なぜお金持ちはアマゾンの「有料会員」にならないのか…「もったいない」という口癖の落とし穴
プレジデントオンライン / 2024年5月24日 8時15分
■ダダでもらった「110円分のポイント」はお得なのか
「もったいない」「ムダにせずに使い切る」という思考は美徳であり、節約生活に欠かせないとされている。ただし、「消費」の世界では、ちょっと違う。節約どころか、逆に貴重なお金を食い尽くしかねない考えだ。たとえとして、ちょっとした昔話をしよう。
あれは2022年のプロ野球日本シリーズでのことだ。ヤクルト・スワローズとオリックス・バファローズの対戦を見に明治神宮球場(東京都新宿区)に向かったところ、入場ゲートである小冊子を渡された。
まさに今話題の、Vポイント110円分のギフトカードだった。
QRコードを読み取ってアプリをダンロードすると、もれなく110円が受け取れるという。タダでもらえるのだから、多くの人が受け取ったのではないか。
とはいえ、110円だけだとろくな買い物はできない。この残高を使い切るために、上乗せで1000円ほどアプリにチャージした人もいるはずだ。
なお、その日の入場者数は3万人弱、うち半数がこのギフトを受け取ったと想定すると1万5000人が残高110円を手に入れたことになる。そのまた半数の人が、110円を使いきるために新たにチャージまでして買い物したとすれば、凄い消費効果になったのではないか。
■「モッタイナイ消費」でお金はどんどん逃げていく
今や多くの人が利用しているPayPayだって、スタート時はアプリをダウンロードするだけで500円を付与したこともあった。
たとえわずかな金額でも、せっかくもらったポイントや残高をムダにするのはもったいない、使わないともったいない――と、それが動機となって余計な買い物をしてしまう心理、それが「モッタイナイ消費」だ。
しかも、「モッタイナイ」には様々な変則パターンが存在する。ついついお金を使ってしまうパターンを見てみよう。きっと、どれかに覚えがあるに違いない。
パターン1 もう手元にあるのにモッタイナイ
利用代金ごとにスタンプを押してくれるショップカード。5個たまったら100円割引になるというという。すでに3つのスタンプが押されたカードが手元にあるとしたら、絶対にあと2個は押したくなってくる。カードに有効期限があったりすると、さあ大変だ。急いであと2回、その店に行くことになるだろう。たとえ交通費をかけてでも。
このように、すでに「トクする権利」が手元にあると、それが余計な消費へと駆り立てるきっかけになる。
■次回使える「ワンドリンク無料券」、誕生月限定の「ポイント2倍特典」…
もし、次に使えるワンドリンク無料券をもらったら、もう一度その店に行こうと思う。使わないのはモッタイないからだ。
![チケットを持つ少女](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/7/1/1200wm/img_71bb5a7c5473e31261283eeb962e6dfc124315.jpg)
しかし、ドリンクだけのオーダーはできない規定になっているので、当然新たに飲食代が発生する。次の買い物から使える割引券も同じ仕組みだ。得したように見えて、余計なお金を使っている。
なお、誰にでも届く通常のクーポンや割引券ならスルーできる人でも、特別感のある「トクする権利」には心が動くもの。たとえば、年に一度しか訪れない誕生日。その月になるとどっさり届く割引クーポンは、やっぱり使わないと「モッタイナイ」! この月に買い物すると、誕生日特典でポイント倍増と聞くと「モッタイナイ」!
なにせ1年に一度しか、こんなチャンスは巡ってこないのだ。しかも、その月だけの特典だ、月末が近づくほど「モッタイナイ」気持ちが積み重なるだろう。要注意である。
■客に「トクする権利」を先に渡しておく理由
特別な権利といえば、ゴールドなど上位ステイタスのクレジットカードにも気を付けたい。豪華特典として、一流レストランのコース料理代が1人無料になるサービスが人気だ。ラインナップは厳選された高級レストランばかり、予約がなかなか取れない店もミシュランの星付きも含まれている。そんな特別な権利を使わないなんて「モッタイナイ」じゃないか。
とはいえ、コース料理にはアルコールは含まれない。2人でフレンチディナーを楽しむとなれば、ワインも1本では済まないだろう。
一流レストランともなれば、お酒も一流、価格だってそれなりだ。コース料金一人分と同じくらいになる可能性はある。そんな野暮なことなど気にしないという、富裕層の皆さんには余計なお世話だが……。
「トクする権利」を先に渡しておくと、受け取った相手はそれを使いたくてたまらなくなる。そこで新たに得お金を使ってしまうのだ。さて結局、トクしたのは誰なのか考えてみるといいだろう。
■節約好きの人ほどハマる「まとめ買いの罠」
パターン2 せっかく安くなるのにモッタイナイ
洋服を買いに行くと、レジで必ず言われるのが、「もう1着買うと、合計から10%引きになりますよ」というフレーズ。押しつけがましいのでなく、せっかく安くなるのにもったいないじゃないですかという表情で。
「もう一つ買うと割引になる」
「3品買うと安くなる」
「3000円以上買うと割引クーポンの対象になる」
こうした、「あともう少し買うとトクしますよ、買わないのはモッタイナイですよ」とささやきかけるパターンのいかに多いことだろう。
