ゲームやYouTubeを取り上げてはいけない…「頭のいい子」を育てるために親が子に繰り返すべきフレーズ
プレジデントオンライン / 2024年5月26日 10時15分
※本稿は、成田奈緒子『子育てを変えれば脳が変わる こうすれば脳は健康に発達する』(PHP研究所)の一部を再編集したものです。
■「読み聞かせ」や「読書」に対する誤解
「国語能力を高めたいなら、本を読ませるのが一番だろう」
このように考える方は多いでしょう。確かに、本は子供の言語能力を発達させます。小さいときからぜひ、たくさんの本に触れさせたいものです。
ただし、その方法を誤らないように注意してください。「本を読みなさい」とうるさく言うのは逆効果です。義務だと思ったとたん、子供は読書を苦行だと誤解し、本を敬遠するでしょう。
本に触れさせたいなら、親自身が読書を楽しみ、家のなかに自然に本がある環境をつくるのがベターです。
そしてもう一つ、読書にまつわる「誤解」があります。
親が読み聞かせるにせよ、子供がひとりで黙読するにせよ、読書中には前頭葉は働きません。読書中の子供の脳波を測ると、活性化するのは視覚を司る後頭葉(こうとうよう)、言語能力を司る側頭葉(そくとうよう)、そして「からだの脳」に相当する大脳辺縁系のみです。
読書は「ただ読む」だけではなく、書かれたことについて思考を巡らせることに意義があります。子供の思考を促す言葉がけを工夫しましょう。
読書中、文字を追っている間は働かない前頭葉も、ふと本から目を上げて反芻(はんすう)したり、本を閉じた後に内容を振り返って考えをまとめようとするときには急激に活性化します。ですからこの場面でも、親が子供の思考を「引き出す」働きかけが有効です。その具体的な方法をお話しします。
■子供の言葉を引き出す働きかけ
前頭葉を育てるには、「考えさせる」ことと、その考えを言葉にして「外に出させる」ことが不可欠です。
子供の言葉を引き出すことは、親にできる最大のサポートです。
こう言うと、よく親御さんからは「もちろん心得てます! 私、子供にしょっちゅう問いかけています」という答えが返ってきます。しかしその問いかけが、本当に子供自身の言葉をひき出せているかどうかには疑問符がつきます。
教育熱心な親御さんは確かに、「お勉強的」な問いかけはさかんにされています。例えば、「お空はなんで青いんだと思う?」など。
それ自体はもちろん、悪いことではありません。しかし親のなかの「学んでほしい」「賢く育ってほしい」という願望が強すぎると、子供に「いい答えを出さなくては」という、無言のプレッシャーを与えてしまいます。実際、期待に沿わない答えだったときに、それを正そうとする親御さんもいます。
それでは前頭葉は育ちません。大事なのは、子供の自由な発想を促すことです。そのために忘れてはならないのが、「否定しないこと」。
■否定されない安心感が大事
たとえば、昔話の「桃太郎」のお話を聞かせた後に、その内容について問うとします。
このとき子供は「正答」を言うとは限りません。「おばあさんはどこに行ったんだったかな?」と聞いて、「鬼ヶ島に行った」などと答える子はいくらでもいます。
そんなとき「違うでしょ」と言ってはいけません。間違ってもいいから、とにかく言葉を出させること。特に乳幼児の場合は、それが鉄則です。
正解か否かは重要ではありません。言葉を出そうとするときに前頭葉が著(いちじる)しく活性化することに意味があるのです。
ですから「そうかぁ、おばあちゃん、鬼ヶ島行ったんだ~」「面白いねえ」という風に、楽しくあいづちを打てばいいのです。
ほかの場面も同じように自由に話させて、原型をとどめない「新しい桃太郎」が創出されていくのも面白いのではないでしょうか。
誤りを正さず、かといって「素晴らしいわね」などと褒めそやす必要もなく、ただ「それが君の発想なんだね」と受け止めましょう。
否定されない安心感のある場で、思いつきをどこまでも言葉にしながら、子供のこころの脳はぐんぐん育っていきます。
■家の中は、好きにものを言える場所に
一方、子供どうしの社会では、大人から与えられるのとはまた違うプレッシャーがあるようです。
おしゃべりし、ふざけ合う子供たちの間にはしばしば、「さあ、面白いことを言ってくれよ」「どうしよう、面白いことを言わなくちゃ」といった、無言の圧力が働いています。同年代の子が集まる場で、面白く楽しい子であることを求められるのは、ある程度仕方のないことです。
