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真田広之「SHOGUN 将軍」 賀来賢人「忍びの家」が世界的ヒット…アメリカが日本人主演・製作で稼ぐ本当の狙い

プレジデントオンライン / 2024年5月29日 10時15分

アカデミー・ミュージアムで開催された映画『SHOGUN 将軍』のプレミアに出席した俳優、真田広之(=2024年2月13日、ロサンゼルス) - 写真=EPA/時事通信フォト

『SHOGUN 将軍』『忍びの家 House of Ninja』……ハリウッドが日本を題材にしたドラマがグローバルにヒットしている。真田広之や賀来賢人は主演とプロデューサーを兼ねる。ジャーナリストの此花わかさんは「アメリカが日本や日本人を起用するのは3つの理由がある。今こそ、日本は世界一の資本・才能・市場を誇るハリウッドとコラボレーションしコンテンツを開発して、中国や韓国に勝つべきだ」という――。

■『SHOGUN 将軍』『忍びの家 House of Ninja』…日本がウケるワケ

日本を題材にしたドラマが2022年頃から立て続けに世界的なヒットを飛ばしている。

●WOWOW×ハリウッド『TOKYO VICE』(2022年4月、主な日本人俳優:渡辺謙、菊地凛子)

●Apple TV+『モナーク:レガシー・オブ・モンスターズ』(2023年11月、同:澤井杏奈、渡部蓮)

●Netflix『忍びの家 House of Ninja』(2024年2月、同:賀来賢人=原案、共同エグゼクティブ・プロデューサーも兼任)

などがあるが、とりわけ、

●2024年2月27日に配信されたDisney+『SHOGUN 将軍』(真田広之=プロデューサーも兼任、浅野忠信、平岳大)

は、配信後3カ月も経っていないのに、シーズン2と3の作品開発が決定されるほどの大成功であった。

『モナーク』と『SHOGUN』のメインキャラクターのひとりを演じたアンナ・サワイはニコール・キッドマンをおしのけて、エミー賞の最優秀女優賞の最優良候補だとハリウッド・リポーターの編集長に推測されているほどだ。

なぜ、近年、ハリウッドが日本を題材にしたドラマに投資し、グローバルで支持されるのか。そこには3つの要因がある。

■中国から文化的距離をおくアメリカの「戦略的競争」

第一に、中国から文化的距離を置きつつあるアメリカの「戦略的競争」が大きく関係している。過去15年ほど、ハリウッドは日本よりも中国に力を入れてきた。スーパーヒーロー映画には中国人俳優がカメオ出演(※)し、世界を救うための役割を中国が担うなど、ハリウッドは中国や中国人を肯定的に描いてきた。

※映画、ドラマ、アニメなどで、短時間で強い印象を与える登場方法

ハリウッドの中国市場に対する力の入れようは、アメリカの人気風刺アニメ『サウス・パーク』の「Everyone Wants To Do Business In China」エピソードでもネタになっているほどだ。それは、中国が2001年の世界貿易機関(WTO)加盟以来、アメリカの産業に投資してきたことに由来する。数百億円にも上る投資が中国からハリウッドに劇的に流入した結果、中国の映画スタジオはアメリカ映画の内容や配役に口を出すようになった。チベット問題で中国を批判してきたリチャード・ギアがハリウッドの大作から長年干されているのも一例だ。

たくさんのアメリカ国旗と中国国旗が並ぶ様子
写真=iStock.com/cybrain
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/cybrain

アイザック・ストーン・フィッシュは著書『アメリカ・セカンド』の中で、アメリカにおける中国共産党の影響力の変遷をたどっている。アメリカは当初、中国のアメリカ経済への参入が中国に民主化をもたらすと信じており、中国の投資を歓迎していた。

ところが、これが見当違いであったことが明らかになったにもかかわらず、アメリカのビジネスマンや政治家の多くが中国に経済的に依存するあまり、中国に異議を唱えることができなくなってしまったと説明する。

中国に厳しい検閲制度があるのを皆さんもご存知だろう。中国で大人気のハリウッド映画でさえ、検閲に引っかかり上映が禁止されることが多々ある。ブラッド・ピット出演作のなかだけでも、中国のチベット軍事侵略を描いた『セブン・イヤーズ・イン・チベット』(1997)、ゾンビの発祥地が中国の『ワールド・ウォー Z』(2013年)、ブルース・リーの人物描写が中国にとって屈辱的だとされた『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』(2019)など有名な作品がずらりと並ぶ。

■中国系スーパーヒーローのマーベル映画が中国で上映禁止に

北米に続く世界第2位、年間約1兆円の興行収入を誇る中国の市場を獲得するため、また中国の投資家を怒らせないために、自己検閲をするようになったハリウッド。2021年には中国系スーパーヒーローを主役にしたマーベル映画『シャン・チー』、中国人監督を起用した『エターナルズ』を製作したものの、なんと、2本とも中国で公開されなかった。