![セールタグのついた洋服](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/c/6/1200wm/img_c69037f3a937a64384caa6233cf6e7af251715.jpg)
素直な消費者は、安くなるならそっちの方が得だと考える。そして、本来なら買うつもりがなかったものをわざわざ選び、本来払う以上の金額を支払ってしまう。2着分の代金でよかったところを、3着分買って割引を受けたところで、支払う金額は最初よりも増えてしまうのだが……。
割引のために特に欲しくないのに買ったモノ達は、家にあっても案外困るものだ。洋服ならクローゼットの場所を取るし、食品なら冷蔵庫の奥に追いやられてしまう。どちらもあまり活躍しないうちに、処分の憂き目にあいそうだ。
そもそも、そんなものに払ったお金こそモッタイナイ。
■期間限定セールの「ついで買い」も要注意
Amazonや楽天の期間限定セールにも注意したい。SNSには、「こんなに安く買えた!」「割引率が大きいのはこの商品!」といった投稿が飛び交い、まさに“安く買えるのに買わないなんてモッタイナイ祭り”が繰り広げられる。
人間は、他人が得するのを黙って見ていられない性分だ。特に目当ての品がなかったとしても、そんなに安くなっているなら買っておこうと浮き足立つ。そして予定外の出費が重なっていく。
セールを待って前から欲しかったモノを、安く買うのは何も間違っていない。が、割引率やポイント倍増に目を奪われて、ついでにこれもと買い続けていては、翌月・翌々月のカード引き落とし額を見て愕然とすることになるだろう。
パターン3 元を取らないとモッタイナイ
コスパやタイパ、費用対効果が金科玉条のごとく唱えられる世の中だ。中でも払ったお金に対するリターンが釣り合っていないと落ち着かない。そう、「元を取る」ことは、至上命題だ。そうでないと、払ったお金がモッタイナイからだ。
よくあるのは年会費だろう。年会費がかかるクレジットカードは、せっせと使ってその分の元を取らねばいけない。コストコのような会員制スーパーは、年会費を取り返したと満足できるほど買い物を繰り返す。
■「年会費」がお金を食いつぶす
Amazonプライム会員になれば、サービスを使い倒そうと考える、もちろんたっぷり買い物もして。元を取らないとモッタイナイ心理が、こうして次々お金を食いつぶす。
テーマパークの年間パスポートもまたしかり。絶対元を取ろうと通えば通うほど、出かけた先で食事をしたりお土産を買ったりと、財布をどんどん軽くする。お金だけでなく、費やした時間の元を取りたい心理にも落とし穴がある。
せっかく時間と交通費をかけてアウトレットモールに来たなら、たくさん買い物をしようと思う。特に欲しいものがなくても、手ぶらで帰るなんて損だからだ。「せっかく来たのにモッタイナイ」との心の声が囁きかける。
すでに使ってしまって取り返せない費用をサンクコスト=埋没費用という。払ってしまった年会費も、費やした交通費や移動時間も、取り戻すことができないコストだ。その元を取ろうとすればするほど、新たな出費が発生するだけ。
コスパ好きタイパ好きの人ほどその沼にハマっていないか、冷静に判断してほしい。
■お金が貯まる人は「安く買える」に飛びつかない
毎月の収入が決まっている場合、お金を浮かす手段は一つしかない。支出を減らすことだ。ところが、「安くなるから」「使えるポイントがあるから」「セール期間だから」「元を取りたいから」という理由で、買う必要がなかったものをどんどん買い続けているとどうなるかは、もうおわかりだろう。
![暗い部屋で通帳を見る陰鬱な女性](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/5/4/1200wm/img_5477d4ea575ab4ce2bc936468aaa057a249539.jpg)
お金が貯まる人は、必要なモノや欲しいモノを買う際に、安く買える方法がないかと考える。貯まらない人は、安く買えると聞いて、その中に何か欲しいものがないかと考える。そして、あってもなくても困らないものを買ってしまう。安く買うことの方が目的になっているからだ。
「モッタイナイ」が口癖の人は、我が家を見渡してみて、そこにあるのが本当に欲しかったモノばかりか自問してみるといい。
このモッタイナイ消費から抜け出そうと思うなら、受け取った割引券や中途半端に残ったスタンプカードは、きっぱり捨ててしまおう。3着買うと安くなりますと言われても、にっこり笑って断ろう。
ネットのセールがあろうが、半額クーポンが届こうが、アウトレットに行こうが、そこに欲しいものがなければスルーしよう。お金は、使わなければ減ることはない。お金持ちになりたいなら、不要なモノには一銭も払わないに限る。
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消費経済ジャーナリスト
『レタスクラブ』『ESSE』など生活情報誌の編集者として20年以上、節約・マネー記事を担当。「貯め上手な人」「貯められない人」の家計とライフスタイルを取材・分析してきた経験から、「消費者にとって有意義で幸せなお金の使い方」をテーマに、各メディアで情報発信を行っている。著書に『定年後でもちゃっかり増えるお金術』『「3足1000円」の靴下を買う人は一生お金が貯まらない 』(以上、講談社)ほか。
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(消費経済ジャーナリスト 松崎 のり子)
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