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フィットネスクラブで怖い腎臓病が増加中…健康と美容のために摂取するとかえって"死を早める粉"の正体

プレジデントオンライン / 2024年6月8日 8時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/MurzikNata

■プロテインの摂取がなぜ死を早めるのか

近頃、手軽に運動できるフィットネスクラブが巷で増えています。運動習慣は健康にいいですから、運動する場所が増えるのは喜ばしいことです。

ただ、注意してほしいことが一つあります。それはプロテイン(タンパク質)を飲むこと。プロテインを摂取してトレーニングすれば美ボディになると思い込んでいる人が少なくありません。断言しますが、プロテインによい効果は一切ありません。それどころか、プロテインは体にとって「毒」です。

プロテインの摂取は、腎機能障害を引き起こすおそれがあります。腎臓は、体内に蓄積した毒素や老廃物を外に排出する機能を持つ重要な臓器。一般に「沈黙の臓器」と呼ばれており、機能が低下しても自覚症状がありません。しかし、やがて症状に気がつくとすでに手遅れで、慢性腎臓病に陥ります。

慢性腎臓病が重症化するとどうなるか。直接的には血液の解毒や浄化ができなくなり、最悪の場合は腎不全を引き起こして死に至ります。そのため、腎臓が機能しなくなると人工透析の必要が生じてきます。透析の所要時間は1回約5時間で、それを週に3回。肉体的にも精神的にも負担の大きい透析は、患者のQOLを著しく下げます。

【図表】プロテインが「毒」である理由

さらに恐ろしいことに、慢性腎臓病は他の病気を誘発します。

厚生労働省の発表によると、日本人の死因に占める腎不全の割合は2.0%で、順位は8位でした(2022年)。死因が2%程度なら、腎臓を悪くして死ぬのは偶然だと思うかもしれません。しかし、慢性腎臓病になると心筋梗塞や脳卒中、がんなどに罹りやすくなる

うえ、それらの進行・悪化を早めることがわかっています。死因の1位はがん(24.6%)、2位は心疾患(14.8%)、4位は脳血管疾患(6.8%)。そのうちの一部は慢性腎臓病が引き起こしている可能性があるのです。

つまり、腎不全で亡くなる人が少なく見えるのは、その前にがんや心疾患などの他の病気で亡くなる人が多いからです。慢性腎臓病は見かけの数字よりもずっと恐ろしい病気といえます。

■プロテインブームの裏で激増する腎臓病患者

実は慢性腎臓病の患者数は増加傾向にあります。11年に国内で1330万人と報告されていた患者数が、20年には2100万人に。わずか10年足らずで700万人以上も増えています。

患者数の増加にはさまざまな要因が考えられますが、この10年で大きく変わったものの一つがプロテインです。かつては液体に溶かして飲む粉タイプが主流で、飲むのもボディビルダーやアスリートなど一部の人に限られていました。しかし最近はプロテインバーやゼリー飲料、紙パック飲料がコンビニや通販サイトなどで常時売られており、より手軽にプロテインを摂取できるようになりました。筋トレをしていなくても、健康になる気がして食事代わりに口にする人もいるくらいです。

数字を見ても、プロテイン市場は伸びています。富士経済の調べによると、プロテインなどのタンパク補給食品の国内市場は13年に623億円だったのが、23年は2580億円の見込みに。10年で4倍以上に市場が膨らんでいます。プロテインブームが慢性腎臓病患者の増加に影響している可能性は否定できないのではないでしょうか。

プロテインを摂取する人は、「激しい運動をしてエネルギー不足になると、体をつくっているタンパク質が使われて筋肉が細くなるから、プロテインを摂取して補おう」と考えます。フィットネスクラブやプロテイン飲料・食品メーカーも、そのような解説をして運動後のプロテインの摂取をすすめます。

しかし、生化学の観点からいえばその理屈は間違い。人間の生命活動では、まずブドウ糖をエネルギーにします。グリコーゲンなどになって体内に蓄えられていたブドウ糖を使い切ると、次は脂肪がエネルギーになります。体重60キログラム程度の男性が絶食すると、脂肪を使い切るのに1カ月はかかります。

筋肉が分解されてタンパク質がエネルギーとして使われるのは、脂肪を使い切った後です。ボクサーやボディビルダーでさえ体脂肪率がゼロになることはありません。ましてや一般の人が脂肪を使い切るほど激しい運動をして筋肉のタンパク質が使われるなど、ほぼありえない話です。つまり、プロテイン由来のタンパク質が筋トレの効果向上に寄与することはないのです。

