしながら、ハイテクな部品のなかでも、最上位にある部品の製造については、申し訳ないけれど、そのような国に技術的な蓄積があるとは思えない。製造を任せられるほど、信用することはできないでしょう。

【大橋】インドでiPhoneをつくり始めていますが、専門家の話では、品質が芳しくないらしい。製造した工場によって品質にバラつきが見られると聞いています。

■メイド・イン・ジャパンはクオリティが高い

【エミン】そうでしょうね。私は自動車のスズキのファンなんですが、たまに日本で販売しているインド製のスズキ車(逆輸入車)については、基本的には買わないですね。

【大橋】まだ求めている水準には達していないということなんでしょうか。

【エミン】どのみち、メイド・イン・ジャパンはクオリティが高いので、その水準に達するのは難しい。でも、モノによっては、特に細かさや特殊技術が求められない部分については、サプライチェーンの一角を担ってもらうこともあると思います。

日本の国旗
写真=iStock.com/baona
メイド・イン・ジャパンはクオリティが高い(※写真はイメージです) - 写真=iStock.com/baona

■ものづくりには国民性が影響する

【エミン】このようなものづくりの得手不得手については、おそらく“国民性”が影響しているでしょう。

これは差別ではなく、紛れもない現実なんです。

やはり東アジアのメーカー従事者は、日本人を筆頭に中国人、韓国人、台湾人たちは緻密な作業に長けています。気候のメリットもあるかもしれませんが、限られたスペースのなかで、器用にかつ規律正しく働きます。

緯度が少し違うとはいえ、ほぼ同じような状況で、なぜ他の国が真似できないかというと、ここはやはり国民性とか文化、あるいは国の構造などさまざまな要素が関わってきます。

【大橋】それらの影響は、かなりありそうですね。

【エミン】歴史を振り返ってみれば、思い当たることがあります。すべての新興国が日本とか韓国とか中国のように高度経済成長できたかといえば、そうではなかったわけです。

できなかった例は山ほどあるのです。

■中国が「中所得国の罠」を抜け出せるかは疑問

【エミン】例えば、私の母国のトルコも行き詰まってしまった。国民1人当たりの名目GDPが1万ドルから伸びなくなりました。いわゆる「中所得国の罠」に陥ったのです。

マレーシアも同様で、一定レベルまでいって、そのあとはスタックしている。たぶんインドも中所得国まではいくけれど、その後はどうでしょうか。

中国も現在「中所得国」ですが、技術的にかなり良いところまで伸びたことから、10%以上の高度経済成長を20年近く続けることができました。ただ今後、「中所得国の罠」から抜け出せるかは疑問ですが。

■ユニクロ製品の品質が上がった理由

【大橋】ユニクロの製品を見ると、如実にわかりますよ。1990年代初頭、生産開始当初の中国製はあまり品質が良くなかったですね。2000年以降は日本製と遜色なくなりましたから。

それがいまの中国では人件費が高くなりすぎたので、バングラデシュやネパールあたりに生産拠点を移している。そうすると、やっぱり中国並みといかないです。

衣料品工場に並ぶ刺繍機
写真=iStock.com/andresr
生産開始当初の中国製はあまり品質が良くなかった(※写真はイメージです) - 写真=iStock.com/andresr

【エミン】アパレルの縫製業ですら、現実は厳しいわけですよ。例えば最先端の半導体生産工場を任せられる場所、国は本当に限られている。ポンと工場を出せば稼働するわけではないからです。その工場の周りにサプライチェーンがそろっていて、水源や運輸関係の優れたインフラが整っていなければならない。

■人件費の安い日本に舞い戻っている

【大橋】あとは人件費でしょうか。ひと昔前までは日本は人件費が高いから、工場を海外に持って行ったのに、それが今度は日本の人件費が安いことから、舞い戻って来る。この20年でこうも変わるか、という印象です。

たしかに相当な円安が日本回帰を促しているところ、大なのですが。

【エミン】あとは国家安全保障の問題です。核となる技術については、どこにも任せることはできない。下手な国に生産部門を置くと、技術が盗まれてしまう危険を伴うからです。

そしてしばらくするとわれわれは、おそらく、そんなに自由に動けない世界に生きることになるでしょう。

■いずれ中国に行けなくなる

【大橋】どういうことですか? 自由に動けないって。

【エミン】いまはまだ、われわれは世界中をほとんど自由に動けるけれど、ロシアには行けなくなってしまった。

【大橋】たしかにそうですね。

【エミン】つまり、いまはひと昔前のソ連時代と一緒になってしまった。かつてはソ連に行く際に、いろいろな制限があったでしょう。そのうち、たぶん中国に行くにはさまざまな制限が掛けられるようになります。

