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なぜ「時価総額世界1位のマイクロソフト」が必死に他社と組むのか…自社だけでは生き残れない「AI革命」の本質

プレジデントオンライン / 2024年6月3日 9時15分

マイクロソフトのブラッド・スミス社長 - 写真=EPA/時事通信フォト

■世界経済の常識を覆す革命が起きている

5月22日、米エヌビディアが決算を発表した。同社の2月~4月期の売上高は前年同期比3.6倍の260億4400万ドル(1ドル=155円で約4兆円)、純利益は同7.3倍の148億8100万ドル(約2.3兆円)だった。5月~7月期の売上高予想は280億ドル(約4.3兆円)前後だ。実績、収益見通しともに市場予想を上回った。

現在、エヌビディアは、文字通り世界のAI分野を牽引している。同社の“画像処理半導体(GPU)”の性能向上によって、AI関連の広い分野の成長期待が高まっている。AIの性能に決定的な影響を与える半導体の能力向上で、AIの用途が飛躍的に広がり社会全体に有効な問題解決手段となっている。

ここへきて、 “AIパソコン”の需要が増えている。マイクロソフトは、エヌビディアや台湾積体電路製造(TSMC)、半導体設計企業のアームなどとの協業関係を強化した。ビジネスモデルはこれまでの自己完結型から、よりオープンに付加価値を創出する形態へ世界の企業の事業運営も変化している。世界経済の常識をAIが覆す“革命”が起きている。

■AIチップ市場はエヌビディアの独り勝ち状態

今後、AIを搭載したデバイスの普及により、チップの省エネ、演算処理能力向上などのニーズは一段と上昇するだろう。そうした環境変化に対応するため、アライアンスやコンソーシアム体制を強化する企業も増えるだろう。AI革命に対応できるか否か、わが国の企業、産業、経済の中長期的な展開に重大な影響があるはずだ。

2月~4月期のエヌビディア決算をみると、先端のAIプロセッサーである“H100”の販売は予想以上に増加した。H100は売上高全体の87%を占めた。エヌビディアはTSMCや韓国のSKハイニックスとの関係を強化し、H100の供給体制を強化した。

現在、供給は需要に追い付いていない。世界のAIチップ市場でエヌビディアは80%程度のシェアを抑えている。同社の独り勝ちだ。

決算期が違うため単純に比較することはできないが、1月~3月期、米AMDやインテルの決算は振るわなかった。AMDもGPUの開発を強化しているものの、ゲーム用半導体の需要減少が収益増加を妨げた。インテルは微細化や製造受託事業の収益貢献が遅れ、最終損益は赤字だった。4月~6月期の売上高見通しも市場予想を下回った。

■オープンAI、マイクロソフト、アマゾンなどが争奪戦に

エヌビディアは、AIチップの設計と開発に徹底的に集中している。同社はAIプロセッサーを顧客がより有効に活用するソフトウェア面でも優位性が高い。一方、AMDはゲーム、インテルはファウンドリー事業など複数の分野に手を広げた。結果的に加速度的なAI分野の成長に対応することが難しくなっている。

エヌビディアとAMD、インテルなどの競争力の差はさらに拡大する可能性は高いだろう。3月、エヌビディアはH100の後継モデルの“H200”を発表した。年内に次世代GPUの“B200”も投入予定だ。

H200は、H100よりも最大で45%処理速度が速いとされる。B200とCPU(中央演算処理装置)を組み合わせて最新の大規模言語モデル(LLM)に活用すると、処理能力はH100の約30倍に上昇する見込みだ。エヌビディアによると、B200の電力消費は現行機種の25分の1という。

高性能な新型プロセッサーの発表が近いにもかかわらず、H100の需要は想定以上に増えた。オープンAI、マイクロソフト、アルファベット(グーグル親会社)、アマゾン、メタなどの主要IT先端企業にとって、今、可能な限りより多くのエヌビディアのAI半導体を確保すことが、AI分野での競争力に重要なファクターになっている。

■オフラインでAIが使える時代がやってくる

エヌビディアの成長に伴い、世界のデジタル化は新しい局面を迎えている。重要な変化の一つは、“エッジAI”を搭載したパソコンの登場だ。エッジAIとは、パソコンやスマホなど端末上で動くAIをいう。

従来、AIを使うために、ユーザーはデータセンター(サーバー上)にあるAIにアクセスする必要があった。この場合、まず、ユーザーが端末に指示内容を入力する必要がある。指示に基づいてサーバーにあるAIが推論を行う。結果はネットを経由してユーザーの端末(エッジ)に送信される。ネットに接続していることがAI利用に欠かせない。

