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金価格の上昇は今後も確実に続く…各国の中央銀行が「金売り」から「金買い」に転じた納得の理由

プレジデントオンライン / 2024年6月3日 10時15分

出典:UBS

金価格上昇が続いている。背景にはなにがあるのか。エコノミストのエミン・ユルマズさんとフリーアナウンサーの大橋ひろこさんの共著『無敵の日本経済! 株とゴールドの「先読み」投資術』(ビジネス社)より一部をお届けする――。

■日本人もゴールドを猛烈に買っている

【エミン・ユルマズ(以下、エミン)】2023年8月末、ゴールドの国内店頭販売価格(税込)では、1グラム1万円を超えました。

つまり、1キロインゴットバーは、もう1000万円を超えている。

【大橋ひろこ(以下、大橋)】このゴールドのETFのチャートを見てください(図表1)。このとおり、日本のゴールドのETFの残高は大きく伸びています。

ドル建てゴールドのETFは、2020年あたりから、機関投資家の資金が抜けており残高が減少していますが、日本のゴールドのETF残高は増え続けています。

つまり、日本の個人投資家がゴールドのETFを猛烈に買っているのです。

■逆張りの日本人投資家が順張りに転じた

【エミン】たしかに勢いよく買っていますね。

【大橋】少し前まで日本人は逆張りの特性が強くて、ゴールドの相場が上がると、家にあるゴールドをかき集めて地金商の店頭に持ち込んで売っていました。

ところが、いま日本人の個人投資家はゴールドの相場が上がっているのに、ゴールドを買い求めています。ゴールドが高くなってもさらに買う、欧米型の順張りスタイルに変わっているのです。

日本人の意識も相当変わってきているのでしょう。デフレ時代が終焉し、今後インフレが進むだろうことに気付いている人は、キャッシュをゴールドに換えているのです。

■かつては「売られる資産」だった

【エミン】インフレの意味を理解して行動に出る日本人が、どんどん出てきているということですか……。

【大橋】これは過去50年のドル建てゴールド価格の推移です(図表2)。

ドル建てゴールド価格の50年の推移
大橋作成

1トロイオンスのゴールドが35ドルの米ドルと交換されていた金・ドル本位制は1971年のニクソンショックで突如終焉します。以降、市場で取引されゴールド価格が形成されるようになりました。

しかし、80年に875ドルという当時の史上最高値を付けた後は、低迷が続きました。

【エミン】かつてゴールドは「売られる資産」だと認識されていましたね。

【大橋】そうです。1990年代後半までの期間、それまで大量のゴールドを保有していたヨーロッパ各国の中央銀行はゴールドを売却し、上昇目覚ましい米国のドル資産を購入していました。

■「ゴールド売却制限」で流れが変わった

【大橋】89年にベルリンの壁が崩壊、90年には東西ドイツが統一、米ソ冷戦終結が宣言され、米国が名実ともに世界の覇者となったためです。

98年には米国の財政収支も黒字に転換、米国債や基軸通貨ドルの信認が上昇、欧州の中央銀行によるゴールド売却によってゴールド価格の下落が続いたのです。金利の高いドル資産に比べ金利がつかないゴールドへの注目が薄れたということです。

ところが、99年9月、ECB(欧州中央銀行)とヨーロッパ各国の中央銀行は、ゴールドの売却を制限する協定を結びます。「ゴールド売却制限協定=ワシントン協定」です。

■金価格が下がらなくなった

【大橋】ゴールドを保有する中央銀行にとって、ゴールド価格の値下がりは保有資産の目減りを意味します。自らのゴールド売却によってゴールド価格が下落することで保有資産が圧縮されていく事態に歯止めをかけようというものです。このときからゴールド価格は、下がらなくなりました。

「ゴールド売却制限協定=ワシントン協定」の内容は以下のとおりです。

1.ゴールドは今後も世界各国の重要な準備資産であること。

2.上記中央銀行は、すでに決定済みの売却を除いて市場に売り手として参加しないこと。

3.決定済のゴールド売却は、今後5年間にわたり協調プログラムのもとで実施されること。年間の売却量は400トン以下、5年間の合計売却量は2000トンを超えないこと(この2000トンには、売却決定済みの1715トンが含まれている)。

4.署名国中央銀行は、ゴールドの貸出、ゴールドのデリバティブ取引を拡大しないことにも合意したこと。

5.この協定は5年後に見直されること。

■日銀の金はアメリカに置かれている

【大橋】また、この協定にはIMF、BIS、米国、日本も同意を表明し、これによって全世界の公的保有金の90%近くがこの制限に含まれることとなりました。

なお、このワシントン協定は、2004年3月に更新されることが決定し、同年9月から適用されています。

【エミン】世界各国の中央銀行は金準備を必ず持っています。日本の日銀も金準備を持っていますが、保有量はずっと730トンで、まったく増えていません。

そのありかは日本ではなく、大半は米ニューヨーク連邦準備銀行に置いてあると、日銀が発表しています。

金インゴット
写真=iStock.com/brightstars
金価格が下がらなくなった(※写真はイメージです) - 写真=iStock.com/brightstars