無人の空港ターミナル待合室
写真=iStock.com/KEHAN CHEN
いずれ中国に行けなくなる(※写真はイメージです) - 写真=iStock.com/KEHAN CHEN

【大橋】そういえば、アステラス製薬や野村證券の現地法人の社員が、中国当局に拘束されたままでしたね。

【エミン】たぶん、そのうちに中国には完璧に行けなくなるんでしょう。中国に用のない一般人ツーリストなどは……。そしてこれからは、かつての「竹のカーテン」が復活するのでしょう。

だから、そういう意味では、これからの中国はきわめて危険な国なんです。そのうち、中国人も日本に来られなくなるでしょうね。今度は日本が、入国条件を厳しくすることが考えられるし、かつ、中国は自国民を外に出さなくなる可能性が高い。

■中国はお金を流出させたくない

【大橋】まだ日本への団体旅行などは禁じられてはいませんよね。

エミン・ユルマズ、大橋ひろこ『無敵の日本経済! 株とゴールドの「先読み」投資術』(ビジネス社)
エミン・ユルマズ、大橋ひろこ『無敵の日本経済! 株とゴールドの「先読み」投資術』(ビジネス社)

【エミン】いまのところまだ許しているけれど、たぶんこの先の流れを予測すると、中国政府は自国民を外国へは行かせない手を打つはずです。

まず、自国のお金を“流出”させてほしくないから。もう一つは、鎖国を厳しくすればするほど、自国と他国の差異がより“クリア”になってくるからです。ですから政府としては、自国民にいかに自分たちが押さえ付けられているかを認知させたくはない。

したがって、共産圏国家においては基本的に、海外への人の移動が“妨げられる”ようになるのです。

まだ実現は少し先になりますが、必ずそんな未来が来ると思います。

■再び「ベルリンの壁」ができる時代がやってくる

【エミン】第二次世界大戦が終わったのは1945年でした。そしてベルリンの壁ができたのは1960年です。

【大橋】ここで15年もかかっていたのですね。

【エミン】15年後にベルリンの壁ができるまでは、東ベルリンと西ベルリンとの行き来ができていました。それが一気に変わった。今回も同様に時間をかけて、本当の意味の“壁”が出来上がるのでしょう。

新しい呼び名が何なのかはわかりません。万里の長城カーテンなのか、氷のカーテンなのかは知らないけれど、おそらくそれにふさわしい名前が付けられるのでしょう。

そうなった時点から、われわれ自由主義・資本主義陣営の国々と、中国、ロシアなどを中心とした権威主義陣営との間はシャットダウンされることになります。

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エミン・ユルマズ(えみん・ゆるまず)
エコノミスト
トルコ・イスタンブール出身。2004年に東京大学工学部を卒業。2006年に同大学新領域創成科学研究科修士課程を修了し、生命科学修士を取得。2006年野村證券に入社。2016年に複眼経済塾の取締役・塾頭に就任。著書に『夢をお金で諦めたくないと思ったら 一生使える投資脳のつくり方』(扶桑社)、『世界インフレ時代の経済指標』(かんき出版)、『大インフレ時代! 日本株が強い』(ビジネス社)、『エブリシング・バブルの崩壊』(集英社)『米中新冷戦のはざまで日本経済は必ず浮上する 令和時代に日経平均は30万円になる!』(かや書房)などがある。

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大橋 ひろこ(おおはし・ひろこ)
フリーアナウンサー、ナレーター、個人投資家
福島県出身。アナウンサーとして経済番組を担当したことをきっかけに自身も投資を始め、現在では個別株、インデックス投資、投資信託、FX、コモディティと幅広く投資している。個人投資家目線のインタビューに定評があり、経済講演会ではモデレーターとして活躍する。自身のトレードの記録はブログで赤裸々に公表しておりSNSでの情報発信も人気。一時期は海外映画やドラマの吹き替えなど声優としても活動していたが、現在は経済番組に専念。現在ラジオや自身が運営する「なるほど!投資ゼミナール」チャンネルで経済番組のレギュラーを多数抱え、キャスターとしても多忙な日々を送っている。

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(エコノミスト エミン・ユルマズ、フリーアナウンサー、ナレーター、個人投資家 大橋 ひろこ)

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