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子供が空振りしたときに「いいぞ、どんどん振れ」と言えるか…時代錯誤な監督と良い監督の決定的違い

プレジデントオンライン / 2024年5月27日 15時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/real444

選手や社員の能力を引き出す指導者は何をしているか。エグゼクティブコーチの鈴木義幸さんは「少年野球ではどなったり、叱ったりする根性型の指導が横行している。しかし、これでは子どもは受け身になり監督が指導したこと以外は決してやらなくなる。良い監督は子供が空振りしても『いいぞ、あたると思ったらどんどん振っていいぞ!』と『アクノレッジメント』を用いて子供の意見を大事に扱い、改善に向けて働きかけている」という――。

※本稿は、鈴木義幸『「承認(アクノレッジ)」が人を動かす』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)の一部を再編集したものです。

■根性型指導の限界

私の知人で清水さんという方がいます。彼の人生は、とにかくここまで野球、野球、野球。野球一色でした。

早稲田実業で甲子園に3回行き、早稲田大学で野球部の主将を務め、社会人では熊谷組の野球部に入り、最終的には監督としてチームを全国大会準優勝に導きました。現在は、日本オリンピック委員会の強化スタッフ(野球)なども務めています。

この清水さんが、日本の野球界における指導者のコーチングについて実状を私に教えてくれました。彼は力を込めて言います。「野球界のコーチングはひどい! 特に少年野球はひどい! 時代錯誤もはなはだしい!」。

もちろん全部が全部ではないでしょうが、彼に言わせると、少年野球では何と言っても相手の存在を認める行為、言葉である「アクノレッジメント」が極端に少ないそうです。

例えば、バッターボックスに入った子どもが、高めのボール球に手を出して空振りしたとします。そうすると監督がどなるそうです。

「何でそんな高い球に手を出すんだ! ボールを見てるのか!」

その子どもが次に取る行動はどうなるでしょうか。とにかく怒られたくないから、次のボールには絶対手を出さないぞと決めるでしょう。で、そうしたときに限ってド真ん中のボールが来ます。子どもは当然振らずに見送ります。そうすると監督はまた怒ります。

「このばかやろー! 真ん中の球に手を出さないやつがどこにいる‼」

子どもは混乱し始めます。どう振っても怒られる、振らなくても怒られる、どうしよう。混乱のさなか、つい何となく三球目のボールに手を出して三振します。結局、監督はまた怒るのです。

「三球三振してどうすんだ‼」

■子供の意見を大事に扱い改善に向けて働きかける

結果として子どもはどんどん受身になります。

怒られないように、というのが最優先されるために子どもは監督が指導したこと以外は決してやらなくなるのです。だからそうした環境下では、イチローや野茂のようなオリジナリティーにあふれたバッティングフォームやピッチングフォームは決して生まれません。

冗談みたいな話ですが、清水さんに言わせると、これが少年野球で非常によく見る光景だそうです。

では、良い監督はどのように指導するのでしょうか。清水さんの話をもとに、先ほどのケースを再び考えてみましょう。

子どもが高めのボール球に手を出し空振りをします。でも子どもの主観では、当然振ったその瞬間はあたる! と思っているわけですから、その肯定的な意図は認めてあげて、「いいぞ、あたると思ったらどんどん振っていいぞ!」と言います。

それから、どこかに良いところを見つけてあげて「今のは確かにあたらなかったけど、スイングスピードはけっこう速かったぞ」などというふうにちゃんとほめるのです。

もちろんそのままにしておくわけではなく、改善に向けて働きかけもします。

「高めのボールはなかなかあてるのが難しいもんだよ。どんなところに手を出したらより確実にあたる気がする?」

一方的に「これを振れ!」ではなくて、相手の意見を大事に扱うのです。「この辺でしょうか?」と、少しさっきより低めの位置を指し示した子どもに対して「そういう場所をね、ストライクゾーン、打つとあたるところ、っていうんだよ」と、子どもの意見に承認を与えます。

