最高値を喜ぶ人は投資に向いていない…鎌倉投信社長が説く「成功する投資家に共通する8つの法則」
プレジデントオンライン / 2024年5月31日 16時15分
※本稿は、鎌田恭幸『社会をよくする投資入門 経済的リターンと社会的インパクトの両立』(NewsPicksパブリッシング)の一部を再編集したものです。
■人間の脳は「損失を避けたい」と感じやすい
投資が「社会にとっていい投資」になるかどうかは、買う人の選択の理由のなかにある。選択した投資先が、社会によい影響を与える事業に取り組んでいるのであれば、多くの人がそれを知り、応援することが社会によい影響の輪を広げることになる。大切なことは、あなたが「なぜ投資をするか」だ。どのような「期待」や「思い」を懸(か)けるかだ。
理論上、株式投資は、長い目で見れば会社の価値が高まれば、それに連動して投資したお金は増える傾向にあるので、短期的な値動きを心配する必要はない。
しかし、社会にいい投資に取り組んだとしても、株式市場で株価が乱高下するとどうしても不安になってしまうのも人の心理だ。特に人の心理とは面白いもので、利益が出たときよりも、一時的にでもお金が目減りすることの心理的な影響の方がずいぶんと大きい。心理学の世界では、こうした心理的作用を「プロスペクト理論」という。
そもそも人の脳は、儲けるよりも損失を避けたいと思う気持ち、利益が出たときのよろこびよりも、損をしたときの苦痛のほうがより大きく感じるようにできているのだ。
そうしたこともあって、理屈では「投資は預金よりも、効果的にお金を増やす方法だ」とわかりながらも不安が付きまとうのは、このような脳のはたらきが影響しているからかもしれない。
■成功する投資家が大切にする「8つのカギ」
僕が多くの投資家を見てきたなかで、こうした心理的作用を克服して、投資で成功する人は、総じて次の8つのことを大切にしている。「社会をよくする投資」からはいったん離れて一般論になるが、あらゆる投資に通ずる「成功のための8つのカギ」に触れておきたい。
「8つのカギ」は次の通りだ。
②株価(価格)ではなく価値に投資する
③経済法則を利用する(複利と分散)
④感情を排除する
⑤シンプルである
⑥予測しない
⑦投資に期限を設けない
⑧投資観を持つ
1つ1つ見ていこう。
■「投資は金持ちがするもの」は誤解
①先入観をはずす
「投資は何となく怖い」「投資をはじめるお金がない」「投資はお金持ちがやるもの」。
投資をしようと思いながらなかなか踏み出せない人からよくこうした声を聞く。投資に二の足を踏んでいるあなたも似たような感情を抱いていないだろうか。
こうした人に多い「3つの誤解」を解いてみたい。
「時間をかけて価値を増幅させる」ものである。
2.投資とは、「お金を貯めてからはじめる」ものではない。
「少額からでも早くはじめる」ことがその効果を高める。
3.投資とは、「お金持ちだからやる」ものではない。
「普通に生活する人だからこそ取り組む」ものである。
この「3つの誤解」から解放されることが、投資に成功する第1のカギだ。まずは小さな一歩を踏み出してみよう。
■株価は価値に収斂する
②株価(価格)ではなく価値に投資する
2つ目のカギは、投資と投機を混同しないことだ。
投機とは、短期的な価格の値動きに着目して利ザヤを稼いだり、一攫千金を目論んで博打のように投資商品に手を出すことをいう。一方、投資は「実態としての価値」に着目し、その「価値」が長期的に増える傾向を見込むものだ。
図表1を見てほしい。左右にのびる一直線は、日本の株式市場に上場する会社の株主資本と配当金の増加率を累積で示したものだ。わかりやすくいえば、株主が得るリターンの源泉の推移である。これは、「実態としての価値」を示す1つの指標だ。
その1本の線を中心に、上下に変動をしながら推移しているのが、TOPIXの推移、すなわち株価である。
株価は、短期的には期待と不安で上下に変動するものの、長期的に見れば「実態としての価値」(業績)に収斂する傾向が見てとれる。
「株価は価値に収斂する」、これは法則といえよう。その法則に則り、「株価(価格)ではなく、価値に投資する」姿勢を持つことだ。
■「複利効果」と「分散投資の効果」
③経済法則を利用する(複利と分散)
成功する第3のカギは、2つの経済法則をじょうずに使うことだ。
経済法則の1つ目は、「複利の効果」である。
会社の「価値」は、時間の経過とともにその増幅額がふくらむ。投資先の価値が高まると見込まれるものであれば、じたばたせずに放っておけば、雪だるま式にリターンは高まる。図表2のシミュレーションのように、同じ年率リターンでもお金の増加額は年を重ねるごとにふくらむ。
経済法則の2つ目は「分散投資の効果」だ。
お金を1つの投資先に集中してしまうと、予想が外れたときのリスクが大きくなる。そうならないように、異なる市場、異なる収益特性を持つ投資商品を複数組み合わせると、あなたの全体的なリターンは、より安定するのだ。
