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なぜ「新聞の夕刊」が激減しているのか…新聞社幹部からも「もはや高齢者以外には不要」とこき下ろされるワケ

プレジデントオンライン / 2024年5月31日 9時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/shaun

■地方で相次ぐ夕刊の休刊

新聞の夕刊が次々と姿を消している。北海道新聞や静岡新聞といった有力な地方紙が夕刊の発行をやめた。朝日新聞や毎日新聞などの全国紙も「朝刊のみ」の地域を増やしている。この20年で、夕刊の購読者数は4分の1に減った。

「静岡新聞の夕刊販売部数は約53万部で、北海道新聞は約23万部でした。この2つが夕刊をやめたインパクトは大きかったですね」

そう語るのは、元時事通信記者で、現在はメディア激動研究所長の井坂公明さんだ。

静岡新聞は2023年3月末、北海道新聞は同年9月末に夕刊を休刊した。同じ時期に、信濃毎日新聞も夕刊をやめている。24年に入ってからも、新潟日報が2月末に夕刊と同じ時間帯に宅配していた「おとなプラス」を休刊した。

全国紙も夕刊を発行する地域を縮小している。24年3月末には朝日新聞が北海道で夕刊を休止した。同じタイミングで、毎日新聞は大津市や姫路市などで夕刊の発行をやめた。いまや夕刊が配られているのは、東京や大阪、名古屋などの大都市圏に限られつつある。

■20年で夕刊の部数は4分の1に

新聞業界の動向をウオッチしている井坂さんによると、夕刊廃止が相次いでいるのは、新聞社のコスト削減のためだ。世界的な資源価格の高騰を背景にした「新聞用紙代の値上げ」が経営を直撃しているという。

日本新聞協会の調査によると、新聞の総発行部数は2000年に5370万部だったのが、2023年に2859万部。約20年で半減している。

夕刊の減少はもっと急激だ。朝刊と夕刊の両方を配達する「朝夕刊セット」は2000年に1818万部だったが、2023年には445万部と4分の1以下になっている。

「日本では大正期以来、朝刊と夕刊の両方を宅配する『セット売り』が行われてきましたが、近年、地方紙はどんどん夕刊をやめています。いまでも夕刊を発行している主要な県紙・ブロック紙は、河北、東京、中日、北國、京都、神戸、西日本の7紙だけです」(井坂さん)

■新聞関係者から相次ぐ「夕刊不要論」

次々と夕刊が消えていく状況をメディア関係者たちはどう見ているのか。周囲に話を聞いてみると、メディア関係者でも夕刊は読んでいない人のほうが多い。

「新聞はいまも購読しているが、夕刊は大事件などよほどのことがない限り読まない」(元新聞記者/40代)

「SNSの台頭で、速報性の担保という大義が失われている。新聞社も、夕刊に載せる記事は時事ネタから読み物にシフトしている。わざわざ朝刊と分けて宅配する意味はない」(元新聞記者/30代)

「夕刊は不要。朝刊すら全部読めない人のほうが多い中で、夕刊があるとむしろゴミが増えて、新聞不要と思わせるきっかけになると思う」(元新聞記者/30代)

このように元新聞記者から厳しい声が挙がっているが、現役の新聞社員の中にも「夕刊は不要」という意見がある。

「基本的に夕刊は不要。理由は代替物が多くあるから。速報はデジタルやテレビでよいし、文化コンテンツは雑誌でよい」(新聞社員/40代)

「高齢者にとって、夕刊は嗜好品、時間つぶしの道具としてニーズがあると思うが、もはや高齢者以外には不要だと思う」(新聞社経営幹部/40代)

私が意見を聞いたメディア関係者の間では「夕刊不要論」が目立っていた。にもかかわらず、なぜいまも、一部の新聞社で夕刊が発行されているのだろうか。

元新聞記者で、現在は公的機関で働く60代の男性は「新聞社の横並び体質に加え、『夕刊を廃止すると朝刊も取ってくれなくなるのではないか』という目に見えない不安におびえているからだろう」と推測した。

■半世紀前から「夕刊離れ」はあった

実は、夕刊離れはいまに始まったことではない。半世紀前の1970年代にすでに問題が顕在化していた。

朝日新聞の調査研究室が1975年にまとめた「単売現象にみる夕刊の問題点」という社内報告書が手元にある。その冒頭にこんな言葉が記されている。

朝日新聞社調査研究室「単売現象にみる夕刊の問題点」
筆者提供

「ニュースや解説は朝刊から夕刊へ、さらに翌日の朝刊へと“継続的・連続的”に報道される。それを、途切れ途切れに、朝刊だけで受け取っている単売読者は、私たち新聞人にとって、まことに我慢のならぬ存在に映る。報道の使命という観点からも、好ましい現象ではない。その単売が、すさまじい勢いでふえている」