【大橋】そうですね、日本銀行はゴールド保有を増やしていません。米国の同盟国である日本は米国債の最大の買い手ですからね。

■中国人民銀行が金を買っている

【大橋】ワシントン協定が結ばれたものの、じつはリーマン・ショックを経験する2008年まで世界の中央銀行は依然としてゴールドの売り手であり続けました。

これがリーマン・ショックで一変します。現在では世界の、特に新興国の中央銀行はゴールドの買い手としてその存在感を増しています。

特に中国の中央銀行である中国人民銀行が2022年から、凄まじい勢いでゴールドを買っています。先に中央銀行が米国債を売って人民元レートの下落を防いでいるという話がありましたが、ゴールドについては買い貯めているのです。

これは中国の金準備の推移です(図表3)。中国は公表していないゴールドの購入があると指摘されており、完全把握は不可能ですが、2023年から中国人民銀行が金準備高を増やしていることが確認できます。

中国の金準備高の推移
出典:World Gold Council

■中国はハイペースで購入を続けている

18年にも、中国人民銀行は10カ月連続でゴールドの購入を続けたことがありましたが、このときのゴールド購入の合計は105.7トンで、月平均10.6トンでした。

23年、中国人民銀行の金準備高は11月末までに2226トンまで増加しています。今回は13カ月連続でゴールドを購入しており、この間だけで、278トンもの金が積み増されたのです。月平均21.387トンのハイペースで18年の倍のペースでゴールドを買い続けている計算です。

■米国と戦争すると米国債が紙くずになる

【大橋】この背景には、ウクライナに侵攻したロシアへの制裁として、米国がSWIFT(国際銀行間通信協会)からロシアを追い出したことがあります。

米国債には、米国及び米同盟国に軍事行動を行えば大統領令だけで無効化できるという「敵対国条項」が購入時の条件になっています。

米国と対立軸にある国は、ドル資産を“無効化”されるリスクが常に横たわっているのです。

■ウクライナ戦争前にロシアは米国債を大量売却していた

【大橋】ロシアは、18年米国債の大量売却に動きました。14年のクリミア半島併合後、米国はロシアに制裁を科していますが、以降、ロシアは徐々にドルの保有を減らし21年には、政府系ファンドが持つドル資産をすべて売却しました。

エミン・ユルマズ、大橋ひろこ『無敵の日本経済! 株とゴールドの「先読み」投資術』(ビジネス社)
エミン・ユルマズ、大橋ひろこ『無敵の日本経済! 株とゴールドの「先読み」投資術』(ビジネス社)

代わりに人民元、ゴールドの保有を増やすことを表明しています。その後、22年にロシアはウクライナ侵攻に踏み切りましたが、ウクライナ侵攻前に計画的に米国債保有を削減していたと考えられます。

中国が米国債保有を減らしゴールド保有を増やしているというのはある意味、中国が腹を決めたとも言えるのです。

【エミン】しかも中国はゴールドの産出国なのです。自らの国土からもゴールドが採れるのですよ。

【大橋】そうです。2022年の世界におけるゴールド産出量トップは中国で、年330トンでした。そして中国はゴールドの輸出禁止を貫いています。一旦中国に入ったゴールドは二度と市場に出てくることはありません。

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エミン・ユルマズ(えみん・ゆるまず)
エコノミスト
トルコ・イスタンブール出身。2004年に東京大学工学部を卒業。2006年に同大学新領域創成科学研究科修士課程を修了し、生命科学修士を取得。2006年野村證券に入社。2016年に複眼経済塾の取締役・塾頭に就任。著書に『夢をお金で諦めたくないと思ったら 一生使える投資脳のつくり方』(扶桑社)、『世界インフレ時代の経済指標』(かんき出版)、『大インフレ時代! 日本株が強い』(ビジネス社)、『エブリシング・バブルの崩壊』(集英社)『米中新冷戦のはざまで日本経済は必ず浮上する 令和時代に日経平均は30万円になる!』(かや書房)などがある。

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大橋 ひろこ(おおはし・ひろこ)
フリーアナウンサー、ナレーター、個人投資家
福島県出身。アナウンサーとして経済番組を担当したことをきっかけに自身も投資を始め、現在では個別株、インデックス投資、投資信託、FX、コモディティと幅広く投資している。個人投資家目線のインタビューに定評があり、経済講演会ではモデレーターとして活躍する。自身のトレードの記録はブログで赤裸々に公表しておりSNSでの情報発信も人気。一時期は海外映画やドラマの吹き替えなど声優としても活動していたが、現在は経済番組に専念。現在ラジオや自身が運営する「なるほど!投資ゼミナール」チャンネルで経済番組のレギュラーを多数抱え、キャスターとしても多忙な日々を送っている。

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(エコノミスト エミン・ユルマズ、フリーアナウンサー、ナレーター、個人投資家 大橋 ひろこ)

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