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ボランティアの採用面接でさえ落とされる…元大手男性管理職が思い知った定年後に月10万円稼ぐ大変さ

プレジデントオンライン / 2024年5月28日 16時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Kazzpix

50代の転職市場の難関をどう超えるか。中高年のセカンドキャリア塾を運営する大桃綾子さんは「無償で働く『プロボノ』経験など、“転職以前のレッスン”の場が重要」という――。

■人材不足解消へのあの手この手

中高年のセカンドキャリアの転職市場は、年々、注目度を増しています。

転職・副業・プロボノをはじめとしたセカンドキャリアをサポートする会社を始めてから5年になりますが、創業当時は、シニアの雇用に前向きな企業を見つけるのも難しいほどでした。

2021年の高年齢者雇用安定法の改正を機に、ここ数年で、大手企業による50代社員への投資という研修導入が増え、同時に人手不足を解消したい地方企業からも、人材の問い合わせが重なるようになってきたのです。

とはいえ、最初から地方移住は難しい。2014年に「地方創生」を掲げた国も、当初は転職・移住を推進していましたが、副業・関係人口に拡大したのが2018年。そして2022年頃から、ボランティアで地域の企業の課題解決を後押しする「プロボノ」に広がり、地方企業にとってもそのメリットが理解されつつあります。プロボノに参加するシニアにとっては、転職・副業前の練習機会にもなり、人手不足を解消するためのあの手この手が、今や、急速に成長しつつあるのです。

同時に、転職・副業はまだまだ厳しい市場でもあります。前回も述べましたが、年代を重ねるごとに転職率は低下し、50代は3.4%です。

■“転職・副業以前のレッスン”の場を

「100社申し込んで、3社面接に呼ばれたらいいほうだ」

50代で転職を志した人は、エージェントから一度はこう言われるそうです。いわば100本ノックのような世界です。

聞いただけで心がくじけそうですが、これはあくまでも初心者、つまり人生初めての転職活動だから起こりがちなのです。

言ってみれば、なんの練習もなしにマラソンを走るようなもので、転職・副業についてリサーチや戦略を立てずに挑むからキツくなるのです。

私たちのセカンドキャリア塾ではプロボノ、すなわち「大人のインターンシップ」という“転職・副業以前のレッスン”の場を用意し、副業を望む中高年の方々と、即戦力を求めている地方企業の方々を結びつけています。ここ数年でのもっとも大きな変化は、年齢の若返りです。数年前は、定年間近の50代後半の男女が主だったのに比べ、最近は50代前半、つまり氷河期世代の人々が、セカンドキャリアを考える層に入ってきました。ゆえに競争が激化しているともいえる。だからこそ、戦略が必要なのです。やみくもに100本ノックをしてはいけません。

■「『50代 転職』で検索したら出てきたから…」

「60歳で定年になるので転職サイトに登録したんですが、マンションの管理人の職しか出てきません」

悩みながら相談に来られた56歳の岡本さん(仮名)。部長を務める大手製造業には勤続30年以上で、大学生と高校生の二人のお子さんがいる四人家族です。

再雇用制度を利用するか、定年を待たずに退職金をもらって転職するか。

ひとまず岡本さんがやったのは、誰もが知る大手転職サイトの登録だったのです。

さっそく訊いてみました。

「どうしてその転職サイトを選んだのですか?」
「『50代 転職』で検索したら、いちばん上に出てきたから……」

岡本さんも苦笑していましたが、私も思わず笑ってしまいました。

岡本さん、普段の仕事でも、いつもそんなことをされていますか? 仕事で何かを調査するとき、オンライン検索のトップに出てきたことをそのまま鵜吞みにされますか? 決してそうではないはずです。

人は初めてのことになると、なぜか思慮の足りないコトをしてしまう――。これは往々にしてあることです。必要なのは、戦略と実践。普段の仕事でやっていることと同じではないでしょうか。

仮説を立て、動いてみる。そうすれば、仮説の良し悪しだけでなく、相手も見え、自分も見えてくる。自分なりの工夫や独自の手法も思いつき、余裕も生まれてくる。要するに、30年間社会人としてやってきたことを、そのまま転職活動にも応用すればいいのです。

■小さく始めて練習するコツ

戦略のポイントは大きく2つ、「お金」と「時間」です。

お金というと、どうしても転職や副業先の収入ばかりを意識しがちですが、それ以前の投資にも目を向けることが大事。すなわち“自分への投資”です。それで選択の幅がぐっと広がります。

資格取得や学び、越境学習など、セカンドキャリアに向けてもういちど自分を耕してみる。国もリスキリングやリカレント教育を推進する中で、圧倒的に選択肢が増えています。

自分への投資額の感覚はそれぞれですが、たとえば大学院は平均して100万円前後。国家資格取得の相場は約50万。民間講座は手軽なものから資格取得までさまざまありますが、費用対効果はある程度比例します。

大量のお札に埋もれた時計
写真=iStock.com/imagedepotpro
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/imagedepotpro

