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インドとベトナム、これから投資するならどっち?…エミン・ユルマズ氏が「明確に答えがある」という理由

プレジデントオンライン / 2024年5月30日 10時15分

資源を持つ新興国に注目(※写真はイメージです) - 写真=iStock.com/sirichai_asawalapsakul

インドとベトナム、これから投資をするならどちらが有望なのか。エコノミストのエミン・ユルマズさんとフリーアナウンサーの大橋ひろこさんの共著『無敵の日本経済! 株とゴールドの「先読み」投資術』(ビジネス社)より、一部をお届けする――。

■資源を持つ新興国に注目

【エミン・ユルマズ(以下、エミン)】大橋さんはかねがね「新興国のインデックス投信商品」に投資しているとお話しされていますね。

【大橋ひろこ(以下、大橋)】ここ数年は先進国、とりわけ米国企業の株を中心とした投信のほうが、パフォーマンスが良かったのですが、それでも、新興国のインデックス投信も結果はすべてプラスです。

そしてこれから先も新興国に注目しています。グローバルサウスという枠組みが注目されていますが、それらの国では資源を持っている点が大きいと認識しています。

【エミン】それと、新冷戦で恩恵を受けそうな国にも注目です。2023年にも引き続きインド株が上がりました。あとはベトナムです。ベトナム経済はここ1、2年調子が悪い。けれども、長期的に見れば良くなると思うので、逆に株価が下落している現在、ベトナム企業の株は買いやすくなっています。

■バイデンのベトナム訪問で大変化

【大橋】エミンさんが抱くベトナム像はどんなものですか? また、国際情勢のなかにおける立ち位置をどう捉えていますか?

【エミン】ベトナムは現在も共産主義国家です。そして、自由市場的な経済運営をしながらも、共産党の一党独裁を続けているという意味では、ひと昔前の中国のような感じだと思います。

そのベトナムに2023年9月、米国のバイデン大統領が訪問しました。そのときのハイライトは何と言っても、米越二国関係が格上げされたことでした。

具体的には従来の「包括的パートナーシップ」から「包括的戦略パートナーシップ」という最上位の外交関係になったのです。

米国にこうした優遇を与えられると、欧米各国や日本など先進国から資本が集まりやすくなるので、当然、ベトナム側も大歓迎です。

■ベトナムを対中包囲網の一つの軸に位置付けたい

【大橋】バイデン大統領が出向いてそこまでしたのには、どういった思惑があったのでしょうか?

【エミン】もちろん、対中戦略強化のためにです。ベトナムと中国には長い歴史的な対立があります。いまでも緊張した関係にあるのです。

この半世紀を見ても、ベトナム戦争が終了して間もない1979年に、中国はベトナムに侵攻しています。鄧小平の時代ですね。

人民解放軍は1カ月でベトナム領から撤退して中国が敗北した形になりました。それでもしばらくは国境紛争が続き、中越の国交正常化は1990年になってからでした。

その後両国は経済関係が発展し、中国はベトナムの最大貿易相手国になりました。しかしながら一方で、南シナ海の南沙諸島の領有権問題では、現在でも激しく対立しています。

米国としてはベトナムを日本やインドと同じく対中包囲網の一つの軸として位置付け、大いに経済的支援を行おうと、目論んでいるのです。そこで、かつてのベトナム戦争のしこりを取り払うために、バイデン大統領が訪越し、「包括的戦略パートナーシップ」を手土産にしたのです。

バイデン氏とベトナムのグエン・フー・チョン共産党書記長、2023年9月10日
写真=EPA/時事通信フォト
ベトナムを対中包囲網の一つの軸に位置付けたい(バイデン氏とベトナムのグエン・フー・チョン共産党書記長、2023年9月10日) - 写真=EPA/時事通信フォト

■半導体サプライチェーンの拠点に

【大橋】関係強化の影響は、どのように表れていますか?

