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地方で男性が余り、東京で女性が余っている…若い女性がわざわざ婚活に不利な都会に向かう納得の理由

プレジデントオンライン / 2024年5月26日 9時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/buradaki

有識者グループ「人口戦略会議」が4月24日、全国の744の自治体を「消滅可能性自治体」、東京都の17区を含む25市区町村を、出生率が低く他地域からの人口流入に依存する「ブラックホール型自治体」とする分析結果を公表した。コラムニストの河崎環さんは「若い女性たちは、『魅力的な職場や仕事、幸せを感じられるライフスタイルがない』地方から東京に流入し、結果的にブラックホールへ吸い込まれていっているとも解釈できる」という――。

■出生数「2年連続80万人割れ」の衝撃

政府が予想していた以上の速度で、日本がシュリンクしている。昨年(2023年)2月の「出生数、統計初の80万人割れ」のニュースでは、厚生労働省が想定していたよりも11年早くその数字に達してしまった、との大きな衝撃がもたらされた。

コロナ禍による婚姻数減少の影響が要因であるとして、翌年は一時持ち直すのではと期待されたが、翌2024年2月の発表でも出生数は前年比5.1%減の76万人弱と、減少傾向に歯止めがかからない。一方で死亡者数は約159万の過去最多を記録。自然減数は初の80万人超えの台に乗った。日本の国力が痩せ細っていくという厳しい現実を、数字が示し続けている。

■4割の自治体が「消滅可能性自治体」に

大型連休直前に発表された、「消滅可能性自治体」「ブラックホール型自治体」とのキーワードも話題を呼んでいる。先月24日、民間有識者らでつくる人口戦略会議は、国立社会保障・人口問題研究所による地域別将来推計人口データを踏まえ、全国自治体の人口的側面から見る持続可能性の分析結果を公表した。

2020年から50年までの30年間で、全国1729自治体の4割にあたる744自治体で人口増に潜在的貢献性のある(つまり人口再生産=出産可能と考えられる)20~39歳の女性人口が50%以上減り、消滅する可能性がある……との厳しい結果だった。

■「ブラックホール型自治体」が若い女性をのみ込む

消滅可能性都市というショッキングな言葉自体は、日本創生会議による2014年の同様のレポートで誕生し、当時も話題を呼んだものだ。2014年の分析では約50%の自治体が「消滅可能性」に該当するとされたが、その衝撃下にあった10年の間にも、決して日本の縮小傾向に改善が生じたわけではないということになる。

今回、人口戦略会議による分析結果に登場した「ブラックホール自治体」は、人口減のメカニズムへさらに一歩踏み込んだ表現だ。

人口戦略会議の定義によれば、ブラックホール型とは出生率が低く、人口増加を他地域からの流入に依存する自治体のこと。

地方からの人口流入が多い一方で子育て層が少ない、つまり就学や就職などで若い人が流入するものの、人口の再生産(出産子育て)が起きないまま高齢化していくものを指し、都会に典型的な自治体のありようだ。全国で25自治体がブラックホール型であると報告されたが、東京23区のうち実に17区がそれに当たり、「人を吸い込んで減らす」東京の実態が指摘された。

■女性流出は「労働問題だ」

しかし、そもそも人口的側面から見た自治体の持続可能性とは、人口増に潜在的貢献性のある人々、つまり「産める年齢の女性」の減少率を指標として算定されるものだ。ここに関しては、「また産めよ増やせよという発想なのか」「また若い女性に人口減の責任を被せるのか」とのもっともな反発も再燃する。

「消滅可能性」や「ブラックホール」という言葉のインパクトに脅されるようにして、名指しされた自治体は当然、危機感を強める。

2014年の調査で「消滅可能性都市」とされた自治体の多くが、状況を改善すべしとしてがぜん取り組んだのは、「女性が」子どもを産みやすく育てやすいまちづくりをしましょう、という発想から生まれた、助成金や保育所整備など出産子育てを奨励する少子化対策だった。

しかし、以前この連載コラムでも取り上げたように、「産む」を促すだけの少子化対策は日本の人口問題の本質を捉えて解決しているわけではない。

「出生数80万人割れの衝撃。地方の少子化対策はここがズレている」と題された記事で、ニッセイ基礎研究所の人口問題リサーチャー・天野馨南子さんは、地方の著しい少子化問題の真因は地方を見限った若い女性による東京への人口流出がまったく止まらないことにある、と指摘。

