「カット野菜は栄養が抜けている」は勘違い…管理栄養士が「調理済みの冷凍野菜」でつくるおすすめ料理
プレジデントオンライン / 2024年5月24日 10時15分
※本稿は、塩野﨑淳子『体に良い食べ物・悪い食べ物大誤解!』(すばる舎)の一部を再編集したものです。
■ビタミンCは水の中に溶け出してしまう
「水溶性」「脂溶性」という区別があります。
「脂溶性」とは、「脂(油)に溶けやすい」ということ。たとえばビタミンDは脂溶性ビタミンです。脂溶性ビタミンは、油で揚げたり炒めたりすると、より吸収率が高まります。
一方、ビタミンCは「水溶性ビタミン」で、「水に溶けやすい」栄養です。そのため、切って水にさらしたり茹でたりすると、水の中に溶け出してしまいます。調理によって栄養が減ることがあるのは事実です。
ただ、野菜のカサが減ることで、生で食べるよりもたくさん食べられることもあります。その結果、生で食べるよりも多くの栄養を摂取できるかもしれません。
■「茹でることで抗酸化性が高まった」報告も
ビタミンCに関しては、茹で汁に少量の塩を加えることで、ビタミンCの流出が比較的少なくなったというデータがあります。
さらに、ビタミンC(アスコルビン酸)は抗酸化性がありますが、茹でることで抗酸化性が高まったという報告もあり、加熱調理が必ずしも悪いとは言い切れません(抗酸化性とは、活性酸素が体内で過剰に発生するのを防いだり、活性酸素の働きを抑制する働きのこと)。
とくに、ごぼう、ピーマン、なすでその傾向が強く、加熱により野菜の細胞壁がやわらかくなり、細胞内の活性成分が溶け出しやすくなったためであるとされています。(※)
※ 山口智子「調理過程における野菜類の抗酸化性の評価に関する研究」『日本調理科学会誌 2012年45巻2号』日本調理科学会 p88-95
■「生で食べることが健康的」とは限らない
ほうれん草などの葉物には「シュウ酸」という物質が含まれています。
シュウ酸は水に溶ける性質があるので、茹でこぼすことで減らすことができます。シュウ酸は尿路結石の原因になりやすく、日常的にほうれん草を生でスムージーなどにして飲んでいる方は要注意です。
このように、調理をすることによって「体に入れたくない成分」を取り除くこともできるので、「生で食べることが健康的」とは限らないのです。
■「皮つきのほうが栄養がある」とは言えない
また、野菜や果物は、皮や皮に近い部分の方に栄養があるということはよく言われていますが、皮をむいたものと皮付きのものの栄養量の差は微々たるものです。
「野菜の皮や皮に近い部分の栄養素」がどの栄養素なのかにもよりますが、たとえば、にんじんのビタミンA(レチノール活性当量)の食品成分を見比べてみると、皮付きより皮なしの方がビタミンAが多いのです(それぞれ茹で100g当たり710㎍及び730㎍)。
皮付きの方が、劇的に栄養量が多いのであれば、管理栄養士としてもなるべく皮を付けたまま食べることを推奨しますが、どうもそうではなさそうです。
しっかりと咀嚼しないと皮は消化に悪いですし、加熱してもあまりやわらかくなりません。訪問栄養指導でも、咀嚼力や消化機能が低下している高齢者の食事をつくる際は、トマトやパプリカなどの野菜の皮を取り除くよう指導することがあります。
健康な人が「生ごみを減らせる」とか「食感を楽しみたい」などの理由で皮付きのまま食べるのは結構ですが、「健康のため」に皮付きのまま食べることを、ことさらにおすすめはしません。
■「旬の野菜」は栄養素が豊富
季節の旬の野菜は、ほかの時期に比べて栄養素が豊富です。また、旬の時期には市場にたくさん出回るので、価格も安くなります。
今では、通年出回っている野菜も多く、「旬」がわかりにくくなっていると思いますが、含有される栄養素も旬の時期には、もっとも少ない時期の倍以上含まれているものもあります。
たとえばキャベツは、もっともビタミンC含有量が多いのは2月で、69㎎/100gです。もっとも少ないのは11月で29㎎/100gとなっています。食品成分表を見ると「夏採り」「冬採り」などと分けて記載されているのですが、野菜によってこんなにも差があるのかと驚きます。
トマトも旬は夏ですね。暑い日に冷やしたトマトを皮ごと丸かじりすると、とても甘くておいしいです。
7月に収穫されたトマトのカロテン含有量は528㎍/100gですが、11月のトマトは241㎍/100gです。こちらも倍以上の違いがあるのです。(※)
※ 児玉剛史「栄養素から見た野菜の生産性の季節変動」『農業経営研究 1999年37巻3号』農業経営学会 p1-9
■「ハウス栽培は栄養がない」は過去の話
「旬でないと栄養価が落ちる」というよりは、旬だからこそ栄養価が高いと言えます。農業技術の発達によって、通年にわたり野菜を育てることができるようになったのは素晴らしいことです。
