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粗悪品だから安いのではない…サイゼリヤが「ミラノ風ドリア」を税込300円で出せる本当の理由

プレジデントオンライン / 2024年6月8日 16時15分

サイゼリヤのミラノ風ドリア〔写真=KKPCW(Kyu3)/CC-BY-SA-4.0/Wikimedia Commons〕

サイゼリヤの商品はなぜ安いのか。元サイゼリヤ社長の堀埜一成さんは「サイゼリヤは国内外で1500店舗以上もある。扱う量が多いと、イタリア産にこだわったワインもオリーブオイルも格安で提供することができる」という――。

※本稿は、堀埜一成『サイゼリヤ元社長が教える年間客数2億人の経営術』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)の一部を再編集したものです。

■イタリア人が「マンマの味」とべた褒め

会社はお客さまの言動を管理することはできません。できるのは、商品やお店を管理することだけです。そのため、お店で出すメニューには徹底的にこだわります。

サイゼリヤの価格帯だけを見て「安かろうまずかろう」と連想する人は以前より確実に減ったように思いますが、そうしたイメージを払拭するためにひと役買ってくれたのが、ピエモンテ生まれのイタリア人通訳のマッシさんこと、マッシミリアーノ・スガイさんです。彼がまとめたnoteの記事「サイゼリヤの完全攻略マニュアル3」は120万PVを超えるアクセスを集めました。

マッシさんいわく、「サイゼリヤは本当に最強すぎ。コスパは良すぎて量もあるし味も本場イタリアに近い。しかも、安い。イタリア人として、大満足でまるでイタリアに帰った気分になる。感謝! Grazie Saizeriya!」とのことで、サイゼリヤを「マンマの味」と称して、べたぼめしてくれました。

■本場イタリアより安くイタリア料理を提供

東京にマフィアの末裔というイタリアンレストランの経営者がいて、その人も、サイゼリヤのパスタは家庭の味だと言ってくれました。パルマ産生ハムにしろ(本書執筆時点では、家畜伝染病の「アフリカ豚熱」の侵入を防ぐために輸入停止中。代わりにスペイン産のハモン・セラーノがメニューに並んでいる)、オリーブオイルにしろ、モッツァレラチーズにしろ、イタリアの食材をそのまま使っているからです。しかも、本場イタリアより安く提供できています。

なぜそんなことが可能なのかといえば、サイゼリヤがめちゃくちゃな量を買っているからです。

イタリアにあるレストランは大半が個人商店で、チェーン店というのがほとんどありません。個人商店ですから仕入れる量には限りがあります。一方、サイゼリヤは国内だけで1000店舗強、海外を合わせると1500店舗以上(2023年8月)もありますから、扱う量がそもそも違います。

■日本一イタリアワインを消費するチェーン

たとえば、イタリアワインの消費量では、サイゼリヤは間違いなく日本一です。イタリアワインの輸入商社はたくさんありますが、彼らは販売しているのであって、自ら消費しているわけではありません。サイゼリヤはそうした輸入商社を通さず、直接輸入し、大半は自分たちのお店で消費しています。そして、だからこそ入手できる希少なワインもありました。

社長時代、私は毎年イタリアに視察に行っていましたが、現地には定点観測している仲のいいレストランがいくつかありました。そこに行くとき、希少性の高いイタリアワインを手土産に持っていくと、とても喜ばれました。限られた量しか生産されていないので、地元の彼らでも入手が困難だからです。

それはまとまった量を買うバイイングパワーの問題というよりも、ワイン生産者との個人的なつながりの問題だったりするのが、おもしろいところです。

■イタリアワインはカジュアルに楽しむもの

役員の一人は根っからのワイン好きで、「値切れないバイヤー」として知られていました。値切れないから、全部相手の言い値で買ってくるわけです。でも、その値段は決して高くない。ジュゼッペ・リナルディという伝説のワイン造りの名手のおじいさんがいるのですが、ジュゼッペさんはバイヤーの彼をアミーゴと呼んでかわいがっていました。だから、名手の造る希少ワインを買えるのです。そういう濃いつながりの生産者が何人かいました。

グラスにワインを注ぐ様子
写真=iStock.com/kuppa_rock
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/kuppa_rock

バイヤーの彼は、自分が飲みたいワインを相手の言い値で買ってきます。ワインをやたらに高級品扱いするのを嫌っていたから、利益は考えていません。

日本人は高いものほどありがたがって飲むけれど、それはフランスワインの話なのです。フランスやカリフォルニアのワインは「売るためのワイン」だから、高い。でも、イタリアワインは「日常的に飲むワイン」で、地元の人はワインの酒蔵に瓶を持っていって、ワインを分けてもらう。それくらいカジュアルに楽しむのが、イタリアワインの本来の姿なのです。

■100円とは思えないほど手間がかかっている

サイゼリヤのグラスワインは、税込み100円という値段から、粗悪品と揶揄されることもあるのですが、実は、フレッシュなイタリアワインを遠く離れた日本の地で味わってもらうために、すごくいい状態で運ばれてきていることは、意外と知られていないかもしれません。

ヨーロッパから日本に船で来るときは、必ず熱帯を通過します。そのとき温度が上がると、味が変わってしまうので、一定以下の温度に保つリーファーコンテナ(定温コンテナ)で、必ず船倉に入れて運んでもらっています。その温度を保ったまま、店まで運んでいる。そこまで手間のかかるワインを100円で提供しているのです。