おおかたが予想するような高学歴女性だけではなく、実際には幅広い学歴の女性がごっそりと地方を去っているのは、地方に魅力的な職場や仕事、幸せを感じられるライフスタイルがないことが主因なのだ。天野さんは「地方の少子化とは人口問題というよりも労働問題である」と主張している。

■出生率の上昇は「多様な女性たちを失った代償」

他方、十六総合研究所による『提言書2022「女子」に選ばれる地方』(岐阜新聞社)の基調論文「若い女性はなぜ消えるのか?」で、執筆者の十六総合研究所 主任研究員・田代達生さんは、地方都市である岐阜県の側からも地方の少子化対策に疑問を呈している。

それらはあくまでも既に地方に残った女性(もともと相対的に保守的で、出産傾向にある女性)を対象としたものに過ぎず、「現実に起きている地方の合計特殊出生率の高さは、リベラルで多様な価値観を持つ女性たちが都会に逃げていき、保守的な女性だけが地方に残った結果(多様な女性たちを失った代償)として達成されている」

保守的な家族観と、地方へ根強く残されたジェンダーギャップを原因として、地元からごっそりと逃げていく若い女性たち。「多様な女性たちを視野に入れないで、地方が持続可能とはとうてい思えない」との田代さんの指摘は、目先の出生率という数的改善だけを見て少子化対策に予算を注ぎ込むことに精いっぱいの自治体には、耳が痛いだろう。

渋谷のスクランブル交差点を渡る人々
写真=iStock.com/kardan_adam
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/kardan_adam

■「女性余り」の東京ブラックホール

地方の男性化と、東京の女性化。現実として若い女性たちは東京を目指す。

しかしその結果出現したのが、若い女性をのみ込んでそのまま老いさせる東京ブラックホールであり、なんと圧倒的に女性が多くて男性の少ない、女性に不利な「女性余り」婚活の実態なのである。

「ツヴァイ」や「サンマリエ」など、さまざまな婚活・ライフデザインサービスを展開する株式会社IBJが、このたび1万人超の成婚者のデータを分析した2023年度版「成婚白書」を発表した。

未婚化の解決という側面から少子高齢化の解決へ繋げたいとして、日本で最も多くの結婚カップルを生み出している同社だが、白書で明らかになったのは、47都道府県別成婚率でダントツの最下位(18.2%)となり、東京一極集中の影響下で圧倒的な買い手市場の激しい競争にさらされた東京の女性の姿である。

IBJはこの結果を、「“男女どちらが成婚しやすいか”を比較すると、就職や進学を機に女性が都市部へ転出し、『女性余り』となりやすい都市部では男性の方が成婚しやすく、『男性余り』が進む地方部では女性の方が比較的成婚率が高くなる傾向がある」と分析する。

東京では女性が余っている。選ぶのは男性の側となって、女性にとっては婚活に不利なレッドオーシャンなのだ。

■それでも若い女性はブラックホールに吸い寄せられる

それにもかかわらず、そんな不利な場所へ若い女性たちはわざわざ地方から流入して競争にさらされ、結果的にブラックホールへ吸い込まれていっている……とも解釈できる。

レッドオーシャンでブラックホール、なんだかいいことが一つもないように聞こえる東京だが、それでも全国の女子はハタチ前後で「より幸せな選択肢」を求めて一斉に東京を目指してしまうのだと、そう統計は物語っている。

先ほどの「成婚白書」が教えてくれる良いニュースは、地方では男女成婚率の逆転が起こり、今度は女性にとっての圧倒的売り手市場となっていることだ。

コロナ禍を経たリモートシフトによって労働や情報が都会も地方も関係なく分散を始めたけれど、幸せな人生のスタイルも満遍なく、多様に分散していく時代がやってくれば、日本人は――いや、日本女性は――今よりもっと幸せになれるのかもしれない。

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河崎 環(かわさき・たまき)
コラムニスト
1973年、京都府生まれ。慶應義塾大学総合政策学部卒業。時事、カルチャー、政治経済、子育て・教育など多くの分野で執筆中。著書に『オタク中年女子のすすめ』『女子の生き様は顔に出る』ほか。

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(コラムニスト 河崎 環)

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