1. トップ
  2. 新着ニュース
  3. 経済
  4. ビジネス

「夜の商談」は時代遅れになってしまった…エグゼクティブが5170円の「朝食ミーティング」を好むワケ

プレジデントオンライン / 2024年6月4日 7時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/noblige

ビジネスエリートは早朝から活動している。金融アナリストの高橋克英さんは「グランドハイアット東京などのラグジュアリーホテルでは、海外ビジネスマンを中心に朝食ミーティングが盛んだ。いわゆる朝活や朝食勉強会とは違い、完全なるビジネスとしての商談や交渉を行っている」という――。

■海外ビジネスマンで埋め尽くされる朝のグランドハイアット

東京・六本木ヒルズにある外資系ラグジュアリーブランドホテル「グランドハイアット東京」。オールデイダイニングの「フレンチ キッチン」の人気朝食メニュー「ブレックファスト ブッフェ」は、旬の野菜を取りそろえ、オープンキッチンを活かして、シェフが目の前で出来立ての料理を提供してくれる。また、オムレツなどの卵料理や、人気のフレンチトーストやエッグベネディクトなどは、テーブルでオーダーが可能だ。

フランス直輸入のチーズ、生絞りのフルーツジュースに加え、日本食や中華料理もそろっており、さまざまな料理を好きなだけ頂くことができる。

ブレックファスト ブッフェは、相次ぐ値上がりにより、現在は5170円(税込み・サービス料別)もするが、早朝6時半のオープン開始から、インバウンドの宿泊客だけでなく、海外ビジネスマンなどで埋め尽くされていく。平日でも8時を過ぎる頃には約50席150人を収容できるフロアは満席で、少し遅れると、宿泊者優先で、利用を断られることも頻繁にあるほどだ。

至るところで、朝食ミーティングと称して、海外ビジネスマンやエグゼクティブたちが、朝食を取りながら、ワンオンワンの商談や交渉を行っているのだ。嘘だと思う読者の方がいれば、一度早起きして覗きにいってみてほしい。晴れた日にはテラス席もあり、大切な顧客とは複数ある個室も利用でき、少人数の打ち合わせも問題なくできる。

外資系ラグジュアリーブランドホテルなので、日本流の「おもてなし」とは違うが、スタッフは多国籍で、ホスピタリティーは高く、グローバルスタンダードなサービスは、ストレスフリーだ。

■リッツカールトンや帝国ホテルでも同様の賑わい

無論、日本人ビジネスマンやエクゼクティブを交えた朝食ミーティングも少なくない。また、グランドハイアット東京のロビーでは、某メガバンクのロゴの入った案内板を掲げているスタッフを早朝から見ることもある。決算発表やIRイベントに合わせて来日した海外投資家やアナリスト向けに、ワンオンワンミーティングを開催しているのだ。さすがは、グローバルに世界展開し、外国人株主や投資家も多いメガバンクだといえよう。

グランドハイアット東京に限らず、リッツカールトン東京、アンダーズ東京など都内各地の外資系ラグジュアリーブランドホテルや、パレスホテル東京、帝国ホテル東京、ANAインターコンチネンタルホテル東京などのロビーフロアやダイニングは、同じように早朝から国内外のビジネスパーソンの朝食ミーティングで活気にあふれている。

■朝食ミーティングは時間を有効活用できる

国内外のエグゼクティブたちの朝は早い。多忙でもある彼ら彼女らは、朝時間をとても有効に利用しており、早朝からの朝食ミーティングもその一環だ。

朝食ミーティングのよさは、何より健康的。今日1日最初の仕事なのでお互いにフレッシュで頭も冴えている。都心でも空気は澄んでおり、車も人通りもまだ多くなく静かで、どこに行っても混雑も渋滞もなく、かつお得な気分になれる。普段とは違う試みで新鮮でもある。

