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「はて?」は世の中を変えられる…朝ドラで伊藤沙莉が演じる寅子が連発するセリフに込められた深い意味

プレジデントオンライン / 2024年6月1日 7時16分

福島みずほ参議院議員、2024年5月 - 撮影=石塚雅人

ドラマ「虎に翼」(NHK)では主人公の寅子(伊藤沙莉)が司法試験合格、結婚、出産、夫の戦病死を経て裁判官を目指す姿が描かれている。弁護士でもある福島みずほ参議院議員は「寅子の口癖『はて?』は、私もよく言います。何か疑問に思うことをそのままにしておくのが嫌で、立ち止まって考えたいときに『はて?』となる。この言葉には相手を否定せず周囲を巻き込む力があり、さらには制度を変える力もある」という――。(聞き手・構成=エッセイスト・藤井セイラ)

■結婚すると、女性の姓は男性に吸収合併されてしまう?

――前編では、家父長制の名残というお話で終わりましたが、福島さんのおうちは事実婚なんですね。

そう。大学1年のときに夫(海渡雄一弁護士・東京共同法律事務所)に出会って。結婚しようか、となったときに「はて?」と。「いままであなたのことを海渡くんって呼んできたじゃない? 結婚したら、わたしの姓は吸収合併されちゃうわけ?」って。

――吸収合併ですか(笑)。

だって、銀行が合併したら東京三菱UFJ……あっ、いまは三菱東京か、全部を入れて新しい名前にするでしょう。海外では両姓併記もあるのに、日本ではできない。彼は彼で姓を変えたくないという意向だし、じゃあ事実婚にしましょうと。

――いまの「はて?」のように、福島さんは「はて?」とよくおっしゃっていますよね。

あっ、たしかにそうかも。「はて?」って。疑問に思うことをそのままにしておくのが嫌なんですよ。立ち止まって考えたい。だから「はて?」となる。結婚なら、わたしは姓を変えたくない。あなたも変えたくない。じゃあどうしたらいいんだろう。そしたら事実婚になりましたし、別姓婚についても研究会をするようになっていったんですよ。

■寅子の口ぐせ「はて?」の起源のひとつは、福島氏?

――「虎に翼」の寅子(伊藤沙莉)の口ぐせが「はて?」であるように、福島さんの著書にも「はて?」が何度も出てきます。

寅子の「はて?」っていいわよね。もしあれが「それは違うと思います!」だったら、あれだけのドラマの推進力はないと思うんです。「はて?」と考え、周りにも気づかせる。巻きこみ力があるよね。相手を否定せずに、引っかかりについて考えて掘り下げる。

――その逆が、納得いかなくても無理にのみこむ「スンッ」。序盤では、姑・妻・母・嫁といった立場のはる(石田ゆり子)や花江(森田望智)が、家庭のケア労働を一手に担うことからくる「スンッ」が描かれました。私大に通っていた頃、同級の男子学生が東大生に会うと態度を豹変させるのを見て「男の人もスンッてするんだ」と寅子が驚く場面も。

そう。スンッじゃなくて「はて?」と考えていけるほうがいいのよ。「はて?」と立ち止まって、口にする。ほら、「保育園落ちた日本死ね」(2016年)も「#検察庁法改正案に抗議します」(2020年)も、たった1人の発信から制度や法律が動くことがあるでしょ? 全部はうまくいかなくても、「はて?」と声を上げていくことで、変わることはあるから。

■寅子の「どうして女の人ばかりが損をするのかしら」

――日本では夫婦別姓を認めるかどうかが約40年も議論されているんですね。

そうなんです。婚外子への法律上の差別もあり、そのことについても働きかけしてきました。住民票の世帯主との続柄欄は、昔は婚姻中の実子なら「長女」や「次男」、養子は「養子」、婚外子は「子」と、区別して書かれてたのよ。ある裁判の中で行政交渉をしてもらうと、1995年にすべて「子」に変わった。つまり住民票を見ても区別されなくなったのね。立法だけじゃなく、裁判を通して制度が変わって、法律を人間のほうに合わせていけるんですよ。