しかし、家の中でまでそれを求められるのは非常に窮屈です。ですから家の中は、何を言っても良い場にしましょう。好きなことを言っていいし、つまらないことも無意味なことも言っていい、という「自由と安心」を与えましょう。
子供の発想はユニークなので、どんな子でも多かれ少なかれ面白いことを言いますし、笑わせてもくれます。クリエイティブな視点に感服させられることもあります。
しかし、親がそれらを「期待」するのは良くありません。大人から見て中身がないと思える言葉も、思う存分、出させてあげましょう。
■家で「発想を広げ」学校や社会で「調整する」
これは前頭葉の発達の観点からも、理にかなっています。
家という完全な安全地帯で、いったん自由に、すべて出す。
その後、学校などの外の社会では、ある程度の制限が課される。その認識のもと、「これは言わないでおこう」「これは言おう」と判断していく。
このように、まず大きく広げてから調整していくのが、適切な発達プロセスです。
最初に大きく広げる段階から制限をかけてしまうと、出てくるはずの発想も出てこなくなります。もしくは、四六時中制限をかけられることでストレスが溜まり、外で「言葉を選べない」――誰かに悪意を向けたり、意地悪をしたりする子になる危険もあります。
子供の思いやりを育てるためにも、まずは家庭内の発言の安全と自由を保証することが大事です。
■動画で勉強すると語彙が育たない
ここ10年で、YouTubeやTikTokなどの動画プラットフォームは若い人たちの中で必要不可欠なものになりました。
大学生の間でも、知識を文字からではなく動画で得る傾向が強くなっています。小中学生も、動画を勉強に活用している子が多いようです。
しかしこれは「前頭葉を育てる」という観点からいうと、ベストな方法とは言い難いと思います。
これまで幾度となく述べてきたように、学んだ知識は、最終的には言語化して「外に出す」ことでこそ生かされるものです。
この点、動画は文字情報に比べると分(ぶ)が悪いのです。
試しに、動画で学んだ内容を人に口頭で教えるのと、本で読んだ内容を教えるのと、どちらがたやすいか想像してみてください。当然、本という文字媒体で入れた情報のほうがスムーズでしょう。動画で見た視覚情報を正確に文字情報だけで伝えるのは至難の業(わざ)です。
「こんなでっかいのがバーンと出てきて、次にドーンってなって」、というような説明になってしまいがちです。相手に伝わるように説明できる語彙(ごい)がないため、そこを擬音(ぎおん)で埋めているのです。
映像を言語に変換できる語彙――色彩、大きさや、形などを表現する言葉を持たないと、相手に伝わるアウトプットはできません。
これらの語彙は、映像やSNSの短文を流し見しているだけでは培(つちか)われません。ですので、本を読んだり、大人と会話を交わすことで、多くの言葉を知ることが必要です。
「おりこうさんの脳」でインプットを積む過程では、映像だけに偏(かたよ)らず、文字に触れる機会を多く持つことを意識したいところです。
■映像を言葉で説明させてみる
さて、今の話は逆手(さかて)に取ると「前頭葉を鍛えるチャンス」にもなりえます。
「映像を言語化するのは難しい」ということは、それをあえて言語化しようと努力するとき、前頭葉を思い切り働かせることになるからです。
実際、子供たちを対象としたある実験で、簡単なゲームをさせた後に「どんなゲームだったの?」と口頭による説明を求めると、言葉を出そうとしている子供たちの前頭葉が、非常に活性化することが判明しました。
これは、一定程度の語彙が備わっていないと難しいかもしれないので、はじめは「絵にして説明させてみる」ことからはじめてもいいかもしれません。家庭内でも折に触れ、子供に「教えて」と聞いてみてはいかがでしょうか。
■アニメやゲームの内容を聞く
動画の内容でもいいですし、ドラマやアニメも格好の材料です。「昨日のあれ、どんなお話だった?」「見逃しちゃったから教えて」と問いかけて説明してもらいましょう。ストーリー性のあるものは「あらすじ」を話すことになるので、大事なポイントを押さえつつ要旨を伝える「要約力」も鍛えられます。
