「小学校の昼休み有料化」も登場…景気悪化の中国で流行する「罰金経済」という信じられない風潮
プレジデントオンライン / 2024年6月13日 8時15分
■バブル崩壊の影響が「レストラン」に波及
中国の経済状況はすでに述べたように、不動産バブルが弾けるとともに次第に悪化しつつある。それにともない、社会でもさまざまな変化が始まっている。
中国のレストランで食事をする場合、中華料理を選ぶことが圧倒的に多いだろう。
中華料理は料理の種類が豊富なため、それにともない食器の種類も多岐にわたる。基本的な食器としては、箸、湯飲み、茶碗、皿、スプーンなどがあるが、現在、これらの基本的な食器に対して使用料を徴収するレストランが増えている。
2023年12月、「潮新聞」(浙江省政府傘下の新聞)は、地下鉄沿線の各駅周辺のレストランが食器の使用料を徴収しているかどうかについて調査を行った。
すると、調査対象となった50軒のレストランのうち、1軒を除く49軒が客から食器使用料を徴収していることが明らかになった。
■「料金を支払わなければ食器をもらえない店」が増えている
日本では考えられないことだろう。中華料理にかぎらず、日本の飲食店で箸や皿を頼んで料金を取られるということは、まずない。取り皿を頼めば持ってきてくれるし、箸やスプーンを落としてしまったら、すぐに新しいものと交換してくれる。割り箸のような使い捨てのものでも、断られることや料金を取られることはない。
もちろん中国でも、以前はそのようなことはなかったが、それがいまでは、料金を支払わなければ食器をもらえない店が増えてきているのだ。
■1セットにつき1~2元の使用料が発生
基本的な食器はラップで密封され、「消毒済み」のラベルが貼られて食卓に並べられる。これらを使用すると、1セットにつき1~2元の使用料が発生する。
ところが多くの人は、有料であることを知らずに食器を使用してしまう。無料で使用できる食器があるか尋ねても、存在しないと回答されることが多い。
食器が有料の店を避けようとしても、他店でも同様であり、また、面子を保つために文句を言わずに有料の食器を使用する客も多いのだ。
現在は食の安全に対する意識や健康志向が強くなっているため、「消毒済み」の食器が好まれる一因となっている。
また、新型コロナの流行により清潔志向が高まったことも、食器の有料化を容認する素地となったといえるだろう。
■中国社会は金銭至上主義になった
しかし法律の面では、食器の有料化には大いに問題がある。
現状のやり方は、中国の法的に以下の三つの点で疑問視されている。
①食器を有料化するならば、同時に、無料提供できるものも用意しなければならない。客には選択する権利があるからだ。
②有料の食器しかない場合、事前に客にそのことを示し、了承のうえでサービスを提供しなくてはならない。
③飲食店にとって、食器を清潔に消毒し、客の健康を守ることは当然のことである。
ここ数年、中国社会は金銭至上主義になり、商売人は少しでも儲けようと、理由をつけて消費者から金を取るのが当たり前になった。
とりわけ、景気が悪化してくると、消費者にしわ寄せが転嫁されることが目立って増える。
■「ティッシュ使用」も有料
現在では、レストランでのティッシュ使用も有料となっている。長い間、不景気が続いた日本ですら、そのようなことはなかった。
店側は客の健康のために必要なことで、徴収するのも最低限の料金だと主張するが、実際のところはどうなのだろうか。
店側が主張するような本格的な消毒作業をやろうとすれば、「ゴミ除去」「ざっくり洗い」「超音波洗浄」「丹念洗い」「漂白」「消毒」「包装」「検品」と八つの工程を通さなければならない。
専門の設備が必要なので、外注するケースが多いが、コストを節約しようと、見かけだけ綺麗に取り繕い、消毒工程を手抜きするレストランも決して少なくない。
結局、客の健康も利益も損なわれることになる。
食器1セットの消毒コストは平均6角(0.6元)程度だが、客から1元の使用料を取れば、0.4元の利益が出る。1日100~200人の客が来店すれば、40~80元を儲けられる。月に1店舗で1200~2400元の利益が生まれることになる。
■「小学校の昼休み」まで有料化
2023年8月29日、中国の光明日報新聞社(中央政府傘下の新聞社)のサイト「光明網」で、広東省東莞市のある小学校が昼休みの有料化を実施するというニュースが流れ、大きな波紋を呼んだ。
報道によると、東莞市の虎門捷勝小学校では、昼休みを有料化とする規定を実施するという。料金表によれば、机に伏せての休憩は1学期200元、寝具を使っての休憩は1学期360元、ベッドのある休憩室を利用しての休憩は1学期680元とある。
記者の取材に対して学校側は、「昼休み有料化制度について、生徒が利用するかどうかは、まったく自由選択の権利がある。決して強制的なものではない。家に戻って昼休みを取るのも結構だ」と説明する。
さらに学校側は、これらの有料サービスは政府の正式許可を取っていると付け加える。
■不動産バブル崩壊で地方政府の財政が逼迫している
中国人の場合、面子が重要であるため、みなが金を支払って学校で休憩しているのに、自分だけ昼休みに家に帰って休憩を取る生徒はいないだろう。選択の自由があるといわれても、実際には断れないはずだ。
