なぜトップ営業はものすごく腰が低いのか…「売らない、押さない」のにバンバン売れる人が密かにしていること
プレジデントオンライン / 2024年6月3日 15時15分
※本稿は、鈴木義幸『「承認(アクノレッジ)」が人を動かす』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)の一部を再編集したものです。
■トップ営業マンが教えてくれたこと
「トップ営業マン」と呼ばれる人に何人も会ってきました。
証券会社で、北海道にこの人ありと言われている人。大手の複写機メーカーで10期連続で営業目標を達成している人。情報通信の会社で、新規開拓をさせたらこの人の右に出る者はいないと言われている人。年収で1億円近く稼ぐ生保の営業マン……。
こうした営業マンは、端から見る限りにおいて、まずものすごく腰が低いといえます(媚びているという意味ではなくて、謙虚であるということです)。えらそうな素振りを微塵も見せません。そしてアクノレッジメント(相手の存在を認める行為)がものすごくうまいのです。
うまいというと技巧的に聞こえるかもしれませんが、もうアクノレッジメントが「生き方」になっているという感さえあります。だから、とても自然に(少なくとも周りにはそう見えます)、人を大事にしているというメッセージをふんだんに伝えています。
例えばある外資系保険会社の営業マン。27年前、このコーチングというビジネスを立ちあげたとき、私もフルタイムの一営業マンでした。
始めからコーチングを実践する機会があったわけではなく、当然お客さんを見つけなければいけませんでしたから。そこで何人かの「トップ」と言われている営業マンに教えを乞いに行ったのですが、そのひとりが彼でした。
その中で彼が主催する勉強会にまぜてもらったり、お客さんと話しているところを聞かせてもらったり、直接営業について伝授してもらったりもしました。
■「買ってください」と迫らず何気ないことをすくいあげる
すごく驚いたのは、彼がちっとも「売らない」ということです。それまで営業経験のなかった私は、営業というと「買ってください!」と迫っていくものなのだろうというイメージがありましたが、彼はちっとも売りません。
では何をしているのかというと、とにかくよく人の話を聞いています。別に保険の売りにつながることを聞き出しているわけではないのです。ただ、何でもよく聞いています。
そして相手が今興味があることや、関心のあることを自分の中にインプットしておいて、折に触れその情報を提供してあげるのです。
独立を考えているなどという人がいれば、自分のネットワークから店頭公開をしたベンチャーの社長を紹介して引き合わせてあげる。ワインが好きだというのを聞くと、彼が足で見つけた厳選レストランをメールですぐに送ったりする……等々。
何気ない話の中で出てきた何気ないことを彼が真剣にすくいあげてくれることに、多くの人は感動するのです。しかもやってあげたというような嫌味がみじんもありません。
本当にこの人は何かをしてあげたくてやっているんだなという感じが伝わってくるのです。それで、その結果として、こんな人に保険を任せたいと周りが自分からドアを叩いてくるわけです。
![握手をするビジネスマン](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/8/6/1200wm/img_863d6e038f971cbedcab2a32680bdc74208978.jpg)
■とにかく売らず、存在価値を認める言葉を連発
また別の営業マンの話です。彼はある情報通信の会社で5年近くトップ営業マンとして活躍した後、コンサルティング会社を起こした人です。彼は私どもの会社とアライアンスを組んでいることもあって、幾度も営業に同行したことがあります。
彼も、全然売りません。もう少し押したほうがいいんじゃないのと、提携しているこちらとしては思うのですが、とにかく売らないのです。
何をしているのかというと、もうひたすら、「お会いできて良かった」「この会社のファンだ」「この会社の製品のここが良い、あそこが良い」「雑誌に載っていた社長のこの言葉を覚えている」といったふうに、とにかく相手自身の、あるいは相手の会社の存在価値を高める言葉を連発するのです。とっても自然に。お世辞にはまったく聞こえません。
![鈴木義幸『「承認(アクノレッジ)」が人を動かす』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/e/c/1200wm/img_ecd5fa586deb832ae7b99ffef9ffbc18345806.jpg)
あるとき、彼と同行して電機メーカーへプレゼンテーションに行ったのですが、そのときの彼の話の切り出しには本当に驚いてしまいました。
「知人、友人を含めて御社の担当をさせていただいている人間を何人か知っています。それで今日ここに来る前に、彼らに御社を担当していてどうかということを聞いて参りました。
彼らはみな口を揃えて言うんです。一度御社の担当をすると、すっかり御社のファンになってしまうと。ファンになるから御社のためには寝る間も惜しんで仕事をしたくなると。私もいつかそんな御社のファンクラブの一員にぜひなりたいと思って、今日は参りました」
■求められるのは「気の利いた企画書」より「味方」
これが全然臭くないんです。むしろとても自然に聞こえました。この電機メーカーは今でも彼の会社と弊社のビッグクライアントのひとつになっています。
もちろんそれだけが売れる理由ではないでしょうが、売れる営業マンのコンピテンシーのひとつはアクノレッジメントであると、確信しています。
結局お客さんのほうでもほしいのは、筋が通っていて気の利いた企画書の前に、「味方」なのですから。
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株式会社コーチ・エィ代表取締役 社長執行役員/エグゼクティブコーチ
慶應義塾大学文学部人間関係学科社会学専攻卒業。株式会社マッキャンエリクソン博報堂(現株式会社マッキャンエリクソン)に勤務後、渡米。ミドルテネシー州立大学大学院臨床心理学専攻修士課程修了。帰国後の1997年、コーチ・トゥエンティワンの設立に参画。2001年、株式会社コーチ・エィ設立と同時に取締役副社長就任。2007年1月、取締役社長就任。2018年1月より現職。200人を超える経営者のエグゼクティブ・コーチングを実施。リーダー開発とともに、企業の組織変革を手掛ける。また、神戸大学大学院経営学研究科MBAコースをはじめ、数多くの大学において講師を務める。
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(株式会社コーチ・エィ代表取締役 社長執行役員/エグゼクティブコーチ 鈴木 義幸)
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