自分にふさわしい自己投資額は、いくらなのか。

目安になるのが、投資から得られるリターン。副業の平均月収は5万~10万円であり、副業獲得を目指す場合の目安になります。もう一つ、「いつまで働くか」。生涯年収を考えてみると、長期視点での自己投資も選択肢に入ってくるでしょう。「やる/やらない」は置いておいて、まずは期間、自己投資、リターンのバランスの健全性を考えてみるだけでも、自分の中に基準ができていきます。

定年までまだ時間があるとすれば、働きながら自分に投資ができるので、自己投資比率が少々高くなってもリターンが見込めるでしょう。要するに、50代の自己投資額は“セカンドキャリアの資本金”とみなして、自分で納得がいく額を決めるのが得策です。基本的には、「小さく始めて練習する」というリスクヘッジの考え方を、私はお薦めしています。

■“アウェー”に自分自身を連れ出してみる

次に、時間です。

一日の時間は誰もが24時間。

ですが、誰に会うか、何をするかで、時間の質は一気に変わってきます。

セカンドキャリアを考える人にとって、これまでの30年以上にわたる会社生活の習慣は、知らず知らずのうちに自分の枠になっています。要するに、“足枷”です。今後は時間の使い方が変わる、いえ、変える必要が生じてくるからです。お金が減り、時間が余ってくるのがシニア世代。そういっても過言ではありません。

早いうちからの練習が、これも功を奏します。

「会社でどっぷり」働く習慣を、少しずつ変えていく、ということです。

たとえば、副業のための時間を50代から前もって確保する。自分への投資の時間にしたり、地域のイベントを探したり、旅先のコワーキングスペースで仕事をしてみたり。いわば、“アウェー”に自分自身を連れ出してみる。そうすれば、必ずや新しい情報が得られ、セカンドステージに応用できる物や人に出会えるものです。

目安としては、まずは月に10時間。ちょうどシニアの平均的な副業収入が約10万円ですから、それだけの時間をまず先に確保して、時間と収入のバランスをつかんでおくのがお薦めです。

■無償でスキルを提供する学び

こうした戦略と共にお薦めするのが、大人のインターンシップである「プロボノ」です。

今の仕事を続けながら、会社の「外の世界」を知ることができる選択肢です。

プロボノの文字と天秤
写真=iStock.com/designer491
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/designer491

「プロボノ」の語源はラテン語。「Pro bono publico(公共善のために)」から生まれた言葉で、職業上のスキルや経験を活かして取組む社会貢献活動です。私たちのセカンドキャリア塾では、40~60代の皆さんが、全国各地と主にオンラインで、プロボノとして活動しています。いわば、転職・副業の練習ともいえます。なぜなら、数カ月間プロボノとして働くことが、セカンドキャリアの前哨戦になるからです。初めての業界・企業・職場で、まずは無償で協働することにより、ホンネの体験ができ、必ずや自分の新しい面が見つかるのです。

■不採用で目が覚めた…

それは、最初の面談から始まっています。

良かれと思って失敗してしまった、50代大手企業の方の例を最後にご紹介しましょう。

快活な上原さん(仮名)。役職定年を経て、60歳の定年を前に、「社内で培った経験を社会で腕試ししたい」と大人のインターンシップに参加されました。大学からずっと東京ですが、故郷の九州に関わりたい、元気がなくなっている地域の活性化に貢献したい、との強い希望があり、プロボノ先として自治体をご紹介し、面談に臨まれたのです。

上原さんは故郷への愛を語り、「インターン先に貢献したい」と故郷の町を事例にしながら、プロボノ先の自治体での展望を熱く述べられました。ただし、上原さんの故郷は、人口約15万人の一大都市。一方で、プロボノ先の自治体は、人口4000人の町。地域も違えば、使える予算も異なります。規模感の全く異なる「あれもできる、これもできる」という上原さんの提案に、相手はすっかり及び腰の展開になってしまいました。

結果は不採用。上原さんは、その一回の経験でおおいに学んだといいます。

「無償でも採用されなかったことで、目が覚めました」と。

それからの上原さんは、見た目にも吹っ切れていました。次のプロボノ先企業との面談では、相手の人となりを尊重しながら、プロ野球ネタで話が弾み、無事にインターンへと進みました。忖度なしの無償の現場だからこそ、長年のクセや勘違いに気づくことができたのでしょう。

腕を組んで笑顔のシニア男性
写真=iStock.com/AscentXmedia
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/AscentXmedia

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大桃 綾子(おおもも・あやこ)
キャリアコンサルタント
1981年、新潟県生まれ。東京外国語大学(中国語)卒業、慶應義塾大学大学院社会学研究科修了。三井化学にて人事・事業企画に約10年従事。丸亀製麺を運営するトリドールホールディングスを経て、起業。Dialogue for Everyone 代表取締役。

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(キャリアコンサルタント 大桃 綾子 構成=大場葉子)

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