自宅は異臭がするゴミ屋敷…「掃除しないくらいでは離婚はムリ」と言っていた調停委員を変えた決め手の写真
プレジデントオンライン / 2024年5月28日 8時15分
■現実は想像を超えていた
会社員のAさん(40歳)は、結婚して8年になる専業主婦の妻と、7歳の長女と3人で、マンションに暮らしていました。
Aさんには長年の悩みがありました。妻が掃除や片付けを全くしないことです。
結婚前、妻は「家事が苦手だ」と言っていましたが、Aさんは家事全般が好きな方なので、休みの日に気晴らしがてら手伝えばいいと思って結婚しました。
しかし、現実は想像を超えていました。妻は料理も洗濯も掃除も全くしないのです。
惣菜を買ってきてパックのまま食卓に並べるのは良いとしても、使い終えたパックはごみ箱に捨てず、テーブルの上に出しっぱなしにします。テーブルの上に置き場がなくなったらキッチンに置き、そこもいっぱいになったらソファの上に……と、際限なくごみが増えていくのです。
リビングの床には使い終わったティッシュが散乱し、子どもが飲んだジュースのパック、飲みかけのペットボトル、いつ読んだかわからない雑誌、チラシなどが落ちていて、足の踏み場もないほどです。
洗濯もしないので、洗濯機の上や洗濯かごに、脱いだ服や下着が山積みになっており、Aさんが洗濯するまでそのままになっています。妻は、着られる服がなくなったら、脱ぎ捨てた服からまだ着られそうな服を引っ張り出して着ています。
■片付けると怒る妻
Aさんは子どものためにも帰宅後や土日に、できる限り家事をしていましたが、妻はそれに対して怒るのです。食べたあとの惣菜パックを捨てようとしたら「まだ使えるかもしれないのに」と怒り、数日放置されているジュースのパックも「まだ飲んでいる途中だ」と言います。
それを無視してAさんが片づけて出かけても、帰宅すると元の通り散らかっています。
片づけについてもそんな調子なので、満足に掃除をすることができず、家はいつもほこりが舞っていました。リビングや台所には悪臭が漂っていて、虫が湧くこともあります。トイレもめったに流さないので、その臭いも強烈でした。
妻は風呂に入るのも嫌いで、長女もほとんど風呂に入れていません。夫が長女を風呂に入れようとすると、「風呂に入れると免疫が下がって体が弱くなる」と妻に怒鳴られることもありました。
■周りに相談しても理解されない
もともときれい好きだったAさんですが、妻と結婚してから、咳が止まらなくなりました。「自分1人で掃除をするのも限界だから、少しだけでもやってほしい。せめてごみはごみ箱に捨ててほしい」と何度も頼みましたが、「私はちゃんとやっている」と取り合ってもらえません。
ネットで、「片付けられない病気」についての記事を読み、妻に精神科での治療を勧めたこともありましたが、その時も「私を病気扱いするのか」とひどく怒鳴られました。
学生時代の友人や会社の同僚にもたびたび相談しましたが、「自分で掃除すればいいじゃないか」「うちの妻も家事は苦手だよ」と笑われるだけなので、自分が我慢するしかないと思っていました。
■風呂に入らず、片付けができない娘
そんなある日、長女の担任からAさんのところに、面談をしたいという連絡がありました。
学校に行くと、「長女が同級生からいじめのようなことをされている」と告げられました。
そして担任は、「非常に申し上げにくいのですが……」と言葉を濁しながら、「周りの子どもたちが娘さんのことを『臭い』と言っているのです。失礼ですが、お風呂にちゃんと入れているんでしょうか」と話しました。
「(長女のことを)『臭い』と言う子どもたちに対して注意はしているが、家庭でも気を付けてあげてほしい。お母さんには何度か伝えているが、あまり関心がなさそうなのでお父さんにも来てもらいました」と言うのです。
話が終わると担任は、教室の長女の机の中を見せてくれました。プリントがぎっしり入っていて、牛乳のパックや文房具が詰め込まれています。
Aさんは、長女のためにもこのままではいけないと思うようになりました。
■「掃除をしないぐらいじゃ離婚できません」
妻に対してはできる限りの改善を試みてきましたが、Aさん自身の心も体も限界を迎えていました。そこでもう離婚しかないと考えて、弁護士に相談に行きました。
ところが、どこの弁護士も「掃除をしないぐらいじゃ離婚できませんよ」と言います。「あなたが片付ければいいじゃないですか」「娘さんが大きくなったら手伝ってくれるんじゃないですか」と笑った弁護士もいて、Aさんは「自分が悪いのか」とますます悩むようになってしまいました。
そうして数軒目の法律相談で、Aさんは私の事務所にいらっしゃいました。
Aさんは事情を説明した後、「どこに相談しても離婚はできないと言われたので、写真を撮ってみました」と言いました。
家の写真を見て、私は驚きました。いわゆる「ごみ屋敷」そのものだったのです。
■驚愕の「ごみ屋敷」写真
床には足の踏み場がないほどごみが散乱しています。ペットボトル、惣菜のパック、紙くずやビニール袋、紙袋、脱いだ服……。壁の本棚や引き出しからも物が溢れて、雪崩のようになっています。窓のカーテンは半分ほどレールから外れていて、なぜか窓ガラスには段ボールが貼られています。
ごみに埋もれながらも、かろうじて顔を出しているソファには、妻が寝そべってスマホを見ている姿が写っていました。
Aさんは、自分が家事をすることは受け入れられても、それを超えて妻がむやみに散らかすこと、ごみを捨てようとすると怒ること、そして何よりも子どもがいじめを受けていることがつらいそうです。
Aさんが出勤前にごみ出しをすると、なぜか妻がごみ捨て場からごみを持って帰ってきて、中身をまたリビングに出してしまうこともよくあったそうです。
