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「女性の下着を顔に被り、ほぼ全裸姿で敵を倒す映画」が代表作…鈴木亮平が「肉体派」から国民的俳優になるまで

プレジデントオンライン / 2024年5月28日 16時15分

Netflix映画『シティーハンター』 Netflixにて世界独占配信中 ©北条司/コアミックス 1985

Netflix映画『シティーハンター』が世界中で人気だ。配信1週目には、「日本の週間TOP10(映画)」、「週間グローバルTOP10(非英語映画)」(4/22-28)ともに初登場1位を記録した。ライターの吉田潮さんは「主演の鈴木亮平の演技がすばらしかった。思えば、彼のやってきた仕事の流儀は、ドラマの主人公・冴羽獠と共通するところがある」という――。

■「うまい」でも「カッコいい」でもなく、ただスゴイ

世界に通用する高身長、広い肩幅とゴージャスな骨格、変幻自在の肉体改造、知性あふれる見事な滑舌と流暢に多言語を話す聡明さで、ありとあらゆる役を真摯に体現。名実ともに主演級となった今でも、演じる役の振り幅を際限なくえげつなく広げつつある俳優・鈴木亮平。

恵まれた体格と境遇は生まれながらのギフトだが、そこに甘んじることなく、セルフプロデュースに研鑽を積んできた「努力の人」という印象がある。結果、どんなに極悪非道な人非人役を演じても忌避されることはなく、むしろ賞賛を浴びる。気づけば爽やかな笑顔でCMに出演。

もうさ、スクリーンの中では哀しげな狂気丸出しで、眼球えぐり出して人を殺めていたと思ったら、テレビCMでは今川焼を手に「しあんわせ~」って満面の笑みで叫ぶわけよ。私だって冷凍食品の「今川焼」、思わず買いに走っちゃったし。そのギャップったら!

そんな亮平が念願の役を演じたNetflix映画「シティーハンター」が話題だ。なんというか、私が中高生の頃にアニメで観た冴羽獠そのものだった。というか、声優・神谷明も確実に降臨していた。うまいとかカッコイイとかではない。すごい。その一言に尽きる(個人的には香を演じた森田望智も実にしっくり)。

いにしえのレジェンド作品のキャラクターを演じるのは至難の業で、特に冴羽獠の役は過去にドラマで失敗した俳優もいた。亮平はどうやら有言実行、一念岩をも通したようだ。

■憧れの男性像は冴羽獠

2014年に発売した初の写真集『鼓動』(キネマ旬報社)の中で、ロングインタビューに答え(取材・文/金原由佳)、子供時代に最も影響を受けた作品として北条司の漫画『CITY HUNTER』を挙げている。

「僕は主人公、冴羽獠の陰から未だに逃げられずにいると言っていいくらい、強い影響を受けています」

冴羽獠は普段はエロくてちゃらくていい加減な男だが、一度依頼を受けたら、どんなに危険でも厄介でもクールな態度で最高の仕事をすると解説し、「そういう生き方をしている男性に憧れますし、自分もそうありたいと思っています」「人間味のある男らしさやギャップに憧れます」と話していた。

また、声優の神谷明にも憧れていたことを明かしていたが、2016年にはNHK Eテレの対談番組「SWITCH INTERVIEW 達人達」で念願の共演を果たす。長年の夢や希望は口にして実現させる、願えば叶う握力は強烈である。

実際、画面越しに見る亮平はエロくもちゃらくもいい加減でもない。真面目で努力家で爽やかな好感度大魔神。女性誌の編集者が彼の連載を担当していたが、数多の芸能人に会った中でもトップクラスの人格者と絶賛していたことを思い出す。

ただし、「依頼を完璧にこなす、最高の仕事をする」点は限りなく冴羽獠に近い。インタビューの中で「コメディのセンスには自信がありませんから」と弱点もさらけ出してはいたが、それも10年前の話だ。尋常ならざる努力がどのように花開いていったか、振り幅の大きな履歴を振り返ってみよう。

■容姿端麗、語学堪能ゆえの悩み

『鼓動』によれば、小学2年生のときに家族旅行でアメリカ・ロサンゼルスを訪れた亮平。中学3年生でワシントン州へホームステイ(交換留学)、高校では自然豊かなオクラホマへ留学した経験がある。

また、高校時代にはドイツ語のスピーチコンテストで優勝したという。そのきっかけは本人いわく「冴羽獠的な動機」。アメリカ人の女性に恋をした、ドイツ人の女性に恋をした、というのだ。語学堪能になった礎にも冴羽獠を持ち出すあたり、パーフェクトである。

