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「弁護士なんかなろうとせず家庭で能力を腐らせるのが幸せ」朝ドラで描かれた女性差別は昭和50年代まで続いた

プレジデントオンライン / 2024年6月1日 7時15分

福島みずほ参議院議員、2024年5月 - 撮影=石塚雅人

ドラマ「虎に翼」(NHK)では、主人公の寅子(伊藤沙莉)が女性初の弁護士となるも戦前・戦中は活躍できず、戦後は裁判官を目指すものの女性の前例がなく採用してもらえない。弁護士でもある福島みずほ参議院議員は「私が法学部の学生だった1976年、司法研修所で、弁護士の資格を持つ事務総長と教官たちが『男が命を懸けている司法界に、女を入れることを許さない』などと差別発言をして問題になった」という――。(聞き手・構成=エッセイスト・藤井セイラ)

■昭和51年、「女は司法界に入るな」という教官発言が炎上

2024年4月、福島みずほ参議院議員がSNSにアップした意外な動画。「『虎に翼』、すごく面白いです!」とニコニコ語りだすと、「実は1976年、司法研修所で……」と実際にあった女性差別について話し、話題になった。昭和の時代から女性弁護士として活躍してきた福島氏に、司法ドラマでもある「虎に翼」の見どころをたずねた。

5月、参議院議員会館で約束の時間に部屋に入ってきた彼女は、「今日は暑いですね! 昨日とはうってかわって」とこちらの様子を察してすかさず冷房を入れる。気配りの人だ。

「さっ、じゃ本題に入りましょうか! 『虎に翼』のお話ですよね?」

実にテンポがいい。歯切れがいい。準備もいい。テーブルの上には資料のコピー、「虎に翼」の主人公のモデルとなった三淵嘉子の関連書籍、手記などが幾冊もこちら向きに並べてある。

――まず、例の動画について教えてください。

「虎に翼」、すっごく面白いでしょう。ドラマを見て思い出したんだけど、1976年5月に、司法研修所で、弁護士の資格を持つ事務総長と教官たちが「男が命を懸けている司法界に、女を入れることは許さない」という差別発言をするんです。

「虎に翼」は昭和6年、1931年から始まるんですけど、そこから40年以上経ってもまだこんな発言をする人たちが司法界にいたんですね。

■「司法修習で得た能力を家庭に入って能力を腐らせて」

――ひどいですね。ただ、記録が残っているのは、それがちゃんと問題視され、検証されたということでもありますよね。

そうなのよね。その教官たちは、女性の修習生に向かって「司法修習を終えたら判事や検事や弁護士になろうなんて思わないで、得た能力を家庭に入って腐らせて、子どものために使うのがもっとも幸せな生き方なのだよ」と話したんですよ。

大問題になって、新聞記事なんかもたくさん残っています。最終的には、日弁連が当事者たちにヒアリングを行って報告書も出すという、そういう事件でした。

当時ちょうど、女性の弁護士が1割に届いたところだったんです。「虎に翼」で描かれたように、初の女性弁護士3名が誕生した1938年から約40年が経って、ようやく女性弁護士の存在感が大きく感じられてきた頃だった、それに対する反動もあったんでしょうね。ただ、現代でも女性弁護士の割合は全体の約2割にとどまっているんですよ。

■司法試験に受かっても、女性を募集する弁護士事務所がない時代

――福島さんは、1987年に弁護士登録。ドラマで寅子が乗り越えていくように、女性ゆえの差別を受けた記憶はありますか?

当時はそんなに不自由を感じた記憶はないんですよ。いま話した1976年の差別問題があったでしょう。先輩方がそうやって、差別を差別として問題化してくれたからこそ、その後の世代には自由な空気があったのかもしれないよね。

私は、司法修習生時代に結婚して出産したので、子どもがいる女性だからということで、ハンディはありました。やはり男性より女性のほうが就職が決まるのは遅かったという記憶はあります。その直前まで男女雇用機会均等法(1986年施行)のない時代で、求人を男女で区別することも禁じられてない。大学の学生課で求人票を探しても、どこも募集が「男性のみ」でしたから。

――1933年に、女性が弁護士になる道がやっと開かれた。そこから50年以上経っても、そもそも女性弁護士の募集がなかったんですね。

そう。でも、引き下がるわけにいかないから、「男性のみ」って書いてあるたくさんの求人票をじーっとにらみながら、「ここは!」と思ったところに電話をかけて、手ごたえがあれば「女性だけれど、がんばりますから。お役に立ちます!」といって履歴書を送って面接してもらう。そういう時代でしたね。

福島みずほ氏
撮影=石塚雅人

■推しキャラは不器用な「よね」、優しくも強い母「梅子」

――「虎に翼」ではお好きなキャラクターは?

