超一等地の原宿・渋谷に現れた「何もない空間」のビルに若者殺到…店舗数が少なくても儲かる真新しい仕組み
プレジデントオンライン / 2024年6月5日 10時15分
■「ハラカド」に出現した「何もない」広場
都内では2024年も次々と巨大な商業施設がグランドオープンしているが、集客できる施設がある一方で、集客できない施設もある。その成否を分けるポイントとは何か? 成功の法則はどこにあるのか? 商業施設を実際に訪れて探ってみよう。
最初に注目したいのは、4月にオープンした、原宿の「ハラカド」だ。原宿の中心部に誕生した商業施設で、対角線上には旧・東急プラザ原宿の「オモカド」がある。交差点の角に立っているからハラカド、というわけだ。地上7階・G階・地階と合わせ9フロアからなる施設で、高円寺の人気銭湯「小杉湯」もテナントとして入っていて、話題になっている。
筆者はオープンしてから1カ月後にこの場所を訪れたが、それでもまだまだ人は多く、特に若年層とインバウンド観光客の多さが目についた。
訪れて感じたのはこの施設には「余白」が多いということだった。
顕著なのは4階だ。ここにはフロア全体で1店舗しかテナントがない。そう聞くと、寂れたショッピングモールのように思えるかもしれないが、そうではない。あえて1店舗しかテナントを入れていないのだ。その代わりベンチや椅子などがフロア中に置かれている。
ここはパブリックスペース「ハラッパ」という場所で、その名の通り、原っぱをモチーフとした、まさに「余白」的なスペースなのである。フリースペースのように自由に使える場所、という感じ。
「ハラカド」は、こうした誰でも自由に座れる場所が多い。地下1階・小杉湯の横にもそのようなスペースがあり、こちらは畳が敷いてある場所も。
![東急プラザ原宿「ハラカド」B1](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/4/a/1200wm/img_4ae0aac893965f50aea1cb45edc15516548461.jpg)
5階以上にあるレストランフロアでも座ることのできる場所が多く、屋上庭園もまた然り。しかも、屋上庭園のテーブルには電源が付いているところもあって、「どうぞ、いてください!」と言わんばかり。
商業施設といえば、ぎっしりとテナントが詰まっているのが普通。多くの客に訪れてもらうためにはそれがスタンダードな商業施設の作り方である、空きテナントは問題と見なされる。「余白」は歓迎されなかった節がある。
しかし、ハラカドを見ると、むしろ、そうした「何もしない」場所である「余白」をうまく作り出そうという意思を感じる。
![東急プラザ表参道「オモカド」](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/f/1/1200wm/img_f1ed027d190a50ed2c47984d5f71920d550731.jpg)
■「渋谷TSUTAYA」は「モノを敷き詰める」から「場所を作る」へ
ハラカド以外の例も出そう。
同じく4月にリニューアルオープンした、渋谷駅前のスクランブル交差点に面する「渋谷TSUTAYA」である。私は正式オープンの前日・プレオープンの日に館内をじっくり見たのだが、まさにここも一種の「余白」が目立つ施設に様変わりしていた。
![渋谷TSUTAYA](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/9/7/1200wm/img_97d35f870adc799e20dd8c8a796e0155574152.jpg)
今回の渋谷TSUTAYAリニューアルオープンの一つの目玉は、それまでTSUTAYAがさまざまなカルチャーコンテンツという「モノ」を「並べる」場所だったのに対し、むしろ、カルチャーを通じて、人々が交流する「場所を作る」ことへと、かなり大胆に舵を切ったことだ。3・4階は広大なシェアラウンジになって、人々が滞留できる場所を作っており、5階には「POKÉMON CARD LOUNGE」があって、ポケモンのカードゲームを通じて交流できる場所を作っている。
![POKÉMON CARD LOUNGE](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/4/3/1200wm/img_4311f9a8d6671519151c1242f8657536435936.jpg)
また、6階の「IP書店」や、1階のイベントスペースなどは時期によって、入れ替わり立ち替わりさまざまなIP関連グッズ(※)が展示されるようになっており、それ以外の期間は「空白」のスペースである。そこではどんなものも展開される「余白」があり、その意味で自由さに満ちたスペースだともいえる。
※著作権・特許・商標、アニメ・ゲーム・小説・映画などのコンテンツとそのキャラクター
こうした姿は、リニューアル前のTSUTAYAが、常にDVDやCDなどでぎっしりと埋め尽くされていたことと好対照だ。「モノ」がたくさん詰まっているというより、「スペース」が目立つようになっている。
ただし、その「余白」は決して、「空きテナント」的なネガティブの意味ではなく、とてもうまく演出され、スタイリッシュな空気を漂わせている。渋谷TSUTAYAの改革とは、「余白」を生み出す改革だったのだ。
■「余白」はビジネスになりうるのか?