■プロテインの栄養は体にとって害になる

プロテインに効果がないだけならまだましです。医師として看過できないのは、プロテインが害になるからです。

タンパク質は体内に入ると分解されて、アミノ酸という物質になります。人体の中にあるアミノ酸は「アミノ酸プール」という完璧なシステムによって一定量(合計約100グラム)に保たれています。しかし、プロテインを摂取するとこのシステムのバランスを乱し、腎臓に著しく負担をかけるのです。

具体的に説明しましょう。アミノ酸プールに入るアミノ酸は、3つの経路で生成されます。

① 筋肉など体のタンパク質が分解されることによってもたらされるアミノ酸
② 食事から摂取したタンパク質由来のアミノ酸
③ 体の中でつくられるアミノ酸

このうち①は、1日に約400グラムのタンパク質が使われます。これは運動してもしなくても同じ。筋トレしたからといって、さらに多くのタンパク質が分解されるわけではありません。

一方、アミノ酸の消費経路も3つあります。

① 体(筋肉も含まれる)のタンパク質を合成する
② 過剰なアミノ酸を尿素、窒素などに変えて尿から排泄する
③ ブドウ糖や脂肪を合成する

生成経路で使った筋肉のタンパク質は、消費経路の①で再合成されるので、筋肉には影響がないことがわかります。

注目してもらいたいのは、消費経路の②です。生成経路の3つでつくったアミノ酸が過剰になって消費経路の①と③だけで対応できないときは、②の消費経路で体外に排出します。

国が定めるタンパク質の1日の推奨摂取量は男性で65グラム、女性で50グラムです。この数字はやや多めに設定されており、本当に必要な量は一般的な食事で十分に補えます。それに加えて摂取するプロテインは過剰な栄養であり、消費経路②の働きが続くことで腎臓が疲弊し、機能が低下する。医学的にいうと「過剰ろ過による腎機能障害」が起きて、慢性腎臓病につながります。

【図表】タンパク質は食事だけで十分摂取できる

■なぜソイプロテインは飲んでもよいのか

忙しくて食事できない人やダイエット目的で食事を制限している人などは、「適度な量をプロテインで摂取するのならいい」と考えるかもしれません。

しかし、その考えも危険です。タンパク質源である肉や魚は、胃で消化されるまでに4〜5時間を要します。食事でアミノ酸が過剰に生成されても、ろ過されます。

対して、人工的につくられたプロテイン食品・飲料は胃から小腸に進んで素早く吸収されるため、腎臓に急激な負荷をかけます。同じタンパク質の含有量でも、肉や魚ではなくプロテインで摂取すると腎臓によくないのです。

タンパク質は肉や魚、豆腐など、普通の食事で摂ることが鉄則です。タンパク質の摂取が気休めになるなら、夕食に冷奴でも足せばよいでしょう。

過剰摂取で腎機能低下を引き起こす原因は動物性タンパク質である一方、イソフラボンやファイトケミカルといった成分が含まれる大豆は腎機能にいいという研究が報告されています。食事を摂れず、どうしてもプロテインで補いたい場合は、ソイプロテインなど植物性のものを選びましょう。

■腎臓の健康状態は300円で検査できる

プロテインを常飲している、あるいはタンパク質を摂りすぎている疑いのある人は、腎臓の状態を一度しっかりチェックしてください。自分はこれまで健康診断で異常が出たことがないから大丈夫だと、油断してはいけません。

一般的な健康診断では、腎臓の状態を「血清クレアチニン値」で判断しますが、この検査はあまり役に立ちません。正常値を超えていたときには手遅れであり、たいていの人が2年以内に透析になります。腎臓病の早期発見に適さない指標なのです。

ただ、血清クレアチニン値から「eGFR」を計算すれば、腎臓の状態がもう少し詳しくわかります。eGFRは、慢性腎臓病かどうかの定義に使われる「GFR(糸球体ろ過量)」を「estimated(推算)」で出した数値です。計算式は省きますが、eGFRを計算すると、血清クレアチニン値が正常値でも、腎機能は低下していて慢性腎臓病まであと一歩だと判明するケースがあります。計算は手間がかかりますが、日本腎臓学会のHPに早見表が載っています。健康診断で血清クレアチニン値は検査したもののGFRを調べていない人は、早見表で確認してください。