【エミン】米国はベトナムと半導体産業で連携を強化し、中国に替わるサプライチェーンの構築を目指しています。

すでに、米国のアムコアテクノロジーがベトナム北部バクニン省に建設した半導体パッケージングに特化した工場が稼働中です。さらにはチップデザインソフトウェア大手のシノプシスが、半導体設計拠点と人材育成拠点をオープンすると発表しました。こうした背景もあって、今後のベトナムは新興国のなかでも突出して期待できそうです。

■共産主義国ゆえのリスクもある

【エミン】でも、さすがに日本ほどのハイレベルなインフラは望めない。例えば、TSMCが6ナノの最先端半導体をベトナムでつくれるかといえば、それは無理です。

もう一つは、そこまでの最先端の部品の製造を共産主義の国には任せない、と考えられるのです。

また、ベトナム株投資についてもベトナムはMSCIのカテゴリーでまだフロンティア市場であり、エマージング市場でもありません。来年エマージング市場に昇格される可能性があります。

その前に投資するという手もありますが、ちょっとリスクは高いです。エマージング市場に昇格されてからでも遅くはないと思います。

■インドとは距離を置いてつき合うほうがいい

【大橋】次にインドについての評価を聞かせてください。

【エミン】少し懸念を抱いているのは、政治の側面ですね。最近、モディ首相はヒンドゥー・ナショナリズムにかなり傾斜している気がします。

あるいは、今回のウクライナ戦争への対応においても、インドは必ずしも欧米側に付いているとは限らない動きを見せています。

インドとはある程度距離を置いて、気を付けてつき合ったほうがよさそうです。

インドの地図
写真=iStock.com/KeithBinns
インドとは距離を置いてつき合うほうがいい(※写真はイメージです) - 写真=iStock.com/KeithBinns

さらに一般論として、新興国については、政治的にいつ何が起きるかわからないというリスクが高いものです。そうなると特に個別株に影響が生じる可能性があるので、インデックスの投信商品のほうが安全でしょう。

■グローバルサウスの枠組みが固まっていない

【大橋】インドはよくグローバルサウスの盟主と言われます。ところが、このグローバルサウスという枠組みは、カテゴライズする人によって全然違っていて、国のラインナップがまだ固まっていません。

これぞグローバルサウスという枠組みがハッキリしていないため投信商品は、まだまだ少ないのが現状ですが、2023年10月、SBIアセットマネジメントが「EXE-i」というシリーズで、グローバルサウスのファンドを組成、運用を開始しました。これを機に今後同様の商品がたくさん出てくるかもしれませんね。

なお、BRICSの企業の株を扱った投信商品もあります。ただ、現在はBRICSには中国、ロシアが軸となっていますのでリスクが高いかもしれません。

【エミン】そういえば、どちらにもインドは入っていますね。

【大橋】インドは調子がいいんです。BRICSは、いざ何かあると米国に制裁される不自由さから脱しようとしている。「米国が決めたルールなど聞いていられない」と考える国の集まりというようなイメージになってしまいました。

■BRICSは「反米的な集まり」のイメージがついてしまった

【エミン】「反米的な集まり」というレッテルが張られていますね。

米国とBRICS諸国
写真=iStock.com/chaofann
BRICSは「反米的な集まり」のイメージがついてしまった(※写真はイメージです) - 写真=iStock.com/chaofann

【大橋】かつてのBRICSは単純に、「有望な経済成長国の集まり」というイメージがあったことから、きわめて前向きな投資対象でした。

ところが最近は、BRICSの首脳が集まって、「反西側先進国」のメッセージを発信することが増えました。彼らが仮に何か出すぎた事件を引き起こしたときに、米国がペナルティを科すようなケースは、十分に考えられると思います。

そうであれば、投資先としてBRICSよりはグローバルサウスに向くほうが正解ではないでしょうか。

グローバルサウスには多くの国が入っています。基本的に、これから人口が増え、GDPが飛躍的に伸びると予想される国々の集まりです。

■インドは技術立国になれない

【エミン】インドはIT系、システム系のサービス業で経済を伸ばしてきて、今後もそうした分野は順調に成長していくと思います。

何よりも同じ14億人でも、まもなく高齢化社会を迎える中国とは異なり、若い人口が多いのが最大の魅力です。2050年になっても平均年齢は38歳というデータも出ています。

ベトナムとインド2つの旗
写真=iStock.com/Oleksii Liskonih
インドとベトナム、これから投資するならどっち?(※写真はイメージです) - 写真=iStock.com/Oleksii Liskonih

いまのインドに不足しているのは道路、鉄道、水道などのインフラでしょう。とりわけ上下水道、生活用水の整備を進展させなければいけません。これまで不足していたものを、急いでつくっていく必要がある。そうなると、インフラ開発ニーズがふんだんに多い国として、経済はますます伸びていくのです。

