「見栄を張ってはいけない」は大間違い…和田秀樹が200万円のワインを買って、人に振る舞い続ける理由
プレジデントオンライン / 2024年5月30日 15時15分
※本稿は、和田秀樹『65歳からのひとりを楽しむ「いい加減」おつき合い』(PHP研究所)の一部を再編集したものです。
■年齢を重ねて若い人に無理に合わせるのは逆効果に
習いごとなどで、若い人たちとつき合う機会があると、話を合わせようと、若い世代の間で流行しているファッションや音楽などについて、熱心に調べる人がいます。
「若さを保つためには、若い世代と交流したほうがいい」などと言われますが、そこまでしてつき合わなければいけないものかとも思います。
自分が相手に合わせて仲よく「してもらう」関係は、なるべく避けたほうがいいと思います。
こちらが相手に合わせるだけだと、相手の側からしても得るものがありません。
たとえば60代でアニメや鉄道のおたく歴50年という人は、その道の若年者が知り得ないことをいろいろ語ることができるからこそ、下の世代からも「面白い人」と認識されるのです。
「年の功」を発揮して、趣味の集まりで、それを長年やってきたからこその知識や経験を相手に教えることができれば、相手も新しい発見や知識を得られます。
反対に、60代になって新たにダンスやフラワーアレンジメントを始めて、若い人にいろいろと教えてもらうことで、いい関係が築けているのなら、それはそれでいいと思います。
教える側も気分がいいでしょうし、こちらもそのコミュニケーションを楽しむことができます。そのどちらでもなく、ただ嫌われないために相手に合わせるなどということは、年齢を重ねてからするべきこととは思えません。
■人生の残り時間を考えると我慢は割に合わない
相手に合わせてしまいがちな人が、それを変えるために必要なのは、性格や思考をどうこうするというより、「場数を踏む」ことだと思います。
嫌われるかもしれなくても、言いたいことを言ってみる。何かお願いをしてみる。その結果、それでも嫌われない場合があるという経験を得ていくことで、いつも人に合わせなくてもいいのだと思えるようになるはずです。
とはいえ、たまには周囲に合わせなければいけないときもあります。どんなときでも意地を張れということではありません。他人に合わせるほうがラクという人は、それでかまわないと思います。
ただ、我慢するとか、ストレスと感じるようなことは、もうそろそろやめたほうがいいということです。
嫌われるのが怖いからと我慢を続けても、残りの人生でそれほどいいことがあるとは思えません。
若いうちは、どんなことでも我慢すれば、いずれ何らかの見返りが得られると思えたかもしれませんが、人生の残り時間を考えれば、もはやその我慢は割に合わないと考えたほうがいいでしょう。
■見栄を張るのも自分の気分がよければいい
友達との会話で、あるいはフェイスブックやインスタグラムなどのSNSで、自分の暮らしぶりなどについて見栄を張る、豊かで幸せな自分をアピールして、周囲の人に対して「マウントをとる」、つまり優位に立とうとする。そんな人はよくいます。
虚勢を張るのはたしかにむなしいことで、そのことに自分自身でしんどさを感じているのであれば、やめたほうがいいでしょう。でも、本人がそれで気分がいいのであれば、別にかまわないのではと思います。
SNSで架空の自分になりきったとしても、それで詐欺(さぎ)を働いたりするのでなければ、別にとがめられるようなことでもありません。見栄を張るために浪費するのが問題だとしても、見栄のためだけに使うお金など、たかが知れています。
歳を重ねると、お金に余裕のある人とそうでない人、健康な人と体の衰えが激しい人など、いろいろな面で個人差が大きくなってきます。
そこで相手との格差を感じて、つき合いがつらくなるようであれば、無理につき合いを続けなくてもいいと思います。
一方で、たとえば友達がリッチな未亡人になって、その友達と会うと自分もちょっとリッチな気分になれるとか、かつての同級生が有名人になって、その同級生と一緒にいると、なんとなく気分がいい、ということもあると思います。
