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バッタは"ダースベイダー"の接近映像に脳細胞が超活性化…バッタの脳の仕組みが開発貢献した意外な「技術」

プレジデントオンライン / 2024年6月5日 10時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Furtseff

1991年にスタートした「イグノーベル賞」のモットーは「まずは人を笑わせ、その後、考えさせる」だ。毎年10部門の研究が受賞しており、日本人研究者の受賞も多い。サイエンスライターの五十嵐杏南さんがハトとバッタの能力に関する驚きの研究を紹介してくれた――。

※本稿は、五十嵐杏南『やってみた!研究 イグノーベル賞』(東京書店)の一部を再編集したものです。

■ハトは絵画を見たら画家を見分けられる?

人は絵を見ると、絵の色使いや描かれているもの、絵筆の使い方の特徴などを手がかりにして、どの画家が描いたか当てることができる。

ハトには、どのように物が見えたり聞こえたりするか気になっていた研究者は、ハトも絵から画家が当てられるか調べることにした。

そこで、有名な画家のピカソとモネの絵を10枚ずつハトに見せ、どちらの絵か当てられるのか実験をした。

まず、実験の準備としてハトを2グループに分けてトレーニングを行った。片方はピカソの絵が映されたときにスクリーンをつつくとエサがもらえ、モネだともらえない。

もう一方は反対に、モネの絵だとエサがもらえ、ピカソだともらえない。そうやって20日間トレーニングを続けると、ハトは10回中9回正しく絵を見分けられるようになった。

実験では、ハトをスクリーンが入っている箱の中に入れ、ピカソまたはモネの絵をスクリーンに30秒間映した。トレーニングをした絵で、白黒にした絵、ぼかした絵、左右・上下を逆にした絵を見せた。また、ハトがそれまで見たことのないピカソとモネの絵も見せ、4パターンを調べた。

その結果、絵を白黒にしても、ぼかしても、ハトが画家を当てることができるとわかった。左右・上下を逆にすると、モネの絵は見分けられなかったが、ピカソの場合は見分けられるハトもいた。

また、それまで見たことのないピカソやモネの絵を見せても、ハトがどちらの画家か当てられたため、ハトは絵を暗記しているのではなく、ピカソとモネの絵の雰囲気のちがいを理解していると結論づけた。

この研究の後、ハトが他の有名な画家のゴッホとシャガールの絵を見分けられるかも実験した。ハトと大学生に絵を見せた結果、ハトと大学生の絵から画家を見分ける力は同じくらいだとわかった。

また、絵の他にも、クラシック音楽の曲から作曲家を聞き分けられるか研究をした。ドイツの作曲家のバッハとオーストリアの作曲家シェーンベルクの音楽を何回も聞かせると、ハトは曲がどちらの作曲家のものか当てられるようになったという。

ハトはピカソとモネの絵を白黒でも初めて見た絵でも見分けることができた

※1995年 イグノーベル賞心理学賞 渡辺茂(慶応大学)ほか

▼ここがスゴイ‼
絵のちがいを見分ける力は人間特有のものだと思いがちですが、ハトも絵の画風や曲の作風のちがいに気づくことがわかり、この研究では、ハトの知られざる力が明らかになりました。みなさんもピカソやモネの絵を見る機会があれば、どんなちがいがあるのか注目してみてくださいね。

■バッタの脳を調べたくて『スターウォーズ』を見せた

バッタやカマキリなど、空を飛ぶ虫を虫とり網でつかまえるのは難しい。せまり来る敵や障害物をじょうずによけて飛ぶので、つかまえたと思っても、逃げられていることがよくある。

これらの虫が飛びながら障害物を避けられるのは、なぜか? 研究者たちは、その仕組みがわかれば、それを自動車に応用して衝突を予測できる車が作れるのではと考えた。

そこで、バッタが何かに衝突しそうになったときに、脳でどのようなことが起きているかについて研究を進めることにした。

研究のために使ったのは、映画『スターウォーズ』。この映画には、猛スピードで飛行体や敵がせまってくるシーンがたくさんあり、バッタが何かと衝突しそうなときの反応を調査するにはうってつけだった。

バッタに『スターウォーズ』を見せたら……
出所=『やってみた!研究 イグノーベル賞』(イラスト=すぎやまえみこ)

研究者たちは、100匹ほどのバッタに、センサーで脳からの信号を測りながら何かが急に近づいてくるシーンを見せた。

五十嵐杏南『やってみた!研究 イグノーベル賞』(東京書店)
五十嵐杏南『やってみた!研究 イグノーベル賞』(東京書店)

すると、バッタが接近シーンのたびに興奮することがわかった。なかでも、悪役のダースベイダーが接近するシーンでは、特に脳細胞が活性化した。その後、研究者たちはバッタの脳細胞の仕組みを応用し、車の衝突回避システムの開発に貢献した。こうした知見は、監視に関する技術や、ゲームのプログラミングにも応用できる可能性があるという。

なお、研究に使う映画は、何かが自分にせまってくるシーンがあれば何の映画でも良かったが、研究者が好きだったため、スターウォーズが選ばれた。映像は、1秒間に何枚もの静止画(コマ)を連続して表示させることでできている。この研究では、コマごとに脳細胞の反応を分析したため、とても時間がかかる地道な作業だった。あまりにも大変だったため、スターウォーズが好きな研究者も、あきてしまったという。

バッタは、ダースベイダーが近づくシーンで脳細胞が活性化して興奮する

※2005年 イグノーベル賞平和賞 クレア・リンド(イギリスの研究者)ほか

▼ここがスゴイ‼
バッタの映画鑑賞が車の安全に役立つ研究だったとは! すごいスピードで何かがせまってくるシーンを見るのは、バッタにとっては怖い体験だったかもしれないですが、私たち人間にとっては、身を守ってくれるありがたい発見になりました。

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五十嵐 杏南(いからし・あんな)
サイエンスライター
1991年愛知県生まれ。日英両言語でものを書くサイエンスライター。トロント大学で進化生態学と心理学を専攻。インペリアル・カレッジ・ロンドン修士課程修了(科学コミュニケーション)。時にはシリアスに、時には肩の力を抜いたテイストで、科学誌やオンラインメディアを中心に記事を執筆している。著書に『世界のヘンな研究 世界のトンデモ学問19選』(中央公論新社/2023年)、『生き物たちよ、なんでそうなった⁉ ふしぎな生存戦略の謎を解く』(笠間書院/2022年)、『ヘンな科学 “イグノーベル賞”研究40講』(総合法令出版/2020年)。雑誌『子供の科学』(誠文堂新光社)で「動物園の動物」連載中。

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(サイエンスライター 五十嵐 杏南)

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