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受けても受けても不合格…絶望の"医学部多浪生"300人超を合格させた「机に向かいたくなる声かけフレーズ」

プレジデントオンライン / 2024年5月19日 10時15分

七沢さん - 撮影=プレジデントオンライン編集部

合格という“山頂”に到達するにはどうしたらいいのか。医学部受験生を30年以上指導してきた医学部専門予備校D組の校舎長・七沢英文さんは「毎日の正しい学習方法を習慣として定着させるには、そばにいる人の適切な声かけが必要です」という。これまで3000人以上の浪人生(うち300人超が多浪生)を医学部に合格させたプロの奥義を公開しよう――。

■1日10時間の詰込勉強が伸びない理由

「毎日早朝5時半に川越の自宅を出て、7時から夜22時までひたすら塾で勉強してきました。トイレに行く時間も惜しんで、膀胱炎になったこともあります。それなのに、模試の結果は惨敗。チャラチャラ遊んでいる友人のほうが点数は取れている。本当にやるせない……」

3浪生のテツオさん(仮名)はそう言って肩を震わせ、頬を濡らした。

これは医学部専門予備校D組の校舎長・七沢英文さんが以前在籍した予備校で実際にあった出来事だ。慰め役を務めた七沢さんは、この後、テツオさんの3浪目の面倒を見ることになり、「正しい勉強方法」をイチから徹底的に指導した。その結果、見事、悲願の合格。しかも第一志望校の私立医大の昭和大学への入学が許された。

七沢さんと出会うまでのテツオさんは、なぜ合格を勝ち取れなかったのか。

「テツオさんのように、真面目に勉強をしているのになかなか受からない医学部受験浪人生は少なくありません。勉強は、量をこなすことも大事ですが、ただこなすだけでは成績が伸びないのも事実です。

朝から晩まで1日中授業を受けていると、膨大な情報量がインプットされます。その情報量をどう処理するかに頭を使わず、ただ入れっ放しになっているのは、栄養ある食べ物が消化不良になっていて、血肉になっていないのと同じことです」

勉強しても、忘れてしまうのが人間。習ったら習いっぱなしでそのまま寝ると、次の日には新たな勉強内容で上書きされてしまうのは当然ともいえる。せっかく得た知識を確実に覚えるにはどうしたらよいのか。

「例えば10時間、12時間も詰めて勉強するのは、情報量が多すぎて処理しきれない。それよりは、例えば6時間勉強してインプットしたものを、3~4時間かけてアウトプットしながら振り返るぐらいのほうが効果はあります。ああでもないこうでもない、じゃあこっちはどうだろう、類似問題を解いてみよう、などとゆっくり時間をかけて、骨の髄までしみこませるようにして復習していくのです」

テツオさんはインプットばかりに注力し、その内容が脳に定着していなかったのだ。七沢さんによれば、こうした悪いサイクルは医学部の浪人生だけでなく、多くの小中高校生に該当するという。授業の先取りをしたり、より難解な応用問題を解いたりと、前のめりすぎて、肝心の脳みそがついてこれないわけだ。

■授業後から翌朝まで、3回復習する

「今年こそは合格を!」

気負って、焦っている医学部受験の浪人生。七沢さんは彼らに対して具体的にどのように指導してきたのかといえば、「生徒には、授業や自習で新しい知識を学んだ後は、翌朝までに繰り返しアウトプットするように伝えました」という。

そこには3つのポイントがある。最初は「授業後の反芻」だ。

「授業が終わったら、必ずその授業を振り返って、1分でも2分でもいいから、今の授業では何を習ったのか、反芻します。その際、“ここは難しかったから後で解き直してみよう、復習してみよう”と、後でやるべきことを決めてノートに書く。要は、自分のやるべきこと、足りないところを視覚化するのです」

「学んだ後、それをすぐ人に話したり、教えたりするのも有効です。“こうやったほうが問題を解きやすいよね”などと相手と意見を交換すると学ぶが深まります。よく教え魔はできるようになる、と言いますよね。自分のノートが、先生が教えているような書き方になっていれば、より効果的でしょう」

七沢さんと医学部に合格した女性
写真提供=医学部専門予備校D組
七沢さんと医学部に合格した女性 - 写真提供=医学部専門予備校D組

2つ目、夜に今日1日に学んだ内容と、そのポイントを、就寝直前に殴り書きでもいいいからノートに綴ること。七沢さんはこれを“夜ノート”と呼んでいる。夜ノートに書く量は、全教科で1ページ程度でもいい。とにかく続けることが肝要だ。

3つ目は翌朝目覚めた直後に、そのノートを見返すことだ。

「多くの子は、夜寝る前にスマホをいじったりして、勉強と関係ない情報を頭に入れて寝ます。すると、その日の勉強が他の情報に上書きされてしまい、朝になったらほとんど覚えていないことが多い。

自宅に帰ってからは動画を見てもいいしSNSをやってもいいんです。だけど、寝る直前だけはもう1回勉強モードに戻して、脳内を勉強内容で満たしてから寝ついてほしい。そして朝起きたら必ず昨夜書いたノートを10秒でもいいから見直す。それだけでも昨日の内容を振り返られます。自分が受け持った生徒には、それを一年間徹底してやらせていましたね」