その気分のよさを楽しむのも悪くないことです。また、人づき合いでは、できる範囲で相手に親切にするに越したことはありません。そうすることで相手も喜び、自分も気分のよさを味わえます。
■私が200万円のワインを購入し、それを人に振る舞う理由
ただ、そこで大事なのは、見返りを求めないということです。
「期待したほど喜んでもらえなかった」「十分なお礼がなかった」など、見返りがないことでいやな気分になるのであれば、親切にする意味がありません。お金を貸すなら、あげるつもりで貸すようにしたほうがいいでしょう。
「いい加減」とは、結局のところ、自分にとっていいさじ加減、自分自身がいい気分になるかどうかの塩梅です。どんなことも、それを基準に判断したほうがいいと思います。
何が正義で何が悪かなど、客観的な基準に基づいて規定できることは、実は世の中にはほとんどありません。お金だけは、数字で損をしたか得をしたかがわかると思うかもしれませんが、金銭的に損をしたとしても、自分の気分がよければそれでいいはずです。
純粋に金銭的な損得で言うなら、形のない消費である映画などのエンターテインメントは、基本的にすべて損ということになります。しかし実際は、個人の満足度という数値化できない基準によって、それぞれの人にとっての価値が決まります。
私も、100万円や200万円という価格のワインを手に入れ、それを人に振る舞うこともあります。それも見栄っ張りと言えばそうかもしれませんが、そのときの気分のよさがあるからこそ、たまに著書が売れたときぐらいは、そんなことをしてもいいかなと思っているのです。
■話を聞いてもらえないなら相手を代える
建前だけでつき合っていても、お互いつまらないはずです。相手が自分とのつき合いを楽しんでいないように感じるとしたら、無理をしていないかと相手に率直に尋ねることができれば、それに越したことはないと思います。
「自分は相手とのおしゃべりを楽しみたいと思っているのに、相手はなんだかつまらなそう」
「こちらが相手に聞いてほしいことや、関心のある話題について熱心に話しても、相手の反応がいまひとつで、自分が一方的に話しているような気がする」
そんなときは、「話す相手を代える」という発想もあっていいと思います。
「あの人は私の話を聞いてくれない」などと、相手に対して不満を募らせるよりも、相手を代える。その当たり前のことをしない人が多いと感じます。
話す相手はほかにいくらでもいます。そして、人には相性があります。
たとえば、自慢話は誰も聞きたがらないので、しないほうがいいものとされています。でも、それを楽しんで聞いてくれる人も、いないとは限りません。
子どもや孫が一流大学に合格したという自慢話は、聞かされたくないと思う人も多い一方で、それを聞いて、自分の子どもや孫の受験のヒントを得たいと思う人もいるでしょう。
実際、子どもを全員東大理科III類(医学部)に合格させたという母親が、教育のカリスマ的な存在として著書を出したり、講演したりしています。そこで語られる話は、結局のところ自慢話なわけですが、自分の子どもの受験を成功させたい親が、熱心に耳を傾けています。
一般論としては、話をするときは相手の反応を見たほうがいいし、相手がつまらなそうにしているなら、話題を変えるなどの対処をしたほうがいいでしょう。
そのとき、自分が話したいことを、興味深く聞いてくれる相手はほかにいるかもしれないのだから、目の前の相手だけに聞いてもらう必要はないのだと思うことができれば、気がラクになるのではないでしょうか。
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精神科医
1960年、大阪市生まれ。精神科医。東京大学医学部卒。ルネクリニック東京院院長、一橋大学経済学部・東京医科歯科大学非常勤講師。2022年3月発売の『80歳の壁』が2022年トーハン・日販年間総合ベストセラー1位に。メルマガ 和田秀樹の「テレビでもラジオでも言えないわたしの本音」
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(精神科医 和田 秀樹)
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