むずかしい質問! だってあのドラマ、どの登場人物も魅力的でしょう。本当によくできてるもの。よねさん(土居志央梨)は男装を貫き通して、そこにはつらい過去があって、勉強熱心で、不器用で……仲間を思う気持ちが芽生えていく変化が描かれていてね。

梅子さん(平岩紙)は優しくて、本当に芯の強い人。家庭を切り回しながらずっと勉強してきたのに、高等試験(現在の司法試験)当日にモラハラ夫(飯田基祐)に一方的に離婚を切り出されて。長男と次男を父親に取られて、「間に合わなかった……」と三男を連れて海を眺める。

あれこそが旧民法、家父長制の弊害ですよ。女性を下に見て、(子を産ませて家事労働をさせる)道具だとしか思ってない。そして、妻が自分よりも優秀さを発揮しようとすると妨害する。

現代でも梅子さんのような案件ってあるんですよ。弁護士として離婚事件を担当したときに、一見、不貞事件なのだけど、よくよく紐といていくと、奥さんが大変な努力をして公認会計士に合格したと。夫としては面白くない。自分が下になった気がしたんでしょう。

「僕なんか、妻には釣りあいませんから」なんていって若い女の人と浮気する。そんな劣等感を持たなくっていいのに。男性は女性よりも上のはず、上じゃなくてはいけないっていう無意識の価値観があって、そうなっちゃうわけでしょう。

■吉田恵里香の脚本は「生きづらい人の声をドラマで代弁」

――いまも身近に起こっているエピソードが「虎に翼」には詰まっています。

本当に脚本家さん、上手よね。吉田恵里香さん、すごいわねぇ。メッセージ、社会性、政治性、現代性、それらとエンタメが両立してるでしょう、「虎に翼」は。

それでうれしくなっちゃって、こないだ「やっと日本にも韓国ドラマみたいな面白いのが出てきた!」なんて言っちゃったら、その場にいた人に「福島さん、それは違いますよ。日本のドラマだって昔は『白い巨塔』とか名作ぞろいで、すごかったんですよ!」って叱られちゃったんです(笑)。

――韓国ドラマ、どんなものをご覧になるんですか?

王朝ものはだいたい全部見てますね。例えば、昼間に国会でどんなに論戦があって疲れて帰っても、家で「イ・サン」(2007年)を観ていたら、まあ宮廷みたいに毒殺まではされないんだから、よし、がんばろう! って元気が出てくるんですよ。あははは。

「マイ・ディア・ミスター 私のおじさん」(2018年)なんかもよかったですよ。人を想う心が丁寧に描かれていて――。だからこそ主人公を演じたイ・ソンギュンさんが、「パラサイト 半地下の家族」(2019年)で名声を手にしながら自死されて、本当に残念で……。

それからNetflixのドラマ「ウ・ヨンウ弁護士は天才肌」(2022年)なんかはASDの生きづらさを描いていますよね。特性のある人がどう社会で生きるか、輝くか。いま社会で問題になっていること、歴史や弾圧、それらとエンターテインメントを両立させている。

福島みずほ氏
撮影=石塚雅人

■モデルとなった三淵嘉子は、地獄の中をつき進んだ人

――たしかに韓国ドラマには、見た後に考えさせられるような社会性のある作品が多いですね。

そういった韓国ドラマに感じていた目配り、社会性がね、「虎に翼」にはすべて詰めこまれてる! なによりテンポがいい。このテンポ感も、久しく日本のドラマから失われていたんじゃないですか? だからこの朝ドラから、いろんなことが変わっていくかもしれませんよね。