以上、授業後の反芻、夜ノートの作成、寝る直前と翌朝のノート閲覧、この3回の振り返りを365日毎日続ける。この“習慣”が合否を分けるのだという。

■モチベーションを維持するための声がけ

ただし、これを毎日続けるのは、よほど強い意志がないと難しいだろう。

「“何が何でも合格したい”という強い意志がある人でも、時にはサボりたくなることもあるし、モチベーションが下がることもあるでしょう。すでにやる気を失っている人はノートを書くこと自体、ハードルが高いと思います。

そこで必要なのが、周りのサポートです。親でも友人でも塾の先生でもいいので、“やらなければ叱られ、やったら褒めてもらえる”環境を作ってあげるのです。

ですから私は、自分の生徒たちには全員、授業後のノートを必ずチェックし、『よくできました』のスタンプを押していました。小学生の児童の宿題に担任の先生が押すようなスタンプですが、医学部受験する“大人”にもこれは十分効果がありますよ。夜ノートも写真に撮って自分のLINEに送ってもらうようにして、見たらすぐに一言コメントなりスタンプなりを返信しました。人は、自分の努力を見てくれている人がいると思うと、力が湧いてくるものです」

よくできましたのスタンプ
写真提供=医学部専門予備校D組
よくできましたのスタンプ - 写真提供=医学部専門予備校D組

適切な声かけとリアクション。七沢さんは就寝前のLINE返信を全員にするまでは寝ない。時には外で飲食している際にも即返信するという。ここまでの徹底ぶりはできなくても、さりげなく寄り添うスタンスは小学生の子供を持つ親の参考になるかもしれない。

基本フレンドリーな七沢さんだが、それでもサボった場合は、すかさず喝を入れる。

「1度2度ならともかく、3日連続で出さない子には、『やりたくないならもう受験やめれば? 俺の人生じゃないから全然いいよ』『時間とお金がもったいないから、(受験を)止めるなら今すぐやめよう』『赤の他人のおじさんに、こんなこと言われて悔しくないの?』などとストレートに言います」

褒め方はどうしているのか。

「褒めるなら、具体的に。ここがポイントです。例えば、夜ノートを始めて1週間続けられた人には『1週間続いたね』と努力を認め、自分の言葉でコメントをノートに書いてあれば『すごくいいノートだね』などと評価します。継続できたとき、工夫が見えたとき、ノートに反省点が明記されているときが“褒める”チャンスです」

ただ、こうした習慣を続けても、成績に結びつかなければ、やはりやる気はダウンしてしまう。そんな時、七沢さんは叱ったり怒ったりしない。こう声をかけるのだ。

「1カ月続けられたからといって、翌月点数が上がるものではないよ。長い日数をかけて、山あり谷ありでだんだん伸びていくんだよ」

「日々の努力は薄い紙を重ねるようなもの。その成果は、数日や10日では微々たる厚みにしか見えないけれど、100日、200日と続ければ分厚くなる。だから、とにかく続けること」

くじけずに自分を信じて続ける。泥臭く、やり抜く。その大切さを教え続けたのだ。

■「朝起きられない子にはモーニングコール」などの手助けも

ただ、自分に甘くて日々の課題から逃げてしまう人、喝を入れると逆効果になりそうな人には、言葉がけにとどまらず、手助けも行うという。

「生徒によっては、生活習慣から全部見直すことあります。朝起きられない生徒には、朝起きてちゃんと朝食を摂ってもらえるよう、親御さんに頼まれてモーニングコールをしていた時期もあります。

また、課題用のプリントを頼まれたら、“問題集があるんだからそれくらい自分でやらなきゃね。甘えるな”と文句言いながらも極力やってあげるようにしています。もちろん、自主的に取り組んでほしいですよ。でもね、本人に任せた結果が、3浪、4浪なわけです。自主性がある子は、とっくに受かっていますから」

長い受験生活、メンタルが不調でどうしてもノートを広げられないときもある。そんな人にはどうしているのか。

「少なくともその日の勉強が“0”にならないように、最低限のルーティーンワークをするように指導しています。例えば、毎日のルーティーンが文法問題50問なら、今日は1問でもいいからやろう、と。1問やれば2問、3問と進むかもしれない。

“今日、こんなに調子が悪いのに、これができた。多くはできなかったけど、0ではなかった”――こう思えるだけでも、自分で自分をほめることができる。もちろん、周りの大人は、たった1分でも、1問でもいいから、取り組めたことを評価してください。そして、明日につなげる。明日も1問でもできたら、褒める。そうして1問でもいいから毎日続けられるように。

夜ノートの習慣にもいえることですが、一度習慣にしてしまうと、モチベーションが低下したときでも、ノートを開けるようになります。ですから、とにかく毎日続けることが大事です」

最初は声をかけられたからやっていたことが、次第に本人が自主的に取り組むようになったら、合格は近いのだ。(構成=桜田容子)

合格祈願のだるまに目を入れる手元
写真=iStock.com/show999
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/show999

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七沢 英文(ななさわ・ひでふみ)
「医学部専門予備校D組」校舎長、英語科講師
中央大学法学部を卒業後、予備校講師や家庭教師などを経験。1993年より医学部受験専門予備校YMSで校舎長として年間約150人の受験生を医学部合格に導いてきた。医学生向けの機関誌「熱き医療人を目指す Latticeラティス」を編集。20年にわたり自らも国内外の医療者の取材にあたってきた。2024年4月から現職に。現在、同塾で医学部受験生をコーチング指導している。

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(「医学部専門予備校D組」校舎長、英語科講師 七沢 英文)

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