広末涼子は肉筆のラブレターを公開されても仕方ないのか…元週刊誌編集長が抱く「文春報道」への違和感【2023編集部セレクション】
プレジデントオンライン / 2024年6月2日 16時15分
■ジャニー喜多川氏の性加害問題も、岸田首相の長男も…
女優・広末涼子のW不倫報道から、週刊文春一強時代の危うさが見えたように思う。
文春の情報収集力と取材力は、すべてのメディアの中でも群を抜いていることは間違いない。
連続追及している故・ジャニー喜多川氏による少年たちへの性加害問題では、次々に被害を受けた元ジュニアたちの告白をスクープしてきた。ついにはカウアン・オカモト氏のように実名・顔出しで告白してくれる元ジュニアを登場させ、日本外国特派員協会で会見させて、見て見ぬふりをしてきた藤島ジュリー社長を追い詰めている。
追い詰められたのはジャニーズ事務所だけではない。この問題に沈黙してきた新聞、テレビも濃淡はあるが取り上げないわけにはいかなくなった。
さらに文春(6月1日号)は、「岸田一族『首相公邸』大ハシャギ写真」とタイトルを打ち、昨年12月30日に岸田文雄首相の長男で秘書官の翔太郎氏が、親戚たちを公邸に招いて忘年会を開いていたと写真付きで報じた。フライデー(6月16・23日号)も岸田首相が寝間着姿で参加していた「ご満悦写真」を公開した。
当初は軽く考えていた岸田首相だったが、世論調査で支持率が激減したことにあわてて、翔太郎氏を更迭せざるを得なくなったのである。
ジャニー喜多川問題も岸田首相の長男の公邸の私利用も、新聞各紙が取り上げ、多くの社説に週刊文春の名が躍った。
■「文春一強時代」に心配な兆しが出ている
この10年間を眺めてみると、スクープは常に文春から放たれてきたといってもいいだろう。新聞もテレビも文春の後追いをするか、黙殺するかしかなかった。
文春はさながら無人の野を行くがごとしである。だが、安倍政権のように一強時代が長く続くと内側から腐食する。メディアに限って、文春に限ってそんなことはないといい切れるのだろうか。
新聞、テレビ、週刊誌を含めた雑誌、将来的にはネットメディアが競い合い、相互に批判し合っていかなくては、この国の言論はやせ細るばかりだと、私は考えている。
文春に対しては厳しいいい方になるが、このところの記事を見ていて、いささか心配な兆しが出ているように思う。
広末涼子のW不倫報道(6月15日号)を見てみよう。広末は1980年、高知県で生まれた。芸能界入りのきっかけは中学2年だった1994年、CMオーディションでグランプリを獲得したことだった。1996年に出演したNTTドコモのCM「広末涼子、ポケベルはじめる」で大ブレイク。ヒロスエブームと呼ばれる社会現象を巻き起こしたといわれている。
1998年には早稲田大学に自己推薦入試で合格。以降、映画『鉄道員』(1999年)や『おくりびと』(2008年)などの話題作に出演した。
■「すごくしんどかった時に、今の旦那さんに出会いました」
人気絶頂にあった広末が5歳上のモデル・岡沢高宏と結婚したのは2003年12月。当時23歳の“でき婚”で、翌2004年4月に長男を出産した。後に女性誌FRaU(2016年7月号)で彼女はこう振り返っている。
「ホントに、仕事を辞めたくて仕方なかったです。もちろん結婚なんて許されない時だったので(略)正直、確信犯ですよね。出来ちゃった結婚だと言われたけど」
