「離婚せずに不倫の慰謝料請求だけしたい」そんな相談者に年100件以上の男女問題を扱う弁護士が伝える"現実"
プレジデントオンライン / 2024年6月10日 16時15分
■年間100件以上の離婚や男女問題の相談を受けてきた
私は、弁護士として、離婚事件や男女関係の問題をよく取り扱っており、年間100件以上の離婚や男女問題のご相談を承っております。その経験から、読者の皆様に少しでも有益となることをお伝えできればと思います。
今回のテーマは、「配偶者(夫または妻)が不倫をしたことが発覚したが、何かしらの事情で離婚はしたくないため、慰謝料請求のみを行いたい」というケースについて、お話ししたいと思います。
不貞行為が発覚したけれども、子どものことを考えると離婚はできない、今後の生活が不安で離婚に踏み切れない、まだ相手のことを愛している……など、さまざまな理由から、離婚に踏み切れないというケースはあります。その場合の注意点について、お話しします。
■離婚をしなくても慰謝料請求はできる
まず、婚姻期間中に不貞行為が行われた場合、不貞が行われた配偶者は、不貞を行った配偶者(不貞配偶者)及び不貞相手(愛人などの第三者)に対して、不法行為(民法709条または719条1項)に基づく慰謝料請求を行うことができます。不貞配偶者か、不貞相手か、いずれか一方のみに対して請求することもできますし、両方に対して請求することもできます(ただし、両方に対して請求したとしても、2倍の金額が認められるわけではありません)。
そして、そのことは、離婚しているか否かには関係がありません。そのため、離婚をしていたとしても、離婚をしていなかったとしても、不貞配偶者に対しても、不貞相手に対しても、原則として、慰謝料が認められることになります。
ただし、離婚した場合に比べると、どうしても慰謝料額は低くなる傾向にあります。
不貞の慰謝料額は、婚姻期間の長さ、不貞期間の長さ、未成年の子の有無、不貞行為発覚後の事情など、さまざまな要素をもとに決められますが、その判断要素の1つに、「婚姻関係が継続しているか、破綻しているか」というものがあります。「破綻」というのは、必ずしも離婚していることに限られず、不貞行為をきっかけに別居に至ったなどのケースも含まれますが、不貞行為が行われたが、同居を継続して婚姻関係も継続している(または、いったん別居に至ったけれど、同居を再開した)ケースなどの場合、慰謝料の減額の要素として捉えられます。
■婚姻関係を継続していると慰謝料額が下がる可能性がある
不貞の慰謝料額は、通常、100~300万円と言われますが、近年では、150~200万円前後になることが多いと思います。そこを一つの基準として、より悪質であれば増額され、逆に損害が大きくないとされてしまったら減額されます。
慰謝料の額は、個別の事情によっても変わりますが、担当した裁判官によっても異なります。不貞行為に厳しい裁判官に当たれば慰謝料は高額になりますし、そうではない裁判官に当たれば低額になります(ただし、一定の幅の範囲内ではあります)。そのため、事前に正確に見通すことは難しく、また、1つの事情で決まるわけではありませんが、婚姻関係が継続しているということは、減額の要素として捉える裁判官が多いと思います。そのため、婚姻関係を継続している場合は、慰謝料額としては、下がる可能性があります。以下では、裁判例をご紹介します。
![家族の概念](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/d/d/1200wm/img_dde141cf7c4a71d0c7744c339eaae492475543.jpg)
■同居を継続していた3つの例
① 東京地判平成29年11月29日(平成28年(ワ)第42067号):75万円(弁護士費用含む)
まず、東京地判平成29年11月29日では、婚姻から不貞行為までが約3年、子ども1人、不貞行為が行われた期間が約2カ月程度という事案で、同居を継続しており、不貞行為発覚前と状況が変わっていなかったことから、慰謝料額は75万円(弁護士費用含む)とされています(なお、同事案は、妻がキャバクラで働いており、妻が店の客と不貞行為を行った事案でした)。
② 東京地判平成30年2月27日(平成29年(ワ)第1067号):120万円
次に、東京地判平成30年2月27日においては、不貞行為までの婚姻期間が約2年3カ月で、不貞行為が行われた期間は、途中に間は空くものの、約1年2カ月程度であり、子どもが1人いたという事案で、いったん別居したものの、約2カ月程度で同居を再開し、夫婦関係の再構築に向けて努力しているということが認定されて、慰謝料額は120万円とされました。
