歌舞伎町の風俗店で働いていた女性が医学部合格…看護専門学校中退し、20代後半でまさかの医師目指した動機
プレジデントオンライン / 2024年5月17日 10時15分
■医学部受験界では3浪は「普通」
医学部は、偏差値30台でも受け入れてくれる一般的な大学とは違い、偏差値60~70台後半の大学しかない厳しい世界だ。都内の中高一貫校から現役で医学部合格をゲットする者もいるが、多くは浪人の苦労を味わうことになる。
医学部専門予備校が集中する東京・市ヶ谷。今春、この地に開校した「医学部専門予備校D組」(以下、D組)は他校で夢を叶えられなかった受験生にとって駆け込み寺のような存在だ。校舎長の七沢英文さんは現在の医学部受験をこう話す。
「医学部以外の学部の大学受験の場合、近年は、推薦やAO入試などによって現役合格するケースがかなり増えましたが、医学部受験は実力勝負。そのため2浪、3浪も珍しくありません。むしろ3浪は“普通”で、4浪からが“多浪”と言われているほどです。
もちろん、1~3浪はともかく、多浪する人には多浪するだけの理由があります。『勉強の仕方が極めて非効率』『自分に甘く、意思が弱くてサボってしまう』などです。他にも、『勉強は難しいし予習復習も面倒くさい』と目の前の現実から逃げて、そんな自分に嫌気がさして『自分はやっぱりダメ人間だ。医学部には向かない』と落ち込む浪人生も。
ただ、多浪生は伸びないとよく言われるが、全くそんなことはない。国公立でも私立でも医学部は難関です。わずか数点の差で合・不合が分かれます。合格できないのは、当たり前のことですが、その数点を埋めるために必要な学習量が足りなかったからか、効果的な学習法を知らなかったから。そのどちらかです」(七沢さん、以下同)
実際、七沢さんが過去に指導してきた生徒で、入塾時は偏差値が最低ラインだったが、偏差値60台の医学部合格を勝ち取ってきた人は少なくない。
最近増えているという社会人での医学部受験生の中から、2つの事例を紹介しよう。
■歌舞伎町の風俗店で働いていた20代後半女性が医学部合格
一人目は、4年間の受験勉強の末、34歳で医学部に合格したコウジさん(仮名)。父親は内科系クリニックの院長で、母親は事務としてクリニックを支えていた。
コウジさんは慶應義塾大学の文系学部を卒業後、大手金融機関に内定が決まっていた。ところが卒業間際に母が病に倒れたため、大卒後はクリニックで働くことになった。数年間経営業務などに携わりながら父の医療業務を見ているうちに、いつしか父のクリニックを継ぎたいという思いが芽生え、30歳で医学部受験を決意した。
だがコウジさんは文系出身だったため、数学と理科の知識はほぼ皆無。まさに、ゼロからのスタートだった。
「コウジさんは幼稚舎で慶應に入り、大学までエスカレートで進学してきたこともあり、受験勉強のハードルは非常に高かった。特に数学と理科に至っては、中学の勉強から徹底的にやり直すことに。クリニックで働きながら個別指導塾で3年、最後の1年は私が在籍していた医学部専門予備校に1年通って勉強に集中し、無事4年目に偏差値60台の医学部に合格しました」
同じく社会人で受験に挑み2年目に合格を勝ち取ったケイコさん(仮名)の場合はどうか。
「ケイコさんは高校卒業後、看護専門学校に進学し、1年で中退。その後は芸能活動をしながら新宿歌舞伎町の風俗店で事務員のアルバイトをしていました。勤務先では、知識不足ゆえ若くして望まぬ妊娠や性病で苦しむ女性たちを数多く見てきたそうです。ケイコさんは医師の両親のもと、比較的恵まれた家庭環境にいた。にもかかわらず自分は彼女たちの手助けが何もできないことが歯がゆかった。そこで、医師になって女性達に正しい知識を与えていきたいと、20代後半で一念発起して医学部受験を目指したのです」
ケイコさんも個別指導塾から受験勉強をスタート。当初は模試を受けてもほとんど点が取れず、偏差値がつかないくらいのレベルだったという。だが、一年間の猛勉強を経て、私立大医学部の1次試験(英・数・理科2科目)を突破。経歴や年齢がネックになると予想された2次試験(面接など)は七沢さんのアドバイスのもと、2年目で合格を勝ち取った。
![女性医師](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/8/1/1200wm/img_81a836302010de99cb2445a7df31fae4240789.jpg)
■社会人受験生は人生をかけて勝負をしている人が多い
――2人の共通点は、スタート地点ではほぼ0か、むしろマイナスだったが、最終的には偏差値60台の試験に合格できるほど大きく学力が伸びたことだ。
「結局、地頭の良し悪しやスタート時の知識量はあまり合否に関係ない。目標を定め、計画を立て、しっかりした習慣を確立し、効果的な学習を継続すれば、吉報はやってきます。医学部は全国に82校あり、総定員数は約9400人。その中に食い込むのは簡単ではありませんが、決して手が届かないわけでないのです」
コウジさんとケイコさんの共通点はもうひとつある。それは根底に、確固とした意志があったことだ。
「この2人に限らず、社会人受験生は人生をかけて勝負をしている人が多い。その年齢で、仕事をしながらでも勉強して受かりたいという思いがあり、人によっては“これで受からなかったら人生終わり”という覚悟で挑む人もいます。受かるためには何が課題で、どうクリアすればよいかも明確です。友達と遊びたいといった誘惑に惑わされない意思の強さも持っています。そこが、医師の親に言われて、半ば仕方なく勉強しているような現役生や、モチベーションを失ってずるずる多浪している人との決定的な差です。出発点からして、全然違うわけです」
もしそこまでの強い意志を保てないのなら、“環境づくり”から始めるのも一つの方法だという。次回は、効率的な勉強法とは何か、それを定着させるための“環境”について、七沢さんが解説してくれた。(構成=桜田容子)
![3人の医師](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/c/3/1200wm/img_c3ef1750d46f42d8b54349cc01738fdb331797.jpg)
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「医学部専門予備校D組」校舎長、英語科講師
中央大学法学部を卒業後、予備校講師や家庭教師などを経験。1993年より医学部受験専門予備校YMSで校舎長として年間約150人の受験生を医学部合格に導いてきた。医学生向けの機関誌「熱き医療人を目指す Latticeラティス」を編集。20年にわたり自らも国内外の医療者の取材にあたってきた。2024年4月から現職に。現在、同塾で医学部受験生をコーチング指導している。
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(「医学部専門予備校D組」校舎長、英語科講師 七沢 英文)
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