選択的夫婦別姓は、実は1996年に実現しかけてます。法制審議会で全会一致、国会に上程して、あとは採決だけ。でも自民党が反対して決まらなかった。夫婦別姓や同性婚には「多様な意見がある」と長年ストップをかけて、共同親権に反対する声には耳を傾けない。これって矛盾よねぇ。

わたしね、数多くの判例を調べたことがあるんです。裁判の中で女性がどう扱われてきたか。昔から法や裁判は「男の痛みに敏感で、女の痛みに鈍感」「女の首は軽い」っていわれてきたんです。寅子もよねさんも、劇中で同じようなことをいって嘆くでしょう。ケーススタディを通して、それはやはり現代も事実なんだと実感しましたね。

■「虎に翼」はいい男だらけ、しかし男性から見ると違うのか

――「虎に翼」の序盤では「あさイチ」の司会の博多大吉さんが「朝ドラ受け」で「そろそろいい男出てきてほしいな」と発言して話題に。そのあと花岡が登場しましたけど。

えーっ、みんな男性キャラクターも素敵なのにね。元書生で寅子と結婚した優三さん(仲野太賀)なんて、本当にいい男ですよ。寅子の法律に対する憤りを受けとめて、寅子の「はて」を深める手助けをしてくれて。父親の直言(岡部たかし)も、「俺にはわかる」のお兄ちゃんの直道(上川周作)も、いい男でしたよね。

――3人ともこれまでの朝ドラにはあまりいない、弱みを見せられる男性。共亜事件での冤罪が晴れたときの「父さんのいうことを信じないでいてくれてありがとう」というセリフは家父長制に逆らうもので、象徴的でした。

そうねぇ。寅子は本当に優三さんと結婚して、よかったよね。だからこそ、そのあとの戦争が……つらかったですよね。寅子のモデル・三淵嘉子さんの伝記を読むと、実際に戦争で大変なご苦労をされて、疎開して掘っ建て小屋みたいなところで暮らして。

ご結婚はね、ご両親が三淵さんに「誰かいいと思う相手はいないのか」とたずねたら、ずっと前に家にいた書生さんの名前を挙げるものだから驚いたんですって。優三さんと同じく、やはり戦争にいってご病気で亡くなられるんですけど。

もし花岡(岩田剛典)のような人と結婚したのだったら、のちに「家裁の母」と呼ばれるような、大活躍の人生は送らなかったのかもしれない。そんなふうにも思うんですよね。三淵さんのことを直接は存じ上げないけれど、人づてに聞くと、会った人はみんな彼女のことが大好きになっちゃう、そういう人だったそうです。

武藤嘉子 (後の三淵嘉子)、昭和13年(1938)頃の撮影
武藤嘉子 (後の三淵嘉子)、昭和13年(1938)頃の撮影(写真=PD-Japan-oldphoto/Wikimedia Commons)

■夫が妻に嫉妬せず対等でいることが、女性活躍には必要

――福島さんにとってパートナーと「よい関係を続けるコツ」はありますか?

とにかく、なんでも平等に話しあうこと。それは夫婦だけじゃなくて、子どもとも。家族って平等な関係ですから。

うちは夫も弁護士で、互いの活動をリスペクトしているのは大きなポイントだと思います。娘も弁護士なので、ときに家族でシンクロして、一緒に活動したり、支えあったり。とても助かっています。

あと、夫が妻であるわたしの仕事に嫉妬したり「おもしろくない」と感じることが1ミリもない、というのが大きいと思いますね。だからわたしは遠慮なく発言できるし、のびのび行動できる。励まされたことはあっても、活動をセーブするようにいわれたことは一度もありません。

――パートナーの方はどのように家事・育児をシェアされてきたんですか?