エッジAIの場合、ネットに接続せずに端末上でAIを使うことができる。ネット上のクラウド空間にあるAIに比べ性能は限定的だが、翻訳などを行うことができる。また、端末上でAIの動作が完結するため、ユーザーのデータ保護にも役立つ。サーバーと通信しない分、理論上、反応の遅延もない。通信コストの節約にも有効だ。

■マイクロソフトは「パソコンを発明し直す」

エッジAIを用いる端末を開発する企業も急速に増加している。5月20日、マイクロソフトは、生成AIに特化したパソコンの開発を発表した。同社は「パソコンを発明し直す」と意気込みを示した。AIパソコンのために、マイクロソフトのビジネスモデルの変革も急加速している。

1990年代、米国ではIT革命が起きた。ネットに接続して文章やデータの計算ファイルを、メールでやりとりすることは当たり前になった。それを支えたのが、“ウィンテル”だった。マイクロソフトの文書作成ソフトを動かすため、CPU供給をインテルが一手に担った。マイクロソフトのソフトウェアの動作性能はCPUに規定された。

マイクロソフトがオープンAIと開発するLLMの利便性向上に、ウィンテルの体制が最適とは限らない。マイクロソフトはアームの半導体設計図を用いて、自社の仕様に最適なチップの設計と開発を強化している。演算処理能力の向上に加え、デバイス駆動時間延長に電力消費性能の向上も欠かせない。エヌビディアとも連携強化し、エッジAIの性能に磨きをかけている。

写真=iStock.com/Pakin Jarerndee
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Pakin Jarerndee

■自己完結型のビジネスが行き詰まったインテル

今後、IT関連企業のビジネスモデルは、オープンに他企業と連携しつつ事業運営体制を強化し、新しい付加価値をより多く生み出すことが重要になる。インテルはこの点で躓(つまづ)いた。同社はチップの設計図から、回路デザイン、製造(前工程)、チップの切削、研磨、封入(後工程)、販売などを自己完結した。CPUに関するあらゆる価値が社外に漏れ出ないようにした。

しかし、デジタル化が加速し、スマホの登場、AI分野の急成長などにより、自己完結型のビジネスモデルは行き詰まった。

それに対しエヌビディアは、TSMC、SKハイニックス、アーム、マイクロソフトなどとの連携を強化している。自社の強みを発揮できるGPUの設計と開発を強化する。それ以外の分野では他社の製造技術やソフトウェアを活用する。それにより、顧客が欲する製品を、より高付加価値でより迅速に供給する力を高めている。

■わが国のIT後進国ぶりは深刻

中長期的な展開として、AI分野の成長は加速するだろう。大規模言語モデルに続き、自律的に思考するAI(汎用AI、AGIなどと呼ばれる)が登場するとの見方も多い。エッジAIの処理能力向上、データセンターやデバイスの電力消費能力の強化や小型化などの重要性は増す。関連する設備投資を、特定企業が自前で実行する難しさも高まるだろう。

今後、エヌビディアなどの主要AI企業は、一段とオープンな事業運営体制を目指す可能性は高い。AI分野の成長は、これまでの企業の事業運営、産業の在り方の常識を覆す。

わが国は“AI革命”に対応する必要がある。半導体の素材、製造装置などの分野で、わが国の企業はまだ競争力を保っている。光半導体など、次世代チップの開発も強化されている。

重要なポイントは、それぞれの企業がAIなど成長期待の高い分野で“ヒト、モノ、カネ”をダイナミックに結び付けることだ。わが国の電機、通信企業が、海外のAI企業との連携を強化することは、国内のAI利用を促進し、経済の回復にプラスの影響をもたらすはずだ。

それが難しいと、世界のAI革命への対応は難しくなるかもしれない。コロナ禍などで、わが国のIT後進国ぶりは深刻だ。遅れを取り戻すためにも、わが国の企業は内外の企業との連携を強化する重要性は高まっている。

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真壁 昭夫(まかべ・あきお)
多摩大学特別招聘教授
1953年神奈川県生まれ。一橋大学商学部卒業後、第一勧業銀行(現みずほ銀行)入行。ロンドン大学経営学部大学院卒業後、メリル・リンチ社ニューヨーク本社出向。みずほ総研主席研究員、信州大学経済学部教授、法政大学院教授などを経て、2022年から現職。

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(多摩大学特別招聘教授 真壁 昭夫)

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