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「激安の中国製品」が大量に流入しているのは日本だけではない…習近平政権の経済政策が米国を怒らせたワケ

プレジデントオンライン / 2024年5月27日 9時15分

中国の習近平国家主席(2024年5月16日) - 写真=AFP/時事通信フォト

■価格競争を強める中国に制裁を発動へ

米バイデン政権が、中国製の電気自動車(EV)、車載用バッテリー、太陽光パネルなどを対象とする制裁関税引き上げを発表した。その措置には、中国が過剰生産能力を使って輸出攻勢をかけるのを阻止する意図がある。

イエレン財務長官らは、これまでに何回も中国の過剰生産能力は世界経済にマイナスだと警告してきた。欧州委員会からも、中国製のEVは産業補助金や土地の供与などで過度な価格競争を引き起こし、欧州メーカーの収益が減殺されていると批判を強めている。

それに対して中国は、まったく問題は存在しないとのスタンスだ。米国の関税措置に関して、中国政府は即座に対抗措置を示唆した。19日、中国は、日米EUおよび台湾から輸入している、ポリアセタール樹脂(自動車部品などに用いる石油化学製品の一つ)を対象とするダンピング(不当廉売)調査を開始した。今後、中国からの対抗措置は増えるだろう。

バイデン政権の対中制裁措置、それに対する中国の対抗措置は米中の貿易戦争のきっかけにもなりかねない。米中の貿易摩擦熱は高まり、先端分野などでの米中対立の激化は、自動車や化粧品などの分野で中国依存度が高まったわが国にとって無視できない逆風になることが懸念される。わが国企業も相応の準備が必要だ。

■中国製EVの関税率は一気に4倍に

5月14日、バイデン政権は中国製品に対する制裁関税率を引き上げた。中国製EVの関税率は25%から100%に上昇する。EVに搭載するバッテリーは7.5%から25%、太陽光パネルは25%から50%、それぞれ税率を引き上げる。

現在、中国のEV、車載用バッテリー、太陽光パネルは、いずれも過剰生産能力を背景に低価格での輸出が急増している。それに加えて、米国は中国製の鉄鋼・アルミに対する関税(0%~7.5%)も25%に引き上げる。

2025年、米国は、中国製の汎用型半導体(旧式の半導体製造装置を用いて生産されるチップ)の関税率を25%から50%に引き上げる方針だ。米国政府は、回路線幅が10ナノ(10億分の1)メートル以下の先端チップ分野で対中制裁を強化した。それは、汎用型の分野にも波及する。

2026年、黒鉛・永久磁石の関税が0%から25%に上昇する予定だ。永久磁石に関して希土類(レアアース)の対中依存の軽減が念頭にあるだろう。今回の対象品目の総額は180億ドル(1ドル=155円換算で2.8兆円程度)。2018年から19年にトランプ政権が実施した対中制裁関税(3700億ドル(約57兆円))の一部を引き上げる。

■秋の大統領選をにらんだバイデン氏の思惑

今のところ、BYDが世界トップに成長した中国製EVは、ほとんど米国で流通していない。米国で販売しているEVはテスラを中心とする米国製とみられる。その意味では、今回の関税率引き上げはEVに関して、ほとんど効果はないものとみられる。むしろ、バイデン氏にとって、今年秋の大統領選挙をにらんだ政治的な意味が大きいのだろう。

経済面から考えると、今回の対中制裁関税引き上げは中国の過剰な生産能力の強化、それによる安価な輸出品の増加から米国の雇用を守る意図がある。米国が脱炭素、経済のデジタル化の加速を推進するために、EVや車載用バッテリー、太陽光パネルなど再生可能エネルギ関連技術の強化は不可欠だ。

それに伴い、汎用型から先端分野までチップの需要も増える。バイデン政権は中国製品を国内から締め出し、雇用と所得の機会を増やそうとの意図がありそうだ。特に、半導体などの分野は、米国の経済・安全保障体制の強化にかかわる。米議会からも対中強硬策強化の要請は強まっている。

11月の大統領選挙で再選を目指すバイデン大統領にとって、激戦区の有権者への配慮を示す意味は重要だ。ミシガン州には自動車産業が集積している。USスチールが本拠点を置くペンシルベニア州は鉄鋼生産の中心地だ。

■中国は日本に対しても“警告”

14日、中国政府は、自国の経済を守るため必要な行動をとると対抗措置の発動に言及した。習近平国家主席の欧州歴訪でも示されたが、中国は自国に過剰な生産能力はないとの立場だ。