それは本当に半々。先に帰るほうが、お迎え、食事、お風呂、絵本を読み聞かせて寝かしつけまで。でも実は、夫が定時で上がると、同僚から「お前が育児をするせいで、俺も(妻から)やれっていわれるんだ。やめろ」っていわれてたんだって。まあ、半分冗談でね。でも夫は子育て期間中は、わたしにはそれをいいませんでしたね。

彼は料理がすきでね。また、自分の頭で考えられるようになってほしいと、子どもにゆっくりと向き合っていました。何年もかけて『ナルニア国物語』、『風の谷のナウシカ』の原作漫画全7巻(宮崎駿)、『宮沢賢治童話集』などを夜寝る前に読み聞かせてくれて。やっぱり物語の力っていうのは大きいですよね。

福島みずほ参議院議員
撮影=石塚雅人

■マイノリティであることも含めて自分のことを愛せたら

――女性ゆえの苦労というのはありましたか?

やっぱりね、それは「虎に翼」に描かれている通り、「地獄の中をつき進む」しかないと思うんですよ。わたし、若いときはクライアントのもとへいって「男性の先生かと思っていたのに」「女性だったんですか」とがっかりされることがよくありました。瑞穂って男性でも通じる名前だから。

「虎に翼」は100年前の物語だけど、いまに地続きですよね。女性であるということは、やっぱりマイノリティではある。

――わたしは会社員時代に、いまの社会で上位のポジションに就いている女性には、男性以上に男性的な価値観を内面化して生き残ってきた人が多いのでは、と感じました。

うーん。でもほら、別に女性であることを残念に思ったり、男性性を内面化なんて、そんなこと考えなくっていいんだよね。自分の中にあるマイノリティ性を否定する必要はないんですよ。

例えば英語が第一言語の人は、それだけで他の国の人と話せちゃいますよね。相手が自分に合わせてくれるから。でも、日本語が第一言語だったらきっと外国語を学ぶでしょう? マイノリティに生まれつくと、他者の言語を習得せざるをえない、それって面白いことでもあるとわたしは思うんだよね。

それと同じで、男性に生まれついた人には見えないものが、女性には見えている。相手には見えていないものが自分に見えているんだ、自分の弱さや違いは武器にもなるんだ、と考えたらどうでしょう。そして、それを口に出していくことよね。

わたしは、このわたしに生まれてきたことを肯定したいと思っているのね。自分の中にある「女であること」「男であること」、もしくは「そうではないなにかであること」、なんでもいいんだけれども、それとともに生きていくんです。生まれついた自分で、自由に生きる。それしかないですよ。

■ドラマ初回に出てきた憲法14条に、戦後の焼け跡で寅子が出会う

――米津玄師さんのドラマ主題歌「さよーならまたいつか!」には「100年先のあなたに会いたい」と出てきますね。

そう、ドラマでは現代風にエピソードやキャラクターをアレンジもしてありますけど、100年前のかえって自由なところ、戦前の文化度の高い生活や、女学校や女子部のシスターフッドも描かれていて、そしてそのあと、それを壊す戦争があって。

その中でやっぱり道を切り拓いていこうっていう強い思いで、寅子も、いろんな個性ゆたかな登場人物たちも、がんばるじゃないですか。そして第1回の冒頭に出てくる、戦後の憲法につながってくる。

「日本国憲法第十四条 すべて国民は、法の下に平等であって、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない」

だからね、涙なしでは見られないっていうのと、毎朝、力をもらって勇気が湧くっていうのと、その両方が「虎に翼」にはありますよね。

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福島 みずほ(ふくしま・みずほ)
参議院議員
社会民主党党首。参議院議員(5期目)。東京大学法学部卒業後、弁護士として選択的夫婦別姓、婚外子差別などに取り組む。1998年初当選。2009年には内閣府特命担当大臣として男女共同参画・自殺防止・少子化対策などを担当し、DV被害者支援や児童虐待防止、貧困対策、労働者派遣法改正に取り組む。2010年、辺野古への新基地移設の閣議決定の署名を拒否し、大臣を罷免される。著書に『生きづらさに立ち向かう』(共著、岩波書店)ほか。

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(参議院議員 福島 みずほ)

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