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橋下徹「マイナス情報ばかりが目立つ『大阪万博』。本当の意義はここにある!」

プレジデントオンライン / 2024年6月7日 9時15分

早稲田大学政治経済学部卒業。弁護士。2008年から大阪府知事、大阪市長として府市政の改革に尽力。15年12月、政界引退。最新の著作は『情報強者のイロハ 差をつける、情報の集め方&使い方』(徳間書店)。 - 撮影=的野弘路

元大阪市長・大阪府知事で弁護士の橋下徹さんであれば、ビジネスパーソンの「お悩み」にどう応えるか。連載「橋下徹のビジネスリーダー問題解決ゼミナール」。今回のお題は「逆風に負けない情報発信の仕方」です──。

※本稿は、雑誌「プレジデント」(2024年6月14日号)の掲載記事を再編集したものです。

■Question

万博の開幕まで1年なのに賛否が拮抗していますが?

大阪・関西万博(以下、大阪万博)の開幕まで1年を切りましたが、工期の遅れや人件費・建材費の高騰で建設費が当初予算の約2倍に膨れ上がることに関して批判の声が高まっています。4月の朝日新聞の世論調査では「賛成」47%、「反対」45%と拮抗。ここで改めて、大阪万博を開催する本当の意義や世論の捉え方について、橋下さんの持論を教えてください。

■Answer

まず「関心度」調査は内閣支持率とは違うことを明確にせよ

確かに今は批判の嵐が吹いていますね。ただ、僕が出演しているフジテレビ系の報道番組「日曜報道THE PRIME」でも番組独自の視聴者調査を行いましたが、その結果、27%が「ぜひ行きたい」、23%が「見どころあれば検討する」、50%が「行きたいと思わない」という結果になりました。つまり国民の約半数が濃淡はあれど、大阪万博に関心を持っているということです。

実はこれは考えてみると、すごいことですよ。仮に世界的なアーティストが来日コンサートを行ったとしても、国民の半数が関心を持つことなど、まずありませんからね。万博には「あえて見に行く」催し物としての性格があります。その点から見たら、関心を持つ人が「約半数」という数字は決して少なくありません。

僕たちはつい、内閣支持率の数字と比較して「せめて6割くらいの支持がないとまずいのではないか」と考えてしまいがちですが、内閣支持率と万博への関心は根本的に違います。ふつう内閣支持率は30%を切ると「危険水域」とされ、現在の岸田文雄内閣はその水域にありますが、そもそも国民全員が当事者であり民意に基づいて運営するのが国政です。支持率が30%ではその前提が崩れてしまうのです。

一方で、万博のような催し物は興味のある人が足を運ぶものであり、その意味で対象は「全国民」ではありません。少なすぎれば事業として成り立たないけれど、約半数の人が関心を持っているということは、いい数字だと評価するべきではないでしょうか。

大阪モノレールのEXPO TRAIN 2025
写真=iStock.com/EvergreenPlanet
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/EvergreenPlanet

この点、「税金を使っているのだから全国民のことを考えろ!」「関心を持っている者だけを対象にするなら、そいつらの金でやれ!」「国民全体の税金を使うな!」というヒステリックな批判がありますが、そもそも政治行政の政策というものは、ありとあらゆるものが全国民に関心を持ってもらっているものではありません。

ある元市長も「税金を使うな!」と批判していますが、その元市長も自分の市政においては一部の者しか関心を持っていないイベントに多額の税金をジャブジャブ投じているんですよね。自分がやっている事業は何ら問題ないが、他人がやる事業は許されないという典型的な身勝手な批判です。

後で詳しく述べますが、大阪万博の経済効果は3兆円超! またここに集まる技術は日本の課題だけでなく世界の課題を解決することにつながります。すなわち万博に来場しない人へも利益が還元するわけで、だからこそ一部税金を使わせていただくのです。

「国民全員が参加しないなら税金を使うな!」なんてこと言っていたら、何の政策もできませんよ。くだんの元市長には頭を冷やしてもらいたいですね。

そもそも2021年に開催された東京オリンピックを振り返ってみても、開催直前までは非難ごうごうでしたし、1970年の大阪万博も開催1年前の時点では否定的な意見が強かったようです。でも、いずれもふたを開ければ大盛況。日本でこうした大型イベントを開催する際は、開催直前まで世論は批判モードで、開催後に盛り上がるのがお決まりのパターンなのかもしれませんね。