ここで気になるのは、こうした「余白」を活かした施設は持続可能性があるのか? ということ。簡単にいえば、「稼げるのか?」。
ハラカドや渋谷TSUTAYAについて、それぞれの本社の説明を見る限りは、これまでの収益構造モデルとは異なるモデルを確立しようとしている。
ハラカドは、全体の収益のうち、物販が占める割合は半分強にすぎず、他はリテールメディア、つまり館内にあるスペースを活かしたイベントなどによる「広告収入」で稼ぐモデルを目指しているという。根本的に収益のモデルを変えているのだ。
渋谷TSUTAYAも、物販で稼ぐ、というよりはその時々に開催されるIPの「プロモーション」で生じる収益「プロモーション費」が全体の4割を占めると説明されている。渋谷の一等地は、日本のみならず世界中のさまざまな人の注目を集めることができる。IPの権利元からすれば、その場所はプロモーションに最適だ。
「モノ」消費が天井にぶち当たっている今、「モノ」に頼らない収入源を模索しているといえるだろう。その意味では、ビジネスモデル的にも、現代にマッチしているといえる。
■最近の都市には「余白」がない
こうした商業施設の「余白」化はなぜ起きているのか。
それが、これまでとは異なる収益モデルを持っていて稼げるとしても、何かしらのニーズがなければ、わざわざこのような方針の施設を作らなくても良かったはずだ。
その背景にあるのは、近年の都市に対する「アンチテーゼ」ではないか。近年の都市は、高密度にさまざまなものがぎっしりと集積され、遊びの空間が減っている。そのため物理的な余白が消えるだけでなく、客が過ごすときの精神的な余白も同時に消えている。
物理的な余白で言えば、特にシェアリングエコノミーが進展するにつれて、街にあったちょっとしたスキマやスペースがどんどんとこうしたサービスに埋め尽くされるようになっている。
代表的なのが、特に都心部において普及しているLUUPだ。以前、本連載でも書いたが、LUUPの特徴の一つは、「自販機2台分のスペース」でも置けることにある。私は以前、渋谷周辺のLUUPのポートを100箇所めぐったことがあるが、その中には自販機2台分のスペースよりも、もっともっと極小のスペースにLUUPが置かれている場所もあった。都心部のスペースを埋め尽くす勢いで、LUUPは増殖している。
![LUUPステーション](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/a/0/1200wm/img_a0dea000ea9c9af3e8453cc0ef5f25e6570568.jpg)
減っているのは物理的な余白だけではない、精神的な余白も消えている。
特に、都心部の場合、街をぶらぶら歩く、街の中でだらりと過ごすことができる場所が少なくなってきている。私は、1000円以下ぐらいの値段でだらだらできる場所のことを「せんだら」と呼んでいるが、その「せんだら」需要が増していることを最近感じている。
例えば近年、都心周辺のチェーンカフェは非常に混んでいることが、大きな話題を呼んでいる。かつてはファミレスなども若者たちがだらだらと滞留する場所であったが、近年では「90分制」を掲げる場所も増加。かつてのゆるいファミレスも過去のものとなってしまった。
精神的な余白、物理的な余白が都市の中に激減している印象を抱かざるをえない。
■「余白」のニーズをうまくつかみ取れ
このような問題がある中、誕生した「ハラカド」や「渋谷TSUTAYA」といった商業施設は人々の「余白」への欲求をすくい取ったと言えるだろう。
ハラカドの屋上庭園は、至る所に座るところがあり、電源ケーブルもある。ここに行くのにお金はかからないし、「せんだら」需要を十分に満たす。
![ハラカドの屋上庭園のデスクには電源がある](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/6/d/1200wm/img_6de2dca17e7c417c93f7b6caa010fd0e587841.jpg)
渋谷TSUTAYAの3・4階のシェアラウンジなどは、そこで時間を潰す需要を満たしてくれるだろうし、前述のIP書店やイベントスペースは自由さや居心地のよさを提供している。
![渋谷TSUTAYA2階にあるスターバックスもゆとりのある店舗設計だ](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/1/5/1200wm/img_159331f20a40ec27a84de8e720217e04491710.jpg)
商業施設の「余白」化は、都市の変化の必然である。言うなれば、都市に住む私たちのニーズをもっとも敏感にキャッチしているのが、このような商業施設かもしれない。もちろん、ビジネス的な収支がつかなければこうした施設もなくなってしまうだろうが、物販だけに頼らず、広告費やプロモーション費などをうまく収益に充てるスタイルが成功を収めれば、余白ビジネスが原宿や渋谷だけでなく、都内の他の街にさらに広まるかもしれない。
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ライター
1997年生まれ。早稲田大学文化構想学部卒業後、早稲田大学教育学術院国語教育専攻に在籍。デイリーポータルZ、オモコロ、サンポーなどのウェブメディアにチェーンストア、テーマパーク、都市についての原稿を執筆。批評観光誌『LOCUST』編集部所属。2017年から2018年に「ゲンロン 佐々木敦 批評再生塾 第三期」に参加し宇川直宏賞を受賞。
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(ライター 谷頭 和希)
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