トマトのトップシーズンに比べて栄養価が低いからといって、冬のトマトを控える必要はありません。ただし、「旬の野菜の栄養価が高い」ということは意識して野菜を選んだ方がよさそうです。
また、ハウスものの野菜の場合、雨や風、気温などの天候に左右されることなく、生育環境を管理され、すくすくと育ちます。一定の品質のものを安定的に供給できるメリットがあります。
ハウス栽培も肥料などの改良によって、含有する栄養素の量は露地ものとそれほど大きな差はないとされています。
■ストレスにさらされた野菜は甘くなる
ところで、みなさんは「霜降り白菜」というブランド白菜をご存じですか? 厳冬期に葉の先を紐で縛り、あえて霜にあてて白菜にストレスを与えます。白菜はこれに対抗して、自身が凍らないようにでんぷんを糖に変えます。
このように、露地ものの野菜はさまざまなストレスに対抗するため、糖や抗酸化物質を生成しているものがあります。
「温室育ち」とは、人間にも揶揄として使われる言葉ですが、ストレスにさらされた野菜が甘くなるには理由があるのですね。季節ごとのいろいろな種類の野菜を万遍なく食べることが大切です。
■カット野菜は「栄養が抜けている」の真実
市販の冷凍野菜やカット野菜はそのまま料理に使うことができ、とても便利ですね。しかし、なんとなく「栄養が抜けている」ような気がして、使うことをためらう方も多いのではないでしょうか。
こういった加工野菜の工場では衛生管理が徹底されており、カットしたあとに洗浄、消毒が行われるため、水溶性のビタミンや、カリウムなどのミネラルは一部流出してしまいます。
■自炊でもビタミン流出は避けられない
しかし、自宅で調理する場合でも、じゃがいもを水にさらしたり、茹でたほうれん草を水にとって冷ましたりしますので、生で食べない限り、自炊でも多少の流出は避けられず、野菜カット工場と結果的に同じことではないでしょうか。
生で5分間水にさらした白菜のビタミンC残存率は80%、レタスは100%とのデータがあります。(※)
※ 『調理のためのベーシックデータ第6版』女子栄養大学出版部 p90
「水にさらすと白菜のビタミンCが2割も減った!」ととらえるか、「8割も残っているんだ!」と考えるかは人それぞれですが、自分で野菜をカットするという手間が省けるのなら、私自身は前向きにとらえる後者の立場です。
■消毒液で栄養素は壊れない
また、消毒に使われる次亜塩素酸ナトリウムをごく薄く溶かした消毒液は、栄養素を壊す心配はなく、しっかりと細菌やウイルスを殺菌してくれるので、病院給食の厨房でも使われています。自宅のまな板を使ってカットするよりも、衛生的かもしれません。
野菜を洗い、皮をむき、カットして水にさらすという一連の(面倒な)工程を、工場で済ませてくれているのですから、時間がないときには便利な食材です。
わが家では時間があってもよく使います。とくに冷凍里いも、冷凍ほうれん草、カット野菜などは買い置きしています。
最近は、半調理済みのものも冷凍野菜売り場に並んでいることがあります。おすすめは「揚げなす」です。
レンジで加熱し、薄めた麺つゆに少し漬けておけば、簡単に「揚げなすの煮びたし」が完成です。
ちなみに、脂溶性ビタミン類や不溶性食物繊維は水に溶け出すことはないので、そういった栄養素に関してはしっかり摂取できますね。
ごぼうとにんじんの千切り水煮野菜を使って、さっときんぴらにしたり、筑前煮用のカット野菜にさつまあげなどを入れて麺つゆで煮たり。
水煮野菜はあらかた火が通っているので、加熱時間も短くなるため、ガスや電気を使う量も少なくて済むこともありがたいですね。
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在宅栄養専門管理栄養士
1978年大阪府生まれ。2001年女子栄養大学栄養学部卒。宮城県仙台市在住。長期療養型病院勤務を経て、2010年、訪問看護ステーションのケアマネジャーとして在宅療養者の支援を行う。現在は機能強化型認定栄養ケア・ステーション訪問栄養サポートセンター仙台(医療法人豊生会むらた日帰り外科手術クリニック内)で、在宅栄養専門管理栄養士として活動。一般社団法人日本在宅栄養管理学会理事。「高齢者の栄養管理」の最前線に立ち、日々簡単につくれて栄養をしっかりとれるレシピを提案。正しい栄養知識を広めるべく、積極的に発信している。著書に『70歳からは超シンプル調理で「栄養がとれる」食事に変える!』(若林秀隆監修・すばる舎)がある。
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(在宅栄養専門管理栄養士 塩野﨑 淳子)
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