「コンビニ飯は不健康」は間違っている…管理栄養士が訴える「料理を手作りするよりも、健康に大事なこと」
プレジデントオンライン / 2024年5月23日 10時15分
※本稿は、塩野﨑淳子『体に良い食べ物・悪い食べ物大誤解!』(すばる舎)の一部を再編集したものです。
■「完璧な食べ物」は存在しない
「これひとつ食べれば完ぺき」という食べ物は存在しません。
栄養豊富と言われる食材も、とりすぎは良くないこともあるし、栄養がないと言われる食材にも役割があります。体に良い・悪いと単純に分けられるものではありません。
大切なのは「いろいろな食べ物を万遍なく、バランスよく食べる」ことです。
人の体にとって必要な栄養素やその働き、必要量を知ることが栄養学の基本です。
栄養素は大きく5つに分類されており、たんぱく質、脂質、炭水化物、ミネラル、ビタミンで「5大栄養素」と呼ばれています。
炭水化物、たんぱく質、脂質はエネルギー源になります。
たんぱく質が分解されたアミノ酸や、脂質が分解された脂肪酸は、エネルギー源になるだけでなく、体を構成し、ホルモンや酵素などの生理活性物質の原料になります。
■ひとつの食品にはいろいろな栄養素が含まれている
ビタミンやミネラルは、体の代謝や生理機能を維持・調節するために必要不可欠です。どの栄養素も健康を維持するために大切です。
たんぱく質なら肉や魚、ビタミンなら野菜といったように、それぞれの栄養素が多く含まれる、代表的な食品があります。
ただ、栄養学の難しいところは、食品を栄養素ごとに単純に分けられないことです。
たとえば、「ご飯」は炭水化物に分類されますが、植物性たんぱく質が含まれています。たんぱく質と言えば「肉」を思い浮かべますが、たとえば牛肉は脂質や鉄も多い食品です。野菜もビタミンが豊富なだけでなく、カリウムや食物繊維なども含まれています。
ひとつの食品にはいろいろな栄養素が含まれています。肉だけ・野菜だけ、さらにはその種類も偏ることなく、さまざまな食品を食べることが大切です。
■「バランスの良い食事」のお手本は「給食」
みなさんがよく知っている「バランスの良い食事」のお手本は「学校給食」や「入院中の病院給食」です。
最近は食糧価格の高騰により、本来学校給食で満たすべき栄養素が不足している学校もあるようですが、特定の食品(たとえば野菜ばかり、肉ばかり)に偏ることなく、毎日いろいろな食材や調理法、味付けがなされています。
ビタミンやミネラルなどの微量栄養素も満たせるよう工夫されています。1日だけではなく1週間単位などで、平均して必要栄養量が足りているかを評価して、献立が立てられています。
■「主食+たんぱく源+野菜」を意識する
しかし、お手本のような食事を毎食続けるのはなかなか難しいものです。
そこで、「主食+たんぱく源+野菜」の方程式を意識してみてください。たとえば、「ご飯+焼き魚+ほうれん草のおひたし」「パン+ソーセージ+ミニトマト」と、3つの要素を揃えるだけで、「バランスの良い食事」に近づきます。
カルシウムや鉄など、意識的にとらないと欠乏しがちな栄養素もありますが、乳製品や卵など「いろいろな栄養が含まれている食品」を上手に活用していただくと、栄養の底上げになります。
ただし、栄養が豊富だからといって、牛乳を毎日1ℓも飲むようなことはやめましょう。牛乳には脂質も豊富に含まれます。飲みすぎれば、脂質異常症のリスクが高まります。やはりバランスが重要です。
■「食べ物の効果」の検証は難しい
テレビや雑誌などで「○○(食べ物)が病気に効く」と話題になり、食品売り場からその食べ物がなくなることがあります。
「食べ物の効果」を検証するためには、同じ条件の被験者を集め、効果に影響を与える、ほかの要因を極力排除して、客観的に検証しなければならず、とても難しいものなのです。
ある乳酸菌飲料の腸内フローラの研究報告によると、条件が同じ対象者を無作為に2群に分け、片方には「有効と考えられる乳酸菌を加えたドリンクA」、もう片方には前者と同じ味の「乳酸菌飲料風ドリンクB」を用意し、それぞれに一定期間飲んでもらって効果を検証したとありました。
■乳酸菌飲料のおかげかどうかわからない
被験者は、自分がどちらを飲んでいるかわからないのです。Aを飲んだ人の腸内フローラがBの人よりも明らかに良い状態に変化しており、有効性が示せたなら、「効果があった」と考えられるでしょう。
しかし仮に、たまたまAを飲んだ人の中にヨーグルトや食物繊維が豊富な根菜類、豆類などを日常的に食べる人が多く含まれていたら、Aグループの結果は乳酸菌飲料のおかげなのか、日常的な食事のおかげなのかわからなくなってしまいます。