健康診断では「尿タンパク」を調べることもあります。血液にはタンパク質が含まれますが、健康なら血液中のタンパク質が尿に出ることはありません。しかし腎機能が落ちると、タンパク質が尿中に漏れ出します。その量によって尿タンパクは4段階で表示されますが、「+」はすでに腎臓が悪くなっている状態。これも早期発見に向かない指標ですが、血清クレアチニン値よりはまだ頼りになります。

【図表】腎臓病を防ぐ3つの習慣

もっとも頼りになるのは「尿アルブミン検査」です。アルブミンはタンパク質の一種で、血液中のタンパク質の60〜70%を占めています。尿中のアルブミンの濃度を調べると、腎機能がもっとも正確にわかります。

尿アルブミン検査は健康保険が適用され、1回300円前後で検査できます。しかし、残念ながら糖尿病専門医ですら多くはこの検査を知りません。まずは自分から尿アルブミン検査を受けたいと申し出て、怪訝(けげん)な反応をしない医師のいるクリニックを見つけることが大切です。

■正しい食事と運動習慣で健康な腎臓を維持する

検査の結果、慢性腎臓病の予備群だとわかったらどうすればいいでしょうか。もっとも重要なのは血圧のコントロールです。高血圧になると動脈硬化が進みますが、腎臓の血管は細いために動脈硬化の影響を受けやすく、腎機能が低下していきます。腎機能が落ちると排泄調整がうまくいかずに血圧が上がるため、悪循環でさらに慢性腎臓病が進みます。すでに高血圧の人は、降圧剤を服用するなどして適切に血圧をコントロールしてください。

「AGE」という老化促進物質も腎臓の大敵です。AGEは体中の正常な組織にくっついて炎症を起こします。腎臓の場合は膜に穴を開け、そこからアルブミンなどのタンパク質が漏れ出てしまうわけです。

AGEはさまざまな要因でつくられます。ブドウ糖がタンパク質と結びつくことでもAGEになるので、糖質の摂りすぎは厳禁です。そもそもAGEはあらゆる食品中に存在していますが、食品を加熱することでその量が加速度的に増えます。よって、食事は可能な限り「生」がベター。魚なら焼き魚よりもお刺身、豚肉ならとんかつより豚しゃぶのほうが腎臓に優しいです。

また、適切な運動も忘れてはいけません。かつては「腎臓病は安静第一で、運動は制限」が一般的な考え方でした。激しい運動をすると、尿タンパクが増えることがあるからです。しかし現在は研究が進み、適度な運動はかえって腎臓によいことがわかっています。つまり、腎臓病予備群の人がフィットネスクラブで筋トレをするのはOK。軽い運動は糖尿病やアルツハイマーの予防にもいいですから、むしろやるべきです。

問題はフィットネスクラブのビジネス戦略にハマり、プロテインを摂取することです。考えてみてください。人類が生まれた600万年前にプロテインは存在していません。プロテインは人体には本来必要がなく、摂取することはリスクです。プロテインメーカーやフィットネスクラブの思惑に踊らされることなく、正しい知識を身につけて健康な腎臓をキープしましょう。

※本稿は、雑誌『プレジデント』(2024年6月14日号)の一部を再編集したものです。

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牧田 善二(まきた・ぜんじ)
AGE牧田クリニック院長
1979年、北海道大学医学部卒業。地域医療に従事した後、ニューヨークのロックフェラー大学医生化学講座などで、糖尿病合併症の原因として注目されているAGEの研究を約5年間行う。この間、血中AGEの測定法を世界で初めて開発し、「The New England Journal of Medicine」「Science」「THE LANCET」等のトップジャーナルにAGEに関する論文を筆頭著者として発表。1996年より北海道大学医学部講師、2000年より久留米大学医学部教授を歴任。 2003年より、糖尿病をはじめとする生活習慣病、肥満治療のための「AGE牧田クリニック」を東京・銀座で開業。世界アンチエイジング学会に所属し、エイジングケアやダイエットの分野でも活躍、これまでに延べ20万人以上の患者を診ている。 著書に『医者が教える食事術 最強の教科書』(ダイヤモンド社)、『糖質オフのやせる作おき』(新星出版社)、『糖尿病専門医にまかせなさい』(文春文庫)、『日本人の9割が誤解している糖質制限』(ベスト新書)、『人間ドックの9割は間違い』(幻冬舎新書)他、多数。 雑誌、テレビにも出演多数。

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(AGE牧田クリニック院長 牧田 善二)

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