「最初の上司」が口が裂けても言っちゃダメな危険な"2文字"とは…オヤカクでもすぐ辞めるZ世代は腫れ物
プレジデントオンライン / 2024年5月28日 10時15分
■「オヤカク」には親族が参列する結婚式と同じような効果
6月から政府の指針に基づく2025年卒の採用選考が始まる。といってもすでに5月1日時点の内定率は77%(キャリタス調査)であり、指針は形骸化し、選考の早期化が定着している。
6月1日の選考開始日に内定を出した学生全員を集めて“内々定式”を実施し、経営陣との懇親会を催す企業もある。目的は改めて入社の意思を確認するためだが、同時に「オヤカク」を行う企業もある。
オヤカクとは、保護者に対して子供の内定を承諾してもらう行為だが、大きく①内定書承諾書に親のサインをもらう、②10月に内定式に親を招待する、③4月の入社式に親を招待する――の3つがある。その背景には、内定辞退や入社後の早期離職を回避したいという企業の思いがある。
そこまでやる必要があるのか。内々定の段階で親の承諾書の用紙を渡している建設業の人事担当者はこう話す。
「両親や親戚の人に言われて内定を辞退します、という学生が毎年一定数いる。中には最終の役員面接で『御社にぜひ入社したい』と宣言した学生が数日後、『母親に別の会社の内定先に入るよう泣かれました』と言って内定を辞退してきたということもある。そのため内々定の段階でオヤカクをするように促しているが、会社側から親に確認することはしていない」
また、オヤカクを内定辞退や早期離職防止の有効な手段と考える小売業の人事担当者は次のように言う。
「親族が参列する結婚式と同じような効果がある。簡単に離婚しにくくなるのと同様に退職もしにくくなる効果もある」
消費財メーカーの人事担当者はこう語る。
「学生によっては仕事の悩みを身近な親に相談することもあるだろう。内定時の確認や式典への参加を通じて親に会社のことを知ってもらうことも内定辞退や早期離職を避けるための一つの方法だと思っている」
一方ではオヤカクに反対という声もある。化学メーカーの人事担当者の考えはこうだ。
■「対面でやる必要なくね?」「タイパ悪くね?」「生産性低くね?」
「オヤカクをすること自体が新社会人としての自立を阻害してしまう可能性がある。複数の内定をもらうのが当たり前の時代であるが、内定を取得したら第一志望の企業に入社するのは昔も変わらない。どうすれば自社を選んでもらえるかを考えるのが人事部の役割ではないか。オヤカクという姑息な手段で内定辞退を避けようとするのは本質とずれているのではないか」
また、早期離職に関しては、オヤカクの効果は薄いと指摘するのは住宅メーカーの人事担当者だ。
「オヤカクによって内定辞退を防止し、入社までこぎつけたとしても、もともと自分で判断できないような主体性のない人だ。入社しても仕事で決断を迫られる場面に遭遇すると、周りに何か注意されたことをきっかけにして遅かれ早かれ辞めていく。オヤカクの効果は内定辞退の防止ぐらいだろうが、会社にとってはそれこそコスパが悪い」
確かに最近の早期離職の傾向を考えると、オヤカク程度では防ぎようがないかもしれない。産労総合研究所が発表した2024年度の新入社員は「セレクト上手な新NISAタイプ」と命名し、その特徴として「デジタルに慣れ親しんでいる一方で、対面コミュニケーションの経験に乏しく、『仲間』以外の世代との距離感に戸惑う面もある。また、タイパを重視し、唯一の正解を求める傾向が年々増している」と分析している。
タイムパフォーマンス(時間対効果)に敏感な一方で、正解探しの傾向が強いというのはちょっとやっかいだ。
文化放送キャリアパートナーズ就職情報研究所の平野恵子所長は「人の言うことはよく聞く謙虚さや素直さを持ち、指示されることに慣れている世代」と語る。
その背景として大学入学当初にコロナが蔓延し、キャンパスに入れず、講義もオンライン。サークル活動やアルバイト経験も少なく、講義に出席しても席を空けて座るなど大学の厳しい管理下で過ごすなど自由な大学生活を謳歌できなかったことを挙げる。
「指示されるのは当然と考えており、逆に指示してくれないと困るし、動けないのは当然という感覚を持っている」(平野所長)
