「善玉が多いから、悪玉が多くても大丈夫」は大間違い…最新研究で判明した「コレステロールの新常識」
プレジデントオンライン / 2024年5月26日 7時15分
※本稿は、大島一太『100歳まで元気でいたければ心臓力を鍛えなさい』(かんき出版)の一部を再編集したものです。
■悪玉・善玉コレステロールは「ゴミと掃除機」
悪玉コレステロールや中性脂肪の値が高い場合や、善玉コレステロールの値が低い場合を脂質異常症といいます。これは、最終的に心不全へとつながる最上流にある生活習慣病のひとつです。
コレステロールは体内組織の細胞膜やホルモン、脂肪の消化吸収を助ける大切な役割を担っている脂質のひとつですが、多くの人がご存じのように、血管を詰まらせる悪い働きもします。「悪玉コレステロール」「善玉コレステロール」に分けられ、特に注意が必要なのが「悪玉」です。
悪玉は「LDL」といって、値が上がるとカラダに悪い。対して「HDL」と呼ばれる善玉は、「ゴミ」であるLDLを排除する「掃除機」と考えればわかりやすいでしょう。血中のLDLが血管にベタベタと貼り付いてしまういっぽうで、HDLはそれらを掃除機のように吸い取り、肝臓に戻してくれます。
したがって、ゴミが少なく掃除機が多いほうが、血管にとって好都合。それが逆にゴミが多くて掃除機が少ないと脂質異常症となるのです。また、中性脂肪(トリグリセライド)の値が上がった場合も同様です。
■血液中には「LDLとは別の悪玉」が潜んでいる
健康診断で悪玉(LDL)コレステロールの値が140を超えた場合、善玉(HDL)コレステロールが40よりも少ない場合、そして、中性脂肪が150を超えた場合……これらのうち、ひとつでも当てはまれば、脂質異常症と診断します。
最近では、健康診断に「non-HDL」という項目を目にする機会が増えました。これも、けっして見逃してはいけない項目です。じつは、血液中には悪玉(LDL)コレステロールとは別の悪玉がひそんでおり、それらを含めたすべての悪玉の量を表すのがコレだからです。non-HDLの値は総コレステロールよりも正しく、LDLと同じくらい心筋梗塞の発症を予測できることがわかっています。多くの研究で、140mg/dlくらいから狭心症、心筋梗塞の発症や死亡リスクが高まり、170以上になると、かなり高いリスク上昇が示されています。
ほかのサイレントキラー(高血圧や糖尿病など心臓病につながる危険因子)がある人は、150~169くらいから注意してください。
non-HDLは、総コレステロールからHDL(善玉)を引き算して求めます。
基準値:90~149mg/dl 脂質異常症と診断:170以上
コレステロールやnon-HDLの値が高いと、単なる脂質異常症というだけでなく、甲状腺機能低下症など、他の病気が隠れていることがあります。逆に値が低過ぎるときは、栄養障害や肝硬変などのこともあり、どちらも注意が必要です。
一般に血中脂質の評価は、10時間以上絶食した空腹時の採血で行いますが、non-HDLは食事の影響を受けにくいので、食後でも採血できます。
特に中性脂肪値が高い人は、悪玉(LDL)だけでなく、non-HDLもチェックしてください。悪玉(LDL)とnon-HDLが両方とも目標に達すると、動脈硬化のリスクを大きく抑えることができます。
■危険因子は「掛け算」となって、死亡リスクを高める
悪玉(LDL)コレステロール値は、低ければ低いほど、心血管病の発症や死亡リスクが下がり、逆に高くなるほどリスクも上がることがわかっています(つまり、生きている間にあなたの血管がどれくらいの量のコレステロールに暴露されたかが重要です)。
雪が降る時間が長ければそれだけ積もる量も多くなるように、コレステロールの値が長期にわたって高ければ、血管も詰まりやすくなってしまうのです。
生活習慣病に関するデータを収集し、その結果を医学的に分析して傾向を割り出すには、とても長い時間と労力を要します。特定の人物の健康を長年にわたって追跡・調査しなければならないからです。
ただ、日本にはそのような貴重な成果を生み出している研究がいくつかあります。ひとつは、大阪府吹田市の一般住民を対象にした「吹田研究」です。
この有名な研究では、45歳で悪玉(LDL)が160以上ある人は一生のうちに狭心症や心筋梗塞を発症するリスクが男性47.2%、女性10.2%と割り出しています。
高血圧や糖尿病など、他のサイレントキラーとの重複があれば、心血管病の発症率や死亡率はさらに上昇。たとえば、同じレベルの高血圧でも、そこに高い悪玉(LDL)値が加わると、狭心症や心筋梗塞の発症率ははね上がります。
それらの危険因子は、足し算ではなく掛け算となって、心血管病の発症や死亡リスクを高めるのです。
![医師](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/3/c/1200wm/img_3c21e9c413105b88d622dd0f16c7c1ce402465.jpg)
■高すぎる善玉コレステロールにも要注意