政府の関係部門は、「昼休みの有料化によって増える収入は、教師の残業手当にする考えだ」と真意を漏らす。
前述したように、中国では不動産バブルが弾け、土地価格が急落している。地方政府はこれまで、土地の使用権を不動産会社などに売却し、得た利益を財源としてきた。
それは地方政府の収入の3~4割も占めてきたのだ。
しかし、不動産不況により収入が減ったことで、地方政府の財政が逼迫し、全国的に公務員への給料削減や未払いが続出している。
生徒の父母たちは、「寝具を使った休憩なら有料も理解できるが、机に伏せて休憩するのも有料になるとは、思いもよらないことだ。今後、立ったままの授業は無料だが、椅子に座っての授業は有料になるかもしれない」と、苦情まじりに不安を語る。
中国の学校では、さまざまな名目で教育費を徴収されるため、とにかくお金がかかる。そのうえでさらに「昼休み有料化」というのは、あまりにも荒唐無稽だろう。
■「きゅうりの千切り」をのせたことで罰金
このように、民間のレストランや公共教育において、さまざまな金銭徴収が始まっている。もっとも、レストランでの話はすでに広く見られることだが、学校での「昼休み有料化」のような徴収はそれほど多くはない。
ただし、地方政府自体も、さまざまな理由をつけて金銭を民衆から吸い取ろうとする動きがある。
2023年6月9日付の「毎日新報」(天津市政府傘下の新聞)が伝えたところによると、「上海米帆餐飲」という食品販売会社が、炒めた料理の上に生のきゅうりの千切りをのせたことで、当局から罰金を科されてしまった。
「冷菜生産販売」の経営許可を得ていなかったのが理由で、食品安全法違反で政府管理部門から5000元(10万円)の罰金を命じられた。
■中小企業にとって重い負担
このような食品安全法違反は、「上海米帆餐飲」以外の別の食品関連会社にも頻発しており、処罰が相次いでいる。
筆者が食品関係の法律を調べたところ、たしかに法律では、食品生産の管理について細かい規定が制定されており、冷凍食品、保健食品、生の食品、菓子などいろいろ分類があって、温菜と冷菜も分けられている。
すなわち、生産者が分類項目に応じて関係当局に生産許可を取らなければならないのだ。
法律は守らなければならない。しかし、冷菜生産がメインの会社が冷菜生産の許可を取ればいいだけであって、温菜にきゅうりの千切りが少しくらい入ったからといって、法律違反で処罰されるほどのことではないだろう。
冷菜生産の許可を取るには、冷菜生産の加工設備を揃えなければならず、非常に多くの費用がかかる。こうした資金は中小企業にとって重い負担となる。
■不況になると罰金が増える
生産者の自律性に任せればいい話で、ここまで細かく厳しく監督し、重大視する必要があるのだろうか。
多くの人が、地方政府がなにかにつけ細かく罰則を科すのは、「罰金経済」が原因だと囁いている。「罰金経済」とは、罰金によって自治体や組織を維持するということだ。
実際、不況に見舞われると、罰金が目立って増える。市民の言い分には一理あるかもしれない。
中国の公務員には、日本と同じように国家公務員と地方公務員がある。
国家公務員の給料は半分を中央政府が支給し、半分を勤務地の税収入に頼る。地方公務員の給料は半分を各省の財政部門が支給し、半分を勤務地の税収入で賄う。
税収入に対して、行政収入というものもあり、手続きに関する手数料や違法行為に関する罰金などがそれにあたる。
■収入不足を補うために「罰金」が使われている
各省や直轄市の税収入の一部は中央政府に上納しなければならないが、行政収入の部分はすべて現地政府の金庫に入り、上納する必要はない。
そのため、一部の地方では罰金経済が流行り、収入不足や地方債の償還を補うための財源にしているのである。
こうした罰金経済のうち、交通違反の罰金がいちばん多いといわれ、市民からの苦情も最多だ。とくに、交通誘導指示がわかりにくい場所には、必ず監視カメラがどこかに隠されており、うっかり違反をすると、数日後に罰金通知が送られてくる。
わかりにくい指示で、わざと違反を誘発し、罰金を取ろうとしていると、憤る市民も少なくない。
そして現在は、食品が狙われている格好だ。
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ジャーナリスト
1955年中国上海生まれ、上海外国語大学日本語科卒業。父親は国民党による台湾人弾圧「228事件」をきっかけに、台湾から中国へ逃れており、台湾にルーツを持つ。1985年に来日し、慶應義塾大学および東京外国語大学で学んだ後、日本企業で10年間勤務する。1995年、日本に帰化。現在、中国と日本の間で出版や映像プロデューサーとして幅広く活動中。著書に『中国五千年性の文化史』(徳間文庫)、『ここがダメだよ中国人!』『中国大動乱の結末』『中国でいま何が起きているのか』(以上、徳間書店)、『中国セックス文化大革命』(徳間文庫カレッジ)、『チャイニーズ・レポート』(宝島社)など多数。
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(ジャーナリスト 邱 海涛)
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