もちろん、掃除をしないだけでは法律上の離婚理由にはなりません。しかし、家がこれだけの惨状になっていて、何年も悩んできたのに、今後も我慢し続けなければならないというのはおかしいと感じました。
そこで、Aさんから依頼を受けることになりました。
妻に離婚を切り出しても拒否されたので、すぐに離婚調停を申し立てました。
妻は弁護士に依頼せず自分で調停にやってきて、「掃除を強制されて困っているが、子どものためにもやり直したい」といった弁明をしました。
調停委員も最初は「掃除をしない程度で離婚というのは……」と渋っていましたが、こちらが家の写真を証拠として提出すると、その態度が一変しました。家中がごみに埋もれているのを見ると、さすがにこれは正常ではないというのを感じたようです。
■いくら言っても行動が変わらない妻
妻は相変わらず「やり直したい」「改善する」とは言っているものの、次の調停期日までに行動を改める様子もなく、こちらはその都度、現在の部屋の写真を証拠として提出しました。調停のたびにやり直したいと言いながら片づけをしないので、調停委員が「改善できないのではないですか」と言うと、妻は答えに詰まったそうです。
調停は1カ月から2カ月おきに行われますが、妻は毎回大幅に遅刻をしてきて、調停委員から求められた資料も全く提出しません。何より本人が不潔で、調停室に入ってくると異臭がしました。
調停が進むと、妻はようやく弁護士に依頼しました。弁護士は妻の「やり直したい」という気持ちに寄り添いつつも、妻の意思だけでは生活態度の改善が難しいことも理解し、片づけ業者の依頼や、通院の提案もしたようです。すると妻は、「そんな努力をするくらいなら離婚する」という考えに転じ、実家に帰ると言い出しました。
こうして、Aさん夫妻の離婚が成立しました。妻は最後まで親権について争いましたが、学校でいじめを受けていることも決め手になり、長女の親権はAさんが得ることになりました。二人暮らしをする中で、長女は少しずつ整理整頓ができるようになっていきました。
■苦労をなかなか理解してもらえない
この事例のように、片付けられない人と離婚したいというケースは数こそ多くありませんが、どの案件も忘れられないほど強く印象に残っています。
多くは、結婚する前は実家暮らしで部屋の様子がわからなかったり、部屋に行ったことがあってもそこまで汚くはなかったりして、片付けられない人とは知らずに結婚しています。
難しいのは、「配偶者が片付けられない人だ」と周囲に相談しても、苦労をなかなか理解してもらえない点です。
インターネット上にも似た相談は多数ありますが、「あなたが掃除をすればいい」と、相談した人自身が責められるだけで終わってしまい、弁護士に相談に行っても同じようなことを言われます。
「ちょっと片付けが苦手」という程度ではなく、結婚生活が続けられないほど家を汚くしてしまう人は一定数います。家族が粘り強く改善を試みたり、治療を勧めたりしても、本人が拒否してしまうとどうにもなりません。Aさんの妻のように、片付けること、ごみを捨てることを頑なに拒む人もいます。
■婚姻関係の破綻を立証できれば離婚が認められることも
こういった場合であっても、婚姻関係が破綻したことが立証できれば離婚を認められる場合もあります。そのときは、部屋の状態と、何度も注意しても改善がなかった点が立証できる証拠が必要になります。
証拠はとても大事です。単に「配偶者が片付けてくれない」と説明するよりも、写真を見せる方が、状況が伝わりやすくなり、説得力が各段に上がるためです。モラハラなどの場合も、証拠が全くない場合に比べて、度を越した暴言を繰り返している録音がある方が、離婚しやすくなります。
誤解されがちですが、調停においても、裁判と同じように、証拠の提出は可能です。写真は印刷した状態で、音声や録画は文字に起こした状態で提出することになります。そういった証拠があれば、いくら本人が否定しても、反論する証拠がない限り、その事実があったという前提で話が進みます。
■証拠を提示しながらSOSを出す
これは裁判や調停に限らず、周囲にSOSを出す時のポイントでもあります。
モラハラやDVなどでつらい思いをしている場合、言葉で言うだけでは伝わらなくても、写真、音声、録画があると、相手の異常さや危険度がすぐに伝わります。SOSを受ける側も、「ここまで怒鳴っている人は危険だから、すぐに離れた方がいい」といった具体的なアドバイスをすることができます。
深刻な状況の人ほど、「これでは離婚できない」と一人で抱え込んで悩みがちですが、Aさんのように諦めずにSOSを出し続けていると、道が見つかることもあります。
特に子どもがいる場合は学校生活や将来に影響することもあるので、現状を打破するために一歩を踏み出してみましょう。
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弁護士
北海道札幌市出身、中央大学法学部卒。堀井亜生法律事務所代表。第一東京弁護士会所属。離婚問題に特に詳しく、取り扱った離婚事例は2000件超。豊富な経験と事例分析をもとに多くの案件を解決へ導いており、男女問わず全国からの依頼を受けている。また、相続問題、医療問題にも詳しい。「ホンマでっか!?TV」(フジテレビ系)をはじめ、テレビやラジオへの出演も多数。執筆活動も精力的に行っており、著書に『ブラック彼氏』(毎日新聞出版)、『モラハラ夫と食洗機 弁護士が教える15の離婚事例と戦い方』(小学館)など。
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(弁護士 堀井 亜生)
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