そしてもうひとつ、万博には催し物としての性格とは別に、開催を通じて実現するべき意義や大目的があるということを忘れてはいけません。

今回の万博に関しては、政府主導のメッセージが弱かったり、誰が責任者なのかも曖昧だったりするという問題があります。言い出しっぺの僕の後継として大阪府の吉村洋文知事が批判の矢面に立ち、一生懸命メッセージを発してくれていますが、万博とは本来、国家が主催する国際イベントです。大阪は確かに招致のために力を尽くしましたが、開催が決まった以上は一国のリーダーが、堂々と万博の意義と成功を国民に語りかけるのが筋ではないでしょうか。

最初に触れたとおり、万博には催し物としての性格もありますが、とはいえテーマパークやスポーツイベント、音楽イベントなどとは異なります。万博とは本来、人類が成し遂げた技術の粋や知識を世界が持ち寄り、未来展望を共有するための場。そして25年大阪万博のテーマは「いのち輝く未来社会のデザイン」です。世界中の課題を持ち寄り、解決の糸口を探るためのプラットフォームを目指すのです。

前回の大阪万博の背景には戦後復興があり、世間は高度経済成長に沸いていましたが、21世紀の現代は違います。日本は少子高齢化・過疎化・人手不足に悩み、一方で世界の中には人口過密や紛争、水不足や食糧難にあえいでいる国も多い。そうした課題に対して、僕らは先端科学や医療技術を活用できるはずです。

例えば70年万博で話題になった「人間洗濯機」も今回アップデートされ展示されます。電磁石で地面から1センチ浮く靴も出るらしい。「そんなの何の役に立つの?」と笑っちゃうような技術も、発想を転じれば介護現場の省人化や、足腰負担軽減の介護補助装置として役立つかもしれません。汚水を浄化し飲み水に変える技術や、清潔で高性能なトイレ機能の技術が飢餓や不衛生に悩む国々を救い、iPS細胞が未来の再生医療を切り開く可能性も大いにあるでしょう。

多くの来場者がそれらの技術に触れていろいろとおしゃべりすることで、想定外の新たな用途の発想が生まれるかもしれません。バーチャルなネット上の博覧会ではなく、リアルな万博を開催する意義はここにあります。

秋の万博'70のために岡本太郎が作った太陽の塔。
写真=iStock.com/kuremo
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/kuremo

■自分のためではなく次世代の幸福のために

万博はイノベーションが花開く場、ビジネスチャンスの宝庫でもあります。半世紀前の大阪万博でも「未来」を感じさせ人々をワクワクさせた「動く歩道」や「電気自動車」「モノレール」「ワイヤレステレホン」が登場し、その後本当に実用化されました。「来て観て楽しい」以上の万博の価値を岸田首相は国民にアピールすべきです。

経済効果も無視できません。現在、大阪万博の会場建設費は最大で2350億円になる見込みですが、全体の経済効果は3兆円超と試算されています。これだけの経済効果が見込まれるのであれば、投資する価値は十分にあるのではないでしょうか。

もう一つ大切なことがあります。それは「税金の使い方」を改めて考え直すということです。万博に限らず、子育て対策に税金をあてる、大学の研究開発費に税金をあてる、そうしたことに対して日本の世論はシビアです。自分たちに直接関係のない事柄に税金を投入することの意義を感じられないからでしょう。

しかし、自分自身には直接利益が戻ってこないとしても、社会全体が利益を受けるために投入すべき税金があるはずです。万人に子どもがいるわけでもないし、万人が経済的困窮に陥っているわけでもない、万人が宇宙開発や大学の基礎研究に関心を持っているわけでもないでしょう。

それでも10年後の日本社会、次世代の幸福のためにいま投じるべき税金・果たすべき責任というものがあります。万博だって同じです。今回は大阪の税金だけに限らず、日本全体の税金を使いますし、来場しない人の税金も使います。しかし受益者は将来の日本人を含む世界中の人たちです。だから来場しない、関心のない人の税金も使わせていただくのです。

そういう考え方を岸田首相がしっかりと示せば、日本の多くの有権者はわかってくれると僕は信じています。

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橋下 徹(はしもと・とおる)
元大阪市長・元大阪府知事
1969年生まれ。大阪府立北野高校、早稲田大学政治経済学部卒業。弁護士。2008年から大阪府知事、大阪市長として府市政の改革に尽力。15年12月、政界引退。北野高校時代はラグビー部に所属し、3年生のとき全国大会(花園)に出場。『実行力』『異端のすすめ』『交渉力』『大阪都構想&万博の表とウラ全部話そう』など著書多数。最新の著作は『折れない心 人間関係に悩まない生き方』(PHP新書)。

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(元大阪市長・元大阪府知事 橋下 徹 構成=三浦愛美 撮影=的野弘路 写真=時事通信フォト)

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