その後、東京外国語大学に現役合格。外国語学部欧米第一課程英語専攻、輝かしい学歴だが、デビュー間もない頃はその立ち位置に悩んだ時期もあるのではないだろうか(推測)。

東京外国語大学
東京外国語大学(写真=IchiroHayano/PD-self/Wikimedia Commons)

童顔で小さめの登場人物が多い群像劇では、オトナ顔で背の高い役者は並びが確実に後ろである。主演が小さければ後ろに追いやられたり、目立たないよう画角から外されがちだ。

ただ、「メイちゃんの執事」(2009年・フジ)ではその大きさを活かし、「父性」という特色を醸し出していた。吉田里琴(現・吉川愛)が演じるIQの高いお嬢様の執事・大門の役だが、お嬢様を常に抱き上げ、献身的に尽くして守る。

執事交換の回では大人の女の色香に酔って鼻血を出すなどコミカルな面も見せたが、その姿はどこか『ターミネーター』のアーノルド・シュワルツェネガーと重なった(バズーカぶっぱなしたりしてたしね)。

■いろいろな部分で「両刀使い」

まだ細身の頃は「エリートやセレブのいけすかない男」を演じていた記憶もある。谷原章介主演「探偵倶楽部」(2010年・フジ)では殺された被害者の息子役、森田芳光監督の遺作となった映画『僕達急行 A列車で行こう』(2012年)では松山ケンイチが勤める地所のエリート社員(タワマン建設を推進)役。いけすかない系も堂に入る印象もあるが、この才能はのちに存分に発揮されるので、後述する。

体は大きいが柔和な笑顔で人好きのする顔は、主人公の親友にふさわしい。「ヤンキー君とメガネちゃん」(2010年・TBS)では成宮寛貴のマブダチだが、進学校に進んだ成宮とは別の高校に進学した練馬役。情に厚くて気遣いもできる成熟した親友で、年の割に落ち着いたキャラクターが適役だった。なんかいいやつなのよ。

いいやつといえば、「泣いたらアカンで通天閣」(2013年・日テレ)ではラーメン屋の娘・センコ(木南晴夏)の幼馴染・カメヤ役。

大阪を出て10年、東京の銀行に勤務していたが、婚約していた女性部下が顧客情報を盗んだことが発覚。責任をとって地方に飛ばされたが、思うところあって大阪に帰郷した役どころだ。気取ったエリートかと思いきや、めっちゃいい人でね。

木南がごんたくれの父親(大杉漣)に尽くす姿を心配し、しかも大杉と血のつながりがないと知った木南をなぐさめ、不倫相手の子を宿した木南と結婚を決意するっつう「男の鑑」みたいな善人だった。エリート臭も機械油臭もイケるクチ。

そもそも兵庫県出身の関西人なので、いろいろな部分で両刀使いなのだが、なにか突破口を模索しているような時期も。そう、ただのいいやつでは役者魂が満足しなかったのではないだろうか。

■その名を世に知らしめたのは「ほぼ全裸」のアレ

主演に抜擢されるも準備期間の延長など、制作秘話や苦労話が多くの人によって語られているのが映画『変態仮面』(2013年)だ。

女性の下着を被ると超人的な力が生まれ、股間のみを隠したほぼ全裸姿で悪を成敗するヒーロー・変態仮面こと色丞狂介を熱演。その肉体の完成度の高さという外面だけでなく、自分が変態であることを認めたくない逡巡という内面も見事に演じきった。

特に、ニセ変態仮面(安田顕)と高層ビルの屋上で対峙したシーンは平成の映画史に名を刻んだ。おバカなコメディの中で、アイデンティティー確立の逡巡、アンビバレントの苦悶、己の所在を問う、どこか哲学的な場面でもあった。

のちに、「日曜日の初耳学」(TBS系)に出演したとき、林修のインタビューで「『変態仮面』は間違いなく代表作」と自ら断言もしていた記憶があるので、本人にとっても格別の思い入れがあったと推測する。

その翌年には映画『TOKYO TRIBE』でこれまたほぼ全裸の凶暴な男・メラを演じた(ま、役どころとしては非常にチンケな対抗心があって、鈴木亮平がもちうる知性をすべてかなぐり捨てるような設定でもあったのだが)。これが鈴木亮平の「うなぎのぼり全裸期」。

彫像のように美しく隆起させた筋肉に見惚れた男性も少なくない。女受けより男受けのする肉体改造論は、さらに進化を遂げていく。

Netflix映画『シティーハンター』
Netflix映画『シティーハンター』 Netflixにて世界独占配信中 ©北条司/コアミックス 1985

■肉体派→知性と教養も売り出す

「全裸期」で変態の称号を拝受後、間を置かずに朝ドラ「花子とアン」でヒロイン・吉高由里子の夫役を演じたのは功を奏した。聡明で紳士的、妻を支える村岡英治役で女性票を一気に獲得。もうとにかく、目まぐるしいったらありゃしない。