たとえばNYダウとTOPIXなど、異なる国の株式指数を組み合わせることで、リターンの上下の振れが小さくなり安定する(図表3)。
「複利」と「分散」、この2つの経済法則を利用すれば、投資は成功に近づくといえる。
■「理性は友・感情は敵」
④感情を排除する
成功のカギの4つ目は、「感情を排除する」である。
世界情勢や経済情勢が目まぐるしく変化するなかで、投資で成功する人が実践していることをとことん突き詰めれば、この1点にあると言ってもいいのではないだろうか。
成功者は、その時々の感情に流されることなく、決めた投資方針に沿って淡々と投資を実行する。たとえば、金融市場の下落局面で、「さらに値下がりするのではないか」といった不安から保有する株式などを売却したり、株式相場が盛り上がってくると「乗り遅れまい」という焦りから慌てて購入したりするなど、感情に囚われて取引することはない。相場付きによって右往左往する投資家は、プロの投資家であってもよい成果を生むことはない。
「理性は友・感情は敵」だ。
■中身のわからないものには投資しない
⑤シンプルである
成功のカギの5つ目は、投資商品そのものが「シンプルでわかりやすい」ことである。
複雑な投資手法は、複雑であるがゆえに長く続けることが難しい。また、中身がわかりにくい複雑な金融商品は、当初想定した前提条件が崩れたときに、大きなマイナスを被るリスクが高い。サブプライムローン問題を発端としたリーマン・ショックがいい例だ。
「証券会社の営業マンにすすめられて買ったけど大損した。説明にもこないから、中身がまったくわからない」
投資で失敗した人からよく聞く言葉だ。気持ちはわからなくはないが、中身をよくわからずに投資をしたあなたの責任だ。すすめられるがままに、いろいろな投資商品に手を出すのは、あなた自身の資産管理が複雑になるのでご法度だ。
「シンプルさは成功の要」、自分が理解できないものには手を出さないことだ。
■投資に株価の予測は必要ない
⑥予測しない
6つ目のカギは、意外に思うかもしれないが「予測しない」ことだ。もう少し正確にいえば、「予測に左右されない投資の枠組みをつくる」ことだ。
「経済や金融市場の先行きを予測して、お金を増やすのではないのか?」と疑問に思う人もいるだろう。逆だ。実際のところ、社会情勢や経済情勢がグローバルに複雑に影響し合う状況下で、さまざまな出来事の発生可能性やその程度を予測し、なおかつ金融市場がどのように反応するかを的中させることは、専門家であっても至難の業(わざ)だ。
つまり、一貫して投資を継続するリスクに比べ、「的中する可能性の低い予測に賭けること」のリスクの方がはるかに大きい。
世界的に著名な投資信託の運用者であるピーター・リンチ氏の言葉に、次のようなものがある。「株価が下がり、半分になったくらいで売ってしまうなら、最初から売買などしない方がよい。何があっても持ち続けることだ。株価が大幅に下がるというのは、めったにない投資のチャンスなのだ」
将来性のある会社の株価が一時的に値下がりしたときは、「投資の機会としてとらえる」ことの重要性を語った言葉だ。実態としての企業価値やその将来価値に着目して投資するのであれば、短期的な株価変動は予測しなくてもよい、という意味であろう。
将来性のある「いい会社」の株式に投資する場合、経営努力によって会社は成長し、財務価値や株式価値は高まり、それに連動して株価も上昇することが見込まれる。そうした「実態としての価値」が高まる傾向にある投資対象資産にお金を振り向ける場合、値下がりを恐れるのではなく、むしろ値上がりのタイミングを逃さないことが重要となるのだ。
NYダウ平均株価を例に、上昇タイミングを逃すことのリスクについて考えてみよう。同指数は過去100年間で約500倍、利回りに換算すると年平均+6.3%になる。しかし、値上がり上位10日間を除くと利回りは5.2%となり、さらに上位30日を除くと3.6%にまで低下する。このように、値上がりのタイミングを逃すことは、投資において、かなりの痛手になる。
しかし、ここで直面する悩ましい問題は、値上がりのタイミングをはかること自体が至難の業である、ということだ。それを解決する方法が、「予測せずに投資し続けること」なのだ。
■「目先の株価変動を気にすることは時間の無駄」
⑦投資に期限を設けない
成功の7つ目のカギは、「投資に期限を設けない」ことだ。これは、⑥の「予測に左右されない」投資手法の実践である。
よくお客様から「長期投資の期間とは何年をいうのですか」と質問を受ける。答えとしては、景気サイクルがある程度循環する「10年以上」などが一般的かもしれない。
僕の答えは、「投資に期限を設けない。投資の期間は無期限である」。なぜなら、投資する会社は、持続的に成長する経営努力を続ける限り、その実態としての価値の増幅に「終わりはない」からだ。