ここでひとつ、気をつけていただきたいことがあります。
一般的に、善玉(HDL)コレステロールの数値が高いのはカラダにいいことと思われています。
しかし最近の研究では、過剰な善玉コレステロールは、むしろ狭心症や心筋梗塞といった、冠動脈疾患のリスクが増加する可能性が示されています。
日本の大規模研究では、善玉(HDL)が90mg/dl以上と高い人は、同40~59の人と比べて狭心症や心筋梗塞、脳梗塞の死亡リスクが上昇することが報告されています。
つまり、高過ぎる善玉コレステロールも、動脈硬化を悪化させる可能性があるということです。高血圧、糖尿病、肥満などに合併するときは注意してください。
健診の結果で、「善玉が多いから、悪玉が多くても大丈夫」と思っている人は多いはず。改めてかかりつけ医に相談してみましょう。
■「コレステロール値を下げるとガンになる」は大ウソ
狭心症や心筋梗塞、脳梗塞などの最上流にあるコレステロールは、サイレントキラーのなかで最も「沈黙」の度合いが高い存在です。その声なき声に注意しながら、値を下げていかなければなりません。
ところが、最近、週刊誌などで「コレステロール値を下げるとガンになる」という記事を見かけることがあります。
実際、ガン細胞はコレステロールをどんどん取り込んで増殖するため、血液検査でコレステロール値が急に下がったときは、ガンが疑われることもあるでしょう。
そのため、コレステロール値が低いとガンになるといわれるのかもしれませんが、これは単なる勘違い。というか、ガンとコレステロールの関係が本末転倒になっており、まったく無根拠な説といえます。コレステロール値が低いのは、ガン細胞にとっても、むしろ不都合なのですから。
同じく「コレステロール値を下げると、アルツハイマー(型認知症)になる」という情報も見受けられます。しかし、これも真実ではありません。
脳の血管には「脳血液関門」という一種のバリアのような機能があって、血液中のコレステロールは通過できない仕組みになっています。
脳のコレステロールは脳内でつくられ、余った分は血液に放出されます。したがって、血液中のコレステロールが脳に影響を与えることはなく、逆に、アルツハイマーの患者さんは脳が萎縮してコレステロールを合成できなくなっています。
■45歳未満からコレステロール対策を始めると効果大
コレステロール値が高い人は、若いうちから治療を始めると、高齢になってからの心筋梗塞や脳卒中のリスクが下がるという研究結果が、2019年、世界的に権威ある医学誌『ランセット(THE LANCET)』に掲載されました。
ドイツのハンブルク大学 心臓・血管センターのフェビアン・ブルンネル氏らが1カ国・約40万人の男女を、43年間(1970~2013年)にわたって追跡調査。そのデータを解析すると――。
![大島一太『100歳まで元気でいたければ心臓力を鍛えなさい』(かんき出版)](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/b/4/1200wm/img_b4c0f98f93fbf1b56bf2c2f44575fd39279491.jpg)
まず、年齢とともにnon-HDLコレステロール値が上がると心血管病のリスクが上昇し、non-HDLが高い人が治療でその値を半分に下げると、リスクも低下することがわかりました。
さらに45歳未満では、はじめの値が143~186mg/dl(日本の基準値は90~149mg/dl)で心血管病の危険因子がある場合、non-HDLを半分に下げれば、心血管病のリスクが男性で29%から6%、女性では16%から4%に低下するという結果でした。
つまり、コレステロール値が高ければ、将来的に心筋梗塞や脳卒中の発症をより減らすために、45歳未満から治療を始めることが重要との結果が指摘されたのです。
まだ若いからと油断せず、ぜひ早いうちから心臓病のリスクを意識し、改善するよう心がけてください。
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心臓専門医
大島医院院長、東京医科大学循環器内科学分野、東京医科大学八王子医療センター循環器内科兼任講師など。1996年、東京医科大学卒業、同大学院修了。聖路加国際病院循環器内科、東京医科大学八王子医療センター循環器内科、東京医科大学病院循環器内科に勤務。日本循環器学会や日本心臓病学会、日本不整脈心電学会など、多くの学術集会で教育講演、シンポジストなどを歴任。日本看護協会、東京都看護協会、日本臨床衛生検査技師会、東京都臨床検査技師会などで長年にわたり教育、研修講師を担当。著書に『Dr.大島一太の7日でわかる心不全』(日総研出版)、『これならわかる! 心電図の読み方』(ナツメ社)などがある。
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(心臓専門医 大島 一太)
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