『シャン・チー』では、中国系カナダ人、シム・リウが演じる主役の父親のキャラクターがステレオタイプ的、『エターナルズ』ではクロエ・ジャオ監督が過去に中国政府を批判していたことが問題になったという見方が強い。

『SHOGUN』を含む、さまざまなハリウッド映画でプロデューサーとして長年活動してきた宮川絵里子氏は2005年から2008年まで北京に住んでいたが、当時は「開いた中国市場に対するハリウッドの視線も熱く、バブルのような時期でした。ある意味、黄金期だったのかもしれません」と振り返る。

中世武士の鎧
写真=iStock.com/Josiah S
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Josiah S

中国で撮影された『君のためなら千回でも』(2007年)の製作時には、「豊かで多様な地理的特性と手堅い映画制作産業をフルに生かした画期的な作品」と“中国の底知れないポテンシャル”を感じたという。だが、ハリウッドと中国の蜜月は2017年のマット・デイモン主演作『グレイト・ウォール』までしか続かなかったようだ。

それはおそらく、2019年に中国共産党の創立70周年を迎えたのを機に、中国が検閲制度をますます強くしていったからだろう。

2024年3月にNetflixから配信された中国の小説を原作としたSFドラマ『三体』は配信直後にNetflixランキングで世界1位になったが、文化革命をネガティブに描いたとして中国では配信禁止となった。三体は2006年にリウ・ツーシンがSF雑誌に連載した長編小説で、中国で最も売れたSF小説だが、2024年の現在なら、そもそも出版されたかどうかも怪しい。

■政治・安全保障の観点からも中国から距離を置くアメリカ

ここ数年、厳しさを増す中国の検閲制度に加えて、政治・安全保障の観点からも、中国から距離を置くようになったアメリカ。中国は2021年のクーデターで国を掌握し、国際的に孤立するミャンマー国軍を支援した。そして、2022年に起きたウクライナ侵攻では、間接的にロシアを支持している。直近ではガザ地区でハマスが中国製武器・装備品を大量に使用していることが明らかになったと報じられている。

今日、ハリウッドの目には中国は以前ほど魅力的な市場とは映っていないのではないだろうか――。

どれほど中国人俳優を起用し、中国を舞台にしたとしても、ちょっとしたことで当局の怒りに触れ、市場から締め出される可能性が常にあるからだ。それよりも、表現の自由がある日本と手を組んだほうが得策だ。縮小しているとはいえ、大きな人口をもつ日本は興行収入において、北米、中国に続く映画市場第3位を保つ。だからこそ、Apple TV+、Netflix、Disney+などの代表的なストリーミングサービスで日本を題材としたコンテンツが台頭しているのである。

スマートフォンのホーム画面に並ぶストリーミングサービスのアイコン
写真=iStock.com/hocus-focus
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/hocus-focus

日本のコンテンツをハリウッドが魅力的に感じている理由は他にも2つある。それは、日本の歴史にさかのぼる。

■明治維新以降、西洋文化に浸透してきた日本文化

まず、日本文化が明治維新以降、西洋文化に長い間浸透し、影響を及ぼしてきたことである。19世紀後半、浮世絵や陶器にみる構図や色彩は西洋の画家たちを刺激し、日本ブーム「ジャポニズム」が生まれた。ジャポニズムはモネやセザンヌといった印象派や、ゴッホやゴーギャン、ミロなどの近代画家にインスピレーションを与え、多様な手法や芸術が生まれた。

先日、筆者がハンガリーの小さな地方都市・ペーチ市を訪れたとき、ジャポニズムに影響された、その土地の伝統的なジョルナイ陶器を見つけ、「こんなヨーロッパの地方にまで日本文化の影響が」とジャポニズムの広い浸透ぶりに舌を巻いた。当時の日本文化は西洋の芸術家や職人にとって、モチーフにせずにはいられないほど、ショッキングで魅力的なものだったのだろう。それはまさに、東洋と西洋の出会いだったのだ。つまり、日本は西洋が東洋を知る窓口となったとも言える。

■第二次世界大戦後の日本の新しいアイデンティティー

日本のコンテンツをハリウッドが魅力的に感じている理由の3つめは、「第二次世界大戦後の日本」である。広島・長崎は日本にとって暗く悲惨な思い出だが、同時に手塚治の『鉄腕アトム』や香山滋の『ゴジラ』などの世界を魅了するアイコンを生み出した。

1954年版『ゴジラ』のゴジラ
1954年版『ゴジラ』のゴジラ(画像= Toho Company Ltd./ PD-Japan-organization/Wikimedia Commons)