もちろん、小さい間はうまくできなくて当たり前。ここも「桃太郎方式」で、正解を強いずに、前頭葉を働かせている様子を見守りつつ楽しみましょう。
日ごろ子供がいそいそと楽しんでいるゲームの説明をしてもらうのも、大いにおすすめです。多くの家庭では、ゲーム三昧(ざんまい)の子供を叱ることはあっても、ゲームに夢中になっている様子に関心を持ち、内容を聞き出すことはほぼ皆無。これは非常にもったいないことです。
関心のあることについて語らせてもらえるとなると、子供は俄然乗り気になります。「○○っていうキャラがいてね」「それが冒険に出てね」と一生懸命話そうとしてくれます。大人からすると稚拙(ちせつ)な説明に聞こえるかもしれませんが、それもまたよし。子供自身は、何度も繰り返しやっているゲームだけに「話しやすい」感覚を持てているはずです。
ゲームをプレイするだけでは全く働かない前頭葉も、それを誰かに伝えようとすると一転、フル活動を始めるのです。このチャンスを生かさない手はありません。
■「正論」は前頭葉の成長を妨げる
言葉を引き出す際、間違っても否定せずに受け入れるべし、という話に意外な印象を持たれた方も多いでしょう。
たいていの親御さんは、こうした場面でしょっちゅう否定をしてしまいます。それは主目的を「引き出す」ではなく、「正答を伝える」に置いているせいです。
親が、そこに注力する必要はありません。こころの脳が成長すれば、いずれ子供が自分で見つけ出せるようになるからです。親はそれを信じること、つまりは子供を信頼することが大事です。
日ごろの行動に関しても同じです。子供に「遊んでばかりいないで勉強しなさい!」と言うのは、子供が「いずれ自発的に勉強するようになる」と信じていないからです。
信じていないから、うるさく言う。これを続けていると、困ったことに「いずれ」が遠ざかります。
この手の正論が、前頭葉を鍛える機会を奪うことになるからです。
■信頼して待つことが大事
「勉強はしておいたほうがいいよ、あとあと役に立つよ」といった優しい言い方でも同じです。正論を言われると、子供は自分で考えなくなるのです。
「はーい、ママ」と従順に勉強する子もいれば、「うざいなあ」と不貞腐(ふてく)されてますますゴロゴロする子もいるでしょうが、いずれも親の言葉に反射的に対応しているだけで、「今、勉強しなければどうなるだろう?」と、自らの思考を働かせることにはなっていません。
その結果、前頭葉の発達が妨げられて「言われないと勉強しない」「言っても勉強しない」というフェーズがいつまでも続いてしまうのです。
「自分がうるさく言わないと、この子は勉強しないから」と思ってやることが、実は逆効果になっているのですから皮肉ですね。
ですから、言いたくなってもぐっとこらえて、子供に考えさせましょう。
そうしてこころの脳を鍛えていくと、あるときから子供の行動が変わります。
こころの脳がきちんと備わった子は、「漫画を読みたいな、ゲームしたいな、でも明日はテストだから今から勉強しないと」という風に、自制心や思考力を使って行動に移せるようになるのです。そのときをじっくり待つのも、親に必要な「自制心」かもしれませんね。
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文教大学教育学部教授、子育て支援事業「子育て科学アクシス」代表
小児科医・医学博士・公認心理士。1987年神戸大学卒業後、米国ワシントン大学医学部や筑波大学基礎医学系で分子生物学・発生学・解剖学・脳科学の研究を行う。臨床医、研究者としての活動も続けながら、医療、心理、教育、福祉を融合した新しい子育て理論を展開している。著書に『「発達障害」と間違われる子どもたち』(青春出版社)、『高学歴親という病』(講談社)、『山中教授、同級生の小児脳科学者と子育てを語る』(共著、講談社)、『子どもの脳を発達させるペアレンティング・トレーニング』(共著、合同出版)など多数。
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(文教大学教育学部教授、子育て支援事業「子育て科学アクシス」代表 成田 奈緒子)
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