当時の朝日新聞は、朝刊と夕刊をセットで購読する読者が大半だったが、夕刊を取らずに朝刊だけを取る読者が増加していた。それを「単売現象」と呼んで、原因を詳細に分析したのが、この社内報告書だ。

なぜ「単売現象」は起きているのか。新聞を届ける販売店の事情として、次のような点が列挙されていた。

(1)読者が夕刊を読みたがらない
(2)他紙が単売で拡張してくるので、対抗策として単売で売る
(3)新聞代の値上げがひびいた
(4)地域的に条件が悪く、夕刊配達にコストがかかりすぎる
(5)朝刊も含め、若い層に「新聞離れ現象」が広がっている

このうち、(2)を除く4点は現在でも「夕刊離れ」の原因になっていると考えられる。

■「朝刊で間に合う」は昔から言われていた

(1)(3)(5)は読者側の事情だが、その点については次のような理由が多かったという。

(a)朝刊だけで間に合う
(b)テレビで間に合う
(c)経済的な事情
(d)忙しくて読む時間がない

おそらくいま調査すると「ネットで間に合う」がトップに来るのだろうが、「夕刊を取らない理由」は、昔からあまり変わっていないといえそうだ。

逆にいえば、半世紀も前から「夕刊離れ」が起きていたにもかかわらず、いまだに夕刊が配り続けられていることこそ、驚くべきことなのかもしれない。

■販売店も「夕刊をやめてほしい」と思っている

「新聞の夕刊は、惰性で続いているだけにすぎません」

朝日新聞の販売管理部長を務めた畑尾一知さんは、そう指摘する。畑尾さんは、2018年に新潮社から出版した著書『新聞社崩壊』(新潮新書)の中で、未来の新聞がとるべき施策の一つとして「夕刊廃止」を挙げている。

「紙の新聞は、速報性を重視しなくていいと考える。現代人の生活習慣に照らすと、新聞閲読は一日一回、朝刊だけで十分である」

このように顧客ニーズの観点から夕刊不要論を唱えているが、新聞販売店にとっても夕刊はメリットよりもデメリットが大きいとみている。

「現在の人手不足の状況からすると、夕刊を配達するための要員を確保するのも大変です。朝刊と違って折込広告がほぼないですし、販売店は夕刊がないほうが助かるでしょう」

新聞販売店
新聞販売店(写真左=anna Hanks/CC-BY-2.0/Wikimedia Commons)

■「5年以内には夕刊はなくなる」

読者の多くが夕刊は不要だと考え、販売店の負担も大きいのならば、いずれ夕刊はなくなっていくだろう。それはいつなのか?

知り合いのメディア関係者約40人にアンケートをとってみたところ、過半数が「5年以内に夕刊がなくなると思う」と答えた。

【図表】日本の新聞から「夕刊」がなくなる日は来るでしょうか?
筆者作成

畑尾さんも「夕刊がなくなる明確な時期はわかりませんが、首都圏以外の地域はどんどんなくなっていくでしょうね」と予想する。

メディア激動研究所長の井坂さんは「朝日新聞関係者の話を総合すると、2030年までにすべての夕刊を廃刊する方向で調整が進んでいるようです」と語る。地方紙だけでなく、全国紙も夕刊をやめる日が迫っているのかもしれない。

一方、朝日新聞の広報部に「2030年までにすべての夕刊を廃刊するという状況なのか」と問い合わせると、「ご指摘のような状況は一切ありません」という回答だった。

■「朝・夕刊セット」は日本独自のスタイル

実は、日本では当たり前とされてきた「朝・夕刊セット」という新聞の購読スタイルは、海外ではほとんど例がないという。

欧米にも、フランスのル・モンドのような夕刊紙は存在するが、「夕刊だけ」を発行しているのであって、同じ新聞社が朝刊と夕刊の両方を発行しているわけではないのだ。

日本の新聞業界が育んできた「朝・夕刊セット」という独自のスタイルが、国内から消える。その日が刻々と近づいている。

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亀松 太郎(かめまつ・たろう)
フリーランス記者/編集者
大卒後、朝日新聞記者になるが、3年で退社。法律事務所リサーチャーやJ-CASTニュース記者などを経て、ニコニコ動画のドワンゴへ。ニコニコニュース編集長としてニュースサイトや報道・言論番組を制作した。その後、弁護士ドットコムニュースの編集長として、時事的な話題を法律的な切り口で紹介するニュースコンテンツを制作。さらに、朝日新聞のウェブメディア「DANRO」の創刊編集長を務めた後、同社からメディアを引き取って再び編集長となる。2019年4月〜23年3月、関西大学の特任教授(ネットジャーナリズム論)を担当。現在はフリーランスの記者/編集者として活動しつつ、「あしたメディア研究会」を運営している。

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(フリーランス記者/編集者 亀松 太郎)

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