1952年に連載が始まった『鉄腕アトム』のアトムは原子を表し、妹はウランという。アトムが生まれたのは高度成長期に向けて原子力発電が国家事業として始まろうとしていた頃だし、同じく、1954年に公開された初の『ゴジラ』も、冷戦を背景に核兵器をメタファーにした怪獣の物語である。これらは日本の被爆体験のナラティブ(物語)であるのと同時に、原子力を解き放つ警告でもあり、日本でしか生まれなかったアイコンだろう。

広島・長崎は、西側諸国にとっては「日本の再生」の意味を持つ。戦後、日本は国際機関や人権を尊重し、途上国への支援や開発を通して国際社会に貢献してきた。再生した日本のポジティブなイメージがあったからこそ、日本の文化が戦後から2000年代の今に至るまで、アメリカや西洋諸国に広く浸透していったのだ。

4月11日に岸田文雄首相の米議会演説で笑いを誘ったエピソードが、テレビアニメ『原始家族フリントストーン』に言及したものだった。1960年代にアメリカ中の子どもたちがこぞって見ていた「フリンストーン」には「柔道チョップ」が出てくるし、『SHOGUN』のオリジナルは、1980年に放送された『将軍 SHŌGUN』というアメリカのテレビドラマだった。

他にも、日本の歴史に基づいて未来を創造した『ブレード・ランナー』(1982年)を始めとして、『ブラック・レイン』(1989年、主な日本人出演者:高倉健、松田優作、若山富三郎)、『キル・ビル』(2003年)、『ラストサムライ』(2003年、渡辺謙)、『バベル』(2006年、菊池凛子、役所広司)など、実に多くのハリウッド映画に日本の文化が刻まれている。

このように日本文化は、19世紀後半からのジャポニズム、そして、ポスト戦後は漫画、アニメ、映画、武道、禅、寿司などを通してアメリカだけではなく、世界文化の一部として長く受け入れられて来たのである。よく考えると、片づけコンサルタントとして内外で知られる近藤麻理恵さんが出演するリアリティ番組のNetflix『KonMari 人生がときめく片づけの魔法』(2019年)がアメリカ人の心をつかんだのも、こんまりメソッドの根底に流れる神道的なミニマリズムを受け入れる土壌が既にアメリカで根付いていたからかもしれない。

■ABC優位性からABC+α戦略へ

現在の国際社会において、日本は中国とは対照的に、ルールに従う国、地域的、世界的なレベルで安定と平和、繁栄に貢献している国として映る。表現の自由があり、ユニークな文化創造をする“開かれた社会”だと見られている。

ハリウッドにおける日本の立ち位置を、筆者は「Anything But China(中国でないもの)」として、その頭文字をとり“ABC優位性”と呼んでいるが、現状にあぐらをかいていてはすぐに競争に負けるだろう。日本ほど映画産業の歴史がないのにもかかわらず、国策としてコンテンツ戦略に力を入れ、ソフトパワーを輸出した韓国は、K-pop、『パラサイト』や『イカゲーム』などで大成功を収めた。

実際に、韓国政府は現在、コンテンツ戦略を見直しており、今年の3月に新たな映画支援財源を検討している旨を発表した。これまで、映画館のチケット料金の3%は「映画発展基金」として、製作費の助成、映画の海外展開や人材育成の支援に充てられてきたが、パンデミックで興行収入が落ち込み、映画発展基金は著しく減少した。このままではいけないと、韓国は今後、別の財源から安定した額を「映画発展基金」に投じるという。このように日本コンテンツの競合ともいえる韓国は新しい手を打ってきている。

日本は中国に対するいまの優位性に甘んじず、明確なコンテンツ戦略「ABC+α戦略」を練らないといけない。世界一の資本・才能・市場を誇るハリウッドとコラボレーションし、『SHOGUN』のように、「日本のナラティブでありながら、西洋の物語でもある」作品を開発すべきだろう。

先述した、ハリウッド作品に長年携わって来た前出の宮川プロデューサーもこう語る。「ハリウッドの扉が開いている今は絶好のチャンスです。海外のチームと深く対等にコラボレーションできる国際感覚を備えた人材の発掘と育成が重要だと思います」

「ABC(中国でないもの)」プラス、日本とハリウッドのアーティストやビジネスが自由に往来できるヒューマンリソースとマネージメント、労働環境、著作権法、インフラや税制優遇など、さまざまな法律や制度を整えた「ABC+α戦略」が必要ではないだろうか。

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此花 わか(このはな・わか)
ジャーナリスト
社会・文化を取材し、日本語と英語で発信するジャーナリスト。ライアン・ゴズリングやヒュー・ジャックマンなどのハリウッドスターから、宇宙飛行士や芥川賞作家まで様々なジャンルの人々へのインタビューも手掛ける。

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(ジャーナリスト 此花 わか)

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