しかし、岡沢との結婚生活はすぐに破綻を迎え、2008年春に離婚。その後、キャンドルアーティストのキャンドル・ジュン氏(49)と2010年10月に再婚して、翌年3月に次男を出産している。
「すごくしんどかった時に、今の旦那さんに出会いました。(略)彼と出会えてなかったら、息子がいなかったら、女優業はもちろんのこと、今こうして自分が存在できてなかったんじゃないかなと思う」(FRaU)
■有名シェフと“道ならぬ恋”に
だが広末は、代々木上原のフレンチレストラン「sio」の人気シェフ、鳥羽周作氏(45)と“道ならぬ恋”に落ちていると文春は報じた。鳥羽氏も妻子持ちである。
2人が出会ったのは今年3月下旬。広末が鳥羽の店を訪れた時からだというから、「瞬間湯沸かし器」のような恋である。
会って約1カ月半後の5月16日、夕方6時。真紅のルージュを引き、大きなサングラスをかけた広末が、美脚も露わなショートパンツ姿で青山に現れた。向かった先は、鳥羽が経営する別のレストラン「Hotel’s」だったという。
広末が入店してから4時間ぐらいたった夜10時過ぎ、ようやく思い人の登場と相成った。モノクロのグラビアページには、広末の彼を見つめる表情が捉えられているが、まさに「恋する女性」のそれに見える。
広末らは店が閉店する夜11時頃まで食事を楽しむと、タクシーで恵比寿の高級創作和食店へと移動した。その後、店を閉めた鳥羽氏はスタッフ1人を連れて合流を試みようとする。だが、周囲を警戒してか、店の近くの電柱に隠れて様子を伺うなどした後、諦めた様子で帰っていったそうである。
■「とにかく早くキャンドル氏と離婚したい」
2人が再び会うのは約2週間後の5月31日。鳥羽氏が夜8時頃に向かったのは、前回と同じ恵比寿の和食店。この日も店の周りを何周もして、時折物陰に隠れる警戒ぶりだったという。
ようやく広末の待つ個室へ入っていった鳥羽氏は、5時間も貴重なデートタイムを過ごした。広末が店の裏口から現れタクシーに乗り込んだのは深夜0時頃。ほぼ同じ時間に鳥羽氏は表から店を後にしたそうである。
その3日後の6月3日、夜9時半頃、広末は都心の高級ホテルにチェックインした。同じホテルに泊まっていたのは鳥羽氏だった。
チェックインから5時間ほどがたった深夜3時過ぎ、大きなスーツケースを引いてホテルを後にした広末。それから約6時間後の朝9時半、鳥羽氏は関係者とみられる男性とともにチェックアウトしたのを文春は見届けた。
5月に入り、広末は事務所関係者に対して、「とにかく早くキャンドル氏と離婚したい」と話しているという。
一方の鳥羽氏も周囲に、「お互い気持ちは通じ合っている。でも、きっと他人には理解してもらえない。奥さんとは離婚したい」と漏らしているというのである。
文春は6月4日夜、自宅から姿を現した広末に声をかけた。
――鳥羽さんとホテルでご一緒されていました?
「(目を見開いて)いえ!」
■文春の直撃に「無いですね」と語っていたが…
――別の日も恵比寿の店でお二人で?
「“お二人で”なんてありえません」
――不倫の事実はない?
「(さらに興奮して)はあ、ありません! 絶対にありません! 子ども三人いるんです。ありません!」
――離婚の予定も?
「ありません! どこを情報源にそういうこと言ってるんですか。聞いた話で真実だと思わないでください。失礼です! 私、政治家なんですか、公人なんですか。プライベートないんですか。プライバシーないんですか……」
文春は鳥羽氏にも話を聞いている。
――広末さんと再婚?