さらには美しい筋肉を短期間でそぎ落とし、げっそり痩せて、病弱な兄を演じたのが「天皇の料理番」(2015年・TBS)。なにもそこまで、と思っていたら、今度は急激に増量して、映画『俺物語‼』に心優しき純朴な巨漢の主人公で登場。粘土細工のように体を自在に変形させたこの時期を「形状記憶合金期」とでも呼ぼうか。

肉体派俳優と呼ぼうとした矢先に、知性と教養も売り出すという八面六臂の活躍っぷり。世界遺産に詳しいというセルフプロデュースも成功し、世界遺産の本を出版、世界遺産番組でもナレーションも担当している。それが付け焼き刃でもなく、ビジネスマニアでもなく、ほとばしる情熱と饒舌で完璧に語り尽くすものだから、老若男女がとりこまれるわけよ。これが亮平の「インテリヘリテージ期」。

■各省庁は亮平の声を採用したらいいのでは

最もしっくりくるのは正確無比な指示を出し、チームを率いるリーダー役。

「彼岸島」(2013年・TBS系)では自らがうっかり封印を解いてしまった吸血鬼の征伐に、弟たちを巻き込みつつ立ち向かう役、「TOKYO MER」(2021年・TBS)では緊急救命医療のエキスパート役。とにかく声が通って、滑舌がよい。

滑舌の悪さはご愛敬、役者の持ち味とも言えるのだが、逆に滑舌のよさは天性の才能だけでなく、努力の裏打ちをも感じさせる。耳の遠い年寄りでも、たとえ3倍速にしても、鈴木亮平の声だけは聴きとれるという現象で、茶の間では大人気。というか、各省庁は緊急時のアナウンスに亮平の声を採用したらいいのではないかと思うくらい。

「西郷どん」(2018年・NHK)でも薩摩弁を武骨かつ流暢にこなして、大河主演を立派につとめあげた。これが亮平の「全世代・全周波数制覇期」。国民的人気と好感度を最大限に上げたあたりで、またトリッキーな方向へいくわけですよ、彼は。

映画『孤狼の血 LEVEL2』(2021年)のムショあがりの極道・上林役は、そらもうヒィッと悲鳴を上げるレベルの凶暴さ。想像しうる限りの悪行三昧、同情の余地を1mmももたない悪役を怪演。「下剋上球児」(2023年・TBS)で教員資格を持たずに詐称したくらい、屁でもない罪じゃないかと思わせるほどの極悪人だった。

■「いい役者は気配を消せるんだな」

全裸→形状記憶→インテリ→リーダー→外道と、善も悪も裏も表も意表をついて、依頼に忠実に演じてきた彼が、長年の憧れで念願の冴羽獠になりきれたことを心から祝福して賞賛したい。

個人的な趣味で言えば、ちょっといけすかない狡猾な男を演じる亮平か、逆に自信もオーラもない怯えた男を演じる亮平がいいと思っている。「エルピス」(2022年・フジ系)で演じた抜け目ないテレビ局報道のエース記者・斎藤正一の役が、最高にセクシーだった。全裸じゃないのにセクシー。むかつくけどセクシー。これに同意してくれる女性がいることを願う。

逆に、映画『ひとよ』(2019年)で見せた怒りを内包する長男の役も印象的だ。肉体と知性で手にしてきた栄華をまったく感じさせず、うだつの上がらない長男を小さく見せることに成功している。ずん飯尾和樹を彷彿とさせ、「いい役者は気配を消せるんだな」と改めて思わせてくれた。

演じる役を狭めず、方向性と可能性を伸展&拡張させてきた鈴木亮平が、今後どこへ向かっていくのか。日本を飛び出してほしい気持ちと、ドメスティック&ストイックに追求してほしい気持ちと、両方ある。

Netflix映画『シティーハンター』
Netflix映画『シティーハンター』 Netflixにて世界独占配信中 ©北条司/コアミックス 1985

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吉田 潮(よしだ・うしお)
ライター
1972年生まれ。千葉県船橋市出身。法政大学法学部政治学科卒業後、編集プロダクション勤務を経て、2001年よりフリーランスに。医療、健康、下ネタ、テレビ、社会全般など幅広く執筆。2010年4月より『週刊新潮』にて「TVふうーん録」の連載開始。2016年9月より東京新聞の放送芸能欄のコラム「風向計」の連載開始。テレビ「週刊フジテレビ批評」「Live News イット!」(ともにフジテレビ)のコメンテーターもたまに務める。

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(ライター 吉田 潮)

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