投資につきまとう不安感を解消するためには、何よりも長期の視点を持つことが欠かせない。
「今後10年間、株式市場が閉鎖しても喜んで持ち続けることができる株式を買いなさい」
これは、世界的に著名な投資家であるウォーレン・バフェット氏の言葉である。
このメッセージには、次の3つの意味が込められている。
2.(目先の業績ではなく)10年後に価値が高まっている会社の株式に着目し、投資する。この間の株価変動を気にすることは、時間の無駄である。
3.リターンの元となる投資する会社の価値は、「時間をかけて」成長する。
「投資に期限を設けない」、このことを心に留めて投資に向き合いたい。
■人格を高めることが投資の成功につながる
⑧投資観を持つ
最後に、投資で成功する8つ目のカギは、意外に思うかもしれないが、「誠実であり、謙虚である」ということだ。「一貫した投資姿勢を保っていること」、そして、それを実践するために「自分なりの投資観(軸)を大切にする」ことである。
投資には、必ずその人の価値観や人生観が映し出される。あくせくする人は投資でも右往左往して失敗するし、謙虚さに欠ける人は、欲と驕(おご)りで足元をすくわれる。「変化に動じない投資観を持つ」ことは、自分らしい投資観を持つことであり、それを磨くものは、つきつめれば、謙虚さと感謝の精神ではないかと思うのだ。
投資観というと少々大げさだが、「コツコツと資産形成に取り組む」と心に決めることも立派な投資観といえる。
「偉大な投資家になるためには、金儲けのテクニックや知識を得るだけでは不足である。
個人としての人格を高め育てることを生涯にわたって続けることが必要なのである」
米国の独立系運用会社フランクリン・テンプルトンの創設者ジョン・テンプルトンの至言だ。
ではなぜ、「個人としての人格を高めること」が、投資の成功につながるのだろうか。
■投資することは「生き方」を考えること
人としての人格を高めるというと敷居が高くなるが、日頃から心の揺らぎや執着をコントロールすることができるようになれば、値動きに一喜一憂することもなくなる。
投資が、ただ自分のお金を増やす私利私欲のための手段としてではなく、投資する会社の事業の本質的価値を見定めて応援するといった社会的視座を内包するものに深化することもあるだろう。
結果的に、自分自身が大切にする価値観に沿った投資の軸が定まり、投資家としても成功の可能性を高めることにつながる。
多くの投資家を見るなかで感じることだが、人が長い人生のなかで培ってきた価値観や人生観と、投資方法は無縁ではない。僕は、投資を含めて、お金について考えることは、「生き方」について考えることにつながると思っている。将来の人生設計を考えるということに留まらず、お金そのものが、あなたが歩んできた一日一日の生き方から生まれるものだからだ。
■投資は人を成長させる
命の使い方の積み重ねから生まれたお金を、何に使うか、どのように使うか。違う角度から見れば、お金の使い方で、価値観、人生観が変わったり、深まったりすることもある。自分なりの投資観(軸)を持つことは、人を成長させ、さらには「人格を磨く」。僕は、そう感じている。
あらためて、投資で成功するための「8つのカギ」をまとめた。
②株価(価格)ではなく価値に投資する
③経済法則を利用する(複利と分散)
④感情を排除する
⑤シンプルであること
⑥予測しない
⑦投資に期限を設けない
⑧投資観を持つ
心を乱すことなく自分の価値観を反映し、「社会をよくする」投資を実践するうえで、ぜひ心に留めてほしい。
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鎌倉投信 代表取締役社長
1965年島根生まれ。 35年にわたり年金などの資産運用に携わる。 大学卒業後、三井信託銀行(現:三井住友信託銀行)に入行。バークレイズ・グローバル・インベスターズ信託銀行(現:ブラックロック・ジャパン)にて副社長を務める。 2008年11月に鎌倉投信株式会社を設立し、代表取締役社長に就任。 2010年、主として上場企業の株式を投資対象とした公募型の投資信託「結い2101(ゆいにいいちぜろいち)」の運用・販売を開始。2021年、これからの社会を創発する可能性を秘めたスタートアップを支援する私募型の有限責任投資事業組合「創発の莟」の運用を開始。 独自の視点で「いい会社」に投資し、その発展・成長を応援することを通じて「投資家の資産形成と社会の持続的発展の実現」をめざしている。
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(鎌倉投信 代表取締役社長 鎌田 恭幸)
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