「フフ(笑)。そうですね、無いですね。四十五になりますけど、当時ど真ん中のアイドルだったんで、みんな世の中の男性はそういうこと思うことはあるかもしれないですけど、ないですね。具体的にそういう話は」
最後に、
「そうですね、逆にそういうことが正式に発表できることがあれば、連絡するんで、ちゃんと撮ってもらったら嬉しいですけどね」
鳥羽氏には余裕が感じられる。広末が裏切ることはないという自信があるのだろう。
それは文春が次号(6月22日号)で公開した、2人の不倫日記を読むとよく分かる。
広末はホテルのポストカードに赤裸々なメッセージを綴っていたという。
■交換日記を掲載することに問題はないのだろうか
〈淋しくて悔しいけれど、でも私は、あなたのおかげで愛を諦めない覚悟を知りました。もしかしたら、こんな風に本気でぶつかり合って求め合って、ひとを好きになったのは初めてなのかもしれません〉
2人が密に交わしていた交換日記には、まるで彼らの寝屋を覗いているようなきわどい表現のものもあるが、文春はご丁寧にその日記の一部を写真に撮って掲載している。
広末の夫のキャンドル・ジュン氏は自身が開いた会見で、日記の存在は知っていたが、文春に渡したのは私ではないと否定している。だが、その前の福島県二本松市の龍泉寺で行われた東日本大震災の月命日のイベントでは、「プライベートなことで世間をお騒がせしてしまって、申し訳ございません」「自分自身の家族はいま大変なことになってます。しっかりとこの後、けじめをつけますので、皆さんお楽しみに」という思わせぶりなコメントを発表している。
鳥羽氏の妻である可能性は低いと思うので、日記を文春に渡したのは夫のジュン氏である可能性が高いと、私は思う(その後、文春の7月6日号で、鳥羽氏がインタビューに答える中で、「ノート(交換日記=筆者注)を僕の家に持って帰ることはない」といい切っている)。
ところで、広末と鳥羽のあけすけなやりとりを書いた日記風のものを、誌面で報じることに問題はないのだろうか。広末は文春の直撃に対して、「私、プライバシーないんですか……」と訴えている。
■元週刊誌編集長の私がいえた義理ではないが…
たしかに彼女は有名な女優だから不倫を報じられることは致し方ない。だが、不倫相手との肉筆のやりとりは、第三者には知られたくないプライバシー情報が詰まった「私信」である。
同じようなことをやってきた私がいえた義理ではないが、プライバシー侵害といわれても致し方ないのではないか。
私が、いま現場の編集長だとしたら、ここまで載せることには抵抗感があっただろうと思う。
生前の三島由紀夫からの私信を本に掲載しようとした作家が、三島の遺族から出版差し止めを求める訴訟を起こされた裁判の判例を持ち出すまでもなく、私信の公開には慎重であるべきこというまでもない。
たしかに文春は、2012年6月21日号で「小沢一郎 妻からの『離縁状』」というスクープを掲載した。亡くなったノンフィクション・ライターの松田賢弥が苦労して、小沢の妻が有力後援者に送った私信を手に入れたのだ。
文春は手紙の全文を誌面に載せた。私は、当時の編集長、新谷学氏は決断力のある人だと感心したものだった。
だが、これは小沢という有力政治家の妻の手紙で、地元の有権者たちを含め国民には「知る権利」があった。
■肉筆の私信は報道の域を超えていないか
では今回はどうか。広末は公人に準ずる存在ではあるし、その彼女がW不倫をしていたと報じることは「公共的関心事」といえるだろう。
これがLINEのやりとりだったら、出されても仕方ないと思っているが、肉筆の私信を公開することは、報道の域を超えていないのだろうか。これをおもしろがって放送したテレビも同様である。
こんな疑問は、ふた昔前なら他のメディアから出ていたはずだ。だが文春一強時代の今、そうした素朴な疑問さえ投げかけないのは一体どうしたことか。
だいぶ前になるが、大手新聞の敏腕記者がテレビの報道番組のキャスターに抜擢され、歯切れのいい話ぶりでたちまち茶の間の人気者になったことがあった。
その記者が付き合っていた不倫相手が、テレビの人気者になって彼が冷たくなったと、文春で告白したのである。なれそめやベッドの上でのやりとりを明かし、その中に、彼にバナナを使われたという「ひと言」があった。