毎週毎週、緩急をつけてね。笑わせて、涙させて。序盤の女子部のシスターフッドも、寅子の新婚生活も、もうちょっと観たかったな、なんて思ったけれど、どんどん先に進んでいく。

■シスターフッドの物語でもある「とらつば」は多様な痛みを描く

――ドラマ好きでたくさんの作品を見ている福島さんから見ても、よくできているドラマということですね。

「虎に翼」はすぐれた群像劇なんですよ。主人公の寅子は魅力的だけど、彼女が絶対的に正しい存在ではない。努力だけが唯一の価値観でもない。学べなかった人、学ぶ機会にすら与れなかった女性のことをとりこぼさない。

花江ちゃん(森田望智)のように女学校を出て主婦になる人、嫁姑問題に悩む人もいる。崔香淑(ハ・ヨンス)のように植民地からきて、弾圧を受けて恐怖の中で祖国に帰らざるをえない人もいる。そこで別れ際に「お国の言葉でなんて呼ぶの?」と読み方をたずねる涼子さま(桜井ユキ)、「ヒャンちゃんって呼んでもいい?」という梅子さんの、知性とやさしさね。

その涼子さまの母親(筒井真理子)は、華族の身分だけれど、夫が芸者と浮気して出ていって、ボロボロになって娘に甘えて縛るでしょう。母を見捨てられず、涼子さまは家を守るために高等試験をあきらめる。いろんな人の苦しみが描かれていますよね。

どれもこれも、これまでそこにあったのに、表立って描かれてこなかった痛みですよ。

■毒親で悩む若い人たち……親は親の人生を歩むべき

――涼子さまの試験断念は「親が重い」「毒親」という現代の問題につながります。

そう。わたしFacebookをよく見るんだけど、いま、若い人で親との関係にずっと悩む人が多いでしょう。大変よね。子どもの数が減っていることとも関係あるんでしょうけど、親は親で自分の人生を生きなくちゃいけないと思いますよ。子どもの人生をコントロールしようとするんじゃなくてね。涼子さまがもう少し若ければ、ヤングケアラーになっていたでしょうし。

わたし、両親から大事にしてもらったなぁっていまになって感じるんです。あれをするな、これをするなって全然いわれなかったの。でも、4回目の挑戦で司法試験に合格したときに「実はね、父さんも母さんも御百度参りしてたんだよ」って。プレッシャーになると思って子どもにはいわずに、ただ見守ってくれていた。

だからわたしも、娘はもう成人して弁護士をしていますけど、小さな頃から本人の意思を尊重するように心がけました。うちは夫婦別姓を望んで事実婚でしたから、姓も保育園に入るときに「どっちがいい?」って聞いてね。

そしたら「こっちのほうがかっこいいから、こっち!」って、自分で選んだ姓を使っていました。子どもは小さくても自分で考える力を持っています、もちろん権利も。最近の共同親権の問題でも、子どもの意思が置き去りになってますよね。ここにも家父長制が残ってるんですよ。

――「虎に翼」はまさに家父長制を描いて、ほどいていこうとするドラマですよね。

そう。ドラマの序盤に出ましたけど、戦前の民法では「妻は無能力者である」と。夫が妻の財産をすべて管理する。つまり女・子どもを「家長の所有物」だととらえているんです。それが少しずつ前進してきたその歴史の中に、寅子のモデルになった三淵嘉子さんがいるんですね。大きく変わったところもあれば、いまもまだ残る部分もありますよ。

――インタビュー後半は、ぜひそのあたりから続きをうかがいたいと思います。

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福島 みずほ(ふくしま・みずほ)
参議院議員
社会民主党党首。参議院議員(5期目)。東京大学法学部卒業後、弁護士として選択的夫婦別姓、婚外子差別などに取り組む。1998年初当選。2009年には内閣府特命担当大臣として男女共同参画・自殺防止・少子化対策などを担当し、DV被害者支援や児童虐待防止、貧困対策、労働者派遣法改正に取り組む。2010年、辺野古への新基地移設の閣議決定の署名を拒否し、大臣を罷免される。著書に『生きづらさに立ち向かう』(共著、岩波書店)ほか。

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(参議院議員 福島 みずほ)

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