したがって、こういった検証を行う場合は、乳酸菌飲料以外の食事も全員同じにするのが理想です。多くの被験者の食事を管理しなければならず、お金も時間もかかる壮大な研究になります。
■甘いものを食べても糖尿病にならない人もいる
また、病気の発症には複数の要因が重なっています。病気によっては、持って生まれた体質も深く影響しているかもしれません。
私の親戚にも、煮物の味付けが濃く、非常に甘くてしょっぱいものをたくさん食べていたのに、まったく糖尿病にはならずに90代まで元気に生きていた方もいます。煙草を吸っていてもがんにならない人もいます。逆に40代でまだ若く、健康に気をつけていても糖尿病やがんになる方もいます。
これが○○病を防ぐということも、反対にこれが○○病を引き起こすということも、はっきりと言うことはできないのです。大事なのはやはり、バランス良く食べることではないでしょうか。
さらに、食習慣だけでなく、運動や睡眠、休息することが、病気を予防するために重要であったりします。食事は健康のために重要ですが、万能ではないのです。
■「手作り」よりも大切なこと
よく「手作りである方が健康的」と言われます。
けれども忙しい毎日、完璧に料理ができる人ばかりではありません。
手作りの日もあれば、出来合いのものに頼る日もあっていいのではないでしょうか。とくに、離乳食や介護食など、より健康を意識した食事作りを担っている方は、「手作りでなければ」というプレッシャーに押しつぶされそうになっているのを見受けます。
手作りかどうかよりも、「何をどれだけ食べるか」が大切です。便利な市販品を利用することに、負い目を感じる必要はありません。
■「顆粒だし」で問題ない
「顆粒だしは使わず、しっかりとだしをとるべき」という意見もあります。
たしかに、だし昆布や鰹節、いりこなどでだし汁をとるのは、おいしいだけでなく減塩にもなるため理想的と言えますが、特別な減塩が必要な方以外は、顆粒だしを活用することはなんら問題ありません。
最近は、減塩顆粒だしや減塩鶏がらスープのもとなどの「減塩うまみ調味料」も豊富に揃う時代になりました。
私が訪問している患者さんに、脳卒中の後遺症により手に麻痺が残ってしまった男性がいます。持病に高血圧もあったため、医師から減塩を指示されていました。
一人暮らしなので、手の込んだ料理をつくることができず、食事はほとんどが出来合いのお惣菜でした。麻痺のため野菜を切るのも大変ですので、カット野菜や水煮野菜、冷凍野菜を活用した「減塩レシピ」を一緒に調理しています。
コツをつかんだ男性は、みるみる料理が上手になっていきました。また、短時間でおいしい減塩料理ができるので、和洋中さまざまな料理にチャレンジされています。今では、手作りホワイトソースもお手のものです。
■「コンビニご飯」でもバランスのいい食事になる
日々の食事で大事なのは、「(手の込んだ)料理をする」ことより「そこそこ栄養バランスの整った食事を用意する」こと。
缶詰やカット野菜、冷凍野菜など加工品も活用して、「主食+たんぱく源+野菜」を揃えることを意識してみてください。
コンビニご飯でも、ポイントを押さえれば、ちゃんとした献立にできます。
たとえば、おにぎり(主食)、唐揚げ(たんぱく源)、和え物やサラダなど。最近は健康意識の高まりから、コンビニやスーパーで並ぶサラダのバリエーションが増えました。サラダの代わりに豚汁やミネストローネスープからも野菜がとれます。
「既製品ばかり食べているから不健康」とは限りません。手作りでも偏った食事をしていれば健康を害します。
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在宅栄養専門管理栄養士
1978年大阪府生まれ。2001年女子栄養大学栄養学部卒。宮城県仙台市在住。長期療養型病院勤務を経て、2010年、訪問看護ステーションのケアマネジャーとして在宅療養者の支援を行う。現在は機能強化型認定栄養ケア・ステーション訪問栄養サポートセンター仙台(医療法人豊生会むらた日帰り外科手術クリニック内)で、在宅栄養専門管理栄養士として活動。一般社団法人日本在宅栄養管理学会理事。「高齢者の栄養管理」の最前線に立ち、日々簡単につくれて栄養をしっかりとれるレシピを提案。正しい栄養知識を広めるべく、積極的に発信している。著書に『70歳からは超シンプル調理で「栄養がとれる」食事に変える!』(若林秀隆監修・すばる舎)がある。
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(在宅栄養専門管理栄養士 塩野﨑 淳子)
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