時間が有効活用できる点も大きい。朝だから次の予定も決まっているので、ダラダラ長引かない。ランチやディナーでの打ち合わせと比べコスパもいい。優雅にオープンテラスで2時間を超える朝食ミーティングを終えても、まだ9時や10時だったりする。

企業にとっても、従業員・社員の生産性向上や健康維持・改善につながる可能性があり、悪い話ではない。朝食ミーティングが増えることで、結果的に夜の接待や残業代などが減少するのであれば、コスト削減の面からもメリットがあることになる。

朝食時の議論
写真=iStock.com/AscentXmedia
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/AscentXmedia

■朝活や朝食勉強会とは違う「完全なるビジネス」

もっとも、都内でも随分前からいわゆる「朝活」や「朝食勉強会」自体は行われている。カフェなどで美味しい朝食とともに、読書や英会話に勉強会、散歩、ヨガ、フィットネス、ジム、お寺巡りを行うなど、内容は多様であり、異業種交流会である場合も多い。余談ながら「朝ラー」こと朝ラーメンの店も注目されたりしている。

政治家やジャーナリスト、財団法人や各種協会などが主催する、早朝の交流会や勉強会もある。

だいたい平日朝7時過ぎから都心の高級ホテルの会議室や個室に集まり、ホテルが用意する朝食弁当を食べたあと、8時から9時まで、政治家や元官僚や大学教授などによる講演と質疑応答を行って散開というパターンだ、会費も5000円から1万円、2万円を超える場合もある。

もっとも、こうした朝活や朝食勉強会は、あくまで自発的な自己啓発や懇親会である一方、冒頭の「朝食ミーティング」は、完全なるビジネスであり、交渉や取引、商談の場という点が違うといえよう。

なお、ランチミーティングは、もはや日本でもすっかり定着している。しかし、どうしても朝食の場合よりも、ランチ自体が主役になりがちだ。また、前後の時間がタイトな場合が多く、ランチミーティングと称した単なるランチ会で終わってしまうケースも多かったりする。

■飲み会や接待文化の衰退も追い風

コロナ禍やライフスタイルの変化もあり、夜の飲み会や接待は減少傾向にある。ダラダラと2次会やカラオケなどにつながれば、パワハラ・セクハラなど不祥事の温床となるケースも多く、特に、自分の時間を大切にする若手社員を中心に敬遠されがちだ。

折からの人手不足もあり、バスや電車の減便や、終電時間の繰り上げが全国各地で起きており、都心では、かつては夜中1時近くまで電車があったが、いまは終電が早まり、首都圏でも11時台や10時台が終電や終バスという場合も珍しくなくなってきた。今やコンビニでさえ時短営業という時代だ。共同通信の調査によると、人手不足や夜間の需要の減少により、コンビニ主要6社で24時間営業をしていない時短店舗数が全体の1割超に当たる約6400店に上るという。

夜の接待・飲み会需要の減少→飲食店舗の売り上げ不振→バスや電車の終電繰り上げ→さらなる需要の減少、という負のスパイラルが続いているのだ。もはや、観光庁などが掲げ推進する「ナイトタイムエコノミー」は時代に逆行しているのかもしれない。

東京
写真=iStock.com/gong hangxu
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/gong hangxu

■「朝7時からの資産運用相談」もニーズがあるのではないか

50代を過ぎた筆者の1日は、ここ最近は朝5時台には目が覚めてスタートする。筆者が20代30代の頃は、朝が苦手でいつも遅刻ギリギリでバタバタとオフィスに駆け込んだのが嘘のような生活だ。

早起きは三文の徳のとおり、早起きの効用は語るまでもない。

ところが早起きして午前中に仕事や用事を済ませてしまおうと思ってもうまくいかないことも多い。企業も店舗も基本「遅起き」だからだ。

例えば、メガバンクの店舗は9時から、銀座の百貨店は10時半から、お台場のショッピングモールに至っては11時開店だ。

「日本人は、朝が遅すぎる、逆に夜がグダグダ長すぎる」との声もある。海外の真似ばかりする必要はないが、朝の活用など、いい点はどんどん取り入れればいい。

人生100年時代。医学的な見地からもシニア層は特に総じて早起きのはずだ。

例えば、銀行や証券会社などが、資産運用や相続・事業承継などシニアや富裕層向けビジネスに本格的に取り組むのであれば、シニア顧客の生活リズムに合わせて開店時間を早めるのはどうだろうか。