③ 東京地判平成30年3月1日(平成29年(ワ)第19968号):40万円
東京地判平成30年3月1日においては、不貞行為までの婚姻期間が約8年で、不貞行為が1回であり、子どもが1人、離婚には至っていないという事案で、慰謝料額は40万円(これとは別に弁護士費用が4万円)とされました。
■「不貞相手の子を2人出産した妻」の慰謝料は200万円だった
④ 東京地判平成29年11月29日(平成28年(ワ)第16219号):200万円
他方、東京地判平成29年11月29日においては、不貞行為までの婚姻期間が約5年、不貞行為が行われた期間が約3年という事案で、婚姻関係は継続しているものの、慰謝料額としては200万円が認められています。ただし、同事案は、妻が不貞行為を行った事案でしたが、妻が不貞相手との子を2人も妊娠し、出産するという事態にまで至っているため、そのことが重視されて増額されたものと思われ、婚姻関係を継続していることは決定的事由ではなかったものと思われます。
このように、婚姻関係が継続していることは、一般的には、減額事由として考慮されることが多くあります。このことを念頭においた上で、婚姻関係を継続するか否かを検討された方がいいと思います。
■慰謝料請求が離婚を誘発する可能性がある
婚姻関係を継続しつつ、慰謝料請求を行う上で、注意しなければならないことは、自分が婚姻関係を継続したいと思っていても、不貞配偶者から離婚を求められる可能性がある、ということです。
すなわち、自分が、不貞配偶者または不貞相手に対して、慰謝料請求を行ったことにより、不貞配偶者が自分と婚姻関係を継続することを拒否し、別居などに至ることがある、ということです。言ってみれば、「逆ギレ」のようなものですが、実際問題としては、このようなことはよく起こります。
そもそも、不貞行為が行われる場合、不貞配偶者には、婚姻生活に何らかの不満があることがあります。不貞行為が発覚し、慰謝料請求を行うなどの法的手段に出たことをきっかけにその不満が爆発してしまい、別居に踏み切られ、逆に離婚を請求される、ということがあります。自分は、婚姻関係を継続するつもりだったのに、予想外のことが起きてしまった、ということがないようにしなければなりません。
![結婚指輪を外そうとしている手](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/0/3/1200wm/img_03c785ba941b925b46d1a7439d575000440167.jpg)
■「離婚になったとしても、それでいい」という覚悟が必要
もちろん、不貞配偶者は、この場合、「有責配偶者」にあたり、有責配偶者からの離婚請求のハードルは、通常よりも高くなります(最判昭和62年9月2日民集41巻6号1423頁)。単に戸籍上離婚を成立させない、ということを希望しているのみであれば、それでもいいのですが、別居自体を止めることはできません。もし、自分としては、従前のとおり、婚姻生活を継続することを望んでいた、という場合は、別居されてしまうこと自体が、自分の想定外の出来事となってしまいます。もちろん、子どもがいる場合は、子どもにも影響を及ぼすかもしれません。
そのため、もし、婚姻関係を継続したまま、慰謝料請求を行うのであれば、最悪、離婚となったとしても、それでいいという覚悟で行う必要があります。どうしても婚姻関係を継続したいのであれば、そもそも慰謝料請求を行うべきではありません。そのことは、不貞配偶者に対してはもちろんのこと、不貞相手に対しても同様です(不貞配偶者が不貞相手に肩入れしてしまうこともあるためです)。不貞行為が行われたにもかかわらず、何もできないというのは辛い状況ではありますが、婚姻関係を継続することを優先するのであれば、そのような決断も必要になってきます。
いかがでしたでしょうか。婚姻関係を継続したまま、慰謝料請求を行うことは可能ですが、金額は減額される可能性があること、および、慰謝料請求を行った場合には、自分の配偶者から離婚を求められる可能性があることにご注意ください。
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弁護士
立教大学卒、慶應義塾大学法科大学院修了。テレビ番組の選曲・効果の仕事を経て、弁護士へ。「クライアントに勇気を与える事務所」を事務所理念とする。依頼者にとことん向き合い、納得のいく解決を目指して日々奮闘中。 事務所名:中村総合法律事務所
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(弁護士 中村 剛)
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