けれども、インドが日本や中国、台湾、韓国のような製造業中心の“技術立国”になるのかといえば、私は、そうはならないと考えています。文化的に難しいところがあるからです。

■衛生度を底上げしなければ海外メーカーは進出できない

【大橋】知り合いのインドの方は、インドが本当に必要としているのは、雇用を生んでくれる海外メーカーの進出だと言っていたのを思い出しました。

【エミン】来てもらいたいのでしょうが、残念ながら、工場を進出させるにはインフラが整っていないと難しい。ハイジーン(衛生度)全体を底上げしなければ、世界の名だたる製造業はインドにはなかなか出てこないでしょう。

まず何より、水インフラはきわめて重要です。ただ、さすがの凄腕のモディ首相も水インフラの整備には“苦戦”しています。

さらに海外から専門家が、エキスパートがインドに赴任して来ないようではまずいでしょう。残念ながら、インドに関しては、そのような問題が横たわっています。

■まず人口増を止めなければならない

【エミン】また、人口増をなんとか止めないといけません。雇用が伸びないのが要因と思われますが、このままでは地方の治安がどんどん悪くなります。宗教問題で対立が起きているのも、人口が多すぎて職につけない人が増加し、国民に不満のマグマが溜まっているからです。

インドの憲法では、カースト制度を理由にした差別を禁じているのですが、実際にはカースト制度は社会に根付いている。こうした要素も将来的にインド自体の足を引っ張る可能性があるかもしれません。

■インドはゴールドのナンバーワン消費国

【大橋】近年は中国の台頭で首位が入れ替わりましたが、インドはかつてゴールドのナンバーワンの消費国でした。

エミン・ユルマズ、大橋ひろこ『無敵の日本経済! 株とゴールドの「先読み」投資術』(ビジネス社)
エミン・ユルマズ、大橋ひろこ『無敵の日本経済! 株とゴールドの「先読み」投資術』(ビジネス社)

インドは古くから国民が伝統的にゴールドを買う習慣があります。ディワリと呼ばれる新年を祝う光の祭り(収穫祭でもある)や婚礼シーズンにはゴールドの需要が飛躍的に高まります。インドでは花嫁が嫁ぐ際にゴールドを持参するという伝統的習慣により、娘が3人いると一家が傾くとさえ言われています。

冗談ではなく、インドの貿易赤字の背景にはインド国民のゴールド需要が強く、ゴールドの輸入が大きいことが影響しています。

【エミン】なるほど、海外からもどんどんゴールドを買っているのですね。

【大橋】個人が海外からゴールドを買いすぎて赤字になることから、インドはゴールド輸入関税を引き上げるなどしていますが、インドの貿易赤字は拡大する一方です。インドの貿易収支には独特なものが見られるのですが、貿易収支の赤字はインドのウィークポイントですね。

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エミン・ユルマズ(えみん・ゆるまず)
エコノミスト
トルコ・イスタンブール出身。2004年に東京大学工学部を卒業。2006年に同大学新領域創成科学研究科修士課程を修了し、生命科学修士を取得。2006年野村證券に入社。2016年に複眼経済塾の取締役・塾頭に就任。著書に『夢をお金で諦めたくないと思ったら 一生使える投資脳のつくり方』(扶桑社)、『世界インフレ時代の経済指標』(かんき出版)、『大インフレ時代! 日本株が強い』(ビジネス社)、『エブリシング・バブルの崩壊』(集英社)『米中新冷戦のはざまで日本経済は必ず浮上する 令和時代に日経平均は30万円になる!』(かや書房)などがある。

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大橋 ひろこ(おおはし・ひろこ)
フリーアナウンサー、ナレーター、個人投資家
福島県出身。アナウンサーとして経済番組を担当したことをきっかけに自身も投資を始め、現在では個別株、インデックス投資、投資信託、FX、コモディティと幅広く投資している。個人投資家目線のインタビューに定評があり、経済講演会ではモデレーターとして活躍する。自身のトレードの記録はブログで赤裸々に公表しておりSNSでの情報発信も人気。一時期は海外映画やドラマの吹き替えなど声優としても活動していたが、現在は経済番組に専念。現在ラジオや自身が運営する「なるほど!投資ゼミナール」チャンネルで経済番組のレギュラーを多数抱え、キャスターとしても多忙な日々を送っている。

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(エコノミスト エミン・ユルマズ、フリーアナウンサー、ナレーター、個人投資家 大橋 ひろこ)

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