19日、日米欧台から輸入するポリアセタール樹脂に関する調査を中国は開始した。調査は1年間かけて実施する。必要に応じ、6カ月間延長する可能性もある。日中韓の首脳会談を控える中、わが国も調査対象に含まれた。中国は米国の対中政策方針に与(くみ)すれば巻き添えにあうと警告を強めているように見える。台湾に関しては、20日に発足した民主進歩党の頼清徳政権に圧力をかける意図もあるだろう。

20日、中国は台湾への武器売却でボーイングなど米国の防衛大手3社を“信頼できないエンティティー(取引相手)”に指定した。3社とも中国との取引はない。収益への影響はほとんどないとみられるが、報復措置の強化は米中の対話機運に水を差す。米国の大手企業は、中国は敵ではなく競争相手との見解を示し対中デリスキング(リスクの低減)を強化したが、そうした取り組みが難しくなる恐れもある。

■行き場を失った激安中国製品がドンドン増える

習政権下、供給能力の強化を優先する中国の経済政策方針が変わるとは考えづらい。中国国内では不動産市況の悪化に歯止めがかかっていない。家計は先行きの不安を強め、貯蓄率は上昇した。

理屈で言えば、供給サイドよりも不良債権処理と公共事業の強化などによる需要刺激が必要だ。しかし、今のところ、そうした政策が発動される兆しは出ていない。中国政府の経済対策はやや後手に回っているといえるだろう。

行き場を失った低価格の製品は、より大量に海外市場に流出することになる。欧州歴訪時、過剰生産に問題はないと明言した習氏の姿勢、米国の制裁関税引き上げ後の中国政府の見解を見る限り、中国の過剰生産能力の拡大は続きそうだ。

中国企業は輸出拡大を目指し、メキシコやベトナム経由での対米輸出強化も企図しているようだ。EV世界最大手のEVメーカーのBYDは、メキシコで工場用地の取得を目指している。米国はベトナムを市場経済として認定するか否か検討を進めている。それが認定されれば、ベトナムの関税は低下する。それを中国が利用し、若干の加工などを付加した製品を米国に輸出し、収益の獲得を狙うことも考えられる。

湾岸のコンテナ群
写真=iStock.com/DINphotogallery
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/DINphotogallery

■日本の半導体企業にも負の影響が出てくる

今後、米国はメキシコなどに、中国企業の締め出しをより強く求めることになるだろう。カナダも中国製EVに対する関税引き上げを検討し始めた。また、欧州委員会は中国製EV、太陽光パネル、医療機器、鉄道車両などに加え、ブリキ鋼板の反ダンピング調査も開始した。

欧州の自動車業界は欧州委員会の対中EV制裁関税への懸念を強めた。中国の報復措置は、ドイツ自動車メーカーなどの収益減少につながるとの不安は多い。それでも、過度な価格競争から産業を守るために、欧州委員会が対中制裁関税で米国と歩調を合わせる可能性は高い。

大統領選挙を挟んで、米国が対中制裁措置を強化したり、関税を引き上げたりする恐れもある。特に、戦略物資として重要性が高まる半導体分野で、米国の対中強硬姿勢は強まるだろう。米国は、半導体の製造・検査装置など半導体関連部材の分野で競争力が高いわが国の企業に、米国が対中輸出管理体制をより強化するよう求める可能性もある。

■中国で“日本製品不買運動”が起きる恐れも

輸出管理の厳格化などに対し、中国は追加的な報復措置をとるだろう。関税の引き上げに加え、不買運動などの非関税障壁が高まる展開も考えられる。状況によっては、中国で日本製品などのボイコットが起き、食品、化粧品、自動車メーカーの収益が下押しされる恐れもある。

米中の貿易摩擦熱の高まりは世界経済にマイナスだ。米ソ冷戦と異なり、グローバル化の加速で米国やEU諸国、わが国、そしてアジア新興国などと中国の相互依存関係は高まっている。米国も、日用品やアパレル、玩具などの分野で中国製品を必要としている。米中の報復関税の発動、それによる貿易戦争のリスクが上昇するに伴い、世界の供給網の不安定化は高まる。

世界の企業にとり、在庫積み増しや、調達先分散の必要性はさらに高まる。米大統領選挙でトランプ政権が誕生すれば、世界の供給体制は急速に不安定化し、コストプッシュ圧力が上昇する恐れもある。短期間で、米中の貿易摩擦が終息に向かうことも考えづらい。わが国の企業にとって対応を急ぐ必要性は高まっている。

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真壁 昭夫(まかべ・あきお)
多摩大学特別招聘教授
1953年神奈川県生まれ。一橋大学商学部卒業後、第一勧業銀行(現みずほ銀行)入行。ロンドン大学経営学部大学院卒業後、メリル・リンチ社ニューヨーク本社出向。みずほ総研主席研究員、信州大学経済学部教授、法政大学院教授などを経て、2022年から現職。

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(多摩大学特別招聘教授 真壁 昭夫)

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