私は、その記者をいささか知っていたので、これを読んだ時、ここまで書く必要があるのかと疑問に思った。文春が発売されるとその人間はキャスターを降り、東北の地方支社に異動していった。
“不倫文春”といわれるくらい文春は昔から不倫報道が多い。表現もえげつなく、武士の情けが感じられないと思うことが何度かあった。
■今回はどうも文春らしくない
話を広末に戻せば、文春(6月29日号)では、記者に広末自ら電話をかけてきて、彼女の所属している事務所に対する批判を延々話している。だが、誌面を読む限り、何をいいたいのか皆目見当がつかない代物である。
文春の記者も、あなたのいっていることはこういうことか? なぜ今、事務所批判をするのか? 女優を辞めようと決意したのか? 子供の親権はどうするのか? などの質問をどうしてしなかったのか。どうも文春らしくない。
ところで、4月19日に最高裁である判決が出た。「国税に口利きで100万円」と文春に書かれた片山さつき参院議員が名誉毀損で訴えていた裁判で、文春側に賠償金330万円を払うよう命じたのである。
2018年に文春は片山氏が事務所ぐるみで財務省に口利きを行い、100万円を受け取った。決定的証拠とともに爆弾証言を公開すると、連続追及していた。
週刊文春電子版には今(6月29日現在)でも、「片山さつき事務所に新疑惑『2000万円口利き』スッパ抜き」という見出しで、「『国税100万円口利き疑惑』、『消えた政治資金』につづき、またしても片山事務所を舞台にした口利き疑惑が発覚した」と載っている。
だが、その報道内容が事実ではなかったか、事実に近いことはいくらかあったが、名誉毀損は成立したということであろう。
■多くの週刊誌が“原点”を忘れてしまっている
私が見たのは朝日新聞だが、メディア欄に小さく出ていただけだった。だが、今の文春のネームバリューなら、社会面で大きく扱ってもいい“事件”ではないのか。名誉毀損の賠償金で330万円はかなり高額である。私だったら事の詳しい経緯と名誉を毀損された片山議員のインタビューを載せる。
私が見逃しただけなのか、文春誌上で片山議員に対する謝罪文を読んだ記憶がないのだが。
このまま文春一強時代が続くということは、文春が取り上げない問題は大きな話題にもならず、忘れられていくということにならないか。
文春とて神羅万象すべてを取り上げることはできない。誌面を見て感じるのは、原発新増設や異次元の防衛費増額、憲法9条改悪にはあまり関心がないようだ。マイナンバー問題も週刊新潮のように熱心ではない。自民党の個々の政治家のスキャンダルには熱心だが、自民党独裁体制を根底からひっくり返してやろうという、強い“意志”はないように思える。それは発行元の文藝春秋がやや保守的な体質だからだろうか。
かつて丸山邦男氏は週刊誌の役割をこういった。「週刊誌の今日に期待するものは、管理社会のなかで口や眼を封じられているふんまんを、弱き者の味方となって自分たちの眼の壁を破ることではないか」。多くの週刊誌が忘れ去って、顧みようとしない“原点”である。
メディアに一強はいらない。お互いが批判し合い切磋琢磨(せっさたくま)しなければ、この国の言論・表現の自由はさらに危ういものになる。
広末涼子のW不倫騒動を読みながら、そんなことをぼんやりと考えた。
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ジャーナリスト
1945年生まれ。講談社で『フライデー』『週刊現代』『Web現代』の編集長を歴任する。上智大学、明治学院大学などでマスコミ論を講義。主な著書に『編集者の学校』(講談社編著)『編集者の教室』(徳間書店)『週刊誌は死なず』(朝日新聞出版)『「週刊現代」編集長戦記』(イーストプレス)、近著に『野垂れ死に ある講談社・雑誌編集者の回想』(現代書館)などがある。
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(ジャーナリスト 元木 昌彦)
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