子供に野球を教える父親
写真=iStock.com/RichVintage
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/RichVintage

良い監督はアクノレッジメントのシャワーを浴びせる

そして子どもが再びバットを振ると、今度は前に飛ばないまでもチップします。「おう! 今度はチップしたなあ」と小さな成果に対して体全体で賞賛します。

この頃には子どもはもう自分で考え始めるそうです。「次はどこに手を出せば前に飛ぶんだろうか?」と。それで、ついにボールが前に飛んだら、「やったじゃないか‼」と大賛辞です。

どうも「良い監督」は、子どもに問いかけることも含めて、アクノレッジメントのシャワーを浴びせかけているようなのです。

一昔前までは、怒ってどなって根性一本槍の監督でも良かったのかもしれません。苦しさを乗り越えたところにこそ大きな幸せがあると思えたあの時代は。

自分に向けられたアクノレッジメントが少なくて、内側がざわついたとしても、それをぐっと抑え、ただひたすら巨人の星に向かって走り続けることができました。

あの時代、星一徹は星飛雄馬に対して「飛雄馬、どんなボールが投げたいんだ?」などと相手の意見を尊重することでアクノレッジする必要はなく、「飛雄馬、大リーグボール養成ギプスをつけろ!」で良かったわけです。

父親や先生や監督は「権威」として機能していたし、それに続く選手たちや子どもたちは、真面目に言うことを聞けばそれで成長できると思えたものです。

若い選手はそう簡単に権威を信頼しない

ところが、どうも時代は変わってしまったようです。

日本社会の中でいわゆる「権威」と呼ばれる存在――大手銀行、官僚、政治家、警察、教師、親などが軒並み失墜する中で、そう簡単に若い選手たち(あるいは若手社員、子ども)は、コーチや監督(あるいは上司、親)の言うことに対して、心の底から信頼を寄せたりはしません。

鈴木義幸『「承認(アクノレッジ)」が人を動かす』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)
鈴木義幸『「承認(アクノレッジ)」が人を動かす』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)

少年野球チームに所属する子どもたちも、昔は多少どなられても、それをバネにうまくなろうと思えたものです。

でも今は「そこまでがんばらなくても」「別にそんなにうまくなりたいわけじゃないし」「怒ってばかりでイヤな監督」といった言葉が簡単に口を突きます。だから子どもが簡単にチームを去ってしまうのです。

子どもだけではなくて、昨今大学で体育会に入る学生も激減しているそうです。

「今はアクノレッジメントはしないけど、君が本当に血のにじむような努力をしてがんばって、大きな成果をあげたら、そのときこそは、これまで体験したことのないようなすばらしいアクノレッジメントが手に入るよ」

――こうしたアプローチは、どうやら(特に)今の若い人には効かないようです。

【図表1】アクノレッジメントのシャワーで相手を伸ばす
出典=『「承認(アクノレッジ)」が人を動かす』

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鈴木 義幸(すずき・よしゆき)
株式会社コーチ・エィ代表取締役 社長執行役員/エグゼクティブコーチ
慶應義塾大学文学部人間関係学科社会学専攻卒業。株式会社マッキャンエリクソン博報堂(現株式会社マッキャンエリクソン)に勤務後、渡米。ミドルテネシー州立大学大学院臨床心理学専攻修士課程修了。帰国後の1997年、コーチ・トゥエンティワンの設立に参画。2001年、株式会社コーチ・エィ設立と同時に取締役副社長就任。2007年1月、取締役社長就任。2018年1月より現職。200人を超える経営者のエグゼクティブ・コーチングを実施。リーダー開発とともに、企業の組織変革を手掛ける。また、神戸大学大学院経営学研究科MBAコースをはじめ、数多くの大学において講師を務める。

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(株式会社コーチ・エィ代表取締役 社長執行役員/エグゼクティブコーチ 鈴木 義幸)

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