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「首都高を走るバカLUUP」はまだ序の口…ルール無視の危険電動キックボードがこれから増殖するワケ

プレジデントオンライン / 2024年6月5日 10時15分

LUUPステーション - 筆者撮影

■LUUPに乗る条件は「交通ルールテスト」全問正解

都心の道路では、このところLUUPがとにかく目立っている。青緑と白のシェア電動キックボードだ。

見た目にもさわやかでオシャレ。特に若い女性が乗っているのを見ると、なんだか「新時代」とも思う。じつは私も何度も乗っている。使い方によっては便利だ。

国も利用を促進したいようで、道交法改正で昨年7月から、一定の要件を満たせばこの電動キックボードに運転免許なしで乗れるようになった。

利用法は簡単で、スマホのアプリを起動して、QRコードを読み込むだけ。それで借りられる。昨今は登録の際にアプリ上で「交通ルールテスト」を受験して、全問正解しないと利用できないシステムになっている。

電動キックボードは原則として車道の左側を走り、歩道では降りて手で押して歩く、といったルールを理解させる取り組みで、交通法規にも気を遣っていて、ちょっとエラいとも思う。

LUUPの交通ルールテスト
筆者撮影
LUUPの交通ルールテスト - 筆者撮影

■速度、操作性、制御、操舵性がアップ

そしてもうひとつ、ちょっとだけ感心していることがある。このところ、速度も、操作性も、制動も、操舵性も……、なんだか良くなっているのだ。

一言でいうと、前につんのめりにくくなった。ブレーキにもしっかり感がある。特に真四角の「特定小型原付ナンバー」が付いている新モデルがそうだ。

実は以前から、これらの進歩を予感していた。ちょっと前、電動モビリティ新製品展示会で試乗車に乗ってみたからだ。私が試したのは、セグウェイ社など数社が出している製品だったのだが、共通して次のような進化があった。LUUPの現状ともあわせて、一つひとつ見ていこう。

■止まるときは両方同時を推奨

▼足下のボードが、堅牢かつ重く

まず足下のボード部分、つまり足を乗せる部分が広く、頑丈になって「ふにゃふにゃ」や「ガクガク」がなくなった。ガッチリしていて重い。

その分「重心がかなり下がったかな」と思う。だから躯体に安心感がある。なんというか「踏ん張り感」が出たというべきか。

▼ブレーキバランスに進化

個人的にはこれが一番の進歩だろうと思う。LUUPは右手側が前輪のブレーキ、左手側が後輪のブレーキなのだが、後ブレーキが強力になり、なおかつ前ブレーキだけだと利きにくくなったという印象だ。両手ブレーキだとわりとスピーディに止まれるのに、片手だとちょっと空走距離が生じる。でもちょっと違う。もっとうまくマネジメントされている感じだ。

私は意地悪に「つんのめってやろう、どうだこれで、ぎゅーっ(片方のブレーキだけ握る)」って何度もやってみたのだけど、たとえ前ブレーキだけでも(少なくとも平地では)つんのめらない。で、両手でかけるとピタリと止まる。

じつはこの「前ブレーキだけだと危険なので、止まるときは強制的に両ブレーキ同時で」というのは、国交省と警察庁の指導により、新たに作ったセッティングなんだそうだ。

LUUPに乗る筆者
筆者提供
LUUPに乗る筆者 - 筆者提供

■段差に強く、より安全な乗り物になった

▼前輪に堅めのサスがついた

よく見ると前輪部分にマウンテンバイクのようなサスペンションがついている。この前輪サスは「この手があったか」の代表格で、堅めのセッティングで「つんのめり力(?)」を吸収してくれるようになった

LUUPのサスペンション
筆者撮影
LUUPのサスペンション - 筆者撮影

これが急ブレーキの際にも利くし、理論上は軽い段差なら吸収する。ホイールが10インチになったことも合わせ、以前よりは段差に強くなったといえよう。

▼時速3キロ以上にしないと電動モーターが動かなくなった

これまたナイスアイデアで、要するに、乗り始めのスピードゼロの際、不意にアクセルがかかり「オオッと!」ということがなくなったわけだ。

最初にトントンと片足で助走をして(助走とはいっても歩く速度以下だ)両足を乗せてアクセルを入れる。するとジワーッと駆動力がかかるというわけ。

なるほど、こうしたアイデアを随所に活かしつつ、最高時速が20km/hまでしか出なくなった(歩道モードは6km/h)。ひとことで言うと、以前と比較するとかなり安全になっているわけだ。私はちょっと認識を新たにした。