また、平野所長は転職することはアグレッシブな行為であり、そこまでアグレッシブな人たちは多くないと語るが「ただし、嫌なこと、自分には無理と思ったら、ファーストキャリアだし、辞めてもいいやという感覚はほぼ全員が持っているのではないか」と語る。
例えばデジタルに慣れており、学生時代に在宅でのオンライン生活が長かったため「惰性的に対面で何かをやらせると、『これってわざわざ出社して対面でやる必要なくない?』とか、『タイパ悪くない?』と思ってしまう。最近の学生は『それって生産性低くない?』とか言葉だけは社会人並みの言葉を使う。仕事の進め方や働き方のスタイルにギャップを感じたら転職を考えはじめる可能性はある」(平野所長)と指摘する。
24年度入社の新人は1カ月以上経過し、今は先輩や上司によるOJT(職場内教育)の最中だ。教え方や指導法を少しでも間違うと退職の引き金になる可能性もある。
採用コストをドブに捨てる事態を会社側は少しでも減らしたいだろうが、具体的にはどうすればいいのか。専門家に新人に「言ってはいけない・やってはいけない」言動について聞いた。
■「最初の上司」が口が裂けても言っちゃダメなセリフとは
リクルートマネジメントソリューションズのトレーニングプログラム開発グループの桑原正義主任研究員はこう指摘する。
「その人の個性や人格を否定する発言は絶対にやってはいけない。以前は新人や部下がミスを繰り返すと『親の顔が見たいわ』といった発言を普通にしていたが、今では完全にアウトだ。以前、新人に対し、言われて嫌だった言葉を調査したが、1位は『そんなことも知らないの』だった。特にビジネスマナー系では『そんなこともできないの』と『学校で習わなかったの』という言葉が出がちだが、注意してほしい」
また、新入社員研修をはじめ企業研修を手がけるALL DIFFERENTの組織開発コンサルティング本部シニアマネジャー・開発室室長の根本博之CLO(最高育成責任者)はこう語る。
「新人を呼ぶときに昔のように『お前』と呼ぶと、敬遠される。また、人によって呼び方を変えるのもよくない。ある新人は名前を呼び捨てにして、別の人間にはあだ名で呼ぶとか、呼び方を変えると、結構、敏感に察知する傾向があり、注意してほしい。新人がミスしても『二度とするなよ』と言うだけではいけない。なぜやってはいけないのか、その理由をちゃんと伝えること。『こんなこともわからないのか』ではなく、『こうするといいよ』とか、前向きに動けるようにすることが大切だ」
「お前」はもともと目上の人に対する敬称だが、「親しみが感じられなければ不快」と受け取る若い世代も多い。
ミスしても注意するより、改善方法を教えるのが正しいということだ。
リクルートマネジメントソリューションズの武石美有紀研究員は「あなたの敵ではない」ことを示すことが大事だと語る。
「今年の新人育成の場面でも感じたが、怒られることに慣れていないために、怒られたくない、失敗したくないという思いが強く、それを怖がっているように感じた。当然、上司と部下は、評価し、評価される関係なので敵味方の構図になりやすいが、本当は共通の目標に向かってがんばっている仲間であることを示すことが大事だ。仕事の目的を新人と共有すること、そしてフィードバックにおいては『こういうことがあったら指摘するから』とか、事前に合意しておくとよいだろう」
腫れ物に触る、あるいは薄氷を踏むような接し方であるが、大事なのは教える側と教えられる側がお互いを知るための対話というのが人事の現場の総意だ。昔から「最初の上司が、その後の運命を左右する」という格言があったが、「上司ガチャ」とならないように注意したい。
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人事ジャーナリスト
1958年、鹿児島県生まれ。明治大学卒。月刊誌、週刊誌記者などを経て、独立。経営、人事、雇用、賃金、年金問題を中心テーマとして活躍。著書に『人事部はここを見ている!』など。
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(人事ジャーナリスト 溝上 憲文)
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