新NISAブームで、せっかく立派な相談ブースを銀行や証券会社が設けても、その多くがガラガラなのは、終業後の夜7時からの相談業務ではなく、朝7時から相談業務を行うことで解消はしないだろうか。

シニア向けではなく、若年層や資産形成層のニーズも掘り起こせるはずだ。六本木ヒルズや丸の内などの朝活でキャリア形成や社会問題の勉強会をするように、銀行や証券会社のラウンジで朝7時からの資産運用相談はどうだろうか。

デジタル化により有人店舗の存在意義が問われるなか、朝時間を活用するのだ。

■「早朝経済の活性化」がこれからの日本には必要だ

朝型勤務制度を始めた伊藤忠商事の先駆例もある。伊藤忠の朝型勤務制度は、午後8時以降の勤務を原則禁止、午後10時以降の勤務を禁止し、仕事が残っている場合には「翌朝勤務」へシフトさせる制度である。翌朝勤務(午前5~9時)を推奨し、7時50分以前に勤務を開始した場合には深夜勤務と同様の割増賃金を支給するとともに、午前8時前に始業する社員には、ファミリーマート商品などの軽食を無料配布している取り組みだ。

金融業界も為替ディーラーやアナリストをはじめ基本的には朝が早い業界だ。冒頭のグランドハイアット東京の朝食ミーティングでも、多くの金融ビジネスマンの姿を見かける。また、朝早く仕事をはじめ、中抜けして育児をして、夜また仕事をする、海外とのミーティングをオンラインで早朝に行ってから出社、といった形も可能となってきている。

夜は自己啓発や趣味の時間に使う、家族や友人とまたは気の合う仲間との時間に使う。シニア・富裕層だけでなく、リスキリングに加え、自分自身や仲間との時間を大切にする若年層や資産形成層にとっても、夕方や夜間は貴重な時間だ。

早朝出勤により、通勤時間をずらすことで、東京メトロ東西線など、首都圏での通勤ラッシュの緩和にもなる。

国などが推進する「ナイトタイムエコノミー」ではなく、「早朝経済の活性化」こそ、これからの日本には必要ではないだろうか。

----------

高橋 克英(たかはし・かつひで)
株式会社マリブジャパン 代表取締役
金融アナリスト、事業構想大学院大学 客員教授。三菱銀行、シティグループ証券、シティバンク等にて銀行クレジットアナリスト、富裕層向け資産運用アドバイザー等で活躍。2013年に金融コンサルティング会社マリブジャパンを設立。世界60カ国以上を訪問。バハマ、モルディブ、パラオ、マリブ、ロスカボス、ドバイ、ハワイ、ニセコ、京都、沖縄など国内外リゾート地にも詳しい。映画「スター・ウォーズ」の著名コレクターでもある。1993年慶應義塾大学経済学部卒。2000年青山学院大学大学院 国際政治経済学研究科経済学修士。日本金融学会員。著書に『銀行ゼロ時代』(朝日新聞出版)、『いまさら始める?個人不動産投資』(きんざい)、『なぜニセコだけが世界リゾートになったのか』(講談社)、『地銀消滅』(平凡社)など多数。

----------

(株式会社マリブジャパン 代表取締役 高橋 克英)

この記事に関連するニュース

トピックスRSS

ランキング

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

デイリー: 参加する
ウィークリー: 参加する
マンスリー: 参加する
10秒滞在

記事にリアクションする

次の記事を探す

エラーが発生しました

ページを再読み込みして
ください