■首都高を走る「トンデモLUUP」も登場

さて、そういうわけで、ハードは存外よくなった。「長足の進歩」と言えるだろう。

でも、この新モビリティを使うための道路マネジメントに関しては、いまだにどうかとは思うわけだ。

電動キックは、道交法改正で誕生した噂のカテゴリー「(特例)特定小型原動機付自転車」で「ほぼ自転車」扱いである。免許も要らず、6km/h以下の「歩道モード」が装着されているならば、モードONで歩道を走ってもOK。ハンドルのバーエンドには緑ランプがついていて歩道モード(点滅)と車道モード(点灯)が分かるようになっているという。

LUUPの「6kmモードボタン」
筆者撮影
LUUPの「6km/hモードボタン」 - 筆者撮影

しかし、こんなルール守られるわけがない。なにしろ6km/hなんて早歩きのスピードにすぎないのだ。

「別に車道モードで歩道通っても、時速6キロを守ればいいんだろ〜」というココロの中の言い訳とともに歩道に入り、実際は時速20キロで走る。まるで歩道上のママチャリのように。誰もが「そんなもんだよ」と思い、いつしかそれが常態化する。

実際、ルールを無視する人たちが次々と取り締まられている。警察庁の発表では、2023年7~2024年3月の摘発件数は全国で1万4432件。内訳は通行区分違反が7538件、信号無視が4935件、一時不停止の843件などで、酒気帯び運転も80件あったという。

LUUPに乗る前にテストで交通ルールを学んだはずなのに、乗っている間に忘れてしまったのだろうか。

【図表1】特定小型原動機付自転車に関連する交通違反の検挙件数
警察庁「特定小型原動機付自転車に関する交通ルール等について」より

■歩道空間の安全性は蔑ろにされたまま

中には、電動キックボード禁止の自動車専用トンネルや首都高を走るというバカなLUUP乗りも登場し、当然ニュースになった。

こうした危険な乗り手たちによって、歩道上の事故が増える。

ハードの進歩によって「乗っている本人にとっての安全性は上がった」とはいえるだろう。だが。歩道上の、子供、お年寄り、障碍者、妊婦、ベビーカーほかの安全性は、蔑ろにされたままだ。その事実に変わりはない。

渋谷の混んだ歩道を走るLUUP
筆者提供
渋谷の混んだ歩道を走るLUUP - 筆者提供

ここが最大の問題点で、結局のところ電動キックに関する数々の改良は、悪く言えば「自分さえよければいい」を助長しているに過ぎない。

そもそも「ナンバープレートをつけたビークルが歩道を平気で通れる」という現状に、トンデモない違和感がある。最初から違和感だらけだったが、今もアリアリだ。

■電動キックの弱点を解消する「サドル付き」

さきほど電動キックの改良ポイントをいくつか紹介したが、実は、電動キックにはどんなにハードが進歩しても越えられない壁がある。

それは「電動キック、楽じゃないぞ」という部分だ。

立ちっぱなしで疲れるうえ、案外小回りが利かないし、Gがかかって翌日は必ず筋肉痛になる(これが乗る人が若い人ばかりの理由だと私は思っている)。しかも、重心が高いためにふらつくし、改善されたといってもまだまだ段差が苦手。

つまり、何だかんだで長い時間乗っていられないわけだ。

ならば今後どうなるか。

座って乗れるサドル付きが登場だ。

それどころか電動スクーターみたいなのがすでに出てきている。乗ってみたら、これは楽で、楽しい。絶対に普及すると思う。

「電動サイクル」というそうだ。そして、手回しのいいことに、その電動サイクル、すでに「特例特定小型原動機付自転車」認定済みだという。

電動サイクルに乗る筆者
筆者提供
電動サイクルに乗る筆者 - 筆者提供

■「ニアリー合法」による事故が増える

こういう20km/hまでOKなモビリティが、音もなくハイパワー(電動アシスト自転車の約3倍)で歩道を疾走するわけだ。間違いなく歩行者の巻き込み事故が爆増する。それが「未来の現実」だ。私は断言する。

そして絶望的なのは、その電動サイクルとやらが「ニアリー合法」であるという事実だ。オラオラな違法モペッドはどんどん取り締まればいいが、これは取り締まれないのだ。

もう昨今の道路行政、どうかしているとしか言いようがない。

関わったすべての人が泣いているし、疑問に思っている。いったい誰が誰のためにこれを進めているのだろうか?

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疋田 智(ひきた・さとし)
自転車評論家
1966年生まれ。東京大学工学系大学院(都市工学)修了、博士(Ph.D.環境情報学)。学習院大学、東京都市大学、東京サイクルデザイン専門学校等非常勤講師。毎日12kmの通勤に自転車を使う「自転車ツーキニスト」として、環境、健康に良く、経済的な自転車を社会に真に活かす施策を論じる。NPO法人自転車活用推進研究会理事。著書に『ものぐさ自転車の悦楽』(マガジンハウス)、『自転車の安全鉄則』(朝日新聞出版)など多数。

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(自転車評論家 疋田 智)

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