そういう地味なことをコツコツ積み上げていると、わかる人にはわかってもらえるようです。バズレシピでおなじみの料理研究家リュウジさんが、YouTubeで取り上げてくれた動画「【泥酔】日本一サイゼリヤを愛している料理研究家が提唱する本当のサイゼリヤの楽しみ方【前編】4」もバズりました。

サイゼリヤには、扱っているワインの種類が通常店舗よりも多い「スペシャルワイン店」もあって、そこで「この値段でこのワインが飲めるの?」という掘り出し物に出会う楽しみもありますが、全店で扱っているテーブルワインも手を抜かない姿勢が貫かれています。

■無料のオリーブオイルはどんどん消費してほしい

オリーブオイルもそうです。フレッシュなほうがおいしい。新鮮なオリーブオイルは、舌の上でピリピリします。苦いし、めちゃくちゃスパイシーなのです。

みなさんが口にしているオリーブオイルがまろやかで、マイルドな味がするとしたら、それは古いか、スペイン産の可能性が高い。サイゼリヤが提供しているのは、イタリアの認証がついたエクストラ・バージン・オリーブオイルだけです。スペイン産などの混ぜ物があると、認証を受けられません。

サイゼリヤのオリーブオイルは、お食事されるお客さまに無料で提供しているので、大量に消費します。そのため、めちゃくちゃ回転がいいわけです。オリーブオイルも、フレッシュなほうがおいしい。たくさん売れれば、それだけ回転が速くなるので、どんどん新しいものが入ってきます。

オリーブオイルは1年経つと味が変わります。年度替わりのときに、比較のために両方出すことがあるのですが、全然味が違います。ハウスワインにも年度替わりがあります。それくらい、鮮度に意味があるのです。

だから、たくさん出れば、店もうれしいし、新鮮なオイルやワインを楽しめるお客さまもうれしい。サイゼリヤの規模になると、そういうポジティブサイクルが、そこらじゅうで起きてくるのです。

そういうことは、日本で個人でイタリアンレストランをやっている人たちには知れ渡っているようです。「レストラン ラッセ」のオーナーシェフ、村山太一さんのように、「サイゼリヤのオリーブオイルがいちばんうまい」と言ってくれる人もいます(『なぜ星付きシェフの僕がサイゼリヤでバイトするのか?』飛鳥新社)。

■なぜ「ミラノ風ドリア」を300円で出せるのか

1973年創業のサイゼリヤは半世紀の時をへて、国内1055店、海外485店(2023年8月期)まで店舗数を増やしていて、多くのお客さまに受け入れられています。看板メニューのミラノ風ドリアは1日1店舗あたり約100食、つまり、毎日日本中で10万食売れている計算です。

堀埜一成『サイゼリヤ元社長が教える年間客数2億人の経営術』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)
堀埜一成『サイゼリヤ元社長が教える年間客数2億人の経営術』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)

これだけ人気のある商品ですから、過去に何度もコンビニや冷凍食品の挑戦を受けています。実は、ミラノ風ドリアというのはサイゼリヤの完全オリジナル商品で、イタリアのミラノに行ってもそんなものはありません。ナポリタンが日本発祥で、ナポリとは何の関係もないように、ミラノ風ドリアもミラノとは無関係なのです。

ところが、「ミラノ風ドリア」が料理名として定着したせいで、他社も似たような商品を出してきます。サイゼリヤは「ミラノ風ドリア」を商標登録していないので、名前まで同じ商品もあります。

でも、どれだけ他社から攻撃を受けても、サイゼリヤのミラノ風ドリアはびくともしません。サイゼリヤと同等レベルのものをつくるには、日本では1000円を切ることも難しい。それをサイゼリヤは税込み300円で出しているのです。

■ただの「安いイタリアンレストラン」ではない

価格勝負をしようと思えば、品質を犠牲にするしかなく、味で対抗しようと思えば、値段を上げざるを得ません。だから、サイゼリヤの優位はそうやすやすとは崩れないのです。

では、なぜサイゼリヤはミラノ風ドリアを税込み300円という低価格で提供できるのでしょうか。広告費をかけないというのも理由のひとつですが、実は、もっと根本的な違いがあります。その秘密については、本書の中で明かしていくつもりです。それを読めば、サイゼリヤがただの「低価格のイタリアンレストランチェーン」ではないことがわかっていただけることでしょう。

圧倒的な安さとおいしさを実現できるのには、ちゃんとした理由があるのです。

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堀埜 一成(ほりの・いっせい)
サイゼリヤ元社長
1957年、富山県生まれ。京都大学農学部、京都大学大学院農学研究科修了。81年、味の素に入社。87年、ブラジル工場へ出向。98年、同社発酵技術研究所研究室長。2000年、サイゼリヤ創業者・正垣泰彦より生産技術者として口説かれサイゼリヤ入社。同年、取締役就任。2009年、代表取締役社長に就任。2022年、退任。食堂業と農業の産業化を自らのミッションとし、 13年の在任期間でサイゼリヤ急速成長の基盤づくりを行うと共に、店舗省エネ、作業環境の改善、工場品質の安定化、食材加工技術の基礎研究、脳波による嗜好研究など、独自の感性で会社の進化を牽引した。

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(